第14章の補足資料

第 14 章の補足資料
物価指数の種類と特徴
テキスト 409 頁によると、日本の消費者物価指数(Consumer Price Index、CPI)は
 pQ
P
 pQ
i
*
i
i
i
i
i
(1)
と計算されている。この値は、
「ある年(たとえば 2013 年)に基準年(たとえば 2010
年)と同じ数量の商品やサービスを購入する場合、何倍のお金が必要になるか」を表
している。このように基準年の量をウェイトとした物価指数はラスパイレス指数と呼
ばれている。
テキスト 302 頁の GDP デフレーターも物価指数である。GDP デフレーターは名目
GDP を実質 GDP で割った値だから、
名目GDP  i pi Qi

実質GDP  i pi Qi*
*
P
*
(2)
である。この式は(1)式と対称的になっている。このように現在の数量をウェイトに用
いた物価指数をパーシェ指数と呼ぶ。
図表 1
物価指数のバイアス
物
価
ラスパイレス指数
真の生計費
パーシェ指数
時間
基準年
1
物価指数を生計費(生活費)の指標として利用する場合、(1)式にも(2)式にも欠点
がある。(1)式の分子では現在の価格に基準年の数量をかけているが、多くの人は価格
が上昇した財の購入量を減らし、価格が下落した財の購入量を増やすことによって生
活費を抑えようとするだろう。したがって(1)式では実質的な生計費の上昇率が過大評
価される。同じ理由で(2)式は実質的な生計費の上昇率が過小評価される。最近はこう
した問題を軽減する工夫を施した物価指数も公表されている。
インフレの社会的コスト
テキスト 410 頁では、商品やサービスによって価格が柔軟に動けるものとそうでな
いものがあるため、物価が上昇する過程で相対価格に歪みが出ると述べられている。
図表 2
50
物価上昇率と個別財の価格上昇率のばらつきの関係
(%)
40
下位から90%の品目
30
下位から50%の品目
20
下位から10%の品目
10
0
-10
1971
1976
1981
1986
1991
1996
2001
2006
2011
-20
(出所)総務省統計局「消費物価指数」。
図表 2 は、日本の消費者物価指数に含まれる個々の商品やサービスの価格上昇率の
ばらつきの推移を示したものである。この図によると、確かに第一次石油ショック後
のように平均的な物価上昇率が高い時期には、個別財の価格上昇率のばらつきが大き
くなっている。ただし物価上昇率が 5%程度以下に収まっている限り、それより物価
上昇率が下落しても個別品目の価格上昇率のばらつきはあまり小さくならないよう
である。また、平均的な物価上昇率がかなり高い時期でも、個々の商品やサービスの
中には価格が下落しているものが少なくない。
2
テキスト 408 頁と 412 頁では、インフレーションにはそれによって得をする人と損
をする人がいるため、反社会的な性質を持っていると述べられている。
図表 3
インフレーションによる「勝者」と「敗者」
勝者
敗者
家計(高齢層)
家計(勤労世代)
企業
政府
一般に、債務が多い経済主体ほどインフレから受ける便益が大きく、債権が多い経
済主体ほどインフレによる損失が大きくなる。ただし資産の中には名目値で償還額が
決まっているもの(銀行預金や債券など)がある一方、物価の変動とともにその価値
が変化するもの(不動産や株式)などがあり、インフレーションによって債務者と債
権者の間で損得が生じやすいのは前者のタイプの資産である。
今日の日本では政府の債務残高が突出して高く、しかもその大半が名目値で決まっ
ている債券である。インフレーションは政府の実質的な負債を減らす効果を持ち、デ
フレーションは政府の実質的な負債を増やす効果を持つ。政府がデフレを嫌う一つの
理由はそこにある。
失業
失業率は短期的には景気循環とともに推移するが、長期的には構造的要因(雇用側
の求める人材と求人側が求める職種のミスマッチ)によって変化する。日本の失業率
が高まっている理由の一つはこうした雇用のミスマッチの拡大である。雇用のミスマ
ッチによる失業をマクロ経済政策によって減らそうとすることは望ましくない。
日本ではもともと男女の雇用形態の格差が大きく、近年は男性の中にも不安定で条
件の悪い仕事に従事せざるをえない人が増加している。これは、多くの企業が過去に
雇い入れた高コストの正社員の雇用を守るために、定年退職者を必ずしも新規の正社
員によって補充せず、低コストの非正規従業者によって置き換えているからである。
また、すでに雇い入れた正社員を中途で整理することが難しいことは、大学等の新卒
者の雇用がそのときどきの景気状況によって大きく左右される結果を生んでいる。
3
図表 4
6
完全失業率と有効求人倍率の推移
(%)
2.0
完全失業率(左軸)
有効求人倍率(右軸)
5
1.5
4
3
1.0
2
0.5
1
0
1960
0.0
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
(注)完全失業率=求職者数÷(就業者数+求職者数)。有効求人倍率=求人者数÷求職者数。
(出所)厚生労働省「労働力調査」及び「職業安定業務統計」をもとに作成。
図表 5
12
(%)
年齢階層別の完全失業率の推移
15~24歳
25~34歳
10
35~44歳
45~54歳
8
55~64歳
65歳以上
6
4
2
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
(注)2014 年は 1~9 月の平均値。
(出所)厚生労働省「労働力調査」をもとに作成。
4
図表 6
雇用形態別の就業者数の推移(単位:100 万人)
(A1)正規・非正規(男性)
(A2)正規・非正規(女性)
35
35
30
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
5
非正規の職員・従業員
正規の職員・従業員
0
役員
0
1985
1990
1995
2000
2005
2010
1985
(B1)非正規形態別(男性)
15
1990
1995
2000
2005
2010
(B2)非正規形態別(女性)
契約社員・嘱託
15
派遣社員
パート・アルバイト
10
10
5
5
0
0
1985
1990
1995
2000
2005
2010
1985
1990
1995
2000
2005
2010
(注)2001 年までは各年 2 月時点の値。それ以降は年間の平均値(2013 年のみ 1~9 月の平
均値)。「契約社員・嘱託」は他に分類されない非正規の職員と従業員を含む。
(出所)総務省統計局「労働力調査」をもとに作成。
5
図表 7
8
景気循環と大学新卒者の就職率(年度ベース)
(%)
実質GDP成長率(実績)
(%)
90
実質GDP成長率(見通し)
6
80
就職率(右軸)
4
70
2
60
0
50
-21990
1993
1996
1999
2002
2005
2008
2011
-4
2014 40
30
(注)就職率は当該年度の四年制大学卒業者に占める就職者の比率。実質 GDP 成長率(実績)
は前年度の値。実質 GDP 成長率(見通し)は当年 1 月に実施されたアンケート調査における
当該年度の実質 GDP 成長率の予想値(回答企業の中位値)
。
(出所)内閣府「国民経済計算」、
「企業行動に関するアンケート調査」および文部科学省「学
校基本調査」をもとに作成。
図表 7 は、毎年度の景気の状況と大学新卒者の就職率の関係を示したものである。
たとえば 2013 年度の場合、就職率は 2013 年度末に卒業した大卒者の就職率、実質
GDP 成長率(実績)は 2012 年度の実績、実質 GDP 成長率(見通し)は 2013 年 1 月
時点の 2013 年度の成長率の見通しを表す。2013 年度の大卒者は 2012 年末ないし 2013
年初めから就職活動を行っていたはずである。
この図によると、実質 GDP 成長率(見通し)は実質 GDP 成長率(実績)と強く連
動しており、就職率は実質 GDP 成長率(見通し)と強く連動している。これらのこ
とは、企業が現在の景気にもとに目先の景気動向を予想し、それをもとに大卒者の採
用数を決定している、すなわち、きわめて近視眼的な採用を行っていることを示唆し
ている。いったん正社員ないし正規職員として採用すると定年まで解雇できないこと
を考えると、こうした採用が適切なものであるかどうかは疑問と言える。
6