9 大気汚染基礎 - 埼玉大学経済学部 外岡豊研究室

環境政策-9
大気汚染基礎
汚染現象の空間時間規模 全球、半球、大陸、メソスケール、都市内、街区、沿道、局所、近傍、室内
汚染現象の過程 発生・(処理・除去)・排出・移流・拡散・(大気化学反応)・影響・被害
汚染問題発展史 エネルギー利用技術の発展と燃料の変遷→汚染問題の重点変化と問題発展
石炭:降下煤塵、SO2、→石油:SO2、酸性降下物→原子力:放射性物質→温室効果ガス
→大気汚染と気候変動の相互影響理解:大気汚染物質、エアロゾル、正負の温室効果
→複合大気汚染、酸性化(S,N)、富栄養化(N)+気候変動への同時総合対策政策(別講義として後で詳論)
汚染物質の種類
SOx=硫黄酸化物 SO2=二酸化硫黄 燃焼系,金属製錬系
NOx=窒素酸化物 NO2=二酸化窒素
NO=一酸化窒素
燃焼系(工場、発電所、自動車等エンジン)、工業プロセス(硝酸製造等)
CO =一酸化炭素 不完全根燃焼 回収燃料使用可能
Ox =光化学オキシダント O3=オゾン
PAN パーオキシルナイトレイト
光化学大気汚染前駆物質
NMHC=非メタン炭化水素 NMVOC=非メタン揮発性有機化合物
ベンゼン、トルエン、PAH、他有毒ガス状化学物質
重金属類 ヒ素、カドミウム、水銀
ディーゼル排ガス=NO、CO、PM、VOC 等の混合物
とくにべンゼン、PAH(多環芳香族炭化水素、例ベンツピレン)等
エアロゾル(煙霧質,煙霧体)----粒子が気体中を浮遊している状態 小粒子=遠距離拡散
=非ガス状浮遊物 一般に 100μm 以下
固体粒子=dust
小径固体粒子=fume
液体粒子=mist 10μm 以下
粒子状物質 PM particulate matter
SPM=浮遊粒子状物質=10μm(ミクロン)以下:PM10
TSP=(大粒子含)
PM2.5,PM1.0=小規模粒子
PM2.5 とは粒子系分布の 50%以上が 2.5μm 以下のもの
煤塵(ばいじん)=燃焼起源
粉塵(ふんじん)=飛散
堆積場、ベルトコンベア
特定粉じん=石綿(アスベスト)大防法2条5項
降下ばいじん(大粒子の沈降量)
燃焼系起源・大気汚染物質 SO2,NOx,CO,SPM等
非燃焼系起源・大気汚染物質
非メタン炭化水素=NMVOCs
有害大気汚染物質=HAPs Hazardous Air Pollutants
化学系汚染物質
1次汚染物質(直接排出)、2次汚染物質(大気中の反応、物理化学変化で形成された汚染質)
自然起源大気汚染物質
火山ガス
SO2(二酸化硫黄)、H2S(硫化水素)、他
植物起源炭化水素類
イソプレン、モノテルペン、他テルペン類
森林放出物質総称 フィトンチッドは森林浴でリフレッシュ効果があるとされるが、NOxと反応し
て光化学大気汚染(Ox 生成)になる
各種大気汚染物質は大気中の物理化学的挙動を通じて温室効果にも複雑に影響していることが最近の研究でま
すます明らかにされてきている。例えば中国の農村で炊事、暖房に使っているバイオマス燃料(農業廃棄物(ト
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ウモロコシの芯や茎など)、小枝など)を竈(かまど)で燃した時に炭素の微少粒子、EC(Elementary Carbon、
未燃炭素)、OC(Organic Carbon、有機炭素)が排出されるが、EC は正の温室効果、OC は負の温室効果を持ち、そ
の量は世界的な寄与量としても多く、気候変動に複雑な影響がある。埼玉大学工学部・坂本和彦研究室(2010 年
度当時)の研究では OC 排出量が EC 排出量より多い傾向が認められ全体として負の温室効果(地球を冷却)がある
と考えられている。
発生源の種類
人為起源
燃焼系大気汚染物質発生源
発生源の構成
発生源事業場、発生源施設(ボイラ、工業炉)、燃料原料種類
非燃焼系発生源
蒸発発生源 NMVOCs ガソリン等揮発性物質貯蔵・出荷施設、塗装、印刷等有機溶剤使用
飛散発生源 SPM
貯炭場、ベルトコンベア、道路巻き上げ粉塵
自然発生源飛散:黄沙
自然起源
火山 SO2 桜島(常時) 三宅島 2000.7 噴火:その後数年大量放出#1
黄砂 ここ数年(例えば 2002.3)大量飛来地域が南化、北京、ソウル等大都市で深刻な被害
#1:2000.7 噴火後活発な活動が継続した三宅島から数年間継続して大量のSO2 を放出。2001 年は日1~2万 t
の排出があったが、2002 年以降は5千~1万t程度の排出が継続していた。17) この排出量は一火山だけで日本
の人為起源排出量の数倍から十倍以上(最盛期)、桜島の5から10倍以上という突出した排出量である。2003
年にはやや沈静化してほぼ1万t未満になったが、それでも桜島の3~5倍の高排出。
春から夏は主風向が南東のため、本州に向かってSO2 が拡散するので、各地で高濃度汚染が予想され、既に
岐阜,福井等で高濃度が観測された 13)。 この放出が継続すると健康影響が懸念される。
例: 尾西(びさい)市(愛知県) 2001.4.09 0.292ppm(1時間値)
大気拡散シミュレーションの基礎 汚染濃度予測
物理的モデル
プルーム・パフ・モデル 他の方法:差分モデル、
流跡線モデル
大気化学反応を含むモデル
主要大気汚染物質の環境大気中濃度
間・季節変動、経年変化
地域分布、時
大気汚染影響
人体影響
PM 小粒子の呼吸器系影響への知見
拡大 PM2.5,PM1.0 に関心集中
植物影響
植物は人間より大気汚染に弱い
文化財被害 酸性降下物被害
経済影響
測定困難 被害額<防止対策費用
日市の例試算結果
参考文献
三宅島火山の SO2 排出動向
1) 外岡 豊,尾島俊雄(1986 a) 都市環境計画のための大気汚染物質排出構造に関する研究
その1発生源種類別排出特性について,日本建築学会計画系論文報告集,No.359
2)大喜多敏一(1982)大気保全学,産業図書
3)河村武(1987)大気環境論
4)環境ジャパン 1999(共著),碓氷尊,グレン・パオレット編著,ダイヤモンド社
5)地球環境の行方-酸性雨(共著),中央法規出版
6)計量計画研究所(1986)非公開資料
7)伊藤昭三(1984)環境工学-大気編入門,朝倉書店
8)桜井邦朋(1993)地球環境論 15 講,東京教学社
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17)
9)通産省環境立地局監修(1997)公害防止の技術と法規,四訂,大気編,産業環境管理協会
10)環境庁(1999)環境白書,平成 11 年版,総論,各論,大蔵省印刷局
11)中西準子(1995)環境リスク論,岩波書店
12 松下秀鶴(1996)大気環境科学に係る諸問題,環境研究 No10,p78-84
Pope C.A,M.J.Thun,M.M.Namboodiri,D.W.Dockery,J.S.Evans,F.E.Speizer,C.W.Heath,"Particulate air pollution as a
predictor of mortality in a prospective study of U.S.Adults,Am.J.Respir.,Crit.Care Med.,151,pp669-674,1995
13)朝日新聞 41329 号,2001.4.10 夕刊
14)環境庁(2000)環境白書,平成 12 年版,総論,各論,大蔵省印刷局
15)吉野(2000)設備と管理付録
16)朝日新聞,2002.4.15(月)夕刊
17)Kazahaya kohei(2004.1.20)Monitoring of Volcanic Gases at Miyakejima volcano,Japan,産業技術総合研究所地質調査
所環境地質部火山地質研究室 HP,http://www.gsj.go.jp/dEG/sVOLC/miyake2000/miyakeindex.html
18)畠山史郎(2014)越境する大気汚染,PHP 新書
19)竹村俊彦,九州大学応用力学研究所(2014)エアロゾル週間予測 PM2.5 鉛直質量積算値,SPRINTERS(Spectral
Radiation-Transport Model for Aerosol Species ),http://sprintars.riam.kyushu-u.ac.jp/forecastj2.html,2014.5.28
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図 2 日本 の NOx排 出量推移 1977∼ 2008年 度 は lk12,2005,2008年 度暫定0
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事業所住宅 とはいわゆる民生部門相当の業務建築 と住宅の排 出を独 自推計 した
船舶は港湾区域内航行分だけを計上、航空は国内便だけを計上
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エアロゾル週間予測 PM2.5 鉛直質量積算値
竹村俊彦,九州大学応用力学研究所
SPRINTERS(Spectral Radiation-Transport Model for Aerosol Species )
http://sprintars.riam.kyushu-u.ac.jp/forecastj2.html