平成26年1月28日 軽減税率適用に関する考え方(会長諮問)に対する答申の 要約 日本税務会計学会 学会長 多田 雄司 1 消費税等の税率アップに対する低所得者等対策 次の3つの手法が考えられる。 (1) 社会保障制度の仕組みの中での実施 (2) 消費税等の制度の仕組みの中での実施 (3) その他の仕組みの中での実施 2 本答申における結論 (1) 社会保障制度の仕組みの中で実施するほかは、特別の措置を講じない。 消費税等の税率8%時に実施する簡易な給付措置も廃止する。 (2) 特別の措置を講じる場合は、簡易な給付措置を一定期間継続する。消費 税等に軽減税率は導入しない。 3 2(1)の結論に至った理由 (1) 社会保障制度における給付の大半は、低所得者等に対するものであり、 かつ、直接の給付である。 低所得者等に対しては、同制度を充実させるのがよい。 (2) 他の国の消費税(付加価値税)の制度との比較においては、標準税率が 10%以下の国で、軽減税率を採用している国は少数であり、消費税等の税 率10%時に軽減税率を導入すべきではない。 4 2(2)の結論に至った理由 (1) 社会保障による給付以外に低所得者等の逆進性対策としては、①軽減税 率の導入、②給付付税額控除、③カナダで行われているGST控除に相当 する給付、④簡易な給付措置がある。 いずれの方法も、低所得者等の負担を軽減することができる。軽減税率 の導入が唯一の方法ではない。 (2) 軽減税率の導入は、①軽減税率は逆進性を緩和する必要のない高額所得 者等にも恩恵をもたらし、かつ、②消費税等の制度、仕組みに重大な弊害 をもたらすので、採用すべきではない、 マスコミの世論調査では、一般国民の多数は軽減税率の導入を望んでい るという報告がある。しかし、質問の仕方により回答は変わるものであり、 アンケートの結果については、質問の仕方の関係で評価すべきである。 「軽減税率」という言葉に、低所得者等の負担を緩和してくれるのでは という期待感があるのかも知れない。マスコミが軽減税率に惹かれること - 1 - も理解できないわけではない。しかし、このような情緒的なものだけで、 制度構築をすることはできない。 (3) 給付付税額控除は、所得税の軽減、還付を通して低所得者等の逆進性対 策に寄与させる手法である。しかし、所得税を軽減、還付する条件として 例えば就労インセンティブを付けるので、働く意思があっても就職できな い人には、同控除を適用しないので、低所得者等の逆進性対策としては、 難点がある。 (4) GST控除に相当する給付は、給付付税額控除のようなインセンティブ を付けないので、給付対象者は多くなる。したがって、1世帯当たりの給 付額は給付付税額控除に比べると少なくなる。制度の仕組みとしては、給 付付税額控除に比べて優れているが、番号制度などのインフラが整備でき ていない現状での採用は難しい。 (5) 簡易な給付措置は、消費税等の税率8%時に実施するとしている。もし、 税率10%時に何らかの給付をするのであれば、引き続き簡易な給付措置に よるべきである。しかし、この選択は他に適当な措置がないことによる消 極的な意味においての選択である。 5 消費税等に軽減税率を導入すべきではない理由 軽減税率を導入すべきではない理由として、次の点を指摘する。 (1) インボイス制度導入の誘因 軽減税率の導入は、インボイス制度の導入につながる。インボイス制度を 導入した場合は、免税事業者が取引から排除されるという懸念が生じる。 (2) 事業者の事務負担の増大 軽減税率の導入は、標準税率と軽減税率の区別や記帳義務及びコンプライ アンスコストなど事業者にとっての事務負担を増大させてしまう。 (3) 軽減税率の対象品目の決定の困難性 標準税率の対象となる物品、サービスと軽減税率の対象とならないものと の線引きや区分が難しい。新製品や新商品について判断に苦しむ場合があり うる。 軽減税率を適用する基準を定めたとしても、時代の変化に応じて価値観が 変わり、軽減税率の対象としてふさわしくない物品、サービスが存置される 可能性がある。 (4) 高額所得者等に対する軽減税率の恩恵 軽減税率の導入は低所得者等に対する逆進性を解消するのためであるとさ れている。しかし、軽減税率の対象とされる物品、サービスは、高額所得者 等も購入することができる。さらに、高額所得者等が受ける軽減額は、低所 得者等が受けるそれを大きく上回る。 (5) 軽減税率の政治利用 軽減税率を一旦導入すると政治力が働き、軽減税率とされた物品、サービ スについて標準税率に戻すことは難しい。 また、より政治力のある業界の物品、サービスが軽減税率の対象品目に指 定される可能性が高い。 - 2 -
© Copyright 2024 ExpyDoc