慢性心不全患者における下肢筋酸素動態の特徴

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)10 : 25∼11 : 15 第 5 会場
(3F 303)【口述 内部障害!循環 2】
0742
慢性心不全患者における下肢筋酸素動態の特徴
池田 真治1,2),松尾 善美2,3),小林
大島 富雄1),藤田 雅史4)
英史1),竹内
香理1),白井
一郎1),棏平
司1),
1)
独立行政法人 労働者健康福祉機構関西労災病院 中央リハビリテーション部,
武庫川女子大学大学院 スポーツ科学研究科 健康・スポーツ科学専攻,
3)
武庫川女子大学 健康運動科学研究所,4)独立行政法人 労働者健康福祉機構 関西労災病院 循環器内科
2)
key words 心不全・NIRS・運動耐容能
【目的】
近年,慢性心不全患者数は増加しており,慢性心不全に伴う運動耐容能の低下は主要な問題となっている。先行研究では,慢性
心不全患者の運動耐容能が低下する原因に骨格筋が関わっているとされている。これまで,慢性心不全患者の筋酸素動態では筋
血流と筋酸化能力が障害されるとされていたが,最近の研究によれば筋の代謝回復は酸素利用能の制限より筋血流の減少に依
存していると報告されている。今回,下肢筋の酸素利用能と酸素輸送能が運動耐容能に与える影響を調査するため,近赤外線分
光法を利用して心不全患者の下肢筋における酸素利用能から分類を試み,加えて酸素輸送能については病態,運動耐容能などと
の関連について検討したので報告する。
【方法】
対象者は 2013 年 8 月∼2013 年 11 月までに当院に慢性心不全急性増悪にて入院,心臓リハビリテーションを実施し,自宅退院予
定で当研究の趣旨に同意を得られた者で,脳血管疾患,骨関節疾患など著明な運動機能制限のある者,認知症と疑われる者,デ
バイスを埋め込んでいる者,冠動脈に有意狭窄が残存している者を除外した 5 名(55.6±12.9 歳,男性 3 名,女性 2 名)であっ
た。測定は退院直前に,自転車エルゴメータを用い,心電図モニタリング下で,DynaSense 社製携帯型近赤外線組織酸素モニタ
装置 PocketNIRS Duo(以下 NIRS)のプローブを右外側広筋に装着し,組織酸素レベル(以下 oxy"
Hb)
,組織血液量(以下 total"
Hb)を測定した。運動強度は自転車エルゴメータの 10W,5 分にて実施した。運動プロトコールは安静(3 分)
,運動負荷
(5 分)
, 休憩時間
(5 分)
とした。 運動中止基準は重篤な不整脈の出現や運動負荷 1 分毎に測定する旧ボルグスケールで評価し,
15 になるようであれば終了した。血液検査データ,心エコーデータ,6 分間歩行データは診療録のデータを用いた。NIRS は運
動前後を通した吸光度の経時的変化パターンから元来評価するとされているため,得られたデータを Abe らの報告に基づき,
oxy"
Hb の動態を severe(以下 S 群),mild(以下 M 群)に分類した。なお,運動直後より oxy"
Hb がベースラインより漸減し
た後に負荷中一定の値を示す好気的代謝が不良なパターンを S 群とし,運動中 oxy"
Hb が低下せず,負荷中に漸増していく好気
的代謝が良好なパターンを M 群とした。なお,筋の再酸素化時間は運動終了時の oxy"
Hb の値を 0%,運動終了後 5 分間の oxy"
Hb の最高値を 100% として,運動終了時から oxy"
Hb が 50% の値に到達するまでの時間(以下 1!
2reoxy time)を算出した。
【倫理的配慮】
本研究は関西労災病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究趣旨と倫理的配慮について書面にて十分に説明し,
署名による同意を得た。
【結果と考察】
心不全患者 A,B,C,D,E,5 例のヘモグロビン(以下 Hb)値は 10.4,12.0,10.4,15.0,16.0g!
dl,左室駆出率(以下 EF)は
44,28,65,61,35%,6 分間歩行は 236,324,187,351,450m であった。A,B,C,3 例を S 群,D,E,2 例を M 群と分類
した。S 群では 3 例ともに酸素輸送能を反映する total"
Hb が漸減した後に負荷中一定の値を示し,酸素供給が低下していた。M
群では,total"
Hb が良好なものと不良なパターンを示すものがあった。また,筋有酸素機能の指標である A,B,C,D,E の
1!
2reoxy time は 30,16,54,12,5 秒と M 群で短い傾向にあった。酸素輸送能に影響を及ぼす Hb 値は,S 群で低く,A と C
では貧血傾向にあった。M 群では,Hb 値や 1!
2reoxy time が良好であり,6 分間歩行距離も長かった。
したがって,運動時に好気的代謝の不良な心不全患者では好気的代謝の良好な心不全患者よりも,運動耐容能が低下し,その原
因として酸素利用能が低下するだけでなく,酸素輸送能の低下も生じている可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究で利用した NIRS は理学療法士の臨床現場でも非侵襲的に酸素利用能と酸素輸送能を簡便に測定することが可能で
ある。そして,それぞれの症例が示す波形パターンから心不全患者の下肢筋酸素動態の特徴を調査することは心不全患者の運動
耐容能を評価する一助となると考えられる。