Page 1 Page 2 氏 名 張 双 調 学位(専攻分野) 博 士 (工 学) 学 位 記 番

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
Risk sharing in joint venture projects( Abstract_要旨 )
Zhang, Shuangtian
Kyoto University (京都大学)
2007-03-23
http://hdl.handle.net/2433/136206
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
【451】
氏 名
チョウ
張
ソウ
双
テン
甜
学位(専攻分野)
博 士(工 学)
学位記番号
工 博 第2773号
学位授与の日付
平成19年3月23日
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
研究科・専攻
工学研究科都市社会工学専攻
学位論文題目
Risk
sharing in Joint Venture
Projects
(ジョイントペンチャー・プロジェクトにおけるリスク分担に関する研究)
往査)
論文調査委員 教授小林潔司 教授谷口栄一 教授大津宏康
論 文 内 容 の 要 旨
本論文は,ジョイントベンチャー(以下,JVと記す)のリスク分担構造モデルを提案するとともにJVのリスク分担
構造が事業成立可能性と事業効率性に与える影響を理論的に分析したものであって,7章からなっている。
第1章は序論であり,本研究をとりまとめる実際的背景及び本博士論文を通じた目的を明らかにしている。
JVに関する
定義づけを行い,製造業におけるJVと建設産業におけるJVの特徴を比較することにより,本研究の着眼点であるリスク
分担の重要性について指摘している。さらに,各章の分析枠組みについて整理している。
第2章では,JVに関する既存の文献のレビューを行っており,JVが組成される動機についてこれまでに指摘された実
証的研究について幅広く網羅している。そこでは,JVが組成される動機が一つではなく,多岐にわたっていることがこれ
までの既存研究において指摘されている。その中で,建設プロジェクトにおけるJVではリスク分担構造が事業の効率性と
成立可能性に影響を与えるという既存の実証研究も参照することにより,本研究の着眼点の有舒匪を示している。
第3章では,JVプロジェクトにおいて,構成員が担当するプロジェクト固有に生じるリスク(プロジェクトリスク)と
どの構成員の責にも帰さないバックグラウンドリスクの2つのタイプが存在することを指摘している。その上で,プロジェ
クトリスクとバックグラウンドリスクのリスクを同時に考慮したJVにおけるリスク分担モデルを定式化している。その結
果,一方の構成員が単独ですべてのプロジェクトを実施する場合よりも,リスク回避的な構成員がJVを組成してプロジェ
クトを分割し,リスクを再分配することで,プロジェクトの効率性が増加することを理論的立場から明らかにしている。
第4章では,JVの構成員の有限責任制度(破綻リスク)を考慮した場合には,構成員はそのパートナーが分担する工事
を履行しなければならないというパートナーリスクが存在することを指摘している。
JVの構成員が生じたすべてのコスト
を負担できないときには,その他の構成員がそのリスクを負担せざるを得ない。このとき,構成員の施工技術能力の差異
(同一の工事を施工するコストに関する非対称性)があり,両者がリスク負担能力について補完的な関係にある場合にのみ,
請負者はJVを構成する誘因が生じることを明らかにしている。
第5章では,わが国における建設工事JVが,プロジェクトから得られる収益とプロジェクトの費用の分担の視点から,
共同施工型JVと分担施工型JVに分類できることを指摘している。また,JV工事全体を指導する主体の存在の有無の視
点から,スポンサー方式JVとパートナー企業方式JVに分類できることを指摘している。その上で,建設プロジェクトに
おいて生じるすべての事象を契約時点で記述できないことを前提として不完備契約モデルを定式化している。その結果,共
同施工型JVの場合,複数の構成企業が対等の立場でJVを組成するパートナー企業方式では,モラルハザードによる工事
全体の効率性が阻害されるため,1つのスポンサー企業がJV工事全体を指導するスポンサー企業方式が効率的であること
を明らかにしている。また,分担施工型JVでは,各構成企業の責任の所在が曖昧になれば,企業努力が低下する危険性が
あることを明らかにしている。
以上の章では,バックグラウンドリスクおよびパートナーリスクに関する分担を分析しており,各構成員はぞれぞれが履
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行する工事に関する費用のリスクについて自らが負担することを前提としていた。これに対して,第6章では,JV構成員
が請け負う各分担工事に生じるリスクの分担,すなわち複数のリスク要因を考慮したJVプロジェクトのリスク分担に関す
る交渉モデルを定式化している。その上で,JVの分担工事における費用がある一定の閥値を超えた場合に,担当構成員以
外の構成員がリスクを負担するというオプション型のリスク分担スキームを用いることにより,効率的な複数リスクのリス
ク分担が実現できることを明らかにしている。
第7章は結論であり,本論文で得られた成果について要約するとともに今後に残された課題について整理している。
論文審査の結果の要旨
国内外の建設工事では,しばしばジョイントベンチャー(以下,JVと呼ぶ)が組成される。建設工事では起こりうるす
べての事象を予見することが現実的に困難であるため,建設費用のリスクの分担スキームは,プロジェクトの成立可能性お
よびその効率性に多大な影響を与える。本研究では,JVにおける構成員間のリスク分担スキームが事業の成立可能性に与
える影響を理論的に分析しており,以下のような知見を得ている。
1)
JVに関する既存研究のレビューを取りまとめた上で,多くの実証研究において,JVにおけるリスク分担構造が事
業の効率性と成立可能性に影響を与えることが指摘されていることを明らかにしている。また,製造業のような一般的
なJVと比較した建設プロジェクトのJVの特徴についても明らかにしている。
2)JVプロジェクトでは,どの構成員の責にも帰さないバックグラウンドリスクを構成員間で分担することにより,一
方の構成員が単独で事業を実施する場合よりもプロジェクトの効率性が増加することを理論的に明らかにしている。さ
らに,JVの構成員の有限責任制度(破綻リスク)を考慮した場合には,構成員はそのパートナーが分担する工事を履
行しなければならないというパートナーリスクが存在する。このとき,構成員の能力の差異があり両者が補完的な関係
にある場合にのみ,JVが構成されることを明らかにしている。
3)共同施工型JVの場合,複数の構成企業が対等の立場でJVを組成するパートナー企業方式では,モラルハザードに
よる工事全体の効率性が阻害されるため,1つのスポンサー企業がJV工事全体を指導するスポンサー企業方式が効率
的であることを理論的に示している。また,分担施工型JVでは,各構成企業の責任の所在が曖昧になれば,企業努力
が低下する危険性があることを明らかにしている。
4)リスク要因が複数存在するJVプロジェクトにおいて,オプション型のリスク分担スキームを用いた場合に構成員間
で交渉によりリスク分担のシェアを内生的に決定するモデルを定式化することにより,効率的なリスク分担が実現でき
ることを明らかにしている。
以上,要するに,本論文は,JVのリスク分担構造モデルを提案するとともにJVのリスク分担構造が事業成立可能性
と事業効率性に与える影響を理論的に分析したものであり,理論上・実際上寄与するところが少なくない。よって,本論文
は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。
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