修 士 論 文 の 和 文 要 旨 研究科・専攻 氏 名 論 文 題 目 大学院 電気通信 学研究科 電子工学 専攻 博士前期課程 田村 雅大 学籍番号 0932055 Ge 酸化物絶縁膜の物質設計;局所誘電特性評価を中心として 要 旨 Si-MOS デバイスの微細化限界に伴う性能飽和を打破できる高性能・高機能素子の実現に向け、 高移動度材料の Ge をチャネルに用いる試みが盛んになされてきた。近年の Ge-MOS デバイスの 研究開発の進展に伴い、今まで困難であるとされてきた良質な絶縁膜形成や、MOS 界面制御が実 現可能であることが示されているが、MOS デバイスの性能を左右するゲート絶縁膜の誘電特性の 詳細は明らかになっていない。本研究は、Ge-MOS デバイスのゲート絶縁膜の設計指針を得るた めに、GeO2 薄膜および GeO2/Ge 界面、HfO2/Ge 界面の局所誘電特性について、密度汎関数理論 に基づく外部電界下第一基底状態計算を用いて解析することを目的とする。 MOS デバイスの絶縁膜中に存在する主な欠陥である酸素欠損を導入した quartz-、rutile-GeO2 薄膜の局所誘電率は酸素欠損近傍で増大することがわかった。特に、その変化は静的誘電率に顕 著に現れる。しかしながら、誘電率増大の起源は両結晶構造がもつ化学結合状態(共有結合性 or イオン結合性)の違いに由来して、全く異なることがわかった。共有結合性の強い quartz-GeO2 薄膜では、酸素欠損により生じたダングリングボンドを解消するように、局所的な Ge-Ge 共有結 合を形成し、Ge-Ge ボンドがもつ誘電率に近づくため、酸素欠損近傍で誘電率が増大する。一方、 イオン結合性が強い rutile-GeO2 薄膜では、酸素欠損により生じた空間的な余裕によって、外部 電界下での原子の応答(分極)が大きくなるため、酸素欠損近傍で誘電率が増大する。 GeO2/Ge 界面近傍における局所誘電率は、界面近傍でのバンドギャップの変化に比べ急峻に変 化し、それ以外の領域ではそれぞれのバルク結晶に相当する誘電率とほとんど変わらないことが わかった。Ge 側界面での誘電率は、GeO2 側の変化に比べて緩やかに変化するが、これは界面誘 起電荷密度分布がある程度広がりを持っていることに起因している。また、GeO2 側での誘電率の 振る舞い(プロファイル)には、結晶構造による差異はほとんど見られなかった。これは、GeO2 の誘電率が「GeO4」や「GeO6」といった局所的な構造を反映して決まるということを意味して いる。 本研究によって、Ge 酸化物の誘電率はその局所構造と密接に結びついていることが明らかとな った。GeO2 の誘電率の大きさは結晶構造(quartz or rutile)に依存して大きく異なるため、実 験的に GeO2 の結晶構造を制御できるとすれば、 「局所誘電率」というミクロスコピックな観点か ら Ge-MOS デバイス実現への設計指針を提示することが可能であると言える。
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