ノート4

2014年度
開発経済学2
(後期)
武蔵大学
担当:東郷
第4回:
2014年10月6日
これは何処の何でしょうか?
(c) Ken Togo
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本日の内容
1.リカード・モデルの背景
2.リカード・モデルに対する批判
3.自由貿易の下で、貿易相手国の生産性が
上昇すると、どうなるか?
4.現実はどうなっているのか?
(c) Ken Togo
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1.リカード・モデルの背景
• リカードは成功した株式仲買人。
• 彼がリカード・モデルを示したのは、19世紀初めの以下の著作
Ricardo, David (1817), Principles of Political Economy and
Taxation、(『経済学および課税の原理』竹内謙二訳, 東京大
学出版会 , 1973)
• 当時、イギリスでは穀物法(Corn Law)という法律が外国から
のトウモロコシの輸入を制限していた。これは、国内の穀物の
価格を引き上げ、地主層に利益をもたらしていた。
• 他方、当時のイギリスは産業革命(1760年代から1830年代ま
で)の最中であり、工業製品について他国より優位な立場に
あった。
(c) Ken Togo
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• 穀物法を廃止し、自由貿易を実施することは、勃興
しつつあった産業ブルジョワジー(資本家)の利益と
なった。
• このような背景のもと、株式仲買人であったリカード
は自由貿易擁護の理論的根拠となるリカード・モデ
ルを発表する。
(c) Ken Togo
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2.リカード・モデルに対する批判
• リカード・モデルに対しては様々な批判もある。
①技術の水準が変化しない静学的なモデルである。(e.g., オッ
クスファム・インターナショナル 2006)
⇒経済発展の問題を扱うには不適切
②現実には特化することで豊かになっている国は少ない。成長
をしている国は製造業品の輸出シェアが高い(e.g., Rodrik
2006)
⇒バナナに特化して先進国になれるのか?
現実の政策にいかせるのか?
(c) Ken Togo
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3.自由貿易の下で、貿易相手国の生産性が
上昇すると、どうなるか?
• リカード・モデルは閉鎖経済と自由貿易を比較した
にすぎない。
• もし、自由貿易のもとで貿易相手国の生産性が上
昇したらどうなるか?(e.g., Samuelson, 2004)
• 貿易相手国の生産性の上昇は、自国の厚生水準を
下げる可能性がある。
(c) Ken Togo
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• 前回の生産性の仮定は、自国が小麦生産に比較優位があり、他国がコン
ピューター生産に比較優位がある、というものであった。
表1ーa Unit Labor Requirements
(製品1単位生産に必要な労働量、単位:時間)
Computer
Wheat
a LW = 3
Home a LC = 6
*
*
Foreign a LC = 1
=2
a LW
• もし、自国が技術革新を行い、コンピューター生産の技術が外国と同じに
なったら?
表1ーb Unit Labor Requirements
(製品1単位生産に必要な労働量、単位:時間)
Computer
Wheat
a LW = 3
Home a LC = 1
*
Foreign a * = 1
=2
a LW
LC
(c) Ken Togo
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• この結果、自国はコンピュータに比較優位を持つことになる。
表1ーb Unit Labor Requirements
(製品1単位生産に必要な労働量、単位:時間)
Computer
Wheat
a LW = 3
Home a LC = 1
*
Foreign a * = 1
=2
a LW
LC
以前は
a 1LC
a
1
LW
2
a LC
1
6
 であったが、いまは 2 
a LW 3
3
となった。技術革新により、より
多くの財を消費できるようになった。
QW
L
aLW
グラフ1:技術革新後の生産可能性フロンティア
2
aLC
2
aLW
QC
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• 閉鎖経済では、生産性の比が相対価格となったので、貿易をする前の自
国の相対価格は、以下のとおりになる。
2
a LC
PC 1


2
a LW PW 3
• 外国は何も技術革新が生じていないので、前回と同じく以下のとおり。
*
a LC
PC* 1
 * 
*
a LW PW 2
• 貿易を開始したあとの相対価格が、この間に収まるとする。例として、以下
のケースを考える。
PC PCWorld PC*
 World  *
PW PW
PW
1 5 1


3 12 2
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自国はコンピューターに比較優位を持つようになったので、コンピューターに
特化し、貿易後の相対価格でコンピューターと小麦を交換することにより、技
術革新後の閉鎖経済の状態よりもさらに多くの消費が可能になる。
グラフ2:技術革新後+貿易後の自国の消費可能フロンティア
QW
L
aLW
PCWorld
5

PWWorld 12
QC
(c) Ken Togo
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他方、外国は技術革新が行われないので、生産可能フロンティアはそのま
ま。そして、比較優位も小麦の方に移ったので、小麦に特化し、貿易後の新
たな相対価格で小麦を輸出し、コンピューターを輸入する。
明らかに消費可能性フロンティアで示された消費可能領域が狭くなってい
る。
グラフ3:外国の貿易後の消費可能フロンティア
QW*
L*
*
a LW
PCWorld
5

PWWorld 12
QC*
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• 以上のモデル分析より、貿易相手国が技術革新を行った結
果、自国が比較優位を持つ財が変化すると、以前より厚生
水準(消費量)が低下するケースがあることがわかった。
• これは、例えば米国が自動車生産に比較優位を持っていた
ものが、日本の技術革新により、日本が自動車生産に比較
優位を持つようになると、米国の厚生水準が下がる可能性
があることを示している。
• 同じことは、日本と中国の間にも起こる可能性がある。
• それでは、技術革新を生じさせるものは何か?それについて
リカード・モデルは何も説明していない。
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4.現実はどうなっているのか
• リカード・モデルは比較優位を持つ財に特化し、その財を輸出す
ることで厚生水準は上がることを示している。
• しかし、Rodrik(2006)は現実には特化することで豊かになって
いる国は少ないことを指摘している。
• 特に、一次産品に特化し、成長をしている国は殆どいない。(例
外的な国、ボツワナ。しかし、ボツワナもダイヤモンド原石の輸出
から、ダイヤモンドを研磨してからの輸出へとシフトしつつある。)
• 先進国で過去に貿易を規制してこなかった国は殆どない。英国、
米国、日本も規制してきた。
• しかし、IMFや世界銀行の条件付け融資では、しばしば貿易規
制の解除が条件としてつけられる。
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下のグラフはImbs and Wacziargが世界データを分析したもの。それによ
れば、低所得から中所得へ移る際にほとんどの国が製造業の多様化を行っ
ていることが確認された。
製
造
業
品
の
多
様
化
つまり、世界データは何らか
の財に特化して所得が上昇し
たケースが殆どないことを示
している。
→
所得→
Imbs and Wacziarg (2003)
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練習問題
• 自国が小麦生産について技術革新を行い、
の値が3
World
P
から2へ低下した。その結果、貿易後の相対価格も C
2
World
PW
となった。自国は技術革新前に比べ、消費可能量は増えたと
いえるか? グラフを用いて答えなさい。
表1ーa 技術革新後のUnit Labor Requirements
(製品1単位生産に必要な労働量、単位:時間)
Computer
Wheat
a LW = 2
Home a LC = 6
*
*
a LW
Foreign a LC
=1
=2
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参考文献
オックスファム・インターナショナル 編(2006)、『貧富・公正貿
易・NGO : WTOに挑む国際NGOオックスファムの戦略 』、
渡辺龍也訳、新評論.
Imbs, Jean and Romain Wacziarg (2003), “Stages of
Diversification,” American Economic Review, 93:63-86.
Rodrik, Dani (2006), “Industrial Development: Stylized
Facts and Policies,” mimeo.
Samuelson, Paul A. (2004), “Where Ricardo and Mill Rebut
and Confirm Arguments of Mainstream Economists
Supporting Globalization,” Journal of Economic
Perspectives, Vol.18, No. 3, pp.135-146.
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