計量モデルによるサービス経済化の国際比較——中国のサービス産業の

計量モデルによるサービス経済化の国際比較——中国のサービス産業の発展への
示唆
余洋(九州大学経済学府博士課程 1 年)
近年、世界中に成熟産業から成長産業へのシフトが起こっている。農業や
製造業が既に発展を遂げていた先進国や新興国でのサービス経済化はこの 20 年
間、様々な意味で注目を集めている。特に、BRICs を筆頭とする新興国では、
近年サービス経済化の動きが盛んである。
サービス経済化とはサービス業の生産高の上昇、および従業人口のサービ
ス業への集中を指す。米国と日本では 80 年代から GDP に占めるサービス業の
付加価値の割合が段々高くなってきて、雇用、特に女性の雇用におけるサービ
ス業の割合も大きくなっている(表 1、2)。一方、中国の GDP におけるサービス
業の割合は 30 年間大きく増えてきたが、2010 年にはまだ 43%にとどまっていた
(表 1)。農業人口がまだ多い状況の中で、製造業での賃金が上昇し、安価な労働
力により築き上げられた「世界の工場」としての地位を失いつつある中国にと
って、サービス経済化は余剰労働力の問題を解決し、そして現在の経済成長を
維持するための重要な手段であろう。
表 1 GDP におけるサービス業の割合(%)
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
米国
64
67
70
72
75
77
79
日本
58
60
60
65
67
71
71
中国
22
29
32
33
39
41
43
出所: http://data.worldbank.org/data-catalog/world-development-indicators (2013/04/12 閲覧)
表 2 就業者に占めるサービス業の割合(ジェンダー別、%)
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
男性
55
58
60
62
64
68
72
女性
80
82
84
85
86
90
92
男性
51
53
55
55
57
59
62
女性
58
61
64
68
72
77
80
米国
日本
出所: http://data.worldbank.org/data-catalog/world-development-indicators (2013/04/12 閲覧)
一般的にサービス業の生産性は製造業に及ばないと言われるが、企業活動
の活発化、国民の生活の質の向上や雇用拡大における需要にとって、サービス
経済化というプロセスは不可欠である。さて、国や地域の経済・人口・インフ
ラ整備などの要素は、サービス経済化の程度とテンポにどのように影響するの
か。また、人口の多さや急速な都市化という状況を踏まえて、中国・インドな
どの新興国においてサービス業の飛躍的な発展を達成するために、投資や国の
政策はどういった要素に重点を置くべきなのか。これらのことを明らかにする
ために、ここでは計量分析の手法を使い、主要国におけるサービス経済化の影
響要因について検討したい。
中国のサービス業は近年、急成長を遂げたが、世界の主要国と比べれば、
中国などの新興国のサービス経済化の度合いはまだ先進国に大きく遅れている
ことも明らかである。新興国におけるサービス業の生産高や雇用のスケールは
先進国より大きいが、GDP や総就業人口におけるサービス業の割合はむしろ低
い。そこで、サービス経済化に影響する要素を分析する目的で、計量分析を行
った。
ln __
= + ln + + ln +
!
+
" #$ + % &'
+ ( ℎ + * …………………………………………………………...(a)
ln +,-_. /+,-_._-1 =
6
2 + 2 ln +,-3 + 2 __
4
5 + 2 &'
+
2 ℎ
+
*2 ………………………………………………………………………………………………….(b1)/(b2)
ln +,- /+,-789:8;<=8 =
6
>,>2 + >,>2 ln +,4-_.
5 + >,>2 &'
+ >,>2 ℎ + *>,>2 …………………..(c1)/(c2)
6
ln +,- /+,-_-1 = >>,>@ + >>,>@ +,4-_._-1
5 + >>,>@ &'
+
>>,>@
ℎ + *>>,>@ ……………………………………………………………………………(c3)/(c4)
表 3 に示された計量分析の結果は以下のように要約される。第一段階の 1
人当たりの GDP に対する回帰分析において、都市化率、鉄道の総延長と携帯電
話の普及率は 1 人当たりの GDP と正の相関関係にあり、人口とインフレ率は負
の相関関係にあることが見られる。第二段階の回帰分析において、前年度のサ
ービス業生産高はサービス業における就業人口数および労働人口に占めるサー
ビス業の割合と正の相関関係にあることが知られる。すなわち、前年度のサー
ビス業生産高が高い国で、次年度のサービス業における雇用の人数も割合も高
いと推測できる。第三段階の回帰分析において、サービス業生産高と GDP に占
めるサービス業の割合はサービス業における就業人口数および労働人口に占め
るサービス業の割合と正の相関関係にあることが見て取れる。第二段階の分析
結果も見ていくと、サービス業の生産高の上昇とサービス業での雇用拡大は互
いに正の影響を与えることが言えるであろう。これらのことによって、経済の
更なる発展とともに、中国における 1 人当たり GDP の上昇によって、労働人口
に占めるサービス業の割合、そしてサービス業の生産高と GDP に占めるサービ
ス業の割合も一緒に上がっていくと考えられる。
式
(a)
説明変数
表 3 操作変数法による分析結果のまとめ
被説明変数
lnGDP_per_Capitait
lnPopulationit
-***
Urbanit
+***
lnRailwayit
+***
Mobileit
+***
Inflationit
-***
、 式
(b1) (b2)
説明変数
被説明変数
lnService_Laborit
Service_Labor_Percentageit
lnServiceit-1
+***
+***
lnGDP_per_Capitait
-***
+***
lnServiceit
Service_Percentageit
+***
+***
、 、 、 式
被説明変数
説明変数
(c1) (c2) (c3) (c4)
lnService_Laborit
Service_Labor_Percentageit
過剰識別性検定により
棄却
+***
本発表ではサービス経済化を影響する要因を特定するために、計量分析を
行ったが、使われた説明変数以外にもサービス経済化に影響する要素はあると
考え、そこで実情に基づいて、より適切な変数の選択は重要であると考えられ
る。本研究において、外国からの観光客数、GDP に占めるサービス業貿易総額
の割合、100 人当たりのネットユーザー数、GDP に占める研究開発費の割合、
海外直接投資の純流出額、知的財産権の使用に払った総費用、そして税制や価
格などのサービス業の市場と強く関係する指標を説明変数あるいは操作変数と
して用いることも視野に入れたが、最終的にそれらは推定式に組み込んでいな
い。データの蓄積が足りないことや、他のいくつかの変数と強い相関関係にあ
ることはその原因である。従って、上述の変数は今後、モデルを修正あるいは
新しく構築する時に、再考する必要がある。
また、本発表では、国際比較により、中国と世界主要国におけるサービス
経済化の特徴がある程度明らかにされた。例えば、中国における GDP と労働人
口に占めるサービス業の割合は、他国より非常に低いことが見られる。その原
因を説明するために、中国におけるサービス業の産業構造や市場の特徴などを
明確にする上、他の主要国と比較することは重要であると考える。故に、サー
ビス業からいくつの産業を選んで、ケーススタディを行う必要があり、今後の
研究課題をサービス業の事例研究としたい。
参考文献
羽田昇史, 中西泰夫. 『サービス経済と産業組織』. 同文舘出版, 2005.
近藤隆雄. 『サービス・イノベーションの理論と方法』. 生産性出版, 2012.
賀有利. 『三産化/服務化—中国特色第三産業/服務業道路探討』. 人民出版
社, 2008.
経済産業省. 「サービス経済化の進展等」.
http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2006/2006honbun/html/i1131000.html
(2013/05/11 閲覧)
The World Bank. 「Data」各年版. http://data.worldbank.org/ (2013/07/17 閲覧)
The World Bank. 「World Development Indicators」.
http://databank.worldbank.org/data/views/variableselection/selectvariables.aspx?so
urce=world-development-indicators(2013/07/17 閲覧)