温暖化に伴う梅雨活動及び降水変動の 特性と影響 創生テーマD i-a 気候変動に伴う気象災害リスクの評価 岡田靖子・竹見哲也・石川裕彦 京都大学防災研究所 2014年9月5日(金) RECCA-S8-創生D研究交流会 @リモート・センシング技術センター はじめに Kanada et al. (2012)等 ・将来、梅雨前線の北進が遅れる ・梅雨後期、西日本周辺で日降水量が現在と比べて将来著しく増加 梅雨前線の形成・特徴 気団との境界 強い水蒸気・相当温位の勾配 降水帯の南方の亜熱帯高気圧 モンスーンによる水蒸気供給 ジェット気流の位置 目的 梅雨期の大気場を調査することで、この時期の降水全般の特性を理解する。 データ モデル : MRI-AGCM3.2S 期間:(現在) 1979 - 2003年、 (将来) 2075 - 2099年 降水量 : Aphro_JP {0.05°格子間隔、 1979 – 2003年} 降水量分布 梅雨最盛期の降水量空間分布図 APHRO_JP: 1979-2003 ※6月の平均値 20km: 1979-2003 60km: 1979-2003 20km: 2075-2099 60km: 2075-2099 梅雨前線 MRI-AGCM3.2S 梅雨前線の位置 →強い水蒸気・相当温位の勾配 Matsumoto et al. (1971), Ninomiya and Akiyama (1992) 梅雨前線の位置は、925hPaの湿潤静的エネルギーを用いて調べる。 湿潤静的エネルギー: h = gz + C pT + Lq 湿潤静的エネルギーは定圧比熱( C = 1004(J / K / kg ) )で割ることで、相当温位に対応する。 現在 将来 F-P p 5月 6月 梅雨前線 MRI-AGCM3.2S 梅雨前線の季節変化 3 現在気候では,5月から6月にかけて,梅雨前線 は約5度北進 7月はさらに2~3度北進し,その勾配は徐々に弱 まる 将来気候では,5月・6月は30N以南での勾配が 強く,7月になり35N付近への移動が見られる. 0 5月・6月は現在に比べ前線が南に停滞 するが,7月になり急激に北進する. 6 現在 black:5月,green:6月,yellow:7月 ※lon=130-140Eで平均したh/Cpの南北傾度 6 梅雨前線の将来変化 将来 3 0 25N 35N ※negative: 梅雨前線の位置に対応 ※125-142E方向に平均 水蒸気輸送 MRI-AGCM3.2S 梅雨前線への水蒸気輸送は,1)南西モンスーン,2)太平洋高気圧の西端からめぐる 流入によると主に知られている.これにより梅雨前線帯へ水蒸気が供給され,降水の 強化,また梅雨前線が維持される. 1 925 hPa v v ⋅ qdp q = 水蒸気フラックス: ∫ 200 hPa g 水蒸気フラックス、収束/発散、可降水量分布図:将来気候 6月 7月 6月,中国華南から西日本・南日本において南西風 が卓越 7月は太平洋高気圧の張り出しにより,特に西日本 では南西風が強化 Contour : 可降水量(mm) Color : 水蒸気fluxの収束/発散( kg m–2 day–1) ※925~200hPaの積分値 水蒸気輸送 MRI-AGCM3.2S 梅雨前線への水蒸気輸送は,1)南西モンスーン,2)太平洋高気圧の西端からめぐる 流入によると主に知られている.これにより梅雨前線帯へ水蒸気が供給され,降水の 強化,また梅雨前線が維持される. 1 925 hPa v v ⋅ qdp q = 水蒸気フラックス: ∫ 200 hPa g 水蒸気フラックス:将来変化 6月 7月 6月,インドシナ半島の南西風,フィリピンン南風により収束した湿潤な空気が日本の南 方に広がっている 7月は太平洋高気圧が本州の南東沖で強化 7月の太平洋高気圧の強化により,特に西日本に水蒸気が供給されやすくなる. 梅雨後期の降水量増加 MRI-AGCM3.2S 4月-8月日本における降水量(上図)・ 水蒸気flux収束(下図)の時系列 ※20km: black ※現在: 点線, 将来: 実線 ※20km: black, 60km: green ※現在: 点線, 将来: 実線 本州・九州梅雨入り目安 ※lon=125-142E, lat=25-42Nで領域平均 大規模場における変化 MRI-AGCM3.2S 対流圏中層の暖気移流と上昇流の関係(Sampe and Xie, 2010)から温暖化時の梅 雨降水帯の変化について調べる。 500hPaの気温・風の分布: 6/25-6/29 現在 将来 Contour : 風速の絶対値 Color : 気温、ベクトル : 風 Contour : 500hPa水平温度移流(K/day) Color : 上昇流/下降流(Pa/s)。125-142°Eで平均。 500 hPa水平温度移流と上昇流の季節進行 現在 5/1 将来 6/1 7/1 8/1 5/1 6/1 7/1 8/1 大規模場における変化 MRI-AGCM3.2S 対流圏中層の暖気移流と上昇流の関係(Sampe and Xie, 2010)から温暖化時の梅 雨降水帯の変化について調べる。 − V ⋅ ∇T = −u ∂T ∂T −v = Zonal + Meridional ∂x ∂y 500 hPa水平温度移流と上昇流の季節進行 現在 将来 5/1 6/1 7/1 8/1 大気安定度 大気安定度(6月): MRI-AGCM3.2S d (h / Cp ) dp 現在 ※正が不安定を示す。 将来 西日本と中国華南・沖 縄地方を含む南方で、 将来、より不安定にな る傾向にある。 将来変化 6月 将来,日本列島上で特に夏季に不安定の傾向 7月 8月の降水と環境場 ※気象庁 ≧130mm/day(8月) 将来気候 2014年8月の豪雨は,北陸・東海・近畿・中国・ 四国など広範囲にわたって被害を及ぼした. 将来気候で,日降水量130mmを超える 頻度の分布(気候値) 将来西日本で極端な降水が起こる機 会が増える傾向にある. 2014年8月の環境場と 温暖化に伴う8月の環境場の変化は? 8月の降水と環境場 ※気象庁 2014年8月に不順な天候をもたら した要因(概念図) ※気象庁異常気象分析検討会 (9月3日発表) ※気象庁 8月の降水と環境場 梅雨前線の季節変化:将来気候 水蒸気fluxと可降水量:将来気候 6 3 0 black:5月,green:6月,yellow:7月,red:8月 ※lon=130-140Eで平均したh/Cpの南北傾度 25N 西日本の可降水量 は現在と比較して約 10mm増加傾向 35N 梅雨前線は7月から8月にかけて40N付近に存 在. 西日本では可降水量が約40mmと非常に湿潤 太平洋高気圧の西端を回り込むように西日本 に湿潤大気が運ばれている 東シナ海・日本海側で大気はより不安定を示 す. 2014年8月の環境場は,地球温暖化に伴う 環境場の変動と酷似している. 大気安定度:正が不安定 まとめ 梅雨前線北上の遅延 • 6月の梅雨前線は日本列島の南方で停滞 • 下層の水蒸気も同領域にて収束が集中する • 7月、太平洋高気圧の強化・北上と共に前線も北上し、西日本での水蒸気 収束が増加 • 500 hPa暖気移流の中心も梅雨後期(7月)にシフト 梅雨後期における降水量の増加 • 水蒸気の供給の増加,大気不安定の強化により対流活動が活発になり, 梅雨後期の降水量は増加 • 日降水量130mmを超える降水も西日本で将来増加傾向 2014年8月の環境場との比較 • 梅雨前線と思われる南北勾配が40N付近に存在 • 7月に続き太平洋高気圧の西端を巡る風により湿潤な空気が供給 • 日本海側の大気不安定強化 → 地球温暖化に伴う大気場の条件が,2014年8月の環境場に酷似 温暖化の進行に伴い,同様な現象が今後起こる可能性も推察出来る.
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