内部熱交換型蒸留塔の挙動

内部熱交換型蒸留塔の挙動
(東理大・工) (正)大江 修造*
3. 内部熱交換型蒸留塔の挙動 HIDiC における内部
還流量(dre, drs)の影響を検討し従来法と比較した。
検討したのはベンゼン+トルエン系であり、回収部お
よび濃縮部の操作圧は 1.013kPa および 2.026kPa とした。
原料供給量は 100kmol/h、ベンゼンの原料組成を 50 モ
ル%とし、塔頂および塔底組成をそれぞれ 98 および 2
モル%とした。Fig. 2 に dre= drs=0.340 の場合を示す。
1.00
Enriching Sec.: 2.026kPa
0.80
0.60
Y
1. 緒 言 蒸留操作は云うまでも無く塔底で加熱し
塔頂で冷却を行うため,加熱に用いるエネルギーを塔
頂で無駄に捨てている.エネルギーを有効に活用する
蒸留塔の一つに内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)がある.
化学工業で分離精製に使うエネルギーの 90%は蒸留
分野で消費されているといわれ,このエネルギー消費
量の削減が強く望まれている.HIDiC は国家プロジェ
クトにより研究開発されてきたが,実証プラントでは
60%の省エネ効果があったと報告されている.
HIDiC の挙動を検討したので報告したい。
2. 内部熱交換型蒸留塔の理論 HIDiC の原理を Fig. 1
に示す1).HIDiC では(1)回収部からの蒸気を直接
濃縮部に送らずに加圧昇温した上で送る.(2)濃縮
部各段の蒸気は回収部各段と熱交換させる.(3)濃
縮部は回収部より高圧となっているので,液は減圧し
た上で送る.これにより,濃縮部を上昇する蒸気は上
段に近づくほど減少する.濃縮部から回収部への熱移
動を工業的に実現可能な構造にし,かつ濃縮部塔頂に
おける外部還流を不要とした.
zF=0.5, q=0.5
dre=0.340
yp=0.98, xw=0.02
0.40
0.20
Stripping Sec.:1.1013kPa
0.00
0.00
0.20
0.40
0.60
0.80
1.00
X
Fig. 2 HIDiC における理論段数計算の結果数値例
Fig.1 内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)の原理1)
濃縮部操作線の式
ye ( i +1) =
yp
idre
xei +
1 + idre
1 + idre
rei = i × dre
回収部操作線の式
1 + (n − j + 1)drs
xw
y sj =
xs ( j −1) −
(n − j + 1)drs
(n − j + 1)drs
dre = Qk / λ / P,
rs j = (n − j + 1)drs
drs = Qk / λ / W
ここに,Qk は各段における内部伝熱量であり、これに
より濃縮部および回収部における内部還流量が決ま
る。Qk は各段で一定とする。
内部還流量(dre, drs)の影響を以下に示す。
内部還流量(kmol/h) 理論段数 還流比 最小還流比
(HIDiC)
(従来法)
0.182
28
1.183
(1.55)
0.255
22
1.276
(1.55)
0.340
20
1.53
(1.55)
各内部還流量において、HIDiC の還流比は従来法の最
小還流比以下となり、省エネルギーに優れた機能を発
揮できる可能性を示している。これは内部熱交換によ
り内部還流比を確保できることによっている。
4.結 言 HIDiC は従来の蒸留塔とは構造が大幅に異
なっている。設計,製作,運転の各段階で,理解と技
術の確立が必要である.そのためには本報告に示すよ
うな設計変数の影響を明らかにする必要があろう。今
後も HIDiC の省エネ効果を引き出すために主要な設計
変数の影響を明らかする必要がある.
引用文献
(1) 高松武一郎、中岩 勝、中西俊成、化学工学論
文集、第 22 巻、985-990 (1996), (2) 阿曽一正, PETROTECH, 23, 456,
2000 (3)中岩 勝,内部熱交換による省エネ蒸留技術開発,独立行
政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDOホームペー
ジ)http://www.nedo.go.jp/activities/portal/gaiyou/p02020.html
*) S. Ohe, Tel/Fax: 03-3267-3704 E-mail : [email protected]