No.12 直列ラインと並列ライン

No.12 直列ラインと並列ライン
これまでは直列ラインの特性をみてみましたが、今度は並列ラインの特性を FIT チャート
でみてみたいと思います。直列ラインと比較したいので、10 工程直列ラインを 10 工程並列
ラインにしてみます。図で示すと図 1 のようになります。直列ラインの場合は工程ごとに
別々の機械で処理していましたが、並列ラインでは一つの機械がすべての工程を処理する
ことにします。同じ機械が並列に 10 台(図中 X1~X10)ある、ということですね。
図 1 直列ラインと並列ラインの対比
先ず、直列バランスラインとの比較をしてみましょう。直列バランスラインは各工程の処
理時間がすべて 10 分。投入から完成までの所要時間は 100 分。並列ラインでは一つの機械
が 10 工程の処理にかかる時間を 100 分として、バランスラインの特徴を維持するためすべ
12
300
10
250
8
200
6
150
4
100
生産率
FT最長
FT最短
FT平均
2
0
0
5
10
15
20
WIP
図 2 並列ラインの FIT チャート
1/4
50
0
25
FT
生産率
ての機械の処理能力を同じにします。そのときの FIT チャートの一例を図 2 に示します。
直列バランスラインと比べてみましょう(No.9 参照)。生産率はまったく同じです。フロー
タイム(FT)の平均値も同じです。違いは、同じ WIP でフロータイムが複数の値をとる
ことです。図では最長と最短で示してあります。フロータイムの最長と最短は各機械の稼
動のタイミングによって変わりますので、図2のFTの最長と最短は1例です。直列バラ
ンスラインを並列にしても、フロータイムが多少ばらつきますが、生産率は同じですので、
全体では大きな差はないようです。
では、ボトルネックラインではどうなるでしょうか。P5 の処理時間が 10 分、他の工程の
処理時間が 6 分の直列ボトルネックラインを並列にしてみます。並列にするといっても方
法はいくつか考えられますが、ここでは並列 10 工程のうち 1 工程の処理時間は 100 分。そ
の他の工程の処理時間は 60 分とします(これを並列ライン①とします)。そのときの FIT
チャートの一例を図 3 に示します。
18
180
生産率
FT最長
FT最短
FT平均
生産率
14
160
140
12
120
10
100
8
80
6
60
4
40
2
20
0
FT
16
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
WIP
図 3 並列ライン①の FIT チャート
これだけみたのでは良くわかりませんので、直列ボトルネックラインと比較してみます。
先ず、生産率をみてみます。図 4 にその一例を示します。
18
並列ライン①
直列BNライン
16
14
生産率
12
10
8
6
4
2
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
WIP
図 4 直列BNラインと並列ライン①の生産率の比較
2/4
15
おわかりのように、C-WIP(生産率が屈曲する WIP)が直列ボトルネックラインでは 6 か
7 に対して、並列ラインは 10。生産率はボトルネックラインでは 10 個/100 分に対して並列
ラインのそれは 16 個/100 分。生産率が 16 個/100 分になるのは、次のように考えればいい
と思います。
機械1台が 1 個/100 分、残りの 9 台が 1 個/60 分、合計は 1/100 + 9/60=16/100
今度は、工程 5 はやっぱり 10 分かかるとした場合はどうなるでしょうか。つまり、工程 5
は 10 分、それ以外の工程は 6 分。すべての機械が同じ能力とします。工程 1~工程 10 を 1
台の機械で処理するのに要する時間は 6x9+10x1=64(分)とします。そのときの FIT チャ
ートを図 5 に示します(これを並列ライン②とします)。
14
12
生産率
180
生産率
FT最長
FT最短
FT平均
16
160
140
120
10
100
8
80
6
60
4
40
2
20
0
FT
18
0
0
1
2
3
4
5
6
7 8
WIP
9
10 11 12 13 14 15
図 5 並列ライン②(すべての機械が同じ能力)の FIT チャート
並列ライン①(図 3)と比べると、生産率が若干下がり、フロータイムのバラツキが小さく
なっています。フロータイムのバラツキが小さくなっているのは、すべての機械の能力を
同じにしたためだと考えられます。
並列ラインの方が約 1.6 倍の生産率。大きな差ですね。しかし、このような比較が実際どの
ような意味があるのか、ということになると、どうでしょうか?FIT チャートでみるとこう
なるよ、ということだけでは面白くありません。
工程の処理を機械で行うことを考えると、10 工程全部をこなす機械なんて、現実的ではあ
りません。しかし、人手の作業だとしたら、どうでしょう。10 工程直列ラインは 10 人が直
列に並んだライン。並列ラインは 1 人が 10 工程を担当し、10 人の作業員がいる生産現場。
身近な実例では、直列ラインはライン生産方式、並列ラインはセル生産方式が思い浮かび
ます。ライン生産方式ではボトルネックで最大生産率が決まりますが、セル生産方式では
各作業員の能力(生産率)のトータルが最大生産率になります。ライン生産方式ではライ
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ンの生産能力は一番能力の低い人で決まってしまい、その他の人がいくら能力が高くても
ダメ。一方、セル生産方式では個人個人の能力が 100%発揮される、ということになります。
だからと言って、セル生産方式が無条件で優位である、ということではありません。生産
環境によってどちらがいいかを判断する必要があります。
フロータイムはどうなるか、みてみましょう。直列ボトルネックラインと並列ライン①の
比較の一例を図 6 に示します。並列ラインのFTの平均値は直列ボトルネックラインのF
Tより短くなっていますが、バラツキはあります。
160
並列(最長)
並列(最短)
並列(平均)
直列BNライン
140
120
FT
100
80
60
40
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
WIP
図 6 直列BNラインと並列ライン①のフロータイムの比較
並列ライン①の WIP が 13 のとき、フロータイムの最長は 125 分、最短は 70 分、平均 81.2
分ですが、どのようにばらつくか、その推移の一例を示すと図 7 のようになります。
140
120
100
FT
80
60
40
20
0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95 100
投入順
図7
並列ライン①の WIP が 13 のときのフロータイムの推移
出展;DPM研究舎
http://tocken.com
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