15:09 LC-MS/MSを用いたフェニトロチオンの分析 竹峰 秀祐(環調研修所

LC-MS/MS を用いたフェニトロチオンの分析
○竹峰秀祐 1,2 、四ノ宮美保 3 、近藤明 2
環境省 環境調査研修所, 大阪大学大学院 工学研究科,3 埼玉県立大学
Analysis of Fenitrothion by using LC-MS/MS. by 1,2 Shusuke TAKEMINE, 3Miho SHINOMIYA, 2Akira KONDO, (1 The
National Environmental Research and Training Institute, 2Graduate School of Engineering, Osaka University, 3Saitama
Prefectural University)
1
はじめに
ゴルフ場で使用される農薬等による周辺環境の汚染
と動植物への被害の未然防止を図るため,平成 2 年度
に”ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止
に係る暫定指導指針”が制定され,ゴルフ場排出水中の
農薬の濃度に指針値が設定された。平成 22 年度に暫定
指導指針の改正に伴い,分析法についても大幅な見直
しが行われ,LC-MS/MS を用いた一成分析法が示され
た 1)。
LC-MS/MS を用いた一成分析法の対象となっている
フェニトロチオンは,以前の検討においてクロマトグ
ラム上で明瞭なピークが検出されなかった 2)。本研究
では,フェニトロチオンについて詳細に分析条件を検
討し,LC-MS/MS を用いた分析上での留意点について
知見が得られたため報告する。
1.
方法
フェニトロチオン(Dr.Ehrenstorfer Gmbh, >98.5%)25
mg を 50 mL のアセトンで溶解し,更にメタノールで
50 倍に希釈したものを標準溶液とした。LC-MS/MS は,
Xevo TQD システム(Waters ACQUITY UPLC H-class Xevo TQD)および 3200 Q TRAP システム(SHIMADZU
LC-20AD – AB SCIEX 3200 Q TRAP )を用い,それぞれ
のシステムでフェニトロチオンの分析条件を検討した。
2.
2.1 MS 条件の検討
インフュージョン測定を行い,分析に適したトラン
ジシ ョン イ オン の検 討を 行 った 。 標 準 溶液 を 50%
10mM 酢酸アンモニウム水/メタノール溶液で希釈し,
トランジションイオン検討用の溶液とした。
MS 条件を最適化するため,フローインジェクショ
ン分析を行った。標準溶液を 50%水/メタノール溶液で
希釈し,MS 条件検討用の溶液とした。移動相は A 液
に 2 mM 酢酸アンモニウム水溶液,B 液にメタノール
を用い,アイソクラティックで B:50%で送液した。
2.2 検量線の作成
2.1 で検討した MS 条件を用い,両システムで検量線
の確認を行った。標準溶液を 1.0,2.0,4.0,10,20, 40,
80 ng/mL となるよう 50%水/メタノール溶液で希釈し,
検量線用溶液とした。
移動相は A 液に 2 mM 酢酸アンモニウム水溶液,B
2
液にメタノールを用い,グラジエント分析を行った。
流量は 0.2 mL/min とし,グラジエント条件は,B:20→
90% (0→13 min),B:90%(13→23 min),B:20 %(23.1→28
min)とした。LC カラムとして,XevoTQD システムは
ACQUITY UPLC HSS T3(1.8 μm,2.1×100 mm),3200 Q
TRAP システムは L-column2 ODS(3 μm, 2.1×100 mm)を
使用した。試料の注入量は 5 μL とした。
2.3 移動相中の酢酸アンモニウムの濃度とフェニトロ
チオンの感度
移動相中の酢酸アンモニウムの濃度がフェニトロチ
オンの感度にどのような影響を与えるか確認するため,
酢酸アンモニウムの濃度を 0(無添加),1, 2,3, 5,10 mM
となるように調整し,それぞれの溶液を移動相の A 液
として用い,標準溶液を 50%水/メタノール溶液で 20
ng/mL となるよう希釈し分析を行った。その他の分析
条件は 2.2 と同様とした。
3. 結果と考察
3.1 MS 条件の検討結果
検討を行った結果,Xevo TQD システムでは 278.0 >
246.0,278.0 > 124.9,および 278.0 > 108.9 のトランジ
ションイオンが確認され,3200 Q TRAP システムでは,
278.1 > 125.1,278.1 > 109.2,および 278.1 > 79.0 のト
ランジションイオンが確認された。なお,標準溶液を
50%水/メタノール溶液で希釈しインフュージョン測定
を試みたところ,50% 10mM 酢酸アンモニウム水/メタ
ノール溶液と比べると感度が大きく減少した。
確認されたトランジションイオンについて,両シス
テムで MS 条件を最適化した結果を Table 1,
2 に示す。
Table 1 MS analysis conditions of Xevo TQD system
Ionization
:
ESI(+)
Capillary voltage
:
3.5 kV
Source temp.
:
150℃
Desolvation temp.
:
450℃
Cone gas flow
:
50 L/Hr
Desolvation gas flow
:
1000 L/Hr
Collision gas flow
:
0.15 mL/min
MRM Transition [m/z]
Cone Volt. [v]
Col.Energy [v]
278.0 > 246.0
38
16
278.0 > 124.9
38
24
278.0 > 108.9
38
20
Table 2 MS analysis conditions of 3200 Q TRAP system
:
ESI(+)
Turbo gas temp.
:
700 ℃
:
3500 V
Curtain Gas
:
35 psi
Ion Source Gas 1
:
70 psi
Ion Source Gas 2
:
70 psi
Spray voltage
15000
Peak area
Ionization
10000
Xevo TQD system
5000
3200 Q TRAP system
0
DP [v]
EP [v]
CE [v]
CXP [v]
278.1 > 125.1
41
6.5
25
4
278.1 > 109.2
41
6.5
23
4
278.1 > 79.0
41
6.5
43
4
MRM Transition [m/z]
ク溶出時間の酢酸アンモニウム水溶液とメタノールの
混合割合が感度に影響する可能性も考えられる。
3.2 検量線の作成結果
検量線用溶液の分析例を Fig.1 に示す。感度が高かっ
た 278.0 > 124.9 (XevoTQD システム)、278.1 > 125.1
(3200 Q TRAP システム)を定量用イオンとして検量線
を作成した結果,
両システムとも R2 > 0.995 を示した。
今回の分析条件および濃度範囲では,フェニトロチ
オンの定量性に大きな問題は無いと考えられる。
Fig.1 Mass chromatogram of Fenitrothion (20 ng/mL)
analyzed by 3200 Q TRAP system.
3.3 移動相中の酢酸アンモニウムの濃度とフェニトロ
チオンの感度の検討結果
検討結果について Fig.2 に示す。横軸が酢酸アンモニ
ウムの濃度を示し,縦軸がピークの面積値を示す。な
お,システム毎にピーク面積の計算方法が異なるため,
Fig.2 からシステム間の感度の比較は不可能である。両
システムとも酢酸アンモニウムを添加した場合と添加
しなかった場合ではピーク面積に顕著な違いが現れて
いることが分かる。また,酢酸アンモニウム濃度が 1,
もしくは 2 mM で最もピーク面積が大きく,3 mM 以上
は濃度が上がるにつれて,ピーク面積が小さくなる傾
向にあった。
3.1 のトランジションイオンの検討や本項の結果か
ら,移動相中の酢酸アンモニウムの濃度がフェニトロ
チオンのイオン化効率に大きな影響を与えていること
が推測される。また,グラジエント分析の場合,ピー
0
2
4
6
8
10
Ammonium acetate conc. [mM]
Fig.2
Relationship
between
ammonium
acetate
concentration and peak areas of Fenitrothion.
4. その他のフェニトロチオンの分析上の留意点
暫定指導指針別添の LC-MS/MS を用いた一斉分析の
対象として示されているテルブカルブのノミナル質量
は,フェニトロチオンのノミナル質量と差が無い(モ
ノアイソトピック質量は,テルブカルブ:277.204193
Da,フェニトロチオン:277.017365 Da)。暫定指導指
針別添では,テルブカルブの分析条件例として,イオ
ン化法は ESI(+),定量用イオンとして 278 > 222,確認
用イオンとして 278 > 166 が示されているが,278 > 109
のトランジションイオンも検出される。
XevoTQD システムの検量線を作成した分析条件で
フェニトロチオンとテルブカルブの混合液(20 ng/mL)
を分析した例を Fig. 3 に示す。図は,278.0 > 124.9 お
よび 278.0 > 108.9 のマスクロマトグラムを示してい
る。13 分付近に検出されているピークがフェニトロチ
オンであり,278.0 > 108.9 のマスクロマトグラムで 15
分付近に検出されているピークがテルブカルブである。
278.0 > 108.9 のトランジションイオンは,今回の分析
条件ではフェニトロチオンとテルブカルブのピークが
確認された。
フェニトロチオンの定量用イオンとして 278 > 109
を選択する場合は,テルブカルブとのアサインミスに
十分に注意する必要がある。
[min]
Fig.3 Mass chromatogram of Fenitrothion and Terbucarb
mixture (each 20 ng/mL) analyzed by Xevo TQD system.
【参考文献】
1) 環境省,ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁
の防止に係る暫定指導指針,http://www.env.go.jp/water
2) 竹峰秀祐 他,LC-MS/MS を用いたゴルフ場農薬の
一斉分析法の検討,第 15 回日本水環境学会シンポジウ
ム