マイクロ ~ コンピュータMAーー号の試作

島根大学教育学部紀要(自然科学)第10巻
5∼8頁
昭和51年12月
マイクロ1コンピュータMA−1号の試作
福 間
彰*
Ak1ra FUKUMA
Tr1a1Manufacture of The M1crocomputor MA−1
1 まえがき
数個の小さなLSI(大規模集積回路)より成るマイク
IRQ Interrupt Request
割込みを生じたことをMPUに知らせる。
Reset:
ロ・コンピュータまたはマイクロプロセッサが市場に現
この入力は,Power downの状態からMPUを
れたのは1971年未で,米国インテル杜のコンピュータ
「eSetまたはStartするのに使う。
醐I’Non−Maskab1e Interrupt
MCS−4がはじめである。その後5年を経て,第一世
代と呼ばれる4ビット並列処理方式から8ビット並列処
理方式へと進み,機能的にも割込処理や周辺機器との接
電源停止のような最優先の割込みに使用される。
続の面で格段に進歩し,第二世代のマイクロ・コンピュ
BA Bus Ava11ab1e
ータと呼ばれ,プログラム内蔵形の計算機の分野で,底
通常は1owに在り,highになるとMPUが活
辺部を受持つと共に,知能素子として計測制御関係部門
動を停止し,アドレス。バスが利用できることを他
を中心に,各種工業機器に不可欠な部品として,杜会生
のMPUなどに知らせる。多プロセサ系に利用で
活の隅々にまで活用されるようになった。
きる。
ここに紹介するコンピュータは,著者が昨年,文部省
TSC Three_State Contro1
の情報処理教育に関する内地研究員として東大工学部元
MPUのアドレス・ラインとR/Wラインを
岡研究室にお世話になった折に組立てたもののハードウ
OFF,すなわち高インピーダンスにする。D1〉[A
エアの概要であり,将来,制御実験の学習に役立たせる
(D1rect Memory Address)に利用される。
装置の一部として組立てたものである。
DBE.Data Bus Enab1e
2 構 成
1MPUのデータ。バスに対しthree−state制御信
MA−1号を組立てるに際し,割込処理や周辺機器と
の接続,命令の豊富さなどの点で,当時最も進んだ部類
に属するものと考えられたモトローラ杜(米)の中央処
理機能素子(CPU)1MC6800を中心に,第1図のような
計算機システムを構成した。
(1)
MC6800の端子名とその機能は次の通りである。
VMA:Va11d Memory Address
アドレス曲バスに正しいアドレスが存在すること
を周辺装置に知らせる。
R/W:Read/Wr1te
MPUがRead(high)の状態であるかWrite
(1ow)の状態かを周辺と記憶装置に伝える。
*島根大学教育学部技術研究室
Ha1t.1owレヘルのときMPUは活動を停止する。
号を与える。h1ghのときbus dr1verをenab1e
にする。
〆1,〆2:互に重なることのない2相のクロックであ
り,MC6800ではオペレーション周波数がO.1∼1.O
MHzである。
A0−A15:Address Bus
D0−D7:Data Bus
将来,メモリの追加または周辺素子の接続が必要の際
バス容量の増大に対処できるよう,アドレス端子①デー
タ端子共にMPUの出口でそれぞれバッファを通し,
システムのアドレス。バス,データ⑤バスに接続する方
式をとった。しかし, MPUの各端子は,それぞれ
1TTLの接続容量があるので,8∼10個のMOS−LSI
をMPUとバッファの間に直接並列接続することは勿
6 マイクロ1コンピュータMA−1号の試作
論可能であるが,アドレス⑧ゼナレータにTTLを使用
A】〕⑪RESS
CONTROL DATA
BUS
遍S BUS
した為,MPUの出口で直ちにバッファを入れること
7408㌔’4 MPU 74⑪8
にした。バッファには, アドレス④ラインが MPUか
らアドレス・バスヘ向う1方向性であることを考え,
w狐
杣D日匡S
COm’
ROL
^o R/w
’R固ET
嚇 RESET
E㎜唖ヒ此
舳肌丁
嘔岬冊H
IRQ
肌丁 肌丁&
口0
TTL7408を4個用いてアドレス。バッファを形成し
た。データ・バスとMPUの接続は,データ転送の双
方向性を考え,three state出力を持つTTL8T97を3
個用いた。制御信号端子のうちVMA(Va11d Memory
Address)とR/W(Read/Write)は,これらに接続
EXT酬
0ER
φ1 φ2
6871A
φ2㎝mST
EUS
.
側、φ2,D7
φ2(TTLl
CLOCKlAl
φ工,碓
R O M
VMAφ2R/W
舳^7
^8伽 D⑭^14 ‘
F E OO
一FEFF
される並列素子数が多いので,アドレス・ラインと同様
^一5 07
にTTL7408をバッファとしてコントロール・バスに接
RAM#O
VMA.φ2
^トA6
続した。
R/W
^7
FF On
柵^9 皿O
一FF7F
舳 o
舳 皿7
クロック戸1,〆2はMPUの速度性能に合わせて開
ADDRES S GEN
WA・.2・R/W
発されたM6800システム用6871Aを利用した。発振周波
月ト^2
ムト畑oo
舳 1
FFF8−F FB
数はMPUの許容最大周波数1MlHzである。
A15 皿7
FFFE}FFFF
プロクラムの読込みに必要なロータは,便宜上モトロ
R/W,VMA,φ2
へ0 旧舳㎝ MODuLEA15 皿“
OOOO
ーラ杜のROM(プロクラムMIKBUGおよびMINIB
’07FF
(2)
’
D7
ACIA
UGをストァしたもの)を用い,テレタィプと接続に便
^0
利なMINIBUGを使うよう仕様に合わせてアドレス・
蘭
FCF4
VMA・φ2
R
A]4 D0
}FCF5
A15 ’ D7
ゼナレータ回路を用意した。
CLOCK
記憶素子には,部品の購入,短い開発期間,フロッピ
搬 1MLAC
ーディスクとの連繋の都合上,モトローラ杜の2Kバイ
トRAM/ROM MODULEを利用し,計算機へのデ
弧ぎR TTY
旧〕
(MC6800−MA1の構成)
第1図
一タの出し入れは,研究室にあるテレタイプおよび編集
て㌣㌦
用ミニコノ(IMLAC)を利用することにした。簡単な
切替スイッチと接続用LSI(ACIA)を通して計算機シス
D Q
テムに結合し,テレタイブまたはミニコンからデータを
G
出し入れすることができる。
回路および1命令実行回路を用意し,ハードウェア調整
300Ω
発光ダイオード
403
十5V
20Ω 100Ω
また,操作とデハックのため,RESET回路,HALT
(3)
十3V
工
・。・↓⑳“’一175蜘
02.VMA
の段階では,第2図に示すようなフォトダイオードを用
「二二 7一
いるビット表示回路を利用した。
このシステムの詳細を第3図に示す。
3 各 論
第2図 (BIT表示系)
のレジスタを,一般のメモリの場合と同様に番地指定す
ることにより,容易に実行できる。
部分回路の設計および機能について述べる。
3④2 アドレス・ゼナレ“タ
3・1 番地割当
MPUがRESETやSWI(Software Interrupt)信
各素子のメモリまたはレジスタに割当てた番地の内容
号を受取った時に発するアドレスと,ローダや割込みの
を第1表に示す。表申,x印はhigh(1),1ow(O)いずれ
プログラムの先頭番地との対応を第2表に示す。これに
の状態をも取りうることを示し,太実線で囲んだ部分の
対応する真理値表(第3表)から次の論理式が得られ
状態をヂップ選択あるいはデコードに利用した。なお
る。
MC6800システムでは入出力機器への読出し,書込み
は,それらとMPUを接続する接続用LSI素子(PIA
Per1phera1Interface Adapter,ACIA Asynchr−
onous Commun1cat1ons Interface Adapter)内の数個
DO=A2.AO=A2+AO,D1二D2二D7=AO.A2
D3=D5=AO, D4=AO④A2・A1
D6=1
彰
福 間
7
第1表システムの番地割当
\アドレス’ビット
15 14 13
素子 \
番地 (16進数)
12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0
XXXXXXXXXX
0000 ∼ 07FF
2K BYTE STATIC
0 0 0 0 X X
ACIA
1 1
1 1 1 1
0 0 1
1 1 1 0 1 0 X
FCF4 ∼ FCF5
ROM
1 1
1 1 1 1
1 0 X
X X X X X X X
FEOO ∼ FEFF
RAM#O
1 1
1 1 1 1
1 1 0
X X X X X X X
FFOO ∼ FF7F
RESTART
1 1
1 1 1 1
1 1 1
1 1 1 1
1 1 X
FFFE∼ FFFF
SWI
1 1
1 1 1 1
1 1 1
1 1 工 1
0 1 X
FFFA∼FFFB
IR
1 1
1 1 1 1
1 1 1
1 1 1 1
0 0 X
FFF8 ∼FFF9
RAM
注x:0または1,1 l:ChiPSelectまたはDecodeに利用
第2表 アドレス㊥ゼナレータの入出力信号
これによりアドレス④ゼナレータ回路を第3図に示すよ
うに定めた。
アドレス・バスMPU出カ
MPU 入力
第3図のクロック(B)において,可変抵抗器R1,
FFFE,{FFFF
Restart
R2は,それぞれ発振周波数がテレタイプ(TTY)の定
麟含
Software InterruPt
める110〔ポー〕>16=1,760〔kHz〕=0570〔mSec〕とな
るように設定する。ただしC1ock Division=16とする。
隅き
InterruPt
なおR1,R2の調整はシンクロスコープによる調整で十
アドレス・ゼナレータ入出力真理値表
、 第3表
2
l
O
7
6
5
4
3
2
1
o
l
1
l
O
1
1
l
l
1
l
l
O
5
7
1
d
8
l
1
l
fi
' /¥; )
9
15 14
:r ::'- :I l (
l/7. ・ / 7.)
('f
T':l- f) ; l (7
ゼナレータ出力
FED6
FF40FF50
3④3 ACIAデータ転送用クロック回路
1
l
l
l
1
1
l
1
1
l
O
l
o
1
1
o
1
l
l
l
l
O
1
O
l
l
l
l
l
l
l
1
} Restart
l
l
l
1
l
O
l
1
O
1
O
O
O
o
O
O
l
1
1
l
1
o
o
O
1
1
l
l
1
l
1
l
} Software Interrupt
o
o
o
O
1
o
1
O
l
o
O
l
l
1
l
l
} Interrupt
分できる。MA−1号の場合,R1,R2を垂直なカード
3・5 ファン・アウトについて
の上部に組込むことで外部からの再調整を容易ならしめ
マイクロ・プロセッサMPUに接続できる負荷は,
た。もし周波数の安定を更に必要とする場合は,水晶振
VMA,BA以外の端子の場合,130pFおよび1TTL負
動子を用いればよい。
荷に規定されている。第4図に示すように,負荷として
3・4 データ自パス・エクステンダ
Mos−LSIを接続する場合は,静電容量およびシンク電
情報転送時のゲート信号には,Write,Readのそれ
流,出力電圧の制限により,ファン・アウトは8∼10で
ぞれのラインに対しR/W.VMA・ρ.2,R/W・
ある。MA−1号では,前述のCとく,MPUの出口で
VMAψ2を用いた。ここでR/WとVMA。〆2と
アドレスおよびVMA,R/WラインにはTTL7408
のANDを取ったのは,雑音などによる誤動作を防ぐ
を、テータ1ライノにはTTL8T97をハッファとして入
ためであるが,開ゲート条件が少し厳しすぎるので,
れており,しかもメモリには2Kバィト・RAMモジュ
R/W信号だけで済ませることも考えられる。
ールを用い,モジュール内のインタフェースにはTTL
8
マイクロ・コンピュータMA−1号の試作
・■O.■一・不■一■・■0■■・”m0・甲■・■m一一一一千一一一一一一一一一寺 VMA
1 1 1 I
l R/W,A0∼A15
{搬鮒淑
⊂工p…
25μA(1)
一200μA(0)
/撚㌫) {㌣肌)
8T 26
{斗ざ蝋)
2.5μA
自{燃惜<75pF
2102−1
2KBYTE
T T L
MEMORY x8
/撒111 舳 桝
一100μA(1)
1.6肌A(O)
{
<15pF
ADDRESS
GEN
{完蝋11)
10μA(off)
8T26
/搬二、、)
8T97
/季漱、)
r25μA(1)
λ一200μA(O)
/撚11)
D O∼D7
第4図
(最大入出力電流および静電容量)
8T26が使ってあるので,このシステムの許容バス容量
が要求されようが,非専門家でも踏込んで行ける世界が
は極めて大きいことになる。各素子間の許容シンク電
ここには存在するように思う。そしてソフトウェアの世
流,出入力電流,漏洩容量は第4図の通りである。
界が広大に存在するのに気が付く。ソフトウェアの世界
4 電源その他
はもはや電子工学とは無縁の世界であり,言語学あるい
は数学の世界である。
電源には高砂製作所製pUP5−3(端子電圧4∼6
MA−1号を利用した制御学習装置については次の機
VDC,最大負荷電流3A) 1台,PUP12−1(11∼
会に述べたい。
13VDC,最大負荷電流1A)…2台,各ファン付を用い,
終りに,この研究を通じ,終始暖かい御指導を頂いた
基板にはKEL CORP MODEL5710−412−044を2枚
東大・電気工学科・元岡達教授に深い感謝を表すると共
用い,素子間はラッピング接続を行った。電源低抗を十
に,田中英彦助教授をはじめ同研究室の職員,院生各位
分低くすることが発振を防ぐための大切な要件であり,
の御助言,御協力に深く謝意を表する次第である。
電源回路には十分な太さの導線を用いると共に,必要個
所には周波数特性を考えた上で適当なコンデンサを並列
参 考 文 献
接続しなけれぱならない◎
5 あとがき
MA−1号を組立てて使用した結果,マイクロ⑤コン
1)M6800Systems Reference and Data Sheets
(MOTOROLA Sem1conductor Products Inc,U
S.A.)1975.
ピュータ構成素子の出現により,単にマイクロ・コンピ
2)MCM6830L7MIKBUG/MINIBUG ROM(MO−
ュータを組むだけならば,仕様書・手順書に従って組め
TOROLA Sem1cond,uctor Products Inc,U S A,
ぱ何人でも,回路に関する専門知識はそれほど必要とし
EngmeerNote100)1975
3)M6800M1croprocessor App11cat1ons Manua1
(MOTOROLA Sem1conductor Products Inc,U
ないように思われる。調整についてもラジオやテレビを
調整するほどの専門的知識は要しないようである。勿論
LSIの機能を十分に駆使して計測制御機器を充実したい
場合などは当然電子部品や電子回路に関する専門的知識
S.A.)1975.
CONNEC1TOR
TTY
12
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RTS
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R/W V DD
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J7 ・4
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R2 74121 - - -1
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D1
AO
D2
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A3
A4
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Al 5 A6
A7
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A7 DD67
A8
A9 C S
cs
cs
CS Vcc
R/W
IDO
r l I ,L
SINGLE CYCLE INSTRUCTION EXEcuTION
'v'
A1
D3 T A73 D4 AT "^8
'A5 D 4
,A6 D 5
8 o
A1 4 AS
i
l
I
A13
Al 2 A1AO
OO : TTL7400
02 : TTL,7402
03 : TTL7403
Vss A11
08 : TTL 7408
20 : TTL 7420
1T)
pU : MC6soO(MICROPROCESSING UNrr)
RAM :MCM6810L1 128X8-BIT RANDOM ACC1≡:SS MEMORY
ACC
NLY MEMORY}
ROM :MCM6830L7(1024X8・BIT READ ONLY
ACIA :MC6850L(ASYNCHRONOUS COlvlMUN
MUNICATIONS
t
--- ---:・J__
BUS EXTENDER
J7 -6
o
+5
J7-7
320
+5 ,-12 4N33
o
lOK
1 ,
L1-'1'1-
o
t
l
r
U o
J・ lOK 74L74
- HALT +5
2
8T97>(2 2---,3
8
R/W・ VMA ・ c2
o
DBE VMA N.C M N T R/W P BA DO U vcc
oo
8
R/W, Vh・1A ・ c2
CLK
VMA o AO ,c2
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A2
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