児童生徒の現代的な健康課題 【身体疾患の現状】 1 アレルギー疾患 文部科学省「アレルギー疾患に関する調査研究委員会」による調査によると、平成 16 年の時点で、各種のアレルギー疾患を有する児童生徒の割合は以下の通りであった。同 委員会報告書によると、 「アレルギー疾患はまれな疾患ではなく、学校保健を考える上で、 既に、学校に、クラスに、各種のアレルギー疾患をもつ子どもたちがいることを前提と しなければならない状況にある」とされ、日頃からアレルギー疾患の管理をしている医 師(地域の医療機関)と家庭、学校の3者の緊密な連携の必要性が明記されている。 ※1 児童生徒全体のアレルギー疾患有病率 10.0% 8.0% 6.0% 4.0% 2.0% 0.0% ※1 2 9.2% 5.7% ぜん息 5.5% アトピー性皮膚炎 3.5% アレルギー性鼻炎 アレルギー性結膜炎 2.6% 食物アレルギー 0.14% アナフィラキシー 本有病率は、有効回答の得られた学校に在籍する児童生徒数 12,773,554 人を母数としている。 循環器疾患 小児期の循環器疾患としては、先天性心疾患、川崎病後冠動脈病変、QT延長症候群等 の不整脈などが重要である。 先天性心疾患については、医療の進歩により、未治療例は減少している一方、手術後の 生活に注意を要するこどもは増えている。川崎病後冠動脈病変に対しては継続して抗凝固 療法を行っている子どももいる。また、QT延長症候群などの致死性不整脈は運動時突然 死などに十分注意する必要がある。運動制限を要する疾患の管理については、「学校生活 管理指導表」が主治医、学校、家庭の共通理解の手段として活用されているが、急変時に 備えた連絡体制など緊密な連携が必要である。 3 白血病等の悪性腫瘍治療後の学校復帰 小児期に多い悪性腫瘍は白血病であるが、近年の医療の進歩により、小児白血病の多く は治癒可能となっている。しかしながら、白血病治療は、抗がん剤療法や骨髄移植などが 用いられ、これらの治療法の副作用として易感染性などが長期にわたり持続することが多 い。このような悪性腫瘍治療後の子どもの学校生活への対応については、主治医、家庭、 学校の緊密な連携が必要である。 【メンタルに関する課題の現状】 近年、都市化、少子高齢化、情報化、国際化等による社会環境や生活様式の急激な 変化は、子どもたちの心身の健康に大きな影響を与えており、いじめ、不登校、喫煙、 飲酒、薬物乱用、性の問題行動、生活習慣の乱れ、アレルギー疾患の増加等の健康問 題が深刻化している。これらの現代的な健康課題の多くは、心の健康と深く関連して いることが保健体育審議会答申(平成 9 年)においても指摘されているところである。 さらに、地震や台風などの自然災害や事件・事故に伴う子どもの心のケア、児童虐待、 発達障害のある子どもへの支援など心の健康に関する問題も多様化しているのが現 状である。 1 「子どものメンタルヘルスに関する問題」の実態 (1) 財団法人日本学校保健会が実施した心の健康つくりに関する調査結果による と、 「メンタルヘルスに関する問題で養護教諭が支援した子どもがいた学校」及び 「メンタルヘルスに関する問題で養護教諭が担任や保護者から相談依頼を受けて 支 援した子どもがいた学校」の割合は、小学校、中学校、高等学校ともに多い状況 である。 メンタルヘルスに関する問題で養護教諭が支援した子どもがいた 学校の割合 % 95.3 100 80 78.0 79.2 95.1 86.3 84.3 養護教諭が支援した支 援した子どもがいた学 校の割合(担任や保護 者等から相談依頼を受 けて支援したものを除 く) 養護教諭が担任や保護 者から相談依頼を受け て支援した子どもがい た学校の割合 60 40 20 0 小学校 (2) 中学校 高等学校 養護教諭が支援した主なメンタルヘルスに関する問題は、「友達や家族などの 人間関係の問題」、「不登校・保健室登校・登校しぶり・引きこもり等の問題」、 「*2軽度発達障害等の集団生活等への不適応の問題」などが多く、小学校、中学 校、高等学校とも共通していた。 *2 調査当時(平成 17 年)においては、軽度発達障害であったが、現在は発達障害と呼称されている。 養護教諭が支援したメンタルヘルスに関する主な問題とその割合 (担任や保護者等から相談依頼を受けて支援したものを除く) % 34.233.2 27.7 (3) 0.5 17.7 16.2 11.3 9.5 0.5 5.1 5.2 9.6 5.8 2.5 10.3 5.8 4.6 その他 6.2 性に関する問題 0.6 2.6 3.4 不眠や過眠等の睡眠障 害に関する問題 1.4 0.6 拒食や過食等の摂食障 害に関する問題 1.1 1.5 3.3 友達や家族などの人間関 係の問題 4.3 虐待の問題 いじめの問題 不登校・保健室登校・登 校しぶり・引きこもり等の 問題 4.4 6 2.1 身体症状からくる不安や 悩み等の問題 13.7 軽度発達障害等の集団 生活等への不適応の問 題 27.8 21.3 リストカット等の自傷行為 に関する問題 40 30 20 10 0 小学校 % 中学校 % 高等学校 % 養護教諭が「メンタルヘルスに関する問題で、医療機関の受診や相談機関の利 用を勧めた子どもがいた学校の割合」及び「平成 16 年度担任したクラスにおいて、 メンタルヘルスに関する問題で医療機関の受診や相談機関の利用をした子どもがい た」と回答した担任の割合は、下記の図の通りである。医療機関等との連携を必要 とするものが多く、関係者とのネットワークづくりなど、地域レベル(教育委員会、 学校、関係機関等)で対応するための組織体制づくりが必要である。 % 養護教諭が「メンタルヘルスに関する問題」で医療機関 の受診や相談機関の利用を勧めた子どもがいた学校 100 82.7 85.9 80 60 80 52.2 60 40 67.6 64.3 中学校 高等学校 54.0 40 20 20 0 小学校 (4) % 「平成16年度担任したクラスにおいて、メンタル ヘルスに関する問題で医療機関の受診や相談 機関の利用をした子どもがいた」と回答した担 任の割合 中学校 高等学校 0 小学校 「子どものメンタルヘルスに関する問題の支援に当たっての課題」についての 担任の回答は、「子どものメンタルヘルスの問題が複雑・多様化し、理解が困難に なっている」が小学校、中学校、高等学校ともに多かった。 (5) 「メンタルヘルスに関する問題で支援した子どもがいた」と回答した学校医は、 小学校・中学校・高等学校ともに 10%代であった。「子どものメンタルヘルスに関 する問題」の支援においては、学校医との協力関係が弱い。 (6) 連携が円滑に進められなかった事例の主な理由は、養護教諭・担任ともに「保 護者が連携に消極的であった」が最も多く、保護者との連携が困難になっている。 2 「子どものメンタルヘルスに関する問題」への対応に当たっての校内組織の 活動状況 (1) 学校規模が 500 人以上であるにもかかわらず「子どものメンタルヘルスに関す る問題に対応できる校内組織がない」との回答が、小学校、中学校、高等学校とも に約 10%前後あった(回答:担任・養護教諭)。 (2) 校内組織会議が計画的に開催されていない学校が少なからずあった(回答:養 護教諭) 。 (3) 校内組織の会議回数は、月1回、年数回が多く、充分に機能しているとは言い 難い状況であった(回答:養護教諭)。 などの結果から、子どものメンタルヘルスに関する問題に十分な対応ができる校 内組織体制の確立を図ることが必要である。
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