日本人英語学習者の気息音の生成と知覚 10339GHU 1. 序論 英語母語話者と英語で話をしていたときに、単語を聞き間違えられるという経験をしたことはないだ ろうか。(i) における peaches /pí t iz/ を日本人英語学習者が発音した場合、英語母語話者には beaches /bí t iz/ と聞こえることがある。これは、なぜだろうか。 (i) Have you heard about great peaches in Hawaii? 英語では、気息音の有無をひとつの手掛かりとして peaches と beaches を判別している。気息音とは、 「閉鎖の開放と次につづく母音との間に起こる、短く強い息」 (今井 1980: 48)のような音であり、(i) で は peaches の /p/ とともに生成される。気息音が生成されると無声の /p/、生成されていなければ有声 の /b/ となり、この場合、気息音が聞こえれば peaches、聞こえなければ beaches となる。しかし、日本 語では日常的に気息音を使う習慣が無いため、日本語母語話者が peaches を発音するときに気息音を伴 わないことが多い。そのため、日本人英語学習者の話す peaches は beaches のように聞こえるという訳 である。 英語で気息音が出現する環境は、無声破裂音 /p, t, k/ が強勢のある音節の初頭に現れる場合である。 気息音は、pen, ten, Ken, Japan, attach, unkind などには現れるが、piano, art, map, Japanese, speak などには 現れない。この論文では、日本人英語学習者がどの程度気息音を生成しているか、またどの程度気息音 を知覚しているのか観察する。本稿の目的は、日本人英語学習者は気息音の生成はできないが、知覚は できるという仮説の正当性を考察することである。 2. 気息音の生成と知覚の調査 本研究では、日本人英語学習者(大学 2 年生 4 年生)30 名を対象に、気息音の生成と知覚に関す る調査を行った。調査は二部構成で、気息音の生成について調べる音読調査と、その知覚について調べ るリスニング調査から成っている。音読調査では、音声データを収集し、音響音声学フリーソフトウェ ア Praat を用いて音声分析を行った。リスニング調査では、pin / tin や time / dime などのミニマル・ペ アについて、単語レベルと文レベルの 2 種類の聞き分けテストを用意し、さまざまな環境における気息 音がどのように知覚されているかを観察した。 3. 結論 音声分析の結果、日本人英語学習者は気息音をほとんど生成しないが、リスニング調査の結果を分析 したところ、被験者の約 9 割が気息音を正しく知覚していることが明らかになった。また、気息音の生 成と知覚の度合いには相関関係は見られなかった。 本稿では、 「日本人英語学習者は気息音の生成はできないが、知覚はできる」という仮説が正しいことを証 明した。また、 「気息音の生成と知覚の程度には相関関係はほとんどない」ことが明らかになった。 【参考文献】 今井邦彦(1980)「音声学的比較」國廣哲彌(編)『音声と形態』 (日英語比較講座 第 1 巻) ,7-67,大修館書店. Lisker, L. and A. S. Abramson (1964) A Cross- Language Study of Voicing in Initial Stops: Acoustical Measurements, Word 20, 384-422.
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