論
文
内
容
の
要
旨
【結果】8種類のヒト胆道癌細胞株のDNAコピー数変化を調べたところ、DNAコピー数増加
論文提出者氏名
論
文
題
赤澤
貴子
目
Aberrant expression of the PHF14 gene in biliary tract cancer cells
を染色体5p、17q (8検体中7検体, 88%),および8q (同中6検体, 75%)で認めた。また、DNAコピ
ー数低下を染色体4p、4q (8検体中7検体, 88%) および6q (同中6検体, 75%)で認めた。ホモ欠
失と染色体増幅について調査したところ、KRAS(12p12.1)、ERBB2(17q12),など既知のがん遺
伝子を含む染色体増幅領域と、FHIT (3p14.2)、CDKN2A (9p21)、CDKN2B (9p21)、WWOX
論文内容の要旨
(16q23.1)などの既知のがん抑制遺伝子を含むホモ欠失領域を同定できた。これらの領域を同
【背景】
定したことにより、今回同時に同定することができた染色体7p21.3が胆道癌での新規変化の
胆道癌は肝内肝外胆管の上皮から発生する腺癌で、診断時には進行しており切除不能な
調査対象となった。
症例が多く、予後が悪い癌であるが、胆道癌の分子病理学についてはほとんど知られてい
8種類の胆道癌細胞株の中で、細胞株OZが染色体7p21.3領域でホモ欠失を呈し、その領域
ない。一方、ホモ欠失は癌抑制遺伝子の染色体上での位置を特定するのに有用な方法であ
内に5個の遺伝子が含まれた。それら遺伝子に対しゲノムPCRを施行すると、単一の遺伝子、
る。
PHF14(plant homeodomain(PHD) finger protein14)がホモ欠失していることが判明した。PHF14
以前我々は SNP arrays を使用し、ホモ欠失している新規領域を調査し癌におけるがん抑
のExonについてPCRを施行すると、PHF14のExon1からExon18のうち、Exon 5からExon17で
制遺伝子候補を同定した。今回我々は胆道癌に関与する遺伝子を同定することを目的とし
ホモ欠失していた。
て研究を行った。また、siRNA を用いて同定した遺伝子のノックダウンを行い、機能解析
を行った。
【材料と方法】
胆道癌細胞株とコントロールとなる正常リンパ球から抽出したDNAを用いてPHF14の
DNAコピー数変化を解析、細胞株OZでPHF14が欠失していた。
胆道癌細胞株とコントロールとなる正常肝細胞から抽出したmRNAを用いてPHF14の発
8種類のヒト胆道癌細胞株( TFK1, HuCCT1, OCUG1, NOZ, OZ, SSP25, HuH28, and TKKK)を
現レベルを解析、細胞株OZでPHF14の発現が消失していた。またimmunoblottingにてPHF14
培養し、Affymetrix社のthe GeneChip Mapping 250K Sty arrayを用いてDNAコピー数変化およ
の発現レベルを解析したところ、細胞株OZにおいてPHF14蛋白の発現を認めなかった。
びホモ欠失と染色体増幅について調べた。コピー数変化はCopy Number Analyzer for
PHF14の発現消失が胆道癌細胞に機能的な役割を果たしているかどうかを調べるために、
Affymetrix GeneChip mapping arrays(CNAG) softwareを使用し観察されたシグナル比にて推
OCUG1細胞においてPHF14の発現をノックダウンした。siRNAb、siRNAc、コントロール
定した。
siRNAをトランスフェクションした3時間後にMTT assayを行ったところ、ノックダウンした
8種類の胆道癌細胞株の中で、ホモ欠失を呈した細胞株OZの染色体7p21.3領域内の遺伝子
細胞はコントロールに比較して、有意に細胞数の増加を呈した。これらの結果よりPHF14
に対しゲノムPCRを施行した。その領域内でホモ欠失していることが判明したPHF14(plant
の発現消失が胆道癌細胞の増殖を促進していることが示唆された。
homeodomain(PHD) finger protein14) 遺伝子のExonについてPCRを施行した。
ノックダウンした細胞はコントロール siRNA を形質導入した細胞に比較して、72 時間後
8種類の胆道癌細胞株とコントロールとなる正常リンパ球から抽出したDNAを用いてreal
time PCRを施行し、PHF14のDNAコピー数変化を解析した。
胆道癌細胞株とコントロールとなる正常肝細胞から抽出したmRNAを用いてreal time
PCRを施行してPHF14の発現レベルを解析した。
胆道癌細胞株でimmunoblottingを施行し、PHF14蛋白の発現レベルを解析した。抗PHF14
抗体は400倍希釈、βactin抗体は5000倍希釈で使用した。
PHF14の発現消失が胆道癌細胞に機能的な役割を果たしているかどうかを調べるために、
の時点で有意に細胞数の増加を呈した。これらの結果より PHF14 の発現消失が胆道癌細胞
の増殖を促進していることが示唆された。
【考察】今回の研究で、ヒト胆道癌細胞株OZで染色体7p21.3領域に新規のホモ欠失を同定
した。続く解析でPHF14のExon 5からExon17でホモ欠失が生じていること、細胞株OZでPHF14
がmRNAおよび蛋白レベルで発現が消失していることを明らかにした。PHF14はクロマチン関
連転写制御に関与することが知られているPHD finger proteinに関与しており、今回の研究で
不完全なクロマチン構造と転写活性が示唆された。癌抑制遺伝子ING1などPHD finger protein
実験を行った。siRNAb、siRNAcという2種類のsiRNA(small interfering RNA)を用いて、OCUG1
をコードする遺伝子の突然変異、欠失、染色体転座が様々な種類の癌に関与しており、大
細胞株におけるPHF14の発現をノックダウンした。ノックダウンはmRNAを用いてリアルタ
腸癌細胞株におけるPHF14の変異は以前同定され報告されている。
イムRT-PCRにて確認した。siRNAb、siRNAc、コントロールsiRNAを形質導入した細胞に対
PHF14 の腫瘍における機能に関する機序はまだ明らかになっていないが、今回の研究で、
して24、48、72時間後にMTT assayを行い、細胞増殖について調べた。
PHF14 の発現異常が胆道癌の発癌に関与していると示唆された。