Kwansei Gakuin University Repository Title 近赤外領域におけるπ共役系分子の二光子吸収特性についての研究 Author(s) 德永, 和也 Citation 関西学院大学 Issue Date URL http://hdl.handle.net/10236/12358 Right http://kgur.kawansei.ac.jp/dspace 2013 年度 修士論文要旨 近赤外領域におけるπ共役系分子の二光子吸収特性に ついての研究 関西学院大学大学院理工学研究科 化学専攻玉井研究室 德永 和也 【緒言】π 共役系(π)の両端に電子供与性(D)基と受容性(A)基を置換した D–π–A 型分子は 1 個の分子が光子を同時に 2 個吸収,発光する二光子誘起蛍光と,照射光の 2 倍の周波数の光が 生じる第二高調波発生を相補的に組み合わせた三次元バイオイメージング用色素に有望である と考えられている。理論的にはこの構造の色素における最低エネルギー遷移での二光子吸収 (TPA)のピーク断面積 σ(2)は基底状態と励起状態の間の遷移双極子モーメント µfg と遷移前後で の永久双極子モーメント差 Δµfg および緩和定数 Γfg を含む理論式(1)で近似的に表すことができ ると言われている。 2 σ(2) 16π µ fg Δµ fg = 5c 2 n 2 Γfg 2 (1) しかし D/A 強度とµfg, Δµfg を介した σ(2)との関係は,いくつかの先行研究 1)があるものの,D/A 強度の有効な定量的指標が存在せず,D/A 強度によるµfg,Δµfg,そしてそれらから導かれるσ(2) € の定量的予測を妨げている。 今回,9 種類のフェニレンビニレン誘導体(図 1)について TPA スペクトルを測定するとと もに第一原理計算による量子化学計算を行い, ★ A D b2 a1 b1 NC ★ O TCF ★ CN DCCH NC ★ D=NMe2(1), SMe(2), OMe(3) 164±10 GM 36±3 GM 32±3 GM CN A= D=NMe2(4), SMe(5), OMe(6) 75± 4 GM 55±3 GM 35±2 GM MCF 【実験・量子化学計算】TPA スペクトルの測定 ープンアパチャーZ-スキャン法を用いた。用いた パルス幅は約 120 fs,繰り返し周波数 1 kHz で 測定を行った。試料には各化合物のテトラヒドロ フラン溶液(2–10 mM)を用いた。 全ての量子化学計算は真空中での孤立分子を O O 係を見出すことを目的として研究を行った。 には,フェムト秒パルスレーザーを光源とするオ CN CN A= A= a2 µfg, Δµfg に基づいて D/A の強度とσ(2)の定量的関 D=NMe2(7), SMe(8), OMe(9) 36± 2 GM 19±2 GM 12±1 GM 図 1 用いた化合物の構造式と二光子吸収 断面積 σ(2) 測定値および結合長差(BLD) の定義 仮定して行った。p共役系が平面となるよう制限 を 設 け た 上 で Gaussian09 を 用 い て B3LYP/6-31G(d)レベルで分子系の構造最適化 を行った。遷移エネルギー及びµfg, Δµfg の計算に は DALTON2011 を用いて応答理論により CAM-B3LYP/6-31+G*レベルにて求めた。 【結果】二光子吸収スペクトルの測定において 749 から 1060 nm の近赤外領域で二光子吸収の ピークが見られ(図 2),強い D 基と強い A 基を組み合わせた 1 が最大のσ(2)の値である 164 GM, 弱い D 基と A 基を組み合わせた 9 が最小の 12 GM を示し,D/A 強度差の序列とσ(2)の実測値に は対応が見られた(図 1)。理論式 (1)より,σ(2)の値は Γfg による補正後,双極子モーメントの 二乗積 |µfg|2|Δµfg|2 に比例する。この二乗積は量子化学計算によっても算出でき,その値は実 測のσ(2)の値から算出した値と絶対値は異なるものの良好な相関関係が得られた。 D/A 強度と双極子モーメントの関係を詳細に検討するため,電荷の非対称性が強くなればπ共 役系の結合長差 (BLD) が小さくなる関係2)を用いて,量子化学計算にて得られたπ共役系のエチ レン鎖部分(A 基の一部を含む)における BLD の平均値(図1)を D/A 強度の指標として用い る事を考えた。各化合物の BLD 値と|µfg|2|Δµfg|2 の計算値をプロットすると,A 基として DCCH 基を持つ 4 – 6 を除き,BLD 値が小さくなるにつれ|µfg|2 |Δµfg|2 が大きくなる傾向に あった(図 3)。 DCCH 基と他の A 基の違いとしてπ共役系の中間(図 1 における★の置換位置)におけるシ アノ基の有無に着目し,4 の DCCH 基の★の位置にシアノ基を付加したモデル分子(4a)につい て計算を行ったところ,1 に近い場所に位置することが分かった(図 3 の矢印)。このことから DCCH 基と他の A 基(TCF 基,MCF 基)の違いは,★位置のシアノ基の有無によって BLD 値に差を生じている為と考えられる。以上から,同系統の A 基を持つ化合物間に限られるが BLD 値が D/A 強度差の指標として使え, |µfg|2|Δµfg|2 を介しσ(2)との定量的比較が可能であること 1300 Laser Wavelength / nm 1100 950 850 200 100 1 8 TCF 4 0 1.8 2.1 2.4 2.7 Transition Energy / eV 3.0 図 2 二光子吸収スペクトルの例 (THF 溶媒中の 1) CN 4a DCCH 4 2 3 7 9 2 8 6 5 MCF 2 50 CN CN ★ 6 2 ! (2) 10 4 / GM 4 150 |µfg| |!µfg| / 10 D (Calculated) が見出された。 0 55 60 65 70 75 80 85 90 -3 BLD / 10 Angstrom (Calculated) 図 3 結合長差(BLD)と|µfg|2|Δµfg|2 の計算値の関係 1) L. Antonov, K. Kamada, K. Ohta, F. S. Kamounah, Phys. Chem. Chem. Phys. 2003, 5, 1193. 2) 垣谷俊昭, 光・物質・生命と反応(上), 丸善, 1998, 156.
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