Title 今そこにあるオープンアクセス:第8回 OA論文は新た な金山か

Title
Author(s)
今そこにあるオープンアクセス:第8回 OA論文は新た
な金山か?
栗山, 正光
Citation
月刊DRF, 56(9): 6-6
Issue Date
2014-09-01, 2014-9-1
URL
http://hdl.handle.net/10748/6524
DOI
Rights
この作品はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際
ライセンスの下に提供されています。
Type
Article
Textversion
author
http://www.tmu.ac.jp/
首都大学東京 機関リポジトリ
月刊 DRF 2014 年 9 月号 No.56 September, 2014 掲載
今そこにあるオープンアクセス
Clear and present Open Access
第 8 回 OA 論文は新たな金山か?
Is a set of OA articles a new gold mine?
例によって STI Updates やカレントアウェアネスで既報の出来事だが、STM(科学、技
術、医学分野の 120 以上の出版社が組織する国際的な協会)が公表したオープンアクセス
(OA)出版物の利用に関するモデル・ライセンスに対し反発が広がっている。8 月 7 日付で
PLOS (Public Library of Science)のウェブサイトに掲載された、このモデル・ライセンス
の撤回を求める文書には、バイオメド・セントラル、クリエイティブ・コモンズ(CC)、北米
研究図書館協会(ARL)、ヨーロッパ研究図書館協会 (LIBER)、国際図書館連盟(IFLA)など、
80 以上(当初の 58 から増えた)の OA 出版社や図書館関係団体、その他の機関が署名して
いる。
日本の OA 関係者にもなじみの深い SPARC(ただし SPARC Japan は入っていない)
や COAR(DRF もその一員)も参加している。
撤回を求める理由は、要するに、すでに広く使われ事実上の標準となっている CC ライセ
ンスと競合するということである。
「屋上屋を架す」ということわざがあるが、これまで CC
ライセンスの普及に努めてきた人々にとっては、まさにそんな気分かもしれない。
ただし、STM 側は 7 月 30 日付の文書で、STM ライセンスは CC ライセンスに取って代
わるものではなく、補完するものだとしている。その上で、CC ライセンスでは不十分な例
として、商業的な再利用とテキスト&データ・マイニング(TDM)を挙げている。実際、モデ
ル・ライセンスを見てみると、三つの単独で成立するライセンスのうち二つが商業利用不可
(うち一つは TDM 許可)
、一つが限定的な商業利用および TDM を認めるもので、二つの
補助的ライセンス(既存のライセンスに付加する形のもの)においては一つが商業利用不可
(TDM は許可)
、もう一つが限定的な商業利用および TDM を認めるものとなっている。
つまり、
CC ライセンスでは表現できない商業利用する場合の条件や TDM の権利の明記が、
これらのモデル・ライセンスの特徴だと言える。
しかし、この TDM への言及がまた、反発を呼んでいる。これには伏線がある。エルゼビ
ア社が今年初め、TDM に関する新しい方針を発表したのだが、これが LIBER などによる
撤回要求運動を引き起こした。7 月 1 日付エルゼビア社あて公開書簡では、研究者に登録と
ライセンスへの同意を強制するとか、指定の API を通してしかアクセスできないなどの点
について改善を申し入れている。これに対して 7 月 10 日付でエルゼビア社から回答がなさ
れているのは既報の通りである。このやり取りは購読雑誌論文について(つまり購読料を払
っている機関の研究者による TDM が対象)だったのだが、今回の STM ライセンスはゴー
ルド OA 論文が対象である。大手出版社の管理・規制強化に対する危機感が OA 推進派の
間に広がっても不思議はない。
「創造性のための著作権」(Copyright for Creativity (C4C))
というグループなどは、このあたりの懸念をはっきりと表明している。
ハイブリッド OA を含めてゴールド OA は出版費用を著者側が負担するのだから TDM
は認められて当然、と実は筆者も考えていたのだが、どうやら見通しが甘かったようである。
周知のとおり、マイニングとは採鉱という意味で、TDM は情報の山の中から金あるいは宝
石を掘り当てるイメージで語られている。インターネット上の大量の学術論文という金山
を目指してゴールドラッシュが起こりつつある、というのはそれほど的外れな比喩でもな
いだろう。その中でも成長しつつある OA 論文という新しい金山の管理をめぐって、ステー
クホルダーのせめぎ合いが始まっているのである。