○コラム 米国の社会保障制度の根源 GMの悲劇は、米国の社会保障制度が、国ではなく、民間企業によっ て行われていたことに根本原因の一つがあると思います。「なぜ GM は転 落したのか」(ローウェンシュタイン著 日経出版)を読むと、次のよ うな恐ろしい現実が書かれています。 ・アメリカは現在住民が高齢化しているときに、医療保険は崩壊、年金 システムも崩壊寸前である。民間部門では、年金のつく勤め口の割合 は20%を切る。民間部門の年金基金は積み立て不足で、3500億 ドルの累積赤字を抱えている。年金を保障する連邦政府機関 PBCG も破 綻の危機にある。 ・労働人口の3分の1が年金・401k、個人預金といった蓄えを一切 要旨していない。(社会保障庁) ・地方自治体の年金基金への支払いも滞っている。負担は納税者に転嫁 せざるを得ない。 ・原因は、多くの雇用主が過大な約束をしてしまったことにある。特に 公共部門は、それがひどい。 ・年金だけでなく、医療保険も崩壊していることは GM 基準の甘い健康 保険と莫大な年金給付に責任があるが、ワゴナーは2003年になっ てはじめて手を打ったがすでにおそかった。 ・この間、ブッシュ政権は医療保険改革に一切興味を示さなかった。 では、なぜ米国のような強力な経済力のある国が、国民皆保険システ ムを作り上げなかったのでしょうか。私は長らく不思議だったのですが、 その疑問が解けたのは、ポール・クルーグマンの「格差は作られた」( 早川書房)を読んだ時です。 「すべての根源はアメリカの人種差別問題にある。それこそが、国民に 対して医療保険制度を提供していない理由である。公民権運動に対する 白人の反発があるからだ。」(p18) わかりやすく言うと、「黒人たちの医療費をなぜ白人が負担する必要 があるのか。別の保険を作って、白人は白人だけの保険制度を作って、 それでやればいいではないか。(白人を多く雇う)大企業が医療・年金 保険を提供する場合には、国家は税制優遇をする。」そういう仕組みを 作り上げたのです。 企業が個人の生活のセーフティーネットを張る、これは日本特有の姿 であると教わってきましたが、実は米国がそのような社会であったとい うことは新たな発見です。これは日本型資本主義、米国型資本主義とい う前の、社会の亀裂の問題だということなのでしょうか。こう見てくる と、日本という国がいかに利害対立の少ない国であるかということがわ かります。 さて、今回は、第29回の「あるべき税制委員会」の議事録を掲載し ました。同時に、納税者番号の研究成果も、納税者番号コーナーに掲載 しました。また、マーリーズ・レビュー勉強会の第2回の資料も掲載し ました。所長の意見コーナーには、給付付き税額控除の新たな論文を掲 載しました。あわせてご覧ください。
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