糖 尿病 患者 のParieto-Occipital領 域脳 SPECT異 常 と母 系 - J

速 報
糖 尿 病 患 者 のParieto-Occipital領
SPECT異
鈴木
常 と母 系 遺 伝 と の 関 連
吉 彦*1畑
朝 比 奈 崇 介*1細
序
川
隆 志*2谷
山
松 雄*3島
田
朗*1
和 広*1渥
美
義 仁*1松
岡
健 平*1
9.0kg,HbAlc8.2±1.9%.治
文
わ れ わ れ は,3243変
(以 下MTと
異 を 有 す る ミ トコ ン ド リ ア
略 す)性 糖 尿 病 患 者 に脳SPECTで
頭 頂 後 頭 境 界(Parieto-Occipitalの
下POと
域脳
略 す)領
口血 糖 降 下 剤 群4名,イ
18名 だ っ た.母
意 味 か ら以
域 の123I-IMP集
名,経
積低下像が高
DNA異
療 は 食 事 療 法 群8
ンス リ ン療 法 群 が
親 が 糖 尿 病 で あ る 患 者 はMT-
常 を有 す る可 能 性 が あ る こ とか ら愁 訴 が
軽 度 で も検 査 した.陽 性 対 照 と して 末 梢 血 白血 球
率 に認 め る こ とを 報 告 し た1).同 様 の 異 常 が3271
内 に3243変
変 異 を もつMT性
い,そ の 遺 伝 子 検 査 法 は前 報 で 報 告 し た3,4).ま た
糖 尿 病 患 者 に あ る こ と も報 告
した2).も し こ の 異 常 が 他 のMT-DNA異
関 連 あ る な ら,3243変
DNA変
異 や3271変
常に も
異 以 外 のMT-
異 を有 す る患 者 に もPO領
脳SPECT検
異 を確 認 し た 糖 尿 病 患 者18名
査 法 は 各 対 象 に ヨ ー ド1mlの
与 を行 い,123HMP
域 集 積低 下 が
(Nippon
Ltd)111MBqを
の123I-IMP集
このSPECT所
期 画 像 を 用 い た.な
MT遺
伝 子 異 常 症 の 特 徴 で あ る母 系 遺 伝 性 と の
関 係 につ き検 討 した.
前投
Mediphysics,
Co
用 い 検 査 を 行 っ た. PO領
確 認 され る 可 能 性 が あ る。 こ の た め わ れ わ れ は,
見 を 一 般 糖 尿 病 患 者 で 調 査 し,
を用
積 低 下 の判 定 に は注 射30分
しだ).ま た,CTあ
域
後 の早
お検 査 の 詳 細 は前 報 に て解 説
る い はMRIでSPECT集
積低
下 部 に粗 大 病 変 を 認 め た 患 者 は対 象 か ら除 外 し
た.
対 象 と方 法
東 京 都 済 生 会 中央 病 院 に て,脳
卒 中発 作 の既 往
が な く神 経 学 的 局 所 徴 候 を有 さ な い が,頭
重 感 な ど を愁 訴 と し た 糖 尿 病 患 者30名
した 。男性14名,女
(mean±SD),糖
性16名.年
*1東 京 都 済 生 会 中央 病 院 内科(〒108東
*2北 里 大 学 医 学部 神 経 内科(〒228相
*3昭 和 大 学 医 学部 第 三 内科(〒142東
Key
母 が 糖 尿 病 で 母 系 遺 伝 を 有 し た 患 者 は17名(以
下 母 系 遺 伝 群 と略 す),母 親 が 糖 尿 病 で な く母 系 遺
齢58.2±13.1歳
長159±9cm,体
words:(1)脳SPECT画
果
を対 象 と
伝 を有 しな い 患 者 は13名
尿 病 が 発 病 した と考 え られ る年
齢 は44.0±14.3歳.身
結
痛,頭
重56.0±
だ っ た(以 下 非 母 系 遺 伝
群 と略 す).非 母 系 遺 伝 群 で は,脳SPECT上PO
領 域 集 積 低 下 を 示 した の は13名
中1名(7.7%)
京都 港 区三 田1-4-17)
模 原市 北 里1 M15-1)
京都 品川 区旗 の台1-5 -8)
像(2)ミ
ト コ ン ド リ ア 性 糖 尿 病(3)ミ
ト コ ン ド リ アDNA3243点
(4)母 系 遺 伝
受付 日:平 成9年2月28日
採 択 日:平 成9年5月8日
―417―
変異
糖 尿 病40巻7号(1997)
だ っ た.し
か し母 系 遺 伝 群 で は 同部 位 集 積 低 下 を
17名 中7名(41.2%)に
認 め 非 母 系 遺 伝 群 よ り頻
度 が 高 か っ た(p<0.05).3243変
病 患 者 で は18名
た.Fig.1に
異 を有 す る糖 尿
中17名(94.4%)に
示 す よ う にMT異
が 高 い 患 者 群 ほ ど,PO領
低 下 を認 め
常 を有 す る可 能 性
域 に123I-IMP集
積低下
を示 す 異 常 頻 度 が 高 率 に な る傾 向 を認 め た.
考
MT病
察
の 原 因 に 関 係 す るprimary
mutation
は,通 常 検 査 の測 定 感 度 以 下 の変 異 量 で も存 在 し
う る。 また,MT機
コ ー ドす る核DNA異
能 異 常 は,MT呼
吸鎖 酵素 を
常 の 関 与 も考 え ら れ る.さ
らに,糖 尿 病 患 者 で はMT-DNA異
常 を有 す る頻
度 が 高 い こ とが 知 られ て い る.そ の よ うな 潜 在 患
者 を含 め考 え る と,MT異
常 に 関係 す る糖 尿 病 人
口 は 従 来 考 え られ て い た よ り多 い はず だ が,MTDNA異
常 を検 知 す る解 析 法 の 問 題 な どか ら確 証
は得 られ て い な い.
こ う した 中,わ れ わ れ は3243変
異 を有 す る糖 尿
病 例 に て,特 徴 的 な脳SPECT像
IMP集
がPO領
域 の123I-
積 低 下 で あ る こ と を報 告 し た1).MELAS
(mitochondrial
parieto-occipital
encephalopathy,rnyopathy,
lactic acidosis and stroke-like episodes)症
PETに
cortical
area
例の
よ る成 績 か ら糖 代 謝 異 常 に 結 び つ く細 胞
内代 謝 障 害 を示 す場 所 がoccipital
cortexで
こ とが 関 連 す る の で は な い か,と
考 察 した1).
そ こで,も
Fig. 1 Comparison
of three
groups
between
diabetes with and without maternal
inheritance, and with mitochondrial
tRNA 3243
mutation,
for the incidence
of 123I-IMP
brain
SPECT
hypoaccumulation
in the
し,こ の 異 常 所 見 が 広 くMT呼
ある
る.未 だ 確 認 され て い な いMT機
能 異 常 が,そ れ
らの 患 者 の 糖 尿 病 発 病 に 関与 し て い るか も しれ な
い.
吸機
し か し本 調 査 は脳SPECTが
高 価 な検 査 で あ
能 低 下 を反 映 す る所 見 な ら ば,ま た 糖 尿 病 患 者 に
るた め,コ
MT異
た 可 能 性 も あ る.こ れ らの バ イ ア ス が 本 結 果 に ど
常 が 多 く潜 在 す る な らば,糖 尿 病 患 者 の遺
伝 的 背 景 を もつ 群 に てPO異
常 所見 が高率 に確認
ン プ ラ イ ア ンス の 高 い 患 者 が 優 先 され
う影 響 を 及 ぼ して い る か を知 る こ と は難 しい.し
さ れ る の で は な い か と仮 定 した 。 こ の仮 説 を立 証
か し明 らか な 神 経 愁 訴 を 有 し た 非 母 系 遺 伝 群 に
す るた め本 調 査 を施 行 した.そ
PO異
の 結 果,母
系遺伝
を もつ 糖 尿 病 群 に は,非 母 系 遺 伝 群 よ りPO異
所 見 を多 く認 め た.ま た,3243変
病 患 者 で は94.4%と
常
異 を有 す る糖 尿
高 率 だ っ た.こ の結 果 は,糖
尿 病 患 者 に お け るPO領
域123HMP集
積低下は
3243変 異 を持 つ糖 尿 病 患 者 の み な らず,母 系 遺 伝
常 率 が 低 く,逆 に,神 経 愁 訴 が 軽 度 な母 系遺
伝 群 や3243変
異 患 者 群 に 高 率 にPO異
た こ とは,神 経 愁 訴 とPO異
否 定 し,母 系 遺 伝 とPO異
常 を認 め
常 と の関 係 を む し ろ
常 との 関 係 を 強 く示 唆
す る証 拠 で は な い か,と 考 えた.
な お,PO異
常 はAlzheimer病
で 認 め や す く5),
を持 つ 患 者 と も関連 す る病 態 で あ る可 能 性 を示 唆
Alzheimer病
した.こ れ はMT-DNA異
常 も報 告 さ れ て い る6).こ の た め糖 尿 病 に 認 め る
常が確 認 されて いない
糖 尿 病 患 者 の 中 に も,な ん らか のMT機
能 異常 を
潜 在 的 に有 す る可 能 性 が あ る こ と を示 す傍 証 とな
―418―
PO異
に関 係 す る ミ トコ ン ド リアDNA異
常 と,Alzheimer病
で 認 め るPO異
類 似 の背 景 機 序 が あ る の か も し れ な い.し
常 とに
か しこ
糖 尿 病 患 者 のParieto-Occipital領
の2つ
域 脳SPECT異
の 病 気 は 合 併 し に く い とす る 報 告7)も あ
り,そ の 理 由 に は諸 説 が あ る8).こ う した 点 の 解 明
が,PO異
常 の 機 序 を知 る た め の 鍵 と な る か も し
れ な いが 今 後 の課 題 で あ る.
常 と母 系 遺 伝 との 関 連
3) Kadowaki H, Tobe K,Mori Y, Sakura H, Sakuta
R, Nonaka I, Hagura R, Yazaki Y, Akanuma Y,
Kadowaki T (1993) Mitochondrial gene mutation
and insulin-deficient
type of diabetes mellitus.
Lancet 341: 893-894
4) 谷 山松 雄, 鈴 木 吉 彦, 榎 本
結
論
MT異
常 と 脳SPECTで
集 積 低 下 は,3243変
に 高 率 に認 め,母
のPO領
異 を もつMT性
域123HMP
糖 尿 病 患 者 に お け る特 異 的PCR増
糖 尿 病 患者
系 遺 伝 を有 す る糖 尿 病 患 者 に認
め や す く,非 母 系遺 伝 群 で は低 率 で あ る こ とが 分
か っ た.こ
れ は,MT-DNA異
詳 ,佐 藤
温, 杉 田 江 里,
杉 田幸 二 郎, 渥 美 義仁, 松 岡健 平, 伴
常が見 つ かって い
な い 糖 尿 病 患 者 に も,な ん らか のMT機
能異 常が
潜 在 す る可 能 性 を 示 唆 し興 味 深 い 知 見 と考 えた.
文 献
1) Suzuki Y, Hata T, Miyaoka H, Atsumi Y, Kadowaki H, Taniyama M, Kadowaki T, Odawara M,
Tanaka
Y, Asahina T, Matsuoka
K (1996)
Diabetes mellitus with the 3243 mitochondrial
tRNALeu(UUR)mutation: Characteristic
neuroimaging findings. Diabetes Care 19: 739-743
2) Suzuki Y, Tsukuda K, Atumi Y, Goto Y, Hosowaka K, Asahina T, Nonaka I, Matuoka K, Oka Y
(1996) Clinical picture of a case of diabetes mellitus
with mitochondrial
tRNA mutation at position
3271. Diabetes Care 19: 1304-1305
―419―
ン ド リアDNA変
異 の検 出. 糖 尿 病38:
5) Brun A, Gustafson L (1976) Distribution
degeneration
in Alzheimer's disease:
pathological
15-33
study. Arch Psychiatr
良 雄(1995)
幅 法 に よ る ミ トコ
401-404
of cerebral
a clinico-
nervenkr223:
6) Lin FH, Lin R, Wisniewski HM, Hwang YW,
Grundke-Iqbal I, Healy-Louie G, Iqbal K (1992)
Detection of point mutations in codon 331 ofmitochondrial NADH dehydrogenase
subunit 2 in
Alzheimer's brains. Biochem Biophys Res Commun
182: 238-246
7) Nielson KA, Nolan JH, Berchtold NC, Sandman
CA, Mulnard RA, Cotman CW (1996) Apolipoprotein-E
genotyping
of diabetic
dementia
patients: Is Diabetes Rare in Alzheimer's Disease?
JAGS 44: 897-904
8) Halter JB (1996) Alzheimer's Disease and non-insulin-dependent diabetes mellitus: common features
do not make common bedfellows: JAGS 44:992993
糖 尿 病40巻7号(1997)
Abstract
Parieto-Occipital
SPECT
Associated
Yoshihiko
Hypoaccumulation
of 123I-IMP
in the
with Maternal
Inheritance
of Diabetes
Suzuki*1,
Kazuhiro
Takashi
Hata*2,
and
*1Saiseikai
*2Department
of Internal
the latent
Taniyama*3,
Yoshihito
Shimada*1,Takayuki
Kempei
Central
Hospital , Tokyo,
, Kitazato University,
of Internal Medicine
, Showa
effect of diabetes
Atsumi*1,
Asahina*1,
Matsuoka*1
Medicine
*3Third Department
To determine
Matsuo
Hosokawa*1,Akira
Brain
Mellitus
inheritance
Japan
Sagamihara,
University,
on central
Kanagawa,
Tokyo,
nervous
Japan
Japan
system,
thirty diabetic
patients were examined (14 male, 16 female). Seventeen patients had a mother with diabetes, and
the other thirteen had non-diabetic
mothers. They were previously determined
to not have the 3243
mitochondrial
tRNA mutation in peripheral leukocytes.
Patients were tested for parieto-occipital
hypoaccumulation
diabetes
Seven
whereas
mellitus
of brain
(41.2%) out of 17 subjects
one (7.7%)
teen (94.4%)
showed
of 123I-IMP
SPECT,
a characteristic
neurofinding
of mitochondrial
due to the 3243 tRNA mutation.
with maternal
out of 13 subjects
out of 18 patients
inheritance
with non-maternal
with diabetes
had the parieto-occipital
inheritance
due to mitochondrial
abnormality,
had the abnormality.
tRNA mutation
at position
Seven3243
the abnormality.
Our results
suggest
that the maternal
tion of 123I-IMP of brain SPECT.
inheritance
We speculate
might have subclinical
mitochondrial
ities, the mitochondrial
-occipital area .
DNA abnormality
of diabetes
that, because
dysfunction
is associated
the patients
due to unknown
with the hypoaccumulawith maternal
mitochondrial
might cause their subclinical
inheritance
DNA abnormal-
brain damage
in the parieto
J. Japan Diab. Soc. 40 (7): 417-420,
―420―
1997