[わかみず会(.14. 9.10)] 第0 版 束論とその応用 [0] 柳生 孝昭 0. 基本的概念と様々な束 1. Ideal と Filter 2. Boole 代数の表現定理 3. Frame、Scott 位相、及び Bit 列 4. 量子論理[未完] 5. 文献 [0] 田中俊一: 「位相と論理」 ,日本評論社,2000. 7. [1] 石垣寿郎: 「量子力学の哲学」 、 坂本百大/野本和幸, 「科学哲学」 ,北樹出版,2002 5,所収. [2] 同: 「量子力学の確率概念について」 ,科学基礎論研究 93 号,1999. [3] 同: 「量子力学におけるブ―ル束」 ,科学基礎論研究 95 号,2000. [4] 荒木不二洋: 「量子場の数理」 ,岩波書店,2001. 5. [5] 柳生孝昭: 「矛盾許容型論理と様相論理」 ,わかみず会資料,2011. 2. 9. 動機: 量子論理を学ぶこと。 その準備として束の基本的性質を確認し、併せて命題 論理や bit 列の空間等、計算機科学と関わりの深い例も、一瞥して置きたい。 0. 基本的概念と様々な束 0.0 基本的概念 定義 0. L を(半)順序集合、 x , y ∈L として、次のような x ∨y を x、y の 「結び(join) 」 、任意の x , y について ∨ が存在する L を ∨ 半束と呼ぶ: x ∨y ≡ min{t : x , y ≦t } (0.0) 双対的に「交わり(meet) 」と ∧ 半束を定義する: x ∧y ≡ max{t : t ≦x , y } (0.1) 定義から明らかに 補題 0. (x ∨y )∨z =x ∨(y ∨z ) (x ∧y )∧z = x ∧(y ∧z ) 結合律が任意の有限集合 M ={x0 , •••, xn } について成り立つことも明らかなので、 その結び|交わりを (∨|∧)M と記す。 [0] 任意の有限な (∨|∧)M が存在する順序集合を「束(lattice) 」と言う。 0 特に M =f として、最大元 1 と最小元 0 の存在を含意することに注意。 束は順序 集合の一種でありながら、∨ や ∧ の興味有る議論は、寧ろ全順序性を退ける。 その 一つの典型、∪|∩ を結び|交わりとする集合 X の冪集合 PX は、最も簡明な例で あるが、以下の「重い」構造を備えている。 [1] 完備性; 任意の(無限でもよい)(∨|∧)M が存在する。 ) (任意の ∨M が存在すれば ∧M が存在、またこの逆も言えることに注意。 [2] 補元の存在; 任意の x が、次の条件を満たす補元 ¬x を持つ。 x ∨¬x ≡ 1 x ∧¬x = 0 (0.2) [3] 分配律; x ∧(y ∨z ) = (x ∧y )∨(x ∧z ) (双対的な x ∨(y ∧z ) = (x ∨y )∧(x ∨z ) は、これから導かれる。 ) [4] 任意の元が補元を持つ分配束を「Boole 代数」と言う。 0.1 様々な束とその性質 [0] 位相空間 OX 、CX 、COX : 集合 X に於ける開集合の全体 OX は完備分配束 を成し、最大元 1(=X )と最大小元 0(=f)を持つが、一般に補元は無い。 双対 的に、閉集合の全体 CX も同様。 閉開集合(連結成分の和集合)の全体 COX(= OX ∩CX )は Boole 代数であるが、一般に完備ではない。 [1] U , V , W ∈OX について、次が成り立つ: W ∧V ≦U ⇔ V ≦ (¬W ∪U )O (但し _O は開核を表す) Þ: V =(¬W ∪W )∩V =(¬W ∩V )∪(W ∩V )≦¬W ∪U Ü: W ∩V ≦W ∩(¬W ∪U )=W ∩U [2] これらの操作 V → W ∧V と U → ∪{V : W ∩V ⊂U } を一般化し、順序集合 X 、Y の間の一組の写像 g : Y → X と f : X → Y について、次が成り立つ時、f(g )を g(f )の 「右(左)随伴(adjoint) 」と言う。 ∀x ∈X , y ∈Y (g (y ) ≦x ⇔ y ≦f (x )) (0.4) x f(x) ≦ ⊂U } に注意。 ≦ また (¬W ∪U )O =∪{V : W ∩V (0.3) g (y) y 図 0. 随伴写像 f 、g は順序を保つ。 随伴の概念は、圏に於けるものの一例である。 y ≦y ´ g (y ´)≦g (y ´) ├ y ≦y ´≦f(g (y ´)) ├ g (y )≦g (y ´) [3] 右(左)随伴写像 f(g )は、任意の部分集合についての ∨(∧) を保つ。 g (Y )≦∨g (Y ) ├ Y ≦f(∨g (Y )) ├ ∨Y ≦f(∨g (Y )) ├ g (∨Y )≦∨g (Y ) : OX と同様、特に y → z ∧y が右随伴 f を持つ束を [4]「Heyting 代数 H」 言う。 Boole 代数の場合は f (x ) = ¬z ∨x とすればよい。 これに倣って、一般に は z → x と、また z → 0 を ¬z と記す。 H に於いて、以下が成り立つ。 1 [4.0] 分配律: x ∧(y ∨z ) = (x ∧y )∨(x ∧z ) x ∧y ≦(x ∧y )∨(x ∧z ) ├ y ≦(x → (x ∧y )∨(x ∧z )) ├ z ≦(x → (x ∧y )∨(x ∧z )) ├ y ∨z ≦(x → (x ∧y )∨(x ∧z )) ├ x ∧(y ∨z )≦(x ∧y )∨(x ∧z ) [4.1] x ∧¬x = 0 x ≦¬¬x ¬x = ¬¬¬x ¬x ≦¬x ├ x ∧¬x = 0 ├ x ≦¬¬x ├ ¬x ≦¬¬¬x x ≦y Þ ¬y ≦¬x 一方 ¬¬x ∧¬¬¬x = 0 ├ ¬¬¬x ≦¬x x ≦y ├ x ≦¬¬y ├ x ∧¬y = 0 ├ ¬y ≦¬x [4.2] x <¬¬x であるような元( 「非正則元」 )を持つ Heyting 代数の例: 通常の位相を持つ直線上の一点 a の 近傍として、a を端点とする片側開区間を許した空間の、 開区間 (b , a )。 他の開区間や追加した近傍 (b , a ] は 正則であることに注意。 ( )] a 図 1. 正則、及び非正則元 [4.3] ¬(x ∨y ) = ¬x ∧¬y ( 特に ¬1 = 0) ¬(x ∧y ) ≧ ¬x ∨¬y ¬¬(x ∧y ) = ¬¬x ∧¬¬y (x ∨y )∧¬x ∧¬y = 0 ├ ¬x ∧¬y ≦¬(x ∨y ) ≧ は前々項より。 第2 式も同様。 第 3 式: ¬(x ∧y )∧(¬¬x ∧¬¬y )=¬(x ∧y )∧¬(¬x ∨¬y )=¬((x ∧y )∨(¬x ∨¬y ))=¬1=0 。 [5] 論理との対応、及び「Lindenbaum 代数」LB [5.0] 一つの定まった言語で書かれる論理式の全体は、演繹関係 a ├ b によって (その商集合が)順序集合を成すが、最小論理の場合は、自明律 e ├ / e ├ a を 欠くので、束にならない。 即ち、空集合の結びとしての 0 が存在しない。 しかし b ├ a → a は成り 立つので、最大元1 を有し、交わり半束ではある。 [5.1] 直観主義論理は正に自明律を許し、束となるばかりか、随伴関係に相当する次 の推論式によって、Heyting 代数を与える: a ∧g ├ d g ├ a →d g├ a →d a ∧g ├ d (0.5) [5.2] 従って、更に二重否定の除去 ¬¬a ≦a を加えれば、古典命題論理となり、 Boole 代数を与える。 これを Lindenbaum 代数と呼び、LB と記す。 [5.3] 位相との対応: LB の命題定数の全体を P 、その付値 v : P → {0, 1} の全体 2P に次の形の集合を閉開集合とする、通常の弱位相を与える: O ≡∪Up0, •••, pm; q0, •••, qn ≡ Ppj{0}Pqk{1}•2P  ̄ {pj, qk,} (0.6) [5.4] a ∈LB に現れる命題定数の集合を Pa とすると、Pa は有限だから、次の 集合 Va は UPa´ ; Pa _Pa´ の形の集合の有限和であり、従って 2P の閉開集合である: Va ≡ {v : v (a ) =1} (0.7) a →Va は LB から CO 2P への準同型写像であるが、実は同型となる。 。 [5.4.0] 先ず 2P は compact である(Tikhonov) 2 X を compact な空間、U ≡{Ul } を XP の開被覆、P は整列されており、その最小元を 0 とする。 U が有限被覆 を持たないとすると、或る x 0 ∈X について {x 0}•P 0<p X が有限部分で覆われない。 何故ならば、各 {x }•P 0<p X の有限被覆 {Ux , l} は或る近傍 Ix•P 0<p X を覆い、{Ix} は X の開被覆を成す、従って有限個の x についての {Ux , l} が X•P 0<p X(=XP)を覆う故である。 同様に p が後者型、{(x0 , •••, xp _1)}•Pp ≦q X が U の有限部分で覆われなけ れば、或る xp ∈X について、{(x 0 , •••, xp )}•P p <q X が覆われない。 極限型の p についても、{(x 0 , •••, xp )}•P p<q X の有限被覆の各要素の各成分が、有限個を除くと X 全体であり、従って或る有限の n の先 {(x0 , •••, xn)}•P n<q X を 覆うので、同様。 従って列 x ≡(x0 , •••, xp , •••) が存在し、{(x0 , •••, xp)}•Pp <q X は全て有限的に覆われない。しかし x ∈Ul とすると、直前の議論により、或る有限の n について {(x0 , •••, xn)}•P n<q X ⊂Ul (矛盾) 。 [5.4.1] Up0, •••, pm , q0, •••, qn =V ¬p0∧•••∧¬pm ∧q0∧•••∧qn だから、{Va } は開集合基を 成す。 そこで任意の閉開集合 W と、各 w ∈W の近傍 V aw ⊂W を取ると、前項 によりその有限個が W を覆う。 その時 W =V ∨aw 、即ち V は全射である。 [5.4.2] Va =2P 即ち a が恒真ならば、LB の完全性により a =1、即ち V は単射。 [5.5] G ⊂LB の任意の有限部分が充足可能ならば、G は充足可能である。 仮定から VG は有限交叉的な閉集合族、従って [5.4.0] により ∩VG(=V∧G )≠f 。 [5.6] G ⊂LB の任意の有限部分が無矛盾ならば、G は無矛盾である。 推論式 G ├ に現れる G の論理式は有限個であるから。 [5.7] LB の完全性から、有限個の論理式の無矛盾性と充足可能性は同値、従って前 2 項により、この同値性は、論理式の任意の集合について成り立つ。 [6] Euclid 空間の線型部分空間の成す束 LE n: a , b ∈LE n について a ∨b ≡a 、b を含む最小の部分空間 但し分配律は成り立たない。 a ∧b ≡a ∩b (0.8) 例: c を、二点 a 、b を含まないが a ∨b とは交わる直線とせよ。 1. Ideal と Filter 定義 1. 次の条件を満たす I ⊂L を‘Ideal’と言う。 ∀x , y ∈I ∃z ∈I (x , y ≦z ) (上方有向性) ∀x ∈I (¯x ⊂I ) (下方閉性、但し ¯x ={y : y ≦x }) (1.0) 特に ¯x を「主 Ideal」と言う。 双対的に、 ‘Filter’を下方有向性と上方閉性に 」と呼ぶ。 よって定義する。 L 自身と空集合を除くものを「真の(Proper) [0] M ⊂L(∨|∧ 半束)を含む最小の Ideal(Filter) I [M ] ≡∩M ⊂I {I }(F ) I [M ](F [M ])=∪{¯(∨N )((∧N )): N は有限、且つ N ⊂M } (1.1) は、M から「生成される」 Ideal(Filter)である。 [1] F [M ] が真の Filter である必要十分条件は、M が「有限交叉性」を持つ、即ち 任意の有限な N ⊂M について ∧N ≠ 0 なることである。 3 [2] 更に、任意の x ∈L について x ∈M と ¬x ∈M の一方、且つ一方のみが成り 立つ時、M は「極大」Filter である。 L が Boole 代数ならば、逆も真。 / F[M]├ ¬x ∈ / M ├ x ∈M 有限交叉性、x ∈F[M]├ ¬x ∈ x∈ / M ├ ¬x ∈M ├ 1=¬x ∨x ∈M ∪{x} 補題 1. Boole 代数 B に於ける次の同値関係は、∨ と ∧ を保存する: x ~I y ≡ (x ∧¬y )∨(¬x ∧y ) ∈I (1.2) 従って商集合 B / I も Boole 代数、準同型写像 f : B → B / I は I を核とする: f : x → { (x ∧¬y )∨(¬x ∧y ) : y ∈I } I =f ―1 (0) (1.3) 証明) ~I が反射、対称律を満たすことは明らか。 x ~I y 、y ~I z とすると、任意の w について (x ∧¬z)∨(¬x ∧z )=(x ∧(y ∨¬y )∧¬z)∨(¬x ∧(y ∨¬y )∧z )= (x ∧y ∧¬z)∨(x ∧¬y ∧¬z )∨(¬x ∧y ∧z)∨(¬x ∧¬y ∧z )≦(y ∧¬z)∨(¬y ∧z )∨(x ∧¬y)∨(¬x ∧y )∈I ((x ∧w )∧¬(y ∧w ))∨(¬(x ∧w )∧(y ∧w ))=(x ∧w ∧¬y)∨(¬x ∧y ∧w )≦(x ∧¬y )∨(¬x ∧y )∈I ((x ∨w )∧¬(y ∨w ))∨(¬(x ∨w )∧(y ∨w ))=(x ∧¬y ∧¬w )∨(¬x ∧¬w ∧y)≦(x ∧¬y )∨(¬x ∧y )∈I 証明了) 定義 2. 次の条件を満たす I を「素 Ideal」 、主 Ideal ¯x が素であるような x を 「素(Prime)元」と言う: I ≠1 、 且つ x ∧y ∈I ならば x ∈I または y ∈I (1.4) 双対的に「素 Filter」と「原子(Atom) 」が定義される。 補題 2. M ⊂L が素 Ideal(素 Filter)⇔ L -M が Filter(Ideal) 系)任意の準同型写像 f : L → {0, 1} の核 f ― 1 (0) は素 Ideal、双対核 f ― 1 (1) は素 Filter である 。 逆に任意の素 Ideal(素 Filter)は、準同型写像の核(双対核)と して表わされる。 補題 3. 分配束の Ideal I(Filter F )が極大ならば素 証明) x ∧y ∈I 且つ x ∈ / I とすると、I が極大だから、或る x ´∈I について x ∨x ´=1、従って y =y ∧(x ∨x ´)=(y ∧x)∨(y ∧x ´)∈I 証明了) 定理 0.(素 Ideal 定理) 分配束の互いに疎な Ideal I と Filter F について、F と 疎な素 Ideal J ⊃I が存在する。 証明) I が素でなく x, y ∈ / I x ∧y ∈I とすると、∀a, b ∈I ((a ∨x )∧(b ∨y ))∈I だから、a ∨x と b ∨y の 何れか、例えば a ∨x は F に属さず、従って I [I ∪{x }]∩F =f 。 そこで {A⊂ / I : I [I ∪A]∩F =f } の極大元を M とすると、I [I ∪M ] が素でなければ、今証明した通り、M を更に拡大できる。 証明了) 系)I が真ならば、それを含む極大 Ideal が存在する。 4 補題 4. Boole 代数 B に於いては、Ideal I ⊂ B と x , y ∈B について [0] x が原子 ⇔ x ≠0 、且つ y ≦x ならば y = 0 または y =x [1] x が原子 ⇔ ¬x が素 また x が原子 ⇒ B - x =¯¬x [2] I が素ならば極大 証明) [0] x ≦y ∨¬y ∈x 従って、x が原子ならば x ≦y または x ≦¬y 。 y ≦x を併せると、前者ならば y =x 、後者ならば y =y ∧¬y =0 。 逆は x ∧y ≦x =(x ∧y )∨(x ∧¬y ) 従って x ∧y =0 または x ∧y =x /I ならば x ≦¬y または x ≦y 、従って x は極大、従って素。 [1] は定義より明らか。 [2] I が素ならば、x ∈ と x ∧¬x ∈I を併せて ¬x ∈I 、従って極大。 証明了) 2. Boole 代数の表現定理 [0] 任意の集合 B について、2B の弱位相は次の性質を持つ: [0.0] T2 分離公理を満たす(Hausdorff 空間である) 、 [0.1] compact である(0.1[5.4.0]項) 、 [0.2]((0.6) 式の形の)閉開集合から成る開集合基が存在する。 定義 3. 上の性質を持つ位相空間を「Stone 空間」と言う。 [1] Stone 空間 X の閉部分空間は Stone 空間である。 任意の x ∈X について {x } =∩x ∈U ∈COX U 。 F ⊂2X が COX の極大 Filter ⇔ ∃!x (F =COX ∩{x }) 。 [2] Boole 代数 B から {0, 1} への準同型写像(B の極大 Filter)の全体 X は X = {x ∈2B : ∀a , b ∈B (xa ∧xb =xa ∧b 、x ¬a =¬xa )} (2.0) と表わされるので、閉集合、従って Stone 空間である。 これを spec(B ) と記す。 [3] 写像 j : B → COX 、 j (b ) =X ∩xb ―1(1) は同型写像である。 [3.0] (2.0) 式より xa ∧b ―1(1)=xa ―1(1)∩xb ―1(1)、 x ¬b ―1(1)=¬xb ―1(1)(=xb ―1(0)) 従って j は準同型。 [3.1] a ≠b ならば、例えば a ∧¬b ≠0 従って j (a ∧¬b)⊂j (a)∩¬j (b) 従って j (a)≠j (b) 。 B X 2B [3.2] Ua0, •••, am; b0, •••, bn =∧xaj (0)∧xbk (1)=x¬aj ∧bk (1) だから ―1 ―1 ―1 j (B) は開集合基を成す。 また X は Stone 空間だから、任意の 閉開集合 Y ⊂X は有限個の U 従って j (b) によって覆われる。 [4] 双対的に Stone 空間 X 、B =COX について 写像 y : X → spec(B ) 、 y (x ) ={x } は同相。 [4.0] [1] より y は明らかに全単射。 また [3] を併せて [4.1] j (b)={A : b ∈A ∈ spec(B )} ={y (x) : x ∈b}=y (b) A =y (x) ∃x ∈b ({x }=∩A) 従って、 [4.2] b 、j (b)、y (b) が全て開であることに鑑み、y は同相。 5 x j b 図 2. 同型写像 j : B → COX x b X y Spec(B ) 図3. 同相写像 y : X → spec(B ) [5] 上記は、Lindenbaum 代数の場合の 0.1[5.4] の一般化である。 実際、 同型写像 a : LB →Va : CO 2P ((0.7) 式)と を結合すれば、[3] の j を得る。 埋め込み CO 2P → CO 2LB 3. Frame、Scott 位相、及び Bit 列 3.0 Frame と Sober な空間: OX は次の性質を持つ。 [0] 完備、且つ分配律が成り立つ: ∀a ∈OX , S ⊂OX (a ∧∨S =∨s ∈S {a ∧s }) (3.0) 定義 4. このような性質を持つ束を‘Frame’ 、また Frame の間の束としての準 同型写像が任意の ∨ を保つ時、 「Frame 準同型」 (略して単に準同型)と言う。 [1] 完備な Heyting 代数に於いては、0.1[4.0] と同様に、無限の分配律が成立し、 従って Frame である。 逆も真(任意の a 、b 、c について g (a )≡∨{s : s ∧c ≦a} とすればよい)。 [2] Frame から {0, 1} への準同型 p の核 p ― 1(0) は、素 Ideal(=¯∨p ― 1(0))で ある(補題2 系、及び p (∨p ―1(0))=∨p (p ―1(0))=0 より)。 逆に素 Ideal ¯c は、或る準同型 p の核 p ―1(0) として表わされる。 そこで p と ∨p ―1(0) を同一視する。 [3] 開核 (X - {x }) O は OX の素元である。 特に T1 分離公理を満たすならば、一点 集合 {x } は閉だから X - {x } 、これとの類比で、準同型 p を‘Point’と言う。 補集合 ↑{x} は原子的ではないが、素である。 ↓(X - {x, y}) は素でなく、補集合 ↑{y} ∪↑{x} は Filter でない。 補題 5. 完備 Boole 代数 B 、原子の集合 at(B ) について、以下が成り立つ。 、 [0] ∀a ∈at(B ), S ⊂B (a ≦∨S ⇒∃s ∈S (a ≦s )) (a は「完全素」Filter) [1] 特に S =B - a として ∨(B - a ) ∈B - a 即ち = ¯∨(B - a ) 上記 [2](逆)と併せて ∃!p (p ―1(0) = ¯∨(B - a )) 、 [2] 同じく [2](順)により、写像 p : at(B ) → pt(B )、p (a ) =p は全射でもある。 p ―1(0)=¯∨p ―1(0)=¯¬a a は原子、補題4[1] と [1] より ¯¬a =B - a =¯∨(B - a) [4] Frame R と位相空間 X の間には、2 節と類似の、以下のような双対性が有る。 [4.0] 写像 j : R → O (pt(R )) j (r ) = {p : p (r ) =1} = {(R - ¯pe , ¯pe ): r ≦ / pe } j は Frame として準同型、且つ全射(R の∨完備性と p の準同型性による)。 y : X → pt(OX ) y (x ) = (OX ∩{x }, ¯(X - {x })O ) X が T0 ⇔ y が単射 X が T2 ⇒ y が全射 (定義より明らか) y が全単射 ⇒ 同相 [4.1] j : OX → O (pt(OX )) j (U ) =pt(OX ) ―1(1)∩{U } ⊃y (U ) y ―1(j (U )) ⊂U 従って y は連続 j は OX に於いて単射(∀xÎU -V (y (x )Îj (U ) - j (V ))、従って O (pt(OX )) への同型。 j (U ) ⊃y (U): 明らか。 y ―1(j (U)) ⊂U: x ∈ / U →U ∈ / y (x ) →y (x ) ∈ / j (U ) 6 y が全射ならば j (U ) =y (U) y : pt(R ) → pt(O (pt(R ))) y (pe) = ¯( pt(R ) - {pe })O =O (pt(R )) - {pe } =¯{pe ´ : pe ≦ / pe ´} =j (pe) pt(R ) は T0 、従って前項よりy は pt(R ) に於いて単射、また全射でもある。 pe ≦ / pe ´ ⇒ pe ´∈ / {pe} 従って y は単射。 r ´=∨¯j ―1(j (r )) として j (r ´)=j (r )、これが素ならば s ∧t ≦r ´ に ついて j (s)≦j (r) または j (t)≦j (r) 即ち s ≦r ´ または t ≦r ´、即ち r ´ は素。 y (r ´)=¯j (r) だから y は全射。 pt(R ) •••••••pe ••••••• ≦ ••••••••••••••• r r´ s≦ t •••••••••••• s ∧t •••••••••••• ••••••••••••••••••••••••• 図 4. 準同型写像 j : R → O (pt(R )) 図 5. 連続全単射 y : pt(R ) → pt(O (pt(R ))) 定義 5. pt(R ) のように、y が同相であるような空間を、 ‘Sober’であると言う。 3.1 Scott 位相と Bit 列 [0] Bit 列の全体を X 、有限列の全体を X f 、X ∞ =X -X f とする。 x ∈X f が y の 切片、即ち y0 =x0 、•••、yn =xn (x の最終項)である時 x ≦y と定めると、 X は順序集合となる。 従って [0.0] S が有向部分集合 ⇔ ≦ が S に於いて全順序 [0.0]´ 全ての有向部分集合が ∨(有向結合)を持つ(X の有向完備性) 。 [0.1] {x : x ∈X f } を開集合基とする位相を定めると [0.1]´ U ⊂X が開集合 ⇔ U は上方に閉、且つ ∀S : 有向(∨S ∈U ⇒ S ∩U ≠f ) Þ: 明らか。 Ü: u ∈U とすると ¯u ∩X f は有向、且つ u =∨¯u ∩X f だから (¯u ∩X f )∩U ≠f 、その 最小列を x とすると x ⊂U 従って U =∪x 。 定義 6. 有向完備な X の、[0.1]´ によって定義される位相を Scott 位相と言う。 補題 6. 有向完備な X の Scott 位相について x ≦y ⇔ ∀U ∋x (y ∈U ) / y ならば、開集合 U ={z : z ≦ / y} について x ∈U 、 y ∈ /U 。 Þ: U の上方閉性から明らか。 Ü: x ≦ 系)Scott 位相は T0 である。 従って 3.0[4.0] により y : X → pt(OX ) は単射。 [1] Bit 列の Scott 位相空間 X は次の性質を持つ: [1.0] 開集合 x は全て compact 。 x, y ∈Xf x (≦|≦/ ∧≧ / )y Þ x ∩y =y |f [1.1] X は sober である。 p ∈ pt(OX ) に対して s, t ∈S ={s : p (s )=1} ならば p (s ∩t )=1 だから s ≦t または t ≦s 、従って S は有向、且つ ∨S ∈s ⇔ s ∈S 即ち p =y (∨S ) 従ってy は全射。 補題 7. 有向完備な X 、Y と写像 f : X →Y について f が Scott 位相について連続 ⇔ f が有向性と有向結合を保つ 7 / ∨f (S )} とすると 証明) Þ: 先ず補題6 によって、f は順序、従って有向性を保つ。 S ⊂X を有向、U ={z : z ≦ f (∨S )∈U ならば、∨S ∈f ―1 (U ) 従って ∃s ∈S (f (s )≦/ ∨f (S ))(矛盾) Ü: Scott 開集合の定義から明らか。 証明了) 3.2 Ideal の集合 Idl(L ) [0] 任意の順序集合 L について、L の Ideal の全体 Idl(L ) は、PL の部分順序 集合として有向完備である。 ∨S =∪S [1] L から有向完備な Y への任意の準同型写像 g は L ∋a ¯a ∈ Idl(L ) Scott 連続な f : Idl(L ) → Y に一意的に拡張され f g (a ) =f (¯a ) f (I ) =f (∨{¯a : a ∈I })=∨g (I ) ∨g (¯a ) f が有向性を保つことと f (∨S ) ≧ ∨f (S ) は明らか。 逆に f (∨S ) =f (∪S ) = ∨g (∪S) ≦ ∨f (S ) 図6. 準同型写像の拡張 [2] L が ∧ 半束ならば [2.0] Idl(L ) も ∧ 半束、∧≡∩、且つ I ∧∨S =∨{ I ∧J : J ∈S }(有向分配律) [2.1] Y が有向分配律を満たし、g が ∧ を保てば、f も ∧ を保つ。 [3] L が ∨ 半束ならば [3.0] Idl(L ) も ∨ 完備半束(従って完備束) I ∨J =∪{¯(a ∨b ) : a ∈I , b ∈J } 任意の S ⊂ Idl(L ) について、S の有限部分集合の ∨ の全体 T は有向、∨S =∨T [3.1] Y が ∨ 半束、g が ∨ を保てば、f も ∨ を保つ。 [4] L が分配束ならば [4.0] Idl(L ) は Frame [3.0] の証明より I ∧∨S =I ∩∪T =∪(I ∩T ) =∪(I ∧T ) =∨(I ∧S ) [4.1] 更に Y が Frame、g が束準同型ならば、f は Frame 準同型 f (∨S ) =f (∪T ) =∨g (∪T ) = ∨∪g (T ) ≦ ∨∪∨g (S ) [4.2] P が Idl(L ) の素元 ⇔ P が L の素 Ideal 「素」の定義より明らか。 [4.3] 写像 j : Idl(L ) → O (pt(Idl(L ))) は単射、3.0[4.0] と併せて Frame 同型。 I, J ∈Idl(L ) a ∈I - J として、定理0 を J と ↑a に適用せよ。 定義 7. 有向完備な X の元 x が ∀有向 S ⊂X (x ≦∨S → ∃s ∈S (x ≦s )) である 時、 ‘compact’であると言う。 Compact な元全体の集合を K (X ) と記す。 [5] x が compact ⇔ ↑x は Scott 開集合 [6] Bit 列の空間に於いて compact ⇔ 有限列 [7] 完備束 L の元 a が compact であることは、次の何れとも同値である: [7.0] ∀S ⊂L (a ≦∨S → ∃有限 F ⊂S (a ≦∨F )) S の代わりに ∨F の集合を取れ。 [7.1] ∀I ∈Idl(L )(a ≦∨I → a ∈I ) 任意の S について、I =↓S とせよ。 8 [8] OX に於いて compact ⇔ X に於いて開、且つ compact ([7.0] により) [9] R ≡ Idl(L ) に於いて compact ⇔ L に於ける主 Ideal I が compact ならば、S =↓I として I ⊂∨S 従って ∃a(I ⊂↓a ∈S ) 従って ∨I ≦a ∈I [9.0] 特に L が分配束ならば、K (R ) は、写像 a → ¯a によって L と同型となる。 : ↓a ∨∧↓b =↓(a ∨∧b ) に注意。 また次の性質を持つ([4.0]、[9]) [9.1] R は Frame、K (R ) は R の部分束、∀r ∈R ∃S ⊂K (R )(r =∨S ) 。 [9.2] j (¯L ) は O (pt(R )) の compact な開集合基を成す([4.3]、[9]) 定義 8. [9.1] の性質を持つ Frame を‘coherent’であると言う。 Coherent な R の compact 元 k は ∨¯ k =k を 満たすから、図 6 の可換関係は右のようになる。 更に h : r ∈R → ¯r ∩K (R ) ∈Idl(K (R )) とすると h •∨=1 、∨•h =1 。 ↓ K (R ) = Idl(K (R )) h ∨ R 図7. Idl(K (R )) @R [10] R が coherent ならば、Idl(K (R )) は R と同型。 定義 9. Sober で OX が coherent な X を coherent な空間であると言う。 [11] Bit 列の空間 X について、OX は coherent 。 3.1[1.0] 及び [8] により。 従って 3.1[1.1] と併せて X は coherent である。 3.3 分配束の Spectrum Boole 代数や Frame と同様に(2[3]、3[4.0]) 、 分配束 L から {0, 1} への準同型写像、即ち L の 素 Ideal の全体 spec(L )、写像 j : L → P (spec(L )) と、{j (a )} を開集合基とする位相を定める: j (a ) = {P : P (a ) =1} = {P : a ∈/ P } (3.1) spce(L )∋P ⊃{P : a ∈ / P} ↓ 同相 j ¯P ∈pt(Idl(L )) {¯P : ¯a ∈ / ¯P }⊂ j L∋a 同型 同型 ¯a∈K (Idl(L )) 図8. L @K (O (spec(L )) p ―1(0) 定理 1. 分配束 L と Frame Idl(L ) について、以下が成り立つ: [0] spec(L ) と pt(Idl(L )) は P « ¯P によって1対1に対応し(前節 [4.2])、同相 (j (L ) は定義によって前者の、対応する j (¯L ) は同 [9.2]によって後者の開集合基を与える) 。 特に R を coherent、L を K (R ) とすれば、前節 [10] と併せて pt(R ) @ spec(K (R )) 。 [1] j : L → O (spec(L )) によって L @ K (O (spec(L )) 前節 [4.3]、[9.0] と [0](図8)より。 [2] 位相空間 X が coherent ⇔ ∃L : 分配束(X = spec(L )) L を K (OX) とし、[0] より。 [3] spec(L ) が T2 ⇔ L が Boole 代数 Ü: x(b)=1、y(b)=0 とすると x ∈j (b)、y ∈j (¬b) 。 Þ: spec(L ) は 2[2] と同様に閉、従って compact、従ってその閉部分集合は compact、T2 ならば逆に compact な部分集合は閉、[1] と併せて L @K(O(spec(L ))=CO(spec(L )) 。 9 4. 量子論理 4.0 Ortho-modular 束 [0] 線型部分空間の成す束 LE n(0.1 [6] 項)は次の性質を持つ: [0.0] 直交補空間を補元 (0.2) とし a ∨¬a ≡ 1 a ∧¬a = 0 a ≦b Þ ¬a ≧ ¬b ¬¬a =a (4.0) [0.1] 分配律より弱い a ≦b Þ a =b ∧(a ∨¬b ) 及び b =a ∨(b ∧¬a ) (4.1) が成り立つ。 このような束を「Ortho-modular 束」と言う。 (4.0) の後二式は、Boole 代数に於いては証明されるが、証明に要する分配律が Ortho-modular 束では成り立た ないので、公理として要請されるのである。 また (4.1) は、その何れの一方から他方が導かれる。 先ず ¬a , ¬b ≦ ¬a ∨ ¬b ├ a , b ≧ ¬(¬a ∨ ¬b ) ├ ¬(a ∧b ) ≦ ¬a ∨ ¬b ├ ¬(a ∧∨b ) = ¬a ∨∧ ¬b 次に例えば a ≦b Þ a =b ∧(a ∨¬b ) ├ ¬b = ¬a ∧(¬b ∨a ) ├ b =a ∨(b ∧¬a ) 4.1 Hilbert 空間論からの準備 4.2 量子力学からの準備(復習) (14. 3.20) 10
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