新型液ガス式熱量調整装置「AtoMS」 技-1

技-1
新型液ガス式熱量調整装置「AtoMS」
◎ JFE エンジニアリング㈱ エネルギープラント事業部技術部 川村 晋
JFE エンジニアリング㈱ エネルギープラント事業部技術部 加藤 直
JFE エンジニアリング㈱ 総合研究所
林 謙年
JFE エンジニアリング㈱ 総合研究所
山口以昌
1.はじめに
天然ガス(NG)に液体の液化石油ガス(LPG)を直接注入す
る液ガス式熱量調整装置において、
LPGを微粒化するノズル機
構および制御技術を新規開発し、
従来より流量比で約4倍の流量
範囲での熱量調整が可能な液ガス式熱量調整装置(以下「Ato
MS」*1 という)を実用化した。
本開発の概要と東邦ガス四日市工場に設置した初号機で確認
した性能などについて報告する。
図1.
「AtoMS」の構造
*1:
「AtoMS」
:Atomization Mixing System
「AtoMS」の開発目標は、NGターンダウン比 1/20 とし
2.背景
液ガス熱量調整方式は、主に大容量向けには「ベンチュリ方式」
た 。 ま た 、 軽 質 L N G の 目 安 で あ る 41.86 MJ/m3N
(10,000kcal/m3N)のNGを全ての負荷範囲で 46.05 MJ/m3N
が、小容量向けには「シェル&チューブ方式」が多く普及してい
(11,000kcal/m3N)まで熱調可能とすることも目標とした。
(表
る。前者は、熱量制御性には優れるものの運転可能範囲が狭く、
1)
後者はその逆の特長がある。
表1.開発目標
従来方式
従来のベンチュリ方式は、ターンダウン比(最小運転流量/最
「AtoMS」
大運転流量)がある下限値(一般に 1/5~1/7)を下回ると、LP
ターンダウン比
1/5
1/20
Gが液の状態で流出する「液だれ」現象が発生し熱量調整が機能
対応可能な
NG熱量
高負荷範囲のみ
41.86 MJ/m3N に対応
全ての負荷範囲で
41.86 MJ/m3N に対応
しない状態となる。そのため、低流量域の運転を必要とする場合
は、大小2系列のベンチュリを組み合わせる必要があり、切り替
え時の制御が難しいことやコストアップとなる課題があった。
一方、東邦ガスでは、四日市工場「伊勢湾パイプライン」向け
に、
熱量変動が少なくコンパクトな熱量調整装置のニーズがあっ
た。
そこで今回、東邦ガスとJFEエンジニアリングの両社は、優
れた熱量制御性を確保した上で、
広い運転範囲を1系列で達成す
る新型熱量調整装置の開発を行なった。
4.性能確認
まず、微粒化機構の有効性を確認するために、東邦ガスの都市
ガス製造工場内に実証試験設備を建設して実証試験にて複数の
微粒化ノズル機構の性能評価を行った。
実証試験の結果、目標ターンダウン比 1/20 を達成し、従来型
ベンチュリ方式に対して流量比4倍以上の流量範囲での運転が
可能となる最適な微粒化ノズルを開発することができた。
(図2)
3.開発概要
従来のベンチュリ方式はベンチュリのど部の高速流を利用し
てLPGを微粒化し、
NGの顕熱で気化・混合させる方式である。
「AtoMS」は、ベンチュリ部の流速が低下する低流量域で
も、
確実にLPGを気化混合させるよう液体を微粒化する機構を
組み込んだ。
液体の微粒化は、
熱量調整装置に導入するNGの一部を分岐し
て液体と混合させながら噴霧することで実現する。
微粒化ノズル
用に分岐するNG量を運転負荷に応じて適切に制御することで、
確実にLPGを微粒化することが可能となる。図1に「AtoM
S」の構造を示す。
図2.実証試験より確認された運転範囲
実証試験の結果を受け、
東邦ガス四日市工場に初号機を建設
した。初号機の設備概要を表2および写真1に示す。
5.まとめ
東邦ガス四日市工場に設置した「AtoMS」の初号機により
以下のことが確認できた。
表2.
「AtoMS」初号機の設備概要
設計圧力
7.0 MPa
13A 流量
7,000~140,000 m3N/h
ターンダウン比
1/20
都市ガス熱量
45.00 および46.05 MJ/m3N
基数
2基
(1)合理化実現
従来方式では幅広い流量の運転に対応するため、
大流量用と小
流量用のユニットが必要であったのに対し、
「AtoMS」では
大流量用相当のユニットのみで低流量域の運転が可能となるた
め機器構成がシンプルとなる。
(図5)
またノズルは異物混入による閉塞リスクが従来型より小さい
写真1.
「AtoMS」初号機の設備外観
ため、LPGフィルタからLPGストレーナへの変更や、LPG
フィルタ下流側のステンレス鋼を炭素鋼に仕様変更することが
出来た。
これにより、初号機では、従来方式で同等仕様の設備を設置す
るのに比較し、約 12%のコストダウンを実現するとともに、設
置スペースを当初計画エリアから約 39%縮小し建設することが
できた。
(2)工場運用性および送ガス品質の向上
・大小ユニット切替運転を行う必要が無いため、切替時の熱
量逸脱リスクを解消できる。
実証試験にて確立した微粒化ノズル部制御方法の適用により、
試運転から実用運転にかけて良好な熱調性能を発揮している。
ま
た、NG熱量変動、LPG大小弁切替、流量変動、圧力変動など
・最小運転可能流量が小さいため、設備の起動停止による熱
量逸脱リスクを低減できる。
・通常時の 13A 熱量変動幅は±0.21 MJ/m3N 以下。
の各種外乱に対する熱量制御性についても、
図3および図4に示
す通り、従来方式と遜色ないことを確認した。
図5.
「AtoMS」の設備構成図
図3.初号機の運転データ(その1)
今後、非在来型天然ガス(シェールガス)などの低熱量LNG
の導入、電力会社・ガス会社・石油資源会社などの各エネルギー
事業者間で繋がれるパイプライン網の整備などにより、
熱量調整
のニーズが高まると考えられる。
新型液ガス式熱量調整装置「AtoMS」は、これらの顧客ニ
ーズに充分対応できる装置である。
6.謝辞
最後に、本開発において実証試験装置および初号機の設計・製
作、
データ採取及び評価に多大なご協力をいただいた共同開発者
の東邦ガス株式会社殿に感謝申し上げます。
図4.初号機の運転データ(その2)