肺塞栓症についてたっぷり5分間

肺塞栓症についてたっぷり5分間
サミュエル・Z・ゴールドハーバー、医師(Samuel Z Goldhaber, MD):
こんにちは、私はハーバードメディカルスクール内科教授と静脈血栓塞栓症研究室室長をしておりますサム・ゴールド
ハーバーです。「肺栓塞症についてたっぷり5分間」プログラムへようこそ。
本日、スペイン、バルセロナにて欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて私の友人であり同僚の、ドイツ、マインツ大学で
血栓症と止血のためのセンター、メディカルディレクターをしておられるスタブロス・コンスタンティニデスさんに参
加していただきました。スタブロスさん、ようこそお越しくださいました。
スタブロス・V・コンスタンティニデス、医師、医学博士(Stavros V Konstantinides, MD, PhD):
サムさん、ありがとうございます。おはようございます。
ゴールドハーバー医師:このプログラムの目的は新規抗凝固薬(NOAC)出現以降のPE治療の変化について話し合うこ
とです。
スタブロスさん、あなたはESCガイドラインのPEの改訂を統括するというとても重要な仕事をしていました[1]。まず
NOACについて、そしてPE治療におけるNOACの可能な使用法について説明することから始めて、その後ここESCで刊行
された新規ガイドラインについての箇条書きいくつかを説明してくださいませんか?
www.medscape.org/viewarticle/832763
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コンスタンティニデス博士:過去2年間、私たちはPE診断および管理についての新規ESCガイドラインを準備してきま
した。ガイドラインはなんと数分前にオンラインにアップロードされました。新規ガイドラインの主な点をまとめます
と、2008年版と比べ、明らかに大部分のガイドラインの新しい部分では、リスクに応じたPE治療についてで、これはも
ちろん抗凝固薬についてです。
すべての新規経口NOACに対する証拠について考慮しました。これらの薬はリバロキサバン、アピキサバンおよびエドキ
サバンでこれらに対して只今承認審査が行われています。
PEの急性治療において、タスクフォースはNOACをビタミンK拮抗薬(VKA)を用いた標準的療法の代替として使用し、
その後低分子量ヘパリンさらにVKAと投与を続けることを推奨しました。
ゴールドハーバー医師:代替という言葉は委員会的用語に思えます。第一戦でPE治療を行っている私達は何をすれば良
いでしょうか?
コンスタンティニデス博士:私たちが、お察しの通りガイドラインの多くのレビュアーと共に、非常に広範囲に話し合
ったことは、静脈血栓塞栓症(VET)臨床試験から良い証拠があるという事実についてです。第1選択療法として推奨す
るには十分な臨床経験はありません。しかしこれは明確にに1番であり、その次に標準的治療があります。
ゴールドハーバー医師:この時点では、複数の個別の極めて重要な臨床試験およびメタ解析から、NOACを比較した場合
従来の標準法とされるワルファリンのつなぎのためのLMWHよりも、VETを療法する際のNOACに明白に優れた安全性は
ありますよね?
www.medscape.org/viewarticle/832763
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コンスタンティニデス博士:実際に、有効性において非劣性です。例えば適応症とされる心房細動で認められたような
優越性はありませんでしたが、少なくとも標準療法よりは良いと知られています。実際に、これらの薬の大部分では有
効性および大出血に関して優越性の継続したサインが見られます。これは私たちにこれらの各薬を1Bに適用させた明確
な指標です。
www.medscape.org/viewarticle/832763
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ゴールドハーバー医師:1Bの意味を説明してください。
コンスタンティニデス博士:1Bとはこれらの薬を私たちが推奨していることを意味します。私たちは、長年使用されて
きた標準的なレジメンを使うべきではないとは言っていません。それが無事に使用された場合は構いません。しかし、
今私達にはこれらの新薬の使用を推薦する明確な代替の選択肢があります。これらの各薬剤には別々の推奨がありま
す。私たちはこれを随分話し合いました、そして各薬には、これらの薬の使用の有効性、特に安全性を裏付ける主要な
第3相試験(これは証拠レベルBです)がありました。
明らかにこれらの薬は普及しつつあります。これらは今PEを治療するための、より長期的な長期療法のための方法とし
て定着しています。これは革新でもあります。PEの後の1回目の抗凝固薬の標準投与期間後(つまりは3~6か月後)は
長期的なVKA療法のみがありました、しかし今、臨床試験のデータを基に、これらの患者を長期的に新薬で治療すると
いうとても良く安全な選択肢があります。
ゴールドハーバー医師:今、私たちはこの根拠と改訂されたガイドラインを見ていきます。しかし、みなさんは循環器
専門医として患者を治療してるので、みなさん個人の臨床現場に基づいてこれらを考えてもらいたいとも思います。こ
こに2つのケースがあります。これらの患者はかなり違っています。
www.medscape.org/viewarticle/832763
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はじめに、最近トーナメントで下肢損傷しており、また経口避妊薬も服用しているカレッジ(陸上)ホッケー選手の19
歳女性がいます。彼女はPEを発症しました。彼女をどのようを管理しますか?NOACを使用しますか?彼女を入院させ
ますか?
www.medscape.org/viewarticle/832763
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コンスタンティニデス博士: あなたの発言を基にすると、この患者は低リスクのPE患者です。この患者の場合、最初
数日間のどの有害事象に対してのリスクはとても低いです、よってガイドラインでもレビューした最近のデータによる
と、患者、その家族また病院にとって論理的に可能な場合、患者はその日直ちに家に帰ることができます。全ての国で
同じではありません。いくつかの国ではこれはとても容易で、すぐになされます。いくつかの国ではそれ程容易ではな
く、医療的観点から患者の退院がなされ、自宅療法になる場合もあります。
さて問題は何で治療するかです。自宅でLMWH、続いてVKAの投与を行う研究はもちろん今まで行われてきました。そ
してこの場合、患者が若く健康であるためそれは可能です。患者は注射の仕方もすぐ学ぶことができると思います。
しかし今は素晴らしい代替の選択肢がガイドラインにあります。PEの治療に承認されたリバロキサバンとアピキサバン
という2つの経口の単剤療法です。この患者はリバロキサバンまたはアピキサバンの初回用量を即服用することができま
す。リバロキサバンでは初め3週間またはアピキサバンでは初め1週間は増加用量になることを皆さんに注意しておきま
す。これは少し違います。この患者は、その後、家に帰り経口薬治療を行い、家でヘパリンを注射しなくてすみ、ワル
ファリンまたは他の薬に変更する必要もありません。
ゴールドハーバー医師:初め5日間LMWHの注射でその後NOACに変更する他2つのNOACについてはどうですか?どの
ように医師や患者がどちらにするか決定しますか?様々な要素のバランスをとる必要があることと思います。私の患者
の多数は、1日2回の薬の服用を言うまでもなく、どのような薬を服用する事も忘れます。服薬アドヒアランス問題に
ついて触れておきたいと思います。
他の問題はもっと科学的なものです。治療初めの数日間に与えられるヘパリンによる抗炎症効果に利点はありますか?
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コンスタンティニデス博士:1番目の問題は、今は違う選択肢があるので、患者をどのように治療するか、そして患者
はどのように治療されたいかということですね。今までは治療法はたった一つでした、しかし今は複数の選択肢があり
ます。お察しの通り、ガイドラインにはこの患者をアピキサバンで治療することが書かれていません、他はダビガトラ
ンまたはリバロキサバンです。問題は、データはありますが実際にどのように治療を行いますかということです。私の
場合は自分が好む方法をします。
説明されたように若い患者のような低リスクのPE患者の場合、そして、彼らが家に帰ることを好み、可能な限り単純
な方法を好む場合、経口の単剤療法を私は好みます。つまり私の場合は、患者にリバロキサバンまたはアピキサバンを
処方することを好みます。そしてその後、一定の認められた期間、増加用量を服用する必要があることを患者に伝えま
す。
もちろん、患者にヘパリンを注射し、その1週間後にダビガトランに変更することを指示することは医学的には正しい
です。これは全く大丈夫ですが、私の場合は自分が何らかの理由で新薬を信用できなかった場合かつ15年間前から行
っているヘパリン療法を続けたい場合のみこれを行いますが、これは本当に必要ないです。低リスクの患者であるこの
患者においては、経口の単剤療法はより実用的です。経口の単剤療法がより正しいというわけではないですが、これは
より実用的でより良い服用アドヒアランスがあります。そして、経口の単剤療法は自己注射が困難な高齢患者のためで
もあります。経口の単剤療法を処方することがより実用的です。
ゴールドハーバー医師:それでは次に進みます。
2番目のケースでは患者はより重症です。この患者は亜広範型肺栓塞症の64歳男性です。亜広範型としたのは胸部コン
ピュータ断層撮影(CT)スキャンにて右心室が左心室よりも大きいことが確認されたからです。そしてトロポニン値の
上昇を伴った右心室の微小梗塞の証拠があり、また患者の具合が悪そうに見えます。
疑問の余地なく、患者には入院が必要でありESCガイドラインによると、血栓溶解療法を受けることに適当な患者です。
実際に、 PEITHO試験[9]で使われたテネクテプラーゼは患者に処方されませんでしたが、他の組織プラスミノーゲン活
性化因子(tPA)が処方されました。
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さて問題は、どのように患者をNOACに移行させるか、非経口抗凝固薬を使用するか、はじめから経口抗凝固薬を使用す
るかということです。このタイプの患者をどのように管理しますか?
コンスタンティニデス博士:これは大変興味深いケースです。私たちは亜広範型カテゴリーのPEに何年も費やしてきま
した、そしてまず第一に例え血栓溶解抜きにでも、私の場合、この患者にはじめに非経口治療を施します。何故なら、
最大で初め2,3日で患者が代償不全に陥り血栓溶解が必要になる場合があるためです。これはPETHO試験で示された
ことです。
ゴールドハーバー医師:持続静注(IV)の未分画ヘパリン(UFH)を使用しますか?または、LMWHかフォンダパリヌ
クスを使用しますか?
コンスタンティニデス博士:UFHとは限りません。患者がショック状態でなく正常血圧である限り、LMWHを処方しま
す。
ゴールドハーバー医師:わかりました。
コンスタンティニデス博士:確かに、この患者にはNOACを処方しません、なぜなら患者に血栓溶解させる必要がある場
合は、その後患者に経口抗凝固薬を処方し、この時問題があります。今、患者の血栓が溶けたとしますね?
ゴールドハーバー医師:はい。
コンスタンティニデス博士:さて何をしましょうか。私たちの大規模な試験で行い、安全であるとされたプロトコルを
施したいと思います。これは非経口ヘパリン(LMWH)を48時間継続することです。
ゴールドハーバー医師:はい。
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コンスタンティニデス博士:その後初めの48時間後から、重複する形でVKAを開始するかNOACに変更することができ
ます。
ゴールドハーバー医師:あなたの場合、4つのNOACのうちどれをこの場合使用しますか?
コンスタンティニデス博士:いい質問ですね。新薬に関する研究のどれもが、このタイプの患者に対して明白には触れ
ていません。なぜなら、それらすべての研究で血栓溶解が必要な患者または必要であった患者を除外しているからで
す。しかし、臨床現場では患者の治療を切り替えることです、そして私たちはそれを行っています。2日後ではたぶん
なく、4、5日後と言わせてください。実際には私の場合あと2日待ちます。
ダビガトランおよびエドキサバン(これはまだ認可されていません)試験では明確な切り替えが必要です、しかし、実
際に、多数の医師もまた1週間後にリバロキサバンまたはアピキサバンに切り替えています。それが間違いだとは思い
ません。その場合、賛否両論がありますが、高い用量を使用することが推奨されています。患者が非経口治療される5
日間を引くと、例えば、アピキサバンを残り4日間またはリバロキサバンを残り2週間半は高用量投与します。どちら
でお構わないと思います。
ゴールドハーバー医師:最後に、始め数日間の亜広範型PE患者に対するヘパリンの役割は、抗凝固作用を除いて何でし
ょうか?
コンスタンティニデス博士:数十年の間、多くの憶測がありました、ヘパリンに更なる抗血栓効果があると信じられて
きました。NOACも同じケースである可能性があるという実際の基礎研究の証拠があります。リバロキサバンまたはアピ
キサバンのような第Xa因子インヒビターのデータも存在します。臨床医の視点から、これらの考えを臨床現場で実行す
ることは早計であると言わせてください。臨床的視点からこれが重要な問題であるとは私は思いません。臨床医として
は、ヘパリン投与による安全性の問題が主であり、そのため必要であれば、血栓溶解を行いますが、臨床現場で実行す
るほど抗炎症効果は確実でないと思います。
ゴールドハーバー医師:わかりました。結構です。さて、次の数分間で、視聴者のみなさんのためにNOACおよびPE治
療についてのまとめをしてくださいませんか?
コンスタンティニデス博士: NOACはVTE治療分野に到達しました。NOACは普及しています。他の適応症で示されて
いるように、これらの薬には優れた安全性が認められています、そのため、これらの薬は従来の標準治療に代わる明確
な選択肢です。これらは第一の選択肢となってきています。そして次数年間で臨床研究からのデータが積み重なるにつ
れそうなるでしょう。
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ゴールドハーバー医師:素晴らしいですね。スタブロスさん、このPEにおけるNOACに対する素晴らしい議論に参加し
ていただきありがとうございました。このアクティビティに参加していただきありがとうございました。CME事後テス
トおよび評価を受けるために、「CMEクレジットの取得」(“Earn CME” Credit)リンクをクリックしてください。あり
がとうございました。
本討論録はスタイルと明快さのために編集されました。
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References
1. Konstantinides SV, Torbicki A, Agnelli G, et al. 2014 ESC Guidelines on the diagnosis and management of acute pulmonary embolism: The Task
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www.medscape.org/viewarticle/832763