糖鎖分析メソッド集 逆相スケールへの変換法 Ver. 20140710 Written by S. Natsuka 方法の概要 逆相 HPLC の溶出位置を標準化する方法。HPLC の溶出時間を比較すること で同定を行う場合、実験間でのばらつきを少なくすればそれだけ正確な解析が 可能になる。しかし、溶離液組成のわずかな違いやカラムの劣化など様々な要因 により溶出時間は変動する。そこで基準物質を用いた標準化が行われる。逆相 HPLC では 8 種の標準 N-結合型糖鎖(逆相スタンダード)を用いて PA 糖鎖の 標準化を行う。イソマルトオリゴ糖を用いて標準化する方法もあるが、逆相 HPLC では本方法の方が、かなり誤差は小さい。 この方法を使った時に引用すべき論文 1.逆相スケール法のオリジナル論文 Kanta Yanagida, Hideyuki Ogawa, Kaoru Omichi, Sumihiro Hase. Introduction of a new scale into reversed-phase high-performance liquid chromatography of pyridylamino sugar chains for structural assignment. J. Chromatogr. A, 800 (1998) 187-198. 2.標準糖鎖の調製法と新しい逆相 HPLC の溶出条件が書かれている論文 Shunji Natsuka, Mayumi Masuda, Wataru Sumiyoshi, Shin-ichi Nakakita. Improved method for drawing of a glycan map, and the first page of Glycan Atlas, which is a compilation of glycan maps for a whole organism. Plos One, 9 (7) e102219 (2014). 8 種の標準 PA 糖鎖の調製 各単品は市販品(タカラバイオや和光純薬)もあるが、非常に高価なので 我々は以下の方法で調製している。8 種の標識糖鎖混合物が比較的安価で市販 されることが望まれる。 GlcNAc-PA と GlcNAcβ1-4GlcNAc-PA 市販の GlcNAc と N,N’-diacetylchitobiose(和光純薬)をピリジルアミノ化 することにより調製する。 Fucα1-6GlcNAc-PA と GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc-PA 市販の Fucα1-6GlcNAc と GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc(共に東京化成で合 成)をピリジルアミノ化することにより調製する。 M3B と M3BF6(PA 化糖鎖の略号は糖鎖マップデータベースの項を参照) M3B はニホンウズラのオボムコイドからヒドラジン分解と PA 化により調製 する。オボムコイドの調製法は当該プロトコルを参照。M3BF6 はスルメイカ の表皮からヒドラジン分解と PA 化により調製する。参考文献は、 Shunji Natsuka, Miwa Ishida, Akira Ichikawa, Koji Ikura, Sumihiro Hase. Comparative biochemical study of N-linked glycans prepared from skin of a squid, Todarodes pacificus. J. Biochem., 140 (1) 87-93 (2006). BIBS と BIBSF6 それぞれ市販のウシ γ-globulin(シグマ)からヒドラジン分解と PA 化により 調製する。 逆相 HPLC での分離 分離条件は「HPLC 条件」を参照。 逆相スタンダードの逆相 HPLC 標準線の作成と逆相スケール値の算出 1. 逆相スタンダードを逆相 HPLC で展開する。 2. Excel ワークシートを用いて、逆相スケール値を求める。 備考:逆相スケール値を求めるための Excel ワークシートが HP からダウンロ ード可能である。 参考:逆相スケール値への変換 1. 逆相スタンダード GN, GNF6, GN2, GN2F6, M3B, M3BF6, BIBS, BIBSF6 の 溶出時間(E)をそれぞれ E1, E2, E3, E4, E5, E6, E7, E8 それぞれの逆相スケール値(R)を R1, R2, R3, R4, R5, R6, R7, R8 とおく。 R8 P R値 R7 R6 P R5 R4 R3 R2 P P R1 E1E2E3 E4 E5 E6 E7 E8 溶出時間 R 値変換の模式図 2. 横軸に E、縦軸に R をとり、各点を直線で結ぶ。このとき、 0~E1~E2 区間の傾きを a E3~E4 区間の傾きを b E5~E6 区間の傾きを c E7~E8~区間の傾きを d とおき、 a∙(E2-E1) = b∙(E4-E3) = c∙(E6-E5) = d∙(E8-E7) = P が成立つとする。つまりコアフコースの部分溶出時間 P が 4 組の PA 糖鎖の 間で等しいとおく。 3. さらに、 E2~E3 区間の傾きを 1/2(a+b) E4~E5 区間の傾きを 1/2(b+c) E6~E7 区間の傾きを 1/2(c+d) とする。つまり間の区間の傾きは前後の平均値とする。 4. また、E=0 の時 R=0 と定める。 5. E が 0~E2 の時:R = P∙E/(E2-E1) E2~E3 の時:R = R2 + (E-E2)∙1/2∙P{1/(E2-E1)+1/(E4-E3)} E3~E4 の時:R = R3 + P∙(E-E3)/(E4-E3) E4~E5 の時:R = R4 + (E-E4)∙1/2∙P{1/(E4-E3)+1/(E6-E5)} E5~E6 の時:R = R5 + P∙(E-E5)/(E6-E5) E6~E7 の時:R = R6 + (E-E6)∙1/2∙P{1/(E6-E5)+1/(E8-E7)} E7~の時:R = R7 + P∙(E-E7)/(E8-E7) 6. さらに、R8 = 80 とすると、 R1 = P∙E1/(E2-E1) R2-R1 = P R3-R2 = 1/2∙P∙(E3-E2){1/(E2-E1)+1/(E4-E3)} R4-R3 = P R5-R4 = 1/2∙P∙(E5-E4){1/( E4-E3)+1/(E6-E5)} R6-R5 = P R7-R6 = 1/2∙P∙(E7-E6){1/( E6-E5)+1/(E8-E7)} R8-R7 = P 以上の右辺の和が 80 となることから、P を求めることができ、5 の式に順次 代入することにより、任意の溶出時間 E に対する R 値が求まる。
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