オセアニア通貨高の鍵を握る 2 つの要因

特別レポート(2014/6/28)
オセアニア通貨高の鍵を握る 2 つの要因
マーケット・エディターズ 吉田 恒
今年前半、対円で上昇した外貨は、ブラジル・レアル、NZ ドル、豪ドルの 3 通貨だけでした
(ブルームバーグ調査、6 月 25 日現在、資料 1 参照)
。この中の NZ ドル、豪ドルというオセア
ニア通貨について、なぜ上昇したのか、それは年後半も続くのかについて今回は考えてみたいと
思います。
≪資料1≫ 対円での通貨上昇率(ベスト)
、下落率(ワースト)上位 10
2014年1-6/25
ベスト10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
ワースト10
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
2008年1-12月
ブラジル・レアル
NZドル
豪ドル
韓国ウォン
インド・ルピー
コロンビア・ペソ
英ポンド
マレーシア・リンギ
イスラエル・シェケル
シンガポール・ドル
3.49%
2.90%
2.06%
-0.53%
-0.58%
-0.77%
-0.78%
-1.73%
-2.02%
-2.24%
中国元
スイス・フラン
イスラエル・シェケル
シンガポール・ドル
香港ドル
米ドル
台湾ドル
デンマーク・クローネ
ユーロ
ペルー・新ソル
-13.24%
-13.97%
-17.80%
-18.32%
-18.37%
-18.89%
-19.78%
-22.16%
-22.33%
-22.42%
加ドル
南ア・ランド
ノルウェー・クローネ
チェコ・コルナ
ロシア・ルーブル
中国元
ハンガリー・フォリント
スウェーデン・クローネ
チリ・ペソ
アルゼンチン・ペソ
-4.13%
-4.20%
-4.21%
-4.41%
-5.81%
-6.06%
-7.14%
-7.55%
-7.63%
-22.45%
豪ドル
メキシコ・ペソ
ノルウェー・クローネ
チリ・ペソ
ブラジル・レアル
トルコ・リラ
NZドル
韓国ウォン
英ポンド
南ア・ランド
-34.87%
-35.35%
-36.58%
-36.74%
-37.62%
-38.40%
-38.65%
-39.77%
-40.37%
-41.56%
2007年1-6月
ベスト10
1
コロンビア・ペソ
2
ブラジル・レアル
3
NZドル
4
加ドル
5
インド・ルピー
6
トルコ・リラ
7
豪ドル
8
ノルウェー・クローネ
9
ハンガリー・フォリント
10
ポーランド・ズロチ
ワースト10
22
米ドル
23
メキシコ・ペソ
24
スイス・フラン
25
香港ドル
26
南ア・ランド
27
インドネシア・ルピア
28
台湾ドル
29
イスラエル・シェケル
30
アルゼンチン・ペソ
31
チェコ・コルナ
2007年7-12月
17.45%
チェコ・コルナ
14.57% ポーランド・ズロチ
13.56%
トルコ・リラ
13.20% イスラエル・シェケル
12.46% ブラジル・レアル
13.21%
ユーロ
11.44% ノルウェー・クローネ
9.44% デンマーク・クローネ
8.08%
スイス・フラン
7.87%
チリ・ペソ
3.45%
台湾ドル
3.40%
香港ドル
3.33%
米ドル
2.93%
メキシコ・ペソ
2.91%
韓国ウォン
2.88%
英ポンド
2.58% アルゼンチン・ペソ
2.54%
NZドル
2.33%
コロンビア・ペソ
1.68% インドネシア・ルピア
2007年通期
6.06%
トルコ・リラ
2.15% ブラジル・レアル
1.34% ポーランド・ズロチ
0.73%
加ドル
-1.79%
チェコ・コルナ
-2.24% ノルウェー・クローネ
-2.39%
インド・ルピー
-2.46%
コロンビア・ペソ
-2.49%
豪ドル
-3.28%
ユーロ
13.56%
12.65%
10.82%
9.59%
7.67%
7.64%
5.43%
4.22%
4.17%
3.76%
-7.76% スウェーデン・クローネ -0.66%
-8.53%
南ア・ランド
-4.18%
-8.72%
英ポンド
-4.88%
-9.90%
台湾ドル
-5.69%
-10.05%
米ドル
-6.14%
-10.17%
香港ドル
-6.41%
-10.44%
韓国ウォン
-6.71%
-10.60%
メキシコ・ペソ
-6.96%
-10.61% アルゼンチン・ペソ
-8.90%
-12.54% インドネシア・ルピア -10.12%
(出所:ブルームバーグ)
◆「低ボラの利回り志向」という第一の理由
今年前半、オセアニア通貨高になった理由は主に 2 つでしょう。一つは、記録的な小動きが
続いたということ。そしてもう一つは、米株高が続いたということです。
まずは、記録的な小動きとの関係を考えてみましょう。最近、金融マーケットの記事を読むと、
以下のように記録的な小動きについての言及が目につきます。
■「シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は
12%下げて 10.61
と、2007 年以来の低水準」
。
■「ブルームバーグがまとめたデータによると、
(略)
(今年
4-6 月期の)ドルでのユーロの高
値は 1.3993 ドル、安値は 1.3503 ドル。値幅は 4.9 米セントと、2007 年 4-6 月期以降で最
も小さい」。
■「JP モルガン・チェースのグローバル
FX ボラティリティ指数は 5.56%に低下し、ブルーム
バーグが 1992 年にデータを取り始めて以来で最低となった」
(以上、ブルームバーグより)
。
それにしても、記録的な小動き、記録的な低いボラティリティ(価格変動率)を説明する上で、
「2007
年以来」という説明が多いことに気付くでしょう。まさに、2007 年も、最近のような記録的な小動き
が展開した局面でした。ところで、そんな 2007 年も、豪ドルはブラジル・レアルなどとともに対円
での上昇率ベスト 10 に入っていました。
ちなみに、2007 年の記録的な小動きは前半で終わり、後半になると徐々に相場は動き始めました。
そんな 2007 年前半について対円での上昇率を見ると、NZ ドルは第 3 位、そして豪ドルも第 7 位とな
っていました。
記録的な小動き、いわゆる「低ボラ」局面では、
「利回り志向」が強まります。そう考えると、代表
的な「低ボラ」局面の 2007 年前半、対円での上昇通貨が軒並み、新興国、資源国通貨となっていた
のは理解できるところでしょう。そして、今年前半、オセアニア通貨高になったのも、そんな 2007
年前半以来の低ボラ局面の結果と考えるのが基本でしょう。
ただ、2007 年は後半に入ると相場は動き始め、さらに 2008 年になると、金融危機の時代が始まり、
「低ボラ」という行き過ぎた安定から、一転して極端に不安定な展開へ変わっていきました。その中
で、2008 年、NZ ドルは対円での下落率第 4 位、豪ドルも第 10 位といった具合に、一転して急落通
貨になったのです。
以上のように見ると、今年前半のオセアニア通貨高がこの先も続くかは、低ボラ局面が続くかが鍵
であり、低ボラ局面が終わり、相場が不安定化に向かうようなら、オセアニア通貨下落リスクが高ま
る懸念もあるということを頭に入れておく必要があるでしょう。
◆全ては米株高が続くか次第
ところで、今年前半こそオセアニア通貨高となりましたが、昨年後半はとくに豪ドルが一時急落す
るところとなりました。これは、米金融緩和見直しの影響と理解されました。
米金融緩和局面では、溢れたドル資金が高い利回りの先を目指すことから、新興国、資源国通貨が
大きく上昇しますが、一方でその金融緩和を見直すと、ドル資金が逆流することから、新興国、資源
国通貨が急落、ひいては「通貨危機」のようになることも、過去何度か繰り返されてきたことでした。
このような観点からすると、昨年後半、米金融緩和見直し観測の中で米金利が急上昇となり、それを尻
目に新興国通貨が混乱し、代表的な資源国通貨である豪ドルが急落したのも理解しやすいところでしょう。
ただそんな米金利急上昇は今年に入り一服しました。
昨年 3%まで上昇した米 10 年金利は一時 2.4%
台まで低下したのです。米金融緩和見直しが続く中でも、このように米金利が低下に向かう中、米株
高傾向は続きました。
本来、資源国通貨の豪ドルは、代表的なリスク資産である米株と一定の相関関係がありました。た
だ、上述のように、2013 年は、米金融緩和見直し観測の中で米金利が急騰すると、米株高を尻目に豪
ドルは急落し、この相関関係は崩れました ≪資料 2 参照≫。
≪資料 2≫
125円
120円
17,000ドル
豪ドル円(左軸)
NYダウ(右軸)
115円
16,000ドル
110円
105円
15,000ドル
100円
95円
14,000ドル
90円
85円
13,000ドル
80円
75円
12,000ドル
70円
65円
2012/1
11,000ドル
2012/7
2013/1
2013/7
2014/1
ところが、今年に入り、米金利が低下傾向に転じると、豪ドルは米株との相関関係が復活したの
です ≪資料 3 参照≫。以上のように見ると、今年前半、豪ドル、そして NZ ドルも含めたオセアニ
ア通貨が上昇したもう一つの理由は、米金利上昇が一服する中で米株高が続いたことでしょう。
≪資料 3≫
100円
17,500ドル
豪ドル円(左軸)
NYダウ(右軸)
17,000ドル
95円
16,500ドル
16,000ドル
90円
15,500ドル
85円
2014/1
15,000ドル
2014/2
2014/3
2014/4
2014/5
2014/6
NZ ドルは 6 月に今年 3 度目の利上げを行いました。ところで、
そんな NZ ドルの対円相場は、
上述の豪ドルとは異なり、ここまで米株との相関関係が大きく崩れることなく続いてきました
≪資料 4 参照≫。
≪資料 4≫
95円
18,000ドル
NZドル円(左軸)
90円
NYダウ(右軸)
17,000ドル
85円
16,000ドル
80円
15,000ドル
75円
14,000ドル
70円
13,000ドル
65円
12,000ドル
60円
11,000ドル
55円
50円
2011/9
10,000ドル
2012/3
2012/9
2013/3
2013/9
2014/3
以上のように見ると、今年に入り相関関係が復活した豪ドル、そして一定の相関関係が続いて
きた NZ ドル、これらオセアニア通貨の上昇が続いたのは米株高傾向が続いたからであり、この
先もオセアニア通貨高が続くかは米株高が鍵ということになるのではないでしょうか。
たとえば、もしも NZ 利上げ見通しに変わりなくても、米株安に転じるようなら、それでも
NZ ドル高が続くかは微妙ということになるかもしれません。(了)
注意事項
●
本資料(本文およびデータなど)の著作権を含む知的所有権はマーケット エディターズに
帰属し、事前に書面による承諾を得ることなく本資料およびその複製物に修正・加工するこ
との一切を禁じ、送信、複製および配布・譲渡することも堅く禁じられています。
●
本資料はマーケット エディターズが参考資料として作成したものであり、特定の通貨など
についての売買および投資の勧誘を目的とするものではありません。また、ソニー銀行株式
会社(以下「ソニー銀行」)の見解や見通しを表すものではありません。
●
本資料に掲載されている数値・図表などは特に断りのない限り本資料作成日(2014/6/28)現
在のものです。なお、掲載されている情報はマーケット エディターズが信頼できると判断
した情報源をもとに作成・表示しておりますが、その内容および情報の正確性、完全性につ
いて、マーケット エディターズおよびソニー銀行は保証を行っておらず、また、いかなる
責任を持つものでもありません。
●
本資料の記載内容に関するご質問・ご照会などには一切お答えいたしかねますのであらかじ
めご了承ください。
●
投資にかかる最終決定は、お客さまご自身の判断でなさるようにお願いいたします。