コンクリート工学年次論文集 Vol.33

コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.2,2011
論文
既存建物袖壁付き柱の曲げ補強に関する実験的研究
龍哉*1・伴
近藤
幸雄*2・加藤
三晴*3・山本
泰稔*4
要旨:既存袖壁付き柱の袖壁を鉄骨枠付き湿式補強パネルで増し厚して曲げ補強する新工法の効果を検証し
た。無補強試験体と,これを在来型工法で袖壁を増し厚したものと,鉄骨枠付き湿式補強パネルを柱梁枠内
付けしたものと,鉄骨枠付き湿式補強パネルを柱梁枠外付けしたものの耐力性能と変形性能を比較した。ま
た,曲げ抵抗機構について考察した。無補強試験体に比べて補強試験体の耐力と変形性能は極めて向上した。
在来型と比べて新工法は耐力の向上と剛性の上昇に優れていた。増し厚補強試験体の破壊面は基礎梁内に移
動して,曲げモーメントに対して柱の全鉄筋と基礎梁あばら筋が大きな抵抗要素であった。
キーワード:袖壁付き柱,既存建物の曲げ補強,住まいながら補強,実験研究
基礎梁上端面として計算した。
1. はじめに
1981 年以前の設計規準による鉄筋コンクリート造中
表-1
層集合住宅の耐震性能は低層階で僅かに Is 値が不足する
ものが多くある。これらを住まいながら補強する一つの
工法として既存袖壁付き柱の袖壁を鉄骨枠付き湿式補
2
検証した結果を報告する。
無補強試験体(NN 型)と在来工法による袖壁増し厚試
験体(NH 型)と鉄骨枠付き湿式補強パネル(以後,補強パ
ネルと記す)を柱梁枠内に接合(枠内付け)して袖壁を増
し厚した試験体(WI 型)と補強パネルを柱梁枠側面に接
合(枠外付け)して袖壁を増し厚した補強試験体(WOL 型)
の 4 体の耐力性能と変形性能を比較検討する。また,各
鉄筋の歪状況から曲げ抵抗機構について考察する。
幅b(mm)
250
柱 せいDc(mm)
有効せいd(mm)
250
217.5
そ 厚さtw1(mm)
で 長さLw1(mm)
壁 β
袖壁付き柱せいL'(mm) L'=Dc+2×Lw
60
450
1.8
1150
2
1062
全主筋断面積ag(mm ) 8-R13
柱
2
引張鉄筋断面積at(mm ) 3-R13
主
筋 pt(%)
2
主筋の降伏強度σy(N/mm )
面積aw(mm2) 2-R6@170
398
0.64
323
56.5
帯 間隔X(mm)
筋 pw
降伏強度σwy
2. 実験
2.1 試験体
170
0.0013
307
2
無補強試験体(NN 型)の諸元を表-1 に記す。また,材
料強度を表-2 と表-3 に記す。NN 型試験体の形状と配筋
詳細を図-1 に示す。袖壁増し厚部の詳細を図-2 から図
-4 に示す。袖壁増し厚補強試験体(NH 型,WI 型,WOL
型)は NN 型試験体(以後,既存部と記す)の袖壁を増し厚
したもので,既存部と増し厚部の接合は,柱・梁との接
合は有効埋め込み深さ(La=12da),既存袖壁との接合は
(La=40mm)として樹脂系あと施工アンカーを用いた。な
お,補強パネルの施工方法は参考文献 1)と同じである。
NN 型および既存部の曲げ終局強度時せん断力の設計
値は 125kN,せん断終局強度の設計値は 166kN で,せん
断余裕度 1.3 程度で曲げ降伏先行型である(設計法は参考
そ
で
壁
補
強
筋
*2 矢作建設工業(株)
博(工)
地震工学技術研究所
*3 (株)ピタコラム
技術部
(正会員)
*4 芝浦工業大学
名誉教授
工博
2
縦・横筋断面積ah(mm ) 1-R4@100
間隔Xs(mm)
ps
主任研究員
150
500
398
2
(正会員)
(正会員)
(正会員)
-1345-
12.6
100
705
1500
あばら筋の降伏強度σwy(N/mm )
梁幅b(mm)
床 梁せいDb(mm)
梁 梁引張鉄筋断面積at(mm2) 3-R13
あばら筋断面積 2-R6@200
28.3
25
0.0021
幅b(mm)
基 せいDb(mm)
礎 引張鉄筋断面積at(mm2) 3-R13
梁 あばら筋断面積 2-R6@200
文献 )。なお,曲げモーメントに対する危険断面位置は
建築学部建築学科准教授
縁縦筋断面積aw(mm ) 1-R6
そで壁縁からそで壁縁縦筋までの距離dwt(mm)
降伏強度σsy
反曲点高さhCWo(mm)
2)
*1 工学院大学
20.1
230
コンクリート圧縮強度Fc(N/mm )
柱軸力N(kN)
強パネルで増し厚してせん断補強する提案を行った(参
考文献 1))。これに続き,本論文では曲げ補強効果を実験
補強試験体既存部・NN 型の諸元
56.5
307
150
250
398
56.5
コンクリート・無収縮モルタル強度
100 100
27498
27153
21.1
21.3
21.4
3
単位重量(kN/m )
表-3
E
σy
鉄筋強度
(N/mm ) (N/mm ) (N/mm )
R4 204010
705
781
εy
(μ)
3454
既存袖壁縦横筋
R6 204363
R13 198850
D6 190014
307
323
408
457
427
517
1500
1624
2145
既存部帯筋・あばら筋
既存柱梁主筋
在来工法増厚縦横筋
D10 183053
D10 183053
R3.2 185736
368
368
569
496
496
607
2012
2012
3064
在来工法端部補強筋
アンカー筋
スパイラル筋R3.2mm
2
σu
2
2
65 40
上スタブ
床梁
40 90〃 〃 90 50
備考
A
梁 アンカー: D10(5本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 12da
突 出 長 さ : 10da
基礎梁
下スタブ
図-3
WI 型増し厚部配筋詳細
190 60
上 ス タ ブ 86 6086
3086〃〃〃〃
〃〃〃〃86 30
壁タテ筋 :φ 4@100
外 端の み φ6
A'
A
500
基礎梁
500
壁 ヨコ筋 :φ 4@100
下 スタ ブ
基礎 梁主 筋
3-φ 13
あ ばら 筋
φ6@200
〃 〃 〃 〃 〃117
床梁
H T B : 梁 (M10全 12本 )
H T B : 柱 (M10全 16本 )
L-75× 60× 3.2
A'
壁 筋 : タテ・ヨコ共 D6@60
端 部 : アングルに フレア溶 接
(両 面 5d)
基 礎 梁 梁 アンカー: D10
A
117 〃
40
125 75
470
1,000
100 200 〃 〃 200 100
500
250
床梁
1,000
A-A'断 面
柱主 筋: 8-φ 13
帯筋 :φ 6@170
上ス タブ
壁 アンカー(外 端 ): D10(5本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 40㎜
突 出 長 さ : 65㎜
壁 アンカー: D6(10本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 40㎜
突 出 長 さ : 65㎜
柱 アンカー: D10(11本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 10da
突 出 長 さ : 65㎜
15
450 250 450
30 131〃131 48
350 150 250
75
60
凡例 E:ヤング率、σy:降伏強度、σu:最大強度、εy=(σy/E)
A-A'断 面
柱 アンカー: D10@75(11本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 10da
突 出 長 さ : 10da
L-60× 60× 3.2
壁 筋 : タテ・ヨコ共 D6@60
端 部 : アングルに フレア溶 接
(両 面 5 d)
A'
22
26174
壁 アンカー: D6(15本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 40㎜
突 出 長 さ : 65㎜
柱
40 185 195 30
A-A'断 面
100 120
2
ヤング率(N/mm )
80
無補強・既存部 在来型増し厚部 補強パネル
2
20.1
24.2
73.4
圧縮強度(N/mm )
2
2.3
2.3
5.6
割裂強度(N/mm )
125 75〃〃〃〃〃〃〃〃75 125
表-2
下スタブ
図-4
有 効 埋 込 み 深 さ : 10da
突 出 長 さ : 65㎜
WOL 型増し厚部配筋詳細
2.2 実験装置
せん断力加力ジャッキを試験体の左右に置き,引張加
2,150
力もすることで試験体のねじれを抑制している(図-5)。
NN 型試験体配筋詳細
柱
150
A-A'断 面
A
125 75〃〃〃〃〃〃〃〃75 125
200 100
70
75 〃〃〃〃 75
壁 アンカー: D6@200(8本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 40㎜
突 出 長 さ : 65㎜
〃
150
上スタブ
床梁
柱 アンカー: D10@75(11本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 7da
突 出 長 さ : 10da
軸力加力
ジャッキ
上スタブ
スパイラル筋 :φ 3.2@50 径 60
壁 筋 : タテ・ヨコ共 D6@50
(外 端 の み D10)
床梁
基礎梁
A'
梁 アンカー: D10@75(5本 )
有 効 埋 込 み 深 さ : 7da
( 外 端 の み 10da)
突 出 長 さ : 20da
基礎梁
せん断力
加力ジャッキ
1,500mm
80
70 100
65 40
図-1
袖壁付き柱
試験体
下スタブ
下スタブ
図-2
図-5
NH 型増し厚部配筋詳細
-1346-
加力装置
WI 型は基礎梁上端から 120mm 程度下側を破壊面にひ
1/50(F=2.6)
1/63(F=2.3)
1/83(F=2.0)
1/125(F=1.5)
1/250(F=1.0)
1/500(F=0.8)
層間変形角R(概算F値)
び割れ,基礎梁上端筋を捲り上げながらひび割れを拡幅
していった。最終状況は圧縮側袖壁脚部が圧潰した。
WOL 型は基礎梁底部付近(下側水平ジョイント付近)
を破壊面に基礎梁を割れ裂くようにひび割れた。なお,
‐1/500(F=0.8)
‐1/250(F=1.0)
‐1/125(F=1.5)
‐1/83(F=2.0)
‐1/63(F=2.3)
‐1/50(F=2.6)
加力番号
増し厚した補強面のひび割れは3体共に軽微であった。
400
図-6
Qc(kN)
+1‐1
‐1‐1
+2‐1
‐2‐1
+2‐2
‐2‐2
+3‐1
‐3‐1
+3‐2
‐3‐2
+4‐1
‐4‐1
+4‐2
‐4‐2
+5‐1
‐5‐1
+5‐2
‐5‐2
+6‐1
‐6‐1
+7‐1
‐7‐1
200
加力計画
249(在来補強)
134(無補強)
291kN
0
139(無補強)
‐200
243kN
‐400
2.3 加力計画
層間変形角を目標値にした変位制御で繰り返し交番
WI
‐0.05
‐0.025
図-9
漸増加力した。図-6 に目標層間変形角とその概算 F 値と
240(在来補強)
R(rad)
2E‐17
0.025
0.05
WI 型試験体 Qc-R 関係
加力番号を示す。なお,(-7-1)以後に破壊まで押し切った。
400
3. 実験結果
各試験体のせん断力(Qc)と層間変形角(R)の関係曲線
を図-7 から図-10 に最大強度を併記し示す。写真-1 から
Qc(kN)
200
3.1 荷重―変形関係と崩壊形
0
249(在来補強)
134(無補強)
139(無補強)
‐200
写真-8 に最大強度時と最終時のひび割れ状況を示す。
NN 型は基礎梁上端を破壊面にひび割れ,圧縮側袖壁
が滑落した。曲げ破壊ではあるが極めて脆性的であった。
334kN
‐400
WOL
‐0.06
‐0.03
図-10
NH 型は基礎梁上端を破壊面にひび割れ,ひび割れは
243(在来補強)
327kN
R(rad)
‐3E‐17
0.03
0.06
WOL 型試験体 Qc-R 関係
柱を貫通した。最終状況は圧縮側袖壁脚部が圧潰した。
200
134kN
Qc(kN)
100
0
‐100
‐139kN
R(rad)
‐200
‐0.02
NN
‐0.01
図-7
0
Qc(kN)
写真-1
NN 型最大強度時(+3-1)のひび割れ状況
248.5kN
134kN(無補強)
0
‐150
‐300
NH
0.02
NN 型試験体 Qc-R 関係
300
150
0.01
‐0.04
239.5kN
‐0.02
図-8
‐139kN(無補強)
R(rad)
0
0.02
0.04
写真-2
NH 型試験体 Qc-R 関係
-1347-
NN 型最終損傷状況
写真-3
NH 型最大強度時(+4-1)のひび割れ状況
写真-7
写真-4
WOL 型大強度時(+4-1)のひび割れ状況
NH 型最終損傷状況
写真-8
WOL 型最終損傷状況
3.2 耐力性能および変形性能比較
表-4 で最大強度を比較する。Qc-R 曲線を基に,正加
力時の最大強度の 80%でバイリニア型にモデル化し,剛
性と塑性率を比較する。
補強試験体は無補強試験体に比べて耐力,剛性,塑性
率は共に大きく向上する。WI 型では,剛性は極めて向
上するが塑性率は NH 型に比べて劣る。剛性の向上は枠
鉄骨による効果と考える。WOL 型では,塑性率は NH
写真-5
WI 型最大強度時(+3-1)のひび割れ状況
型と同程度だが耐力は大きく向上した。耐力の上昇は基
礎梁で水平ジョイントの範囲が広がったためと考える。
表-4
写真-6
WI 型最終損傷状況
最大強度とその比較値および剛性と塑性率
NN型 NH型 WI型 WOL型
最大強度 Qcmax(kN)
134
249
291
334
最大強度時層間変形
0.0042 0.0079 0.0040 0.0080
角(rad)
R1(rad)
0.0019 0.0025 0.0025 0.0036
R2(rad)
0.0155 0.0122 0.0213
最大強度の比較値 1.00
1.85
2.17
2.49
剛性(80%Qcmax/R1) 57442 79560 91266 74738
塑性率(R2/R1)
0.0
6.2
4.8
6.0
R1:最大強度前の最大強度の80%時層間変形角 、
R2:最大強度後の最大強度の80%時層間変形角
-1348-
柱主筋と正加力時圧縮側袖壁縦筋の歪状況を見た。歪
度計測位置と鉄筋番号を図-11 に示す。そして,図-12
から図-15 の左列に層間変形角に対する柱主筋の歪度を
柱主筋歪度(μ)
(1) 柱主筋・既存袖壁縦筋の歪度分布
最大強度 400 1000 0 ‐1000 荷重値と併記した。なお,▼は最大強度時の層間変形角
を示す。また,図の右列に袖壁縦筋の歪度分布を加力番
0 R(rad)
0.00 0.02 0.04 引張筋平均
中間筋平均
Qc
圧縮筋平均
図-15
号毎に示す。なお,●は最大強度時である。
WOL
縦筋歪度(μ)
2000 WOL
Qc(kN)
3.3 各鉄筋の歪状況
1000 0 ‐1000 ‐2000 袖壁縦筋番号
① ② ③ ④ ⑤
+1-1
+2-1
+3-1
+4-1
+5-1
+6-1
WOL 型柱主筋と袖壁縦筋の歪状況
NN 型では,正加力時引張側にある柱主筋は引張歪状態
にあり,圧縮側の柱主筋と圧縮側の袖壁縦筋は圧縮歪状
(2) 引張力抵抗型に埋め込んだアンカー筋の歪度分布
態にある。一方,NH 型,WI 型,WOL 型は柱全主筋が引張
図-16(左図)にアンカー筋の歪計測位置とアンカー筋
歪状態にあり,圧縮側袖壁縦筋も柱に近いものは引張歪
番号を示す。図-17 に NH 型と WI 型の正加力時に引張側
状態にある。よって,袖壁増し厚補強すると中立軸は圧
にある水平ジョイントアンカー筋の歪度分布を加力番
縮側袖壁内に移動したものと推察できる。
号毎に示す。なお,●は最大強度時である。
NH 型では加力当初端部の①筋のみが降伏歪度 2012μ
0 ‐1000 NN
0 R(rad)
0.00 0.02 0.04 引張筋平均
中間筋平均
Qc
圧縮筋平均
図-12
正加力
NH
縦筋歪度(μ)
1000 0 ‐1000 0 R(rad)
0.00 0.02 0.04 引張筋平均
圧縮筋平均
図-13
‐400 NN 型柱主筋と袖壁縦筋の歪状況
最大強度 300 2000 中間筋平均
Qc
5
①②③④⑤
0 ‐800 1000 0 ‐1000 床梁
正加力
アンカー筋
歪計測位置 アンカー筋 D10
400 ‐1200 +1-1
+2-1 ① ② ③ ④ ⑤
+3-1
袖壁縦筋番号
Qc(kN)
柱主筋歪度(μ)
150 Qc(kN)
柱主筋歪度(μ)
最大強度
1000 NH
床梁
袖壁縦筋
番号
図-16
アンカー筋歪度(μ)
2000 NN
①②③④⑤
柱主筋と袖壁縦筋の歪度測定位置と鉄筋番号
縦筋歪度(μ)
図-11
正加力
型も①筋が降伏したに止まっている。
4000 2000 0 ‐2000 ‐4000 あばら筋歪計測位置
基礎梁
基礎梁
125
柱主筋
基礎梁
A’
①②③
アンカー筋とあばら筋の歪計測位置と鉄筋番号
アンカー筋歪度(μ)
鉄筋歪計測高さ
① ② ③
④
⑤ 柱主筋
正加力
⑥ ⑦ ⑧ 番号
250
A
(表-3 参照)を超えるが,その他は降伏していない。WI
袖壁
床梁
端部補強筋
袖壁縦筋
正加力
8000 4000 0 NH型
アンカー筋番号
① ② ③ ④ ⑤
+1-1
+2-1
+3-1
+4-1
+5-1
+6-1
図-17
引張力抵抗型に埋め込んだアンカー筋の歪状況
WI型
アンカー筋番号
① ② ③ ④ ⑤
+1-1
+2-1
+3-1
+4-1
+5-1
‐2000 袖壁縦筋番号
① ② ③ ④
+1-1
+2-1
+3-1
+4-1
+5-1
+6-1
NH 型柱主筋と袖壁縦筋の歪状況
(3) 基礎梁あばら筋の歪度分布
負加力時に引張側にある袖壁直下の基礎梁あばら筋
の歪状況を見た。図-16(右図)に歪度計測位置とあばら
筋番号を示す。そして,図-18 と図-19 に負加力時の歪
度分布を示す。なお,●は負加力最大強度時である。
最大強度
1000 300 0 ‐1000 0 R(rad)
0.00 0.02 0.04 引張筋平均
中間筋平均
Qc
圧縮筋平均
図-14
WI
縦筋歪度(μ)
2000 Qc(kN)
主筋歪度(μ)
WI
750 NN 型では歪度は弾性範囲にある。NH 型では①筋が降
0 ‐750 伏歪度 1500μ(表-3 参照)を超える。写真-3 と写真-4 の
‐1500 袖壁縦筋番号
① ② ③ ④ ⑤
+1-1
+2-1
+3-1
+4-1
+5-1
WI 型柱主筋と袖壁縦筋の歪状況
基礎梁ひび割れ状況から①筋のみが降伏したこととが
推察できる。WI 型では①筋と②筋が降伏している。写
真-5 と写真-6 でひび割れが袖壁端部で基礎梁上端から
120mm 程度下側にあることと一致する。WOL 型では①
筋と②筋が降伏し③筋も 1000μ程度歪んでいる。写真-7
-1349-
と写真-8 でひび割れ面が歪度計測位置と離れているた
表-5
曲げ抵抗機構の想定に基づく強度計算値
め計測値が多少小さくなったと考えると,全てのあばら
あばら筋番号
①
②
③
-1-1 -2-1
-3-1
NN型
図-18
あばら筋歪度(μ)
8000 0 WI型
図-19
あばら筋番号
①
②
③
-1-1
-2-1
-3-1
-4-1
-5-1
-6-1
291
1620
334
1870
曲げ強度実験値 Mt(kNm)=Qcmax×H
403
471
625
柱心-圧縮支持点間距離 Lo(mm)
575
575
12000 軸力N(kN)
230
230
575
230
4000 柱全主筋降伏強度Py(kN)
343
343
343
‐4000 柱全主筋最大強度Pu(kN)
453
453
453
あばら筋番号
①
②
③
-1-1
-2-1
-3-1
-4-1
-5-1
-6-1
NN 型および NH 型基礎梁あばら筋の歪状況
16000 WOL型
249
1620
20000 NH型
あばら筋歪度(μ)
あばら筋歪度(μ)
300 200 100 0 ‐100 あばら筋歪度(μ)
筋は降伏したと推定される。
NH型 WI型
最大強度実験値Qcmax(kN)
加力点-破壊面間高さH(mm)
有効あばら筋本数 ns
8
10
12
あばら筋降伏強度 Psy(kN)
70
87
104
あばら筋最大強度 Psu(kN)
103
129
155
あばら筋-圧縮支持点間距離 Ls(mm)
575
685
792
曲げ降伏強度計算値 Mcy(kNm)
369
389
412
曲げ最大強度計算値 Mcu(kNm)
452
482
516
4000 と思われる。曲げ抵抗機構の仮定は概ね妥当と考える。
2000 WOL型
0 NH 型および WI 型で既存部と増し厚部の一体性に関
あばら筋番号
①
②
③
-1-1 -2-1
-3-1 -4-1
-5-1 -6-1
WI 型および WOL 型基礎梁あばら筋の歪状況
して考察する。樹脂系あと施工アンカーの設計強度は参
考文献 3)によれば,引張側袖壁の増し厚部で水平ジョイ
ント(アンカー筋 D10 が 5 本)の引張耐力は埋め込み部コ
ーン状破壊で 79kN,アンカー筋の降伏でも 132kN 程度
である。一方,鉛直接合部(アンカー筋-D10 が 11 本)のせ
4. 曲げ抵抗機構に関する考察
ん断耐力はアンカー筋のせん断降伏で 202kN と極めて大
WI 型の曲げ抵抗機構を推定する。水平接合部外端の
アンカーは(コーン状破壊 24kN<アンカー筋降伏 26kN
きい。よって,引張力とせん断力のつり合いは確保でき,
既存部と増し厚部の力の伝達は可能であると考える。
<付着力 37kN)でコーン状破壊する。しかし,アンカー
筋周りのコンクリート塊が基礎梁主筋を捲り上げなが
5. まとめ
らアンカー筋の引張力に抵抗する。主筋の捲り上げを拘
補強パネルで袖壁を増し厚する曲げ補強は耐力性
束するものがあばら筋で,結果あばら筋がアンカー筋の
能・変形性能共に補強効果が大きい。なお,在来型の増
引張力を支持すると考える。NH 型も同様である。また,
し厚補強に比べて,枠内付け型(WI)では剛性が上昇する。
WOL 型は基礎梁が水平接合部の引張力に負けて割れ裂
枠外付け型(WOL)では耐力が上昇する。
けた。ひび割れ発生後の抵抗要素はあばら筋である。
袖壁増し厚補強では,曲げモーメントに対して中立軸
NH 型と WI 型の破壊面は基礎梁のアンカー筋埋め込
が圧縮側袖壁内に移動して柱の全主筋が曲げ抵抗要素
み先端位置として,WOL 型は基礎梁下段に埋め込んだ
になる。破壊面は柱脚(基礎梁上端)から基礎梁内側(アン
アンカー筋位置として,曲げ強度実験値(Mt)を計算する。
カー筋埋め込み部)に移動して,基礎梁のあばら筋の一部
曲げ強度計算値(Mcy,Mcu)は,圧縮支持点を圧縮側袖
も曲げ抵抗要素になる。
壁外端として,軸力と柱全主筋と一部のあばら筋が曲げ
謝辞:実験に際して大和征良氏(日本ヒルティ株式会社)
に抵抗すると仮定する。NH 型では,端部を除いた袖壁
の協力を頂いた。ここに記して感謝を申し上げる。
長さ内にある4組(8 本)が曲げに抵抗するあばら筋本数
(有効あばら筋本数 ns)とした。また,WI 型では引張側袖
参考文献
壁端部直下のあばら筋 1 組も含めた。さらに,WOL 型
1)
では引張側袖壁直下の外側の 1 組も含めた。
近藤龍哉,伴幸雄,加藤三晴,山本泰稔:既存建物
袖壁付き柱のせん断補強に関する実験的研究,コン
表-5 に計算結果を記す。(Mcy)は柱主筋とあばら筋の
クリート工学年次論文集,Vol.32,No.2,pp.997-1002,
降伏強度(表-3 参照)に対する計算結果で,(Mcu)は最大強
度に対する計算結果である。WOL 型を除いて Mcy<Mt
2010.7
2)
震診断基準同解説,日本建築防災協会
<Mcu である。WOL 型のひび割れ状況(写真-8)を見ると
引張側で,さらに多くのあばら筋が抵抗要素に加わる様
2001 年改訂版既存鉄筋コンクリート造建築物の耐
3)
にひび割れている。これが,実験値との差異に関わった
-1350-
2001 年改訂版既存鉄筋コンクリート造建築物の耐
震改修設計指針同解説,日本建築防災協会