放医研による
甲状腺内部被ばく線量の評価
放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ
(主催:OECD/NEA)
2014年2月22日
於)プリンスホテル,東京
栗原 治
放射線医学総合研究所
1
内容
背 景
福島住民に対する初期内部被ばく線量
(甲状腺等価線量)評価方法
内部被ばく線量の推計結果
要約と考察
2
背
景
 短半減期核種 (主に131I) による住民への初期内部被ば
く線量推計に有用な人体の実測データ/環境モニタリン
グデータは限られている。
 事故初期の2ヶ月間に測定された人の実測データは,
1,300 件程度しかない。
 小児甲状腺被ばくスクリーニング検査の1080名のデータ:
Fukushima (2012), Kim et al.(2012)
 62 人の浪江町住民の甲状腺中 131I の測定: Tokonami et al.
(2012)
 事故後1か月における 173 人の被検者(緊急時対応者及び
避難住民)の測定: Matsuda et al. (2013)
 放医研 は2012年に福島県住民の内部被ばく線量再構築
のプロジェクトを開始した(継続中)。
3
国際シンポジウム
第1回シンポジウム
2012年7月10-11日
於)放医研
第1回シンポジウム
プロシーディング集*
(17編の査読付き論文を含む)
第2回シンポジウム
2013年1月27日
於)東京
* http://www.nirs.go.jp/publication/irregular/pdf/nirs_m_252.pdf
4
甲状腺線量の評価手法
放医研のアプローチ
甲状腺計測
全身 計測
 線量評価のために最も
信頼できるデータ
 しかしながら、実測
データが少数…
 甲状腺計測データに比
べ実測データは多数
 Cs に対する I の摂取比
が必要
大気拡散
シミュレーション
 空気中放射性核種の
濃度マップ
 検証に必要なデータ
が不十分
内部被ばく線量計算のためのICRPモデル
福島県住民の甲状腺線量の代表値
5
線量評価に用いた主なデータ
方法
データ
甲状腺計測
 川俣町, いわき市及び飯舘村での小児甲状腺被ばくス
クリーニング検査データ1080人(≤ 15 才)
 Fukushima, J. Health Phys. (2012)
 Kim et al., NIRS-M-252 (2012)
 利用可能データ: 被検者の情報 (年齢,性別),測定場所と
測定日, NaI サーベイメータの読み値
全身 計測
 12自治体の約3,000人の被検者(成人)のデータ
 Momose et al., NIRS-M-252 (2012)
 利用可能データ: 2011年3月12日の (吸入)急性摂取シナリ
オに基づく預託実効線量のみ
大気拡散
シミュレーション
 (JAEA から提供された) 最新のソースタームを用い
たWSPEEDI-II
 Terada et al., J. Environ. Radioact. (2012)
追加情報:主にJAEAまたは東京電力による空気サンプリングのデータ
 ヨウ素の物理化学的性状: 蒸気60%とエアロゾル40%(濃度加重平均)
 131I 以外の核種による甲状腺線量への寄与: ~10%
6
 計測は NaI(Tl) サーベイメータ
(TCS-161, 171 と172, 日立アロ
カメディカル株式会社) を用
いて行われた。
 校正は甲状腺形状容器を内蔵し
た人体頸部ファントム (株式会
社京都科学) を用いて行われた。
 コリメータ無
 BG レベル(室内): < 0.2 µSv h-1
(手順書で指示)
 BG 測定は被険者の肩部で行わ
れた。
Number of subjects
甲状腺計測
正味の計測値 (µSv h-1)
すべての被検者はスクリーニングレベル (0.2 µSv h-1:1歳児
の甲状腺等価線量100 mSv に相当) 以下であった。
修正した装置の校正定数及び2つの可能性のある
摂取シナリオに基づき甲状腺線量を計算
7
甲状腺線量分布 (1)
シナリオ2
シナリオ 1
3月12日から測定前日まで
の慢性摂取
被検者数
被検者数
3月15日の急性摂取
甲状腺等価線量 (mSv)
甲状腺等価線量 (mSv)
被検者の99% が30 mSv 未満
8
甲状腺線量分布 (2)
川俣町
シナリオ 1
Scenario 2 2
シナリオ
(Chronic intake)
いわき
市 シナリオ 1
Scenario 2
(Chronic intake)
シナリオ 2
飯舘村
シナリオ 1
Scenario 2
(Chronic intake)
シナリオ 2
9
全身計測からの実効線量分布 (1)
各自治体の被検者(成人)に対する実効線量
250
500
140
600
Futaba
Okuma
200
Hirono
Tomioka
120
500
400
100
300
200
Frequency
100
Frequency
150
Frequency
Frequency
400
300
80
60
200
40
50
100
0
100
0
0
0.25
0.5
0.75
1
1.3
1.5
20
0
0
Comitted effective dose (mSv)
0.25
0.5
0.75
1
0
0
80
Namie
0.5
0.75
0
1
Kawamata
80
30
Frequency
Frequency
Frequency
Frequency
200
40
1
150
60
50
0.75
Naraha
Iitate
400
300
0.5
200
100
70
0.25
Comitted effective dose (mSv)
Comitted effective dose (mSv)
Comitted effective dose (mSv)
500
0.25
60
40
100
50
20
100
20
10
0
0
0
0.25
0.5
0.75
Comitted effective dose (mSv)
1
0
0
0
0.25
0.5
0.75
Comitted effective dose (mSv)
1
0
0.25
0.5
0.75
Comitted effective dose (mSv)
1
0
0.25
0.5
0.75
Comitted effective dose (mSv)
 上図は2011年7月2012年1月までの全身計測の公開データ(Momose et al., 2012)から再編
 実効線量は3月12日の急性摂取を仮定して 134Cs と 137Cs の全身量から 推計
 各図の最小バンドは有意な検出のない被検者に相当
10
1
全身計測からの実効線量分布 (2)
各地方自治体の被検者(成人)に対する実効線量
地方自治体
被検者数
90 パーセンタイル
(mSv)
50 パーセンタイル
*1 (mSv)
双葉町
365
0.15
0.04
大熊町
561
0.10
0.02
富岡町
696
0.08
0.01
楢葉町
241
0.06
0.01
飯舘村
広野町
210
0.10
0.05
浪江町
浪江町
614
0.10
0.02
双葉町
大熊町
飯館村
184
0.17
0.03
川俣町
120
0.07
0.01
川内村
64
< 0.01
< 0.01
3128
0.10
0.02
川俣町
富岡町
楢葉町
広野町
川内村
全
体*2
*1 実効線量の 50 パーセンタイル値は対数正規分布を仮定して計算
(ただし,飯館村と川俣町を除く))
*2 伊達市、南相馬市、葛尾村 (未表示) のデータを含む
11
摂取量比(131I/Cs)の推計
2つの線量分布からの摂取量比 (131I/Cs)を推計
全身 計測
仮定: 成人と子供は同じ比率
で (但し異なる呼吸量で)
131I と Cs を吸入する。
Cs
実効線量
131I
摂取比 (131I/Cs)
Cs
131I
甲状腺線量
甲状腺計測
成人
成人に対する実効線量 (134Cs と 137Cs)
子供に対する甲状腺線量 (131I)
子供
飯館村 と 川俣町では
両方が入手できる。
12
実効線量から甲状腺線量への導出
134Cs/137Cs
による成人の実効線量:1 mSv
134Cs/137Csの吸入による摂取量:9E+04
Bq
131I/137Cs
131Iの吸入による摂取量: 9E+04
1 歳児
m3/日
呼吸量: 5.16
131I の摂取量: 2E+04 Bq
10 歳児
m3/日
呼吸量: 15.3
131I の摂取量: 6E+04 Bq
= 1 と仮定
Bq
成人
呼吸量: 22.2 m3/日
131I の摂取量: 9E+04 Bq
 ヨウ素の線量係数 (蒸気 : エアロゾル = 0.6 : 0.4) を使用している。
 他の核種の甲状腺線量への寄与は10%と仮定した。
甲状腺線量: 60 mSv
甲状腺線量: 50 mSv
甲状腺線量: 30 mSv
13
摂取量比(131I/Cs)の導出
川俣町
飯館村
 預託実効線量 : 0.17 mSv (成人)
 甲状腺線量 : 15 mSv (子供)
(90 パーセンタイル値)
 預託実効線量 : 0.07 mSv (大人)
 甲状腺線量
:
7 mSv (子供)
(90 パーセンタイル値)
In case of 131I/137Cs =1
In case of 131I/137Cs =1
For Iitate, thyroid doses are …
 1 yr: 0.17mSv×60 = 10.2mSv
 10 yr: 0.17mSv×50 = 8.5mSv
 Adults: 0.17mSv×30 = 5.1mSv
For Kawamata, thyroid doses are …
 1 yr: 0.07mSv×60 = 4.2mSv
 10 yr: 0.07mSv×50 = 3.5mSv
 Adults: 0.07mSv×30 = 2.1mSv
Iitate
In case of 131I/137Cs = 2
In case of 131I/137Cs = 2
 1 yr: 10.2mSv×2 = 20.4 mSv
 10 yr: 8.5mSv×2 = 17.0 mSv
 Adults: 5.1mSv×2 = 10.2 mSv
 1 yr: 4.2mSv×2 = 8.4 mSv
 10 yr: 3.5mSv×2 = 7.0 mSv
 Adults: 2.1mSv×2 = 4.2 mSv
15mSv
7mSv
本推計では摂取量比 (131I/137Cs)を3に設定
14
シミュレーションによる甲状腺線量
1歳児の子供(吸入) に対する
甲状腺線量マップ
100 mSv <
会津
積算期間: 3月12日~ 3月31日
仮定: 3月31日まで屋外に滞在
< 10 mSv
中通り
浜通り
≤ 10 mSv 10 mSv <
人の実測データから推計した
甲状腺線量と比較
甲状腺線量の比較
(シミュレーションと甲状腺計測)
 シミュレーションによる甲状腺線量は各自治体庁舎のあるメッシュ及びその周
囲の8メッシュの空気中濃度を用いて算出
川俣町
シナリオ
Scenario
1 1
(Acute intake)
いわき
市 Scenario
シナリオ
1 1
(Acute intake)
飯館村
シナリオ
Scenario
1 1
(Acute intake)
青線: 甲状腺計測、赤線と桃色帯: シミュレーション
シミュレーションは甲状腺計測からの甲状腺線量の90パーセ
ンタイル値より高く推定
人の計測データがない中通り及び会津の住民に適用可能
16
内部被ばく線量の推計結果
甲状腺線量の 90 パーセンタイル値 (10%刻みで 丸めて表示)
単位: mSv
地方自治体
子供 (1才)
大人
方法*1
双葉町
30
10
全身計測
大熊町
20
< 10
全身計測
富岡町
10
< 10
全身計測
楢葉町
10
< 10
全身計測
広野町
20
< 10
全身計測
浪江町
20
< 10
全身計測, 甲状腺*2
飯館村
30
20
甲状腺,全身計測
川俣町
10
< 10
甲状腺,全身計測
川内村
< 10
< 10
全身計測
葛尾村
20
< 10
浪江町と同じ値
いわき市
30
10
シミュレーション,甲状腺
南相馬市
20
< 10
浪江町と同じ値
他の福島県地域
< 10
< 10
シミュレーション
*1: 甲状腺: 甲状腺計測, シミュレーション: WSPEEDI-II
*2: Tokonami et al. (2012)
17
要約と考察 (1)
 本推計は,他の方法による推計と比べて同程度である。内
部甲状腺線量は比較的線量の高い地域の小児で約30 mSv
(90パーセンタイル値)と推定された。
 (実効的)な131IのCsに対する摂取量比は3となり,環境
データよりも小さい結果となった。この乖離の主な理由と
して,日本人のヨウ素の甲状腺移行率の低さに因るものと
思われる。しかしながら,摂取量比は,個人間の差異や環
境中における時間空間的変化も考慮して注意深く検討され
るべきである。
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要約と考察 (2)
 本推計の精度は測定された被検者の被ばく期間における個
人の行動代表性に大きく依存する。これは個人の行動調査
に基づき調査すべきである。行動調査票は,個人に対する
現実的な摂取シナリオを構築する上でも有用である。
 更なる線量再構築のためには,国際的な共同研究が必要で
ある。
19
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