[わかみず会(.14. 9.10)]
第0 版
束論とその応用 [0]
柳生 孝昭
0. 基本的概念と様々な束
1. Ideal と Filter
2. Boole 代数の表現定理
3. Frame、Scott 位相、及び Bit 列
4. 量子論理[未完]
5. 文献
[0] 田中俊一:
「位相と論理」
,日本評論社,2000. 7.
[1] 石垣寿郎:
「量子力学の哲学」
、
坂本百大/野本和幸,
「科学哲学」
,北樹出版,2002 5,所収.
[2] 同:
「量子力学の確率概念について」
,科学基礎論研究 93 号,1999.
[3] 同:
「量子力学におけるブ―ル束」
,科学基礎論研究 95 号,2000.
[4] 荒木不二洋:
「量子場の数理」
,岩波書店,2001. 5.
[5] 柳生孝昭:
「矛盾許容型論理と様相論理」
,わかみず会資料,2011. 2. 9.
動機: 量子論理を学ぶこと。 その準備として束の基本的性質を確認し、併せて命題
論理や bit 列の空間等、計算機科学と関わりの深い例も、一瞥して置きたい。
0. 基本的概念と様々な束
0.0 基本的概念
定義 0. L を(半)順序集合、 x , y ∈L として、次のような x ∨y を x、y の
「結び(join)
」
、任意の x , y について ∨ が存在する L を ∨ 半束と呼ぶ:
x ∨y ≡ min{t : x , y ≦t }
(0.0)
双対的に「交わり(meet)
」と ∧ 半束を定義する:
x ∧y ≡ max{t : t ≦x , y }
(0.1)
定義から明らかに
補題 0. (x ∨y )∨z =x ∨(y ∨z )
(x ∧y )∧z = x ∧(y ∧z )
結合律が任意の有限集合 M ={x0 , •••, xn } について成り立つことも明らかなので、
その結び|交わりを (∨|∧)M と記す。
[0] 任意の有限な (∨|∧)M が存在する順序集合を「束(lattice)
」と言う。
0
特に M =f として、最大元 1 と最小元 0 の存在を含意することに注意。 束は順序
集合の一種でありながら、∨ や ∧ の興味有る議論は、寧ろ全順序性を退ける。 その
一つの典型、∪|∩ を結び|交わりとする集合 X の冪集合 PX は、最も簡明な例で
あるが、以下の「重い」構造を備えている。
[1] 完備性; 任意の(無限でもよい)(∨|∧)M が存在する。
)
(任意の ∨M が存在すれば ∧M が存在、またこの逆も言えることに注意。
[2] 補元の存在; 任意の x が、次の条件を満たす補元 ¬x を持つ。
x ∨¬x ≡ 1
x ∧¬x = 0
(0.2)
[3] 分配律; x ∧(y ∨z ) = (x ∧y )∨(x ∧z )
(双対的な x ∨(y ∧z ) = (x ∨y )∧(x ∨z ) は、これから導かれる。
)
[4] 任意の元が補元を持つ分配束を「Boole 代数」と言う。
0.1 様々な束とその性質
[0] 位相空間 OX 、CX 、COX : 集合 X に於ける開集合の全体 OX は完備分配束
を成し、最大元 1(=X )と最大小元 0(=f)を持つが、一般に補元は無い。 双対
的に、閉集合の全体 CX も同様。 閉開集合(連結成分の和集合)の全体 COX(=
OX ∩CX )は Boole 代数であるが、一般に完備ではない。
[1] U , V , W ∈OX について、次が成り立つ:
W ∧V ≦U ⇔ V ≦ (¬W ∪U )O (但し _O は開核を表す)
Þ: V =(¬W ∪W )∩V =(¬W ∩V )∪(W ∩V )≦¬W ∪U
Ü: W ∩V ≦W ∩(¬W ∪U )=W ∩U
[2] これらの操作 V → W ∧V と U → ∪{V : W ∩V ⊂U }
を一般化し、順序集合 X 、Y の間の一組の写像 g : Y → X と
f : X → Y について、次が成り立つ時、f(g )を g(f )の
「右(左)随伴(adjoint)
」と言う。
∀x ∈X , y ∈Y (g (y ) ≦x ⇔ y ≦f (x ))
(0.4)
x
f(x)
≦
⊂U } に注意。
≦
また (¬W
∪U )O =∪{V : W ∩V
(0.3)
g (y)
y
図 0. 随伴写像
f 、g は順序を保つ。
随伴の概念は、圏に於けるものの一例である。
y ≦y ´ g (y ´)≦g (y ´) ├ y ≦y ´≦f(g (y ´)) ├ g (y )≦g (y ´)
[3] 右(左)随伴写像 f(g )は、任意の部分集合についての ∨(∧) を保つ。
g (Y )≦∨g (Y ) ├ Y ≦f(∨g (Y )) ├ ∨Y ≦f(∨g (Y )) ├ g (∨Y )≦∨g (Y )
: OX と同様、特に y → z ∧y が右随伴 f を持つ束を
[4]「Heyting 代数 H」
言う。 Boole 代数の場合は f (x ) = ¬z ∨x とすればよい。 これに倣って、一般に
は z → x と、また z → 0 を ¬z と記す。 H に於いて、以下が成り立つ。
1
[4.0] 分配律: x ∧(y ∨z ) = (x ∧y )∨(x ∧z )
x ∧y ≦(x ∧y )∨(x ∧z ) ├ y ≦(x → (x ∧y )∨(x ∧z )) ├ z ≦(x → (x ∧y )∨(x ∧z )) ├
y ∨z ≦(x → (x ∧y )∨(x ∧z )) ├ x ∧(y ∨z )≦(x ∧y )∨(x ∧z )
[4.1] x ∧¬x = 0
x ≦¬¬x
¬x = ¬¬¬x
¬x ≦¬x ├ x ∧¬x = 0 ├ x ≦¬¬x ├ ¬x ≦¬¬¬x
x ≦y Þ ¬y ≦¬x
一方
¬¬x ∧¬¬¬x = 0 ├ ¬¬¬x ≦¬x
x ≦y ├ x ≦¬¬y ├ x ∧¬y = 0 ├ ¬y ≦¬x
[4.2] x <¬¬x であるような元(
「非正則元」
)を持つ
Heyting 代数の例: 通常の位相を持つ直線上の一点 a の
近傍として、a を端点とする片側開区間を許した空間の、
開区間 (b , a )。 他の開区間や追加した近傍 (b , a ] は
正則であることに注意。
(
)]
a
図 1. 正則、及び非正則元
[4.3] ¬(x ∨y ) = ¬x ∧¬y ( 特に ¬1 = 0) ¬(x ∧y ) ≧ ¬x ∨¬y
¬¬(x ∧y ) = ¬¬x ∧¬¬y
(x ∨y )∧¬x ∧¬y = 0 ├ ¬x ∧¬y ≦¬(x ∨y )
≧ は前々項より。 第2 式も同様。
第 3 式: ¬(x ∧y )∧(¬¬x ∧¬¬y )=¬(x ∧y )∧¬(¬x ∨¬y )=¬((x ∧y )∨(¬x ∨¬y ))=¬1=0 。
[5] 論理との対応、及び「Lindenbaum 代数」LB
[5.0] 一つの定まった言語で書かれる論理式の全体は、演繹関係 a ├ b によって
(その商集合が)順序集合を成すが、最小論理の場合は、自明律 e ├ / e ├ a を
欠くので、束にならない。 即ち、空集合の結びとしての 0 が存在しない。 しかし b ├ a → a は成り
立つので、最大元1 を有し、交わり半束ではある。
[5.1] 直観主義論理は正に自明律を許し、束となるばかりか、随伴関係に相当する次
の推論式によって、Heyting 代数を与える:
a ∧g ├ d
g ├ a →d
g├ a →d
a ∧g ├ d
(0.5)
[5.2] 従って、更に二重否定の除去 ¬¬a ≦a を加えれば、古典命題論理となり、
Boole 代数を与える。 これを Lindenbaum 代数と呼び、LB と記す。
[5.3] 位相との対応: LB の命題定数の全体を P 、その付値 v : P → {0, 1} の全体
2P に次の形の集合を閉開集合とする、通常の弱位相を与える:
O ≡∪Up0, •••, pm; q0, •••, qn
≡ Ppj{0}Pqk{1}•2P  ̄ {pj, qk,}
(0.6)
[5.4] a ∈LB に現れる命題定数の集合を Pa とすると、Pa は有限だから、次の
集合 Va は UPa´ ; Pa _Pa´ の形の集合の有限和であり、従って 2P の閉開集合である:
Va ≡ {v : v (a ) =1}
(0.7)
a →Va は LB から CO 2P への準同型写像であるが、実は同型となる。
。
[5.4.0] 先ず 2P は compact である(Tikhonov)
2
X を compact な空間、U ≡{Ul } を XP の開被覆、P は整列されており、その最小元を 0 とする。 U が有限被覆
を持たないとすると、或る x 0 ∈X について {x 0}•P 0<p X が有限部分で覆われない。 何故ならば、各 {x }•P 0<p X
の有限被覆 {Ux , l} は或る近傍 Ix•P 0<p X を覆い、{Ix} は X の開被覆を成す、従って有限個の x についての {Ux , l}
が X•P 0<p X(=XP)を覆う故である。 同様に p が後者型、{(x0 , •••, xp _1)}•Pp ≦q X が U の有限部分で覆われなけ
れば、或る xp ∈X について、{(x 0 , •••, xp )}•P p <q X が覆われない。 極限型の p についても、{(x 0 , •••, xp )}•P p<q X
の有限被覆の各要素の各成分が、有限個を除くと X 全体であり、従って或る有限の n の先 {(x0 , •••, xn)}•P n<q X を
覆うので、同様。 従って列 x ≡(x0 , •••, xp , •••) が存在し、{(x0 , •••, xp)}•Pp <q X は全て有限的に覆われない。しかし
x ∈Ul とすると、直前の議論により、或る有限の n について {(x0 , •••, xn)}•P n<q X ⊂Ul (矛盾)
。
[5.4.1] Up0, •••, pm , q0, •••, qn =V ¬p0∧•••∧¬pm ∧q0∧•••∧qn だから、{Va } は開集合基を
成す。 そこで任意の閉開集合 W と、各 w ∈W の近傍 V aw ⊂W を取ると、前項
によりその有限個が W を覆う。 その時 W =V ∨aw 、即ち V は全射である。
[5.4.2] Va =2P 即ち a が恒真ならば、LB の完全性により a =1、即ち V は単射。
[5.5] G ⊂LB の任意の有限部分が充足可能ならば、G は充足可能である。
仮定から VG は有限交叉的な閉集合族、従って [5.4.0] により ∩VG(=V∧G )≠f 。
[5.6] G ⊂LB の任意の有限部分が無矛盾ならば、G は無矛盾である。
推論式 G ├ に現れる G の論理式は有限個であるから。
[5.7] LB の完全性から、有限個の論理式の無矛盾性と充足可能性は同値、従って前
2 項により、この同値性は、論理式の任意の集合について成り立つ。
[6] Euclid 空間の線型部分空間の成す束 LE n: a , b ∈LE n について
a ∨b ≡a 、b を含む最小の部分空間
但し分配律は成り立たない。
a ∧b ≡a ∩b
(0.8)
例: c を、二点 a 、b を含まないが a ∨b とは交わる直線とせよ。
1. Ideal と Filter
定義 1. 次の条件を満たす I ⊂L を‘Ideal’と言う。
∀x , y ∈I ∃z ∈I (x , y ≦z ) (上方有向性)
∀x ∈I (¯x ⊂I ) (下方閉性、但し ¯x ={y : y ≦x })
(1.0)
特に ¯x を「主 Ideal」と言う。 双対的に、
‘Filter’を下方有向性と上方閉性に
」と呼ぶ。
よって定義する。 L 自身と空集合を除くものを「真の(Proper)
[0] M ⊂L(∨|∧ 半束)を含む最小の Ideal(Filter) I [M ] ≡∩M ⊂I {I }(F )
I [M ](F [M ])=∪{¯(∨N )(­(∧N )): N は有限、且つ N ⊂M }
(1.1)
は、M から「生成される」 Ideal(Filter)である。
[1] F [M ] が真の Filter である必要十分条件は、M が「有限交叉性」を持つ、即ち
任意の有限な N ⊂M について ∧N ≠ 0 なることである。
3
[2] 更に、任意の x ∈L について x ∈M と ¬x ∈M の一方、且つ一方のみが成り
立つ時、M は「極大」Filter である。 L が Boole 代数ならば、逆も真。
/ F[M]├ ¬x ∈
/ M ├ x ∈M
有限交叉性、x ∈F[M]├ ¬x ∈
x∈
/ M ├ ¬x ∈M ├ 1=¬x ∨x ∈M ∪{x}
補題 1. Boole 代数 B に於ける次の同値関係は、∨ と ∧ を保存する:
x ~I y ≡ (x ∧¬y )∨(¬x ∧y ) ∈I
(1.2)
従って商集合 B / I も Boole 代数、準同型写像 f : B → B / I は I を核とする:
f : x → { (x ∧¬y )∨(¬x ∧y ) : y ∈I }
I =f
―1
(0)
(1.3)
証明) ~I が反射、対称律を満たすことは明らか。 x ~I y 、y ~I z とすると、任意の w について
(x ∧¬z)∨(¬x ∧z )=(x ∧(y ∨¬y )∧¬z)∨(¬x ∧(y ∨¬y )∧z )=
(x ∧y ∧¬z)∨(x ∧¬y ∧¬z )∨(¬x ∧y ∧z)∨(¬x ∧¬y ∧z )≦(y ∧¬z)∨(¬y ∧z )∨(x ∧¬y)∨(¬x ∧y )∈I
((x ∧w )∧¬(y ∧w ))∨(¬(x ∧w )∧(y ∧w ))=(x ∧w ∧¬y)∨(¬x ∧y ∧w )≦(x ∧¬y )∨(¬x ∧y )∈I
((x ∨w )∧¬(y ∨w ))∨(¬(x ∨w )∧(y ∨w ))=(x ∧¬y ∧¬w )∨(¬x ∧¬w ∧y)≦(x ∧¬y )∨(¬x ∧y )∈I
証明了)
定義 2. 次の条件を満たす I を「素 Ideal」
、主 Ideal ¯x が素であるような x を
「素(Prime)元」と言う:
I ≠1 、 且つ x ∧y ∈I
ならば x ∈I
または y ∈I
(1.4)
双対的に「素 Filter」と「原子(Atom)
」が定義される。
補題 2. M ⊂L が素 Ideal(素 Filter)⇔ L -M が Filter(Ideal)
系)任意の準同型写像 f : L → {0, 1} の核 f ― 1 (0) は素 Ideal、双対核 f ― 1 (1) は素
Filter である 。 逆に任意の素 Ideal(素 Filter)は、準同型写像の核(双対核)と
して表わされる。
補題 3. 分配束の Ideal I(Filter F )が極大ならば素
証明) x ∧y ∈I 且つ x ∈
/ I とすると、I が極大だから、或る x ´∈I について x ∨x ´=1、従って
y =y ∧(x ∨x ´)=(y ∧x)∨(y ∧x ´)∈I
証明了)
定理 0.(素 Ideal 定理) 分配束の互いに疎な Ideal I と Filter F について、F と
疎な素 Ideal J ⊃I が存在する。
証明) I が素でなく x, y ∈
/ I x ∧y ∈I とすると、∀a, b ∈I ((a ∨x )∧(b ∨y ))∈I だから、a ∨x と b ∨y の
何れか、例えば a ∨x は F に属さず、従って I [I ∪{x }]∩F =f 。 そこで {A⊂
/ I : I [I ∪A]∩F =f } の極大元を M
とすると、I [I ∪M ] が素でなければ、今証明した通り、M を更に拡大できる。 証明了)
系)I が真ならば、それを含む極大 Ideal が存在する。
4
補題 4. Boole 代数 B に於いては、Ideal I ⊂ B と x , y ∈B について
[0] x が原子 ⇔ x ≠0 、且つ y ≦x ならば y = 0 または y =x
[1] x が原子 ⇔ ¬x が素 また x が原子 ⇒ B - ­x =¯¬x
[2] I が素ならば極大
証明) [0] x ≦y ∨¬y ∈­x 従って、x が原子ならば x ≦y または x ≦¬y 。 y ≦x を併せると、前者ならば
y =x 、後者ならば y =y ∧¬y =0 。 逆は x ∧y ≦x =(x ∧y )∨(x ∧¬y ) 従って x ∧y =0 または x ∧y =x
/I
ならば x ≦¬y または x ≦y 、従って ­x は極大、従って素。 [1] は定義より明らか。 [2] I が素ならば、x ∈
と x ∧¬x ∈I を併せて ¬x ∈I 、従って極大。 証明了)
2. Boole 代数の表現定理
[0] 任意の集合 B について、2B の弱位相は次の性質を持つ:
[0.0] T2 分離公理を満たす(Hausdorff 空間である)
、
[0.1] compact である(0.1[5.4.0]項)
、
[0.2]((0.6) 式の形の)閉開集合から成る開集合基が存在する。
定義 3. 上の性質を持つ位相空間を「Stone 空間」と言う。
[1] Stone 空間 X の閉部分空間は Stone 空間である。
任意の x ∈X について {x } =∩x ∈U ∈COX U 。
F ⊂2X が COX の極大 Filter ⇔ ∃!x (F =COX ∩­{x }) 。
[2] Boole 代数 B から {0, 1} への準同型写像(B の極大 Filter)の全体 X は
X = {x ∈2B : ∀a , b ∈B (xa ∧xb =xa ∧b 、x ¬a =¬xa )}
(2.0)
と表わされるので、閉集合、従って Stone 空間である。 これを spec(B ) と記す。
[3] 写像 j : B → COX 、 j (b ) =X ∩xb ―1(1) は同型写像である。
[3.0] (2.0) 式より xa ∧b ―1(1)=xa ―1(1)∩xb ―1(1)、
x ¬b ―1(1)=¬xb ―1(1)(=xb ―1(0)) 従って j は準同型。
[3.1] a ≠b ならば、例えば a ∧¬b ≠0 従って
j (a ∧¬b)⊂j (a)∩¬j (b) 従って j (a)≠j (b) 。
B
X
2B
[3.2] Ua0, •••, am; b0, •••, bn =∧xaj (0)∧xbk (1)=x¬aj ∧bk (1) だから
―1
―1
―1
j (B) は開集合基を成す。 また X は Stone 空間だから、任意の
閉開集合 Y ⊂X は有限個の U 従って j (b) によって覆われる。
[4] 双対的に Stone 空間 X 、B =COX について
写像 y : X → spec(B ) 、 y (x ) =­{x } は同相。
[4.0] [1] より y は明らかに全単射。 また [3] を併せて
[4.1] j (b)={A : b ∈A ∈ spec(B )}
={y (x) : x ∈b}=y (b)
A =y (x)
∃x ∈b ({x }=∩A)
従って、
[4.2] b 、j (b)、y (b) が全て開であることに鑑み、y は同相。
5
x
j
b
図 2. 同型写像 j : B → COX
x
b
X
y
Spec(B )
図3. 同相写像 y : X → spec(B )
[5] 上記は、Lindenbaum 代数の場合の 0.1[5.4] の一般化である。 実際、
同型写像 a : LB →Va : CO 2P ((0.7) 式)と
を結合すれば、[3] の j を得る。
埋め込み CO 2P → CO 2LB
3. Frame、Scott 位相、及び Bit 列
3.0 Frame と Sober な空間: OX は次の性質を持つ。
[0] 完備、且つ分配律が成り立つ:
∀a ∈OX , S ⊂OX (a ∧∨S =∨s ∈S {a ∧s })
(3.0)
定義 4. このような性質を持つ束を‘Frame’
、また Frame の間の束としての準
同型写像が任意の ∨ を保つ時、
「Frame 準同型」
(略して単に準同型)と言う。
[1] 完備な Heyting 代数に於いては、0.1[4.0] と同様に、無限の分配律が成立し、
従って Frame である。 逆も真(任意の a 、b 、c について g (a )≡∨{s : s ∧c ≦a} とすればよい)。
[2] Frame から {0, 1} への準同型 p の核 p ― 1(0) は、素 Ideal(=¯∨p ― 1(0))で
ある(補題2 系、及び p (∨p ―1(0))=∨p (p ―1(0))=0 より)。 逆に素 Ideal ¯c は、或る準同型 p
の核 p ―1(0) として表わされる。 そこで p と ∨p ―1(0) を同一視する。
[3] 開核 (X - {x }) O は OX の素元である。 特に T1 分離公理を満たすならば、一点
集合 {x } は閉だから X - {x } 、これとの類比で、準同型 p を‘Point’と言う。
補集合 ↑{x} は原子的ではないが、素である。 ↓(X - {x, y}) は素でなく、補集合 ↑{y} ∪↑{x} は Filter でない。
補題 5. 完備 Boole 代数 B 、原子の集合 at(B ) について、以下が成り立つ。
、
[0] ∀a ∈at(B ), S ⊂B (a ≦∨S ⇒∃s ∈S (a ≦s )) (­a は「完全素」Filter)
[1] 特に S =B - ­a として ∨(B - ­a ) ∈B - ­a 即ち = ¯∨(B - ­a )
上記 [2](逆)と併せて ∃!p (p ―1(0) = ¯∨(B - ­a )) 、
[2] 同じく [2](順)により、写像 p : at(B ) → pt(B )、p (a ) =p は全射でもある。
p ―1(0)=¯∨p ―1(0)=¯¬a a は原子、補題4[1] と [1] より ¯¬a =B - ­a =¯∨(B - ­a)
[4] Frame R と位相空間 X の間には、2 節と類似の、以下のような双対性が有る。
[4.0] 写像 j : R → O (pt(R )) j (r ) = {p : p (r ) =1} = {(R - ¯pe , ¯pe ): r ≦
/ pe }
j は Frame として準同型、且つ全射(R の∨完備性と p の準同型性による)。
y : X → pt(OX ) y (x ) = (OX ∩­{x }, ¯(X - {x })O )
X が T0 ⇔ y が単射 X が T2 ⇒ y が全射 (定義より明らか) y が全単射 ⇒ 同相
[4.1] j : OX → O (pt(OX ))
j (U ) =pt(OX ) ―1(1)∩­{U } ⊃y (U ) y ―1(j (U )) ⊂U 従って y は連続
j は OX に於いて単射(∀xÎU -V (y (x )Îj (U ) - j (V ))、従って O (pt(OX )) への同型。
j (U ) ⊃y (U): 明らか。 y ―1(j (U)) ⊂U: x ∈
/ U →U ∈
/ y (x ) →y (x ) ∈
/ j (U )
6
y が全射ならば j (U ) =y (U)
y : pt(R ) → pt(O (pt(R )))
y (pe) = ¯( pt(R ) - {pe })O =O (pt(R )) - ­{pe } =¯{pe ´ : pe ≦
/ pe ´} =j (pe)
pt(R ) は T0 、従って前項よりy は pt(R ) に於いて単射、また全射でもある。
pe ≦
/ pe ´ ⇒ pe ´∈
/ ­{pe} 従って y は単射。 r ´=∨¯j ―1(j (r )) として j (r ´)=j (r )、これが素ならば s ∧t ≦r ´ に
ついて j (s)≦j (r) または j (t)≦j (r) 即ち s ≦r ´ または t ≦r ´、即ち r ´ は素。 y (r ´)=¯j (r) だから y は全射。
pt(R ) •••••••pe •••••••
≦
•••••••••••••••
r
r´
s≦
t
•••••••••••• s ∧t ••••••••••••
•••••••••••••••••••••••••
図 4. 準同型写像 j : R → O (pt(R ))
図 5. 連続全単射 y : pt(R ) → pt(O (pt(R )))
定義 5. pt(R ) のように、y が同相であるような空間を、
‘Sober’であると言う。
3.1 Scott 位相と Bit 列
[0] Bit 列の全体を X 、有限列の全体を X f 、X ∞ =X -X f とする。 x ∈X f が y の
切片、即ち y0 =x0 、•••、yn =xn (x の最終項)である時 x ≦y と定めると、
X は順序集合となる。
従って
[0.0] S が有向部分集合 ⇔ ≦ が S に於いて全順序
[0.0]´ 全ての有向部分集合が ∨(有向結合)を持つ(X の有向完備性)
。
[0.1] {­x : x ∈X f } を開集合基とする位相を定めると
[0.1]´ U ⊂X が開集合 ⇔ U は上方に閉、且つ ∀S : 有向(∨S ∈U ⇒ S ∩U ≠f )
Þ: 明らか。 Ü: u ∈U とすると ¯u ∩X f は有向、且つ u =∨¯u ∩X f だから (¯u ∩X f )∩U ≠f 、その
最小列を x とすると ­x ⊂U 従って U =∪­x 。
定義 6. 有向完備な X の、[0.1]´ によって定義される位相を Scott 位相と言う。
補題 6. 有向完備な X の Scott 位相について x ≦y ⇔ ∀U ∋x (y ∈U )
/ y ならば、開集合 U ={z : z ≦
/ y} について x ∈U 、 y ∈
/U 。
Þ: U の上方閉性から明らか。 Ü: x ≦
系)Scott 位相は T0 である。 従って 3.0[4.0] により y : X → pt(OX ) は単射。
[1] Bit 列の Scott 位相空間 X は次の性質を持つ:
[1.0] 開集合 ­x は全て compact 。 x, y ∈Xf x (≦|≦/ ∧≧
/ )y Þ ­x ∩­y =­y |f
[1.1] X は sober である。 p ∈ pt(OX ) に対して s, t ∈S ={s : p (­s )=1} ならば p (­s ∩­t )=1 だから
s ≦t または t ≦s 、従って S は有向、且つ ∨S ∈­s ⇔ s ∈S 即ち p =y (∨S ) 従ってy は全射。
補題 7. 有向完備な X 、Y と写像 f : X →Y について
f が Scott 位相について連続 ⇔ f が有向性と有向結合を保つ
7
/ ∨f (S )} とすると
証明) Þ: 先ず補題6 によって、f は順序、従って有向性を保つ。 S ⊂X を有向、U ={z : z ≦
f (∨S )∈U ならば、∨S ∈f ―1 (U ) 従って ∃s ∈S (f (s )≦/ ∨f (S ))(矛盾)
Ü: Scott 開集合の定義から明らか。 証明了)
3.2 Ideal の集合 Idl(L )
[0] 任意の順序集合 L について、L の Ideal の全体 Idl(L ) は、PL の部分順序
集合として有向完備である。 ∨S =∪S
[1] L から有向完備な Y への任意の準同型写像 g は
L ∋a
¯a ∈ Idl(L )
Scott 連続な f : Idl(L ) → Y に一意的に拡張され
f
g (a ) =f (¯a ) f (I ) =f (∨{¯a : a ∈I })=∨g (I )
∨g (¯a )
f が有向性を保つことと f (∨S ) ≧ ∨f (S ) は明らか。 逆に
f (∨S ) =f (∪S ) = ∨g (∪S) ≦ ∨f (S )
図6. 準同型写像の拡張
[2] L が ∧ 半束ならば
[2.0] Idl(L ) も ∧ 半束、∧≡∩、且つ I ∧∨S =∨{ I ∧J : J ∈S }(有向分配律)
[2.1] Y が有向分配律を満たし、g が ∧ を保てば、f も ∧ を保つ。
[3] L が ∨ 半束ならば
[3.0] Idl(L ) も ∨ 完備半束(従って完備束) I ∨J =∪{¯(a ∨b ) : a ∈I , b ∈J }
任意の S ⊂ Idl(L ) について、S の有限部分集合の ∨ の全体 T は有向、∨S =∨T
[3.1] Y が ∨ 半束、g が ∨ を保てば、f も ∨ を保つ。
[4] L が分配束ならば
[4.0] Idl(L ) は Frame [3.0] の証明より I ∧∨S =I ∩∪T =∪(I ∩T ) =∪(I ∧T ) =∨(I ∧S )
[4.1] 更に Y が Frame、g が束準同型ならば、f は Frame 準同型
f (∨S ) =f (∪T ) =∨g (∪T ) = ∨∪g (T ) ≦ ∨∪∨g (S )
[4.2] P が Idl(L ) の素元 ⇔ P が L の素 Ideal 「素」の定義より明らか。
[4.3] 写像 j : Idl(L ) → O (pt(Idl(L ))) は単射、3.0[4.0] と併せて Frame 同型。
I, J ∈Idl(L ) a ∈I - J として、定理0 を J と ↑a に適用せよ。
定義 7. 有向完備な X の元 x が ∀有向 S ⊂X (x ≦∨S → ∃s ∈S (x ≦s )) である
時、
‘compact’であると言う。 Compact な元全体の集合を K (X ) と記す。
[5] x が compact ⇔ ↑x は Scott 開集合
[6] Bit 列の空間に於いて compact ⇔ 有限列
[7] 完備束 L の元 a が compact であることは、次の何れとも同値である:
[7.0] ∀S ⊂L (a ≦∨S → ∃有限 F ⊂S (a ≦∨F )) S の代わりに ∨F の集合を取れ。
[7.1] ∀I ∈Idl(L )(a ≦∨I → a ∈I ) 任意の S について、I =↓S とせよ。
8
[8] OX に於いて compact ⇔ X に於いて開、且つ compact ([7.0] により)
[9] R ≡ Idl(L ) に於いて compact ⇔ L に於ける主 Ideal
I が compact ならば、S =↓I として I ⊂∨S 従って ∃a(I ⊂↓a ∈S ) 従って ∨I ≦a ∈I
[9.0] 特に L が分配束ならば、K (R ) は、写像 a → ¯a によって L と同型となる。
:
↓a ∨∧↓b =↓(a ∨∧b ) に注意。 また次の性質を持つ([4.0]、[9])
[9.1] R は Frame、K (R ) は R の部分束、∀r ∈R ∃S ⊂K (R )(r =∨S )
。
[9.2] j (¯L ) は O (pt(R )) の compact な開集合基を成す([4.3]、[9])
定義 8. [9.1] の性質を持つ Frame を‘coherent’であると言う。
Coherent な R の compact 元 k は ∨¯ k =k を
満たすから、図 6 の可換関係は右のようになる。
更に h : r ∈R → ¯r ∩K (R ) ∈Idl(K (R )) とすると
h •∨=1 、∨•h =1 。
↓
K (R )
=
Idl(K (R ))
h
∨
R
図7. Idl(K (R )) @R
[10] R が coherent ならば、Idl(K (R )) は R と同型。
定義 9. Sober で OX が coherent な X を coherent な空間であると言う。
[11] Bit 列の空間 X について、OX は coherent 。 3.1[1.0] 及び [8] により。
従って 3.1[1.1] と併せて X は coherent である。
3.3 分配束の Spectrum
Boole 代数や Frame と同様に(2[3]、3[4.0])
、
分配束 L から {0, 1} への準同型写像、即ち L の
素 Ideal の全体 spec(L )、写像 j : L → P (spec(L ))
と、{j (a )} を開集合基とする位相を定める:
j (a ) = {P : P (a ) =1} = {P : a ∈/ P }
(3.1)
spce(L )∋P
⊃{P : a ∈
/ P}
↓
同相
j
¯P ∈pt(Idl(L ))
{¯P : ¯a ∈
/ ¯P }⊂
j
L∋a
同型
同型
¯a∈K (Idl(L ))
図8. L @K (O (spec(L ))
p ―1(0)
定理 1. 分配束 L と Frame Idl(L ) について、以下が成り立つ:
[0] spec(L ) と pt(Idl(L )) は P « ¯P によって1対1に対応し(前節 [4.2])、同相
(j (L ) は定義によって前者の、対応する j (¯L ) は同 [9.2]によって後者の開集合基を与える)
。 特に R を
coherent、L を K (R ) とすれば、前節 [10] と併せて pt(R ) @ spec(K (R )) 。
[1] j : L → O (spec(L )) によって L @ K (O (spec(L )) 前節 [4.3]、[9.0] と [0](図8)より。
[2] 位相空間 X が coherent ⇔ ∃L : 分配束(X = spec(L )) L を K (OX) とし、[0] より。
[3] spec(L ) が T2 ⇔ L が Boole 代数 Ü: x(b)=1、y(b)=0 とすると x ∈j (b)、y ∈j (¬b) 。
Þ: spec(L ) は 2[2] と同様に閉、従って compact、従ってその閉部分集合は compact、T2 ならば逆に compact
な部分集合は閉、[1] と併せて L @K(O(spec(L ))=CO(spec(L )) 。
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4. 量子論理
4.0 Ortho-modular 束
[0] 線型部分空間の成す束 LE n(0.1 [6] 項)は次の性質を持つ:
[0.0] 直交補空間を補元 (0.2) とし
a ∨¬a ≡ 1
a ∧¬a = 0
a ≦b Þ ¬a ≧ ¬b
¬¬a =a
(4.0)
[0.1] 分配律より弱い
a ≦b Þ a =b ∧(a ∨¬b )
及び
b =a ∨(b ∧¬a )
(4.1)
が成り立つ。 このような束を「Ortho-modular 束」と言う。
(4.0) の後二式は、Boole 代数に於いては証明されるが、証明に要する分配律が Ortho-modular 束では成り立た
ないので、公理として要請されるのである。 また (4.1) は、その何れの一方から他方が導かれる。 先ず
¬a , ¬b ≦ ¬a ∨ ¬b ├ a , b ≧ ¬(¬a ∨ ¬b ) ├ ¬(a ∧b ) ≦ ¬a ∨ ¬b ├ ¬(a ∧∨b ) = ¬a ∨∧ ¬b
次に例えば
a ≦b Þ a =b ∧(a ∨¬b ) ├ ¬b = ¬a ∧(¬b ∨a ) ├ b =a ∨(b ∧¬a )
4.1 Hilbert 空間論からの準備
4.2 量子力学からの準備(復習)
(14. 3.20)
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