LB =1.0m Lin =1.2m Lout = 0.75 m

原子核物理学 I (2014 年度、担当:飯嶋) 問題 II の解答例
下図のように、陽子ビームを金属標的に照射して生成された荷電粒子を電磁石スペクトロメー
ターで測定する実験を考える。図中の MWPC1,2,3,4 は、Multi-Wire Proposational Chamber (多
線式比例係数箱)、SC1,2 はシンチレーションカウンターを表す。電磁石の磁場は紙面に対して上
向きの一様磁場であり、その磁束密度は 1.5 T(テスラ) とし、荷電粒子の運動は磁場に垂直な xy
平面内の運動のみを考える。また、光速 c = 3.0 × 108 [m · s−1 ] とする。以下の問いに答えよ。
1. 荷電粒子の運動量を P [GeV/c]、電磁石を通過中の軌道半径を R[m]、磁束密度を B[T] とす
ると、P [GeV/c] = 0.30 · z · B[T] ·R[m] が成り立つことを示せ。ここで、z は単位電荷で表
した荷電粒子の電荷の絶対値である。
荷電粒子に働くローレンツ力は F = (z · e)v × B であり、磁場に垂直な面の運動に対しては、
mv 2
R = (z · e)vB より P = mv = (z · e)RB がえられる。ここで、単位は MKS 単位系だと、
P [kg·m·s−1 ]= (z·e[C=A·s])R [m] B [T=kg·s−2 · A−1 ]。左辺の単位を P [kg·m·s]→P [GeV/c]
に合わせると、P [GeV/c] = c × 10−9 zR[m]B[T] をえる。 2. 図のように、xy 平面内に生成された荷電粒子の飛跡を測定したところ、電磁石の入口と出
口での粒子の角度が θin = θout = 0.20 rad であった。この荷電粒子が磁場中を運動している
ときの軌道半径 R を計算し、この荷電粒子の電荷の符号と運動量の推定値を答えよ。ただ
し、荷電粒子の電荷の絶対値は単位電荷に等しいものとする(z = 1)。
Lin = 1.2m
in
y
= 0.20 rad
LB = 1.0m
Lout = 0.75m
B (1.5 T)
out
= 0.20 rad
SC1
SC2
MWPC1
MWPC2
MWPC3
x
1
MWPC4
電荷は + である。
2Rtanθin (= θout ) = L より R =
2.46 × 1.50 = 1.11。
L
2tanθin
=
1.0
2·0.203
' 2.46 [m]。従って P [GeV/c]= 0.30 ×
3. この実験で粒子の飛跡を測定するために使われている MWPC(多線式比例係数箱)の原理を
述べよ。
解答省略。
4. この荷電粒子の SC1-SC2 間の飛行時間を計測することを考える。飛行時間 T を、飛行距離
L、荷電粒子の質量 M 、運動量 P 、光速 c を用いて表せ。
5. 荷電粒子が荷電 π 中間子(質量 0.14 GeV/c2 ) の場合と荷電 K 中間子(質量 0.49 GeV/c2 の
場合の飛行時間の差を計算せよ。
Lin
cosθin
Lout
+ 2Rθin=out + cosθ
と計算できる。数値を代入して、
√ 2 2 √ out
2
P +mK − P +m2π
L = 2.97m。TOF(K) − TOF(π) = Lc ×
× 1012 [ps]。数値を代入して、
P
TOF(K) − TOF(π) ' 880 [ps] をえる。
粒子の飛跡の長さ L は、L =
6. このように飛行時間 TOF( Time-Of-Flight) を精密に測定して粒子の種類を識別することが
できるが、これ以外に荷電粒子の種類を識別するのに有用と考えられる方法を述べよ。
(例として)
チェレンコフ検出器を使う。輻射体の屈折率を n とすると、チェレンコフ光が発生する閾値
(しきい値)速度は βth = n1 であり、運動量 Pth は Pth = √ βth 2 = √ m2 であり、逆に
√
n=
1−βth
m2
2
Pth
n −1
+ 1 。Pth = 1.11GeV/c とすれば、π 中間子に対しては n = 1.008、K 中間子に
対しては n = 1.098 以上でチェレンコフ光が発生する。従って、1.008 < n < 1.098 を満た
す屈折率の輻射体を用いればチェレンコフ光発生の有無で π 中間子と K 中間子の識別を行
うことができる。このような屈折率をもつ透明な物質としてシリカエアロジェルを用いるこ
とができる。
2