再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 レッスン 12 CS 分解 CS 分解 このレッスンでは特異値分解の応用として Paige-Saunders 型 CS 分解を学ぶ。これはユニタリ 行列(このレッスンでは便宜上実直交行列)を任意に 4 分割し、すべてのブロックを(8 個で はなく)4 個の直交行列によって同時特異値分解するものである。結果は、各ブロック間の特異 値はすべて 0 と 1 の間にあり、これらが単純な関係で結ばれていることを示す。特異値 1、0 と 他特異値が陽に区別されている点にも特徴があり、これと分割の任意性が一般性と使いやすさ の素になっている。つぎに、応用への予備知識として、正射影を丁寧に解説する。ついで応用 −1 −1 例として、二つの部分空間間の距離の評価、B を陽に計算することなく行う AB 型行列の特 異値分解法を学ぶ。CS 分解はさらに商 CS 分解 Quotient CS decomposition と積 CS 分解 Product CS decomposition に発展するが、これらについては参考文献に譲る。Stewart[5], p.77 によれば、 「CS 分解」という名称は Stewart 自身の命名による。 このレッスンの準備には次の文献(とくに論文[2])を一次資料として利用した。この場を 借りて著者各位に深甚の謝意を表す。 [1] G. H. Golub and C. F. Van Loan, Matrix Computations, Third Edition, The Johns Hopkins University Press, 1996, 75-79 [2] C.C. Paige and M. A. Saunders, Towards a generalized singular value decomposition, SIAM Journal in Numerical Analysis 18, 398-405 (1981) [3] C. C. Paige and M. Wei, History and generality of the CS decomposition, Linear Algebra and Its Applications 208 / 209, 303-326 (1994) [4] G. W. Stewart, On the perturbation of pseudo-inverses, projections and linear least square problems, SIAM Review 19, 634-662 (1977) [5] G. W. Stewart, Matrix Algorithms, Volume I, Basic Decompositions, SIAM, 1998, 73-77 12.1 Paige - Saunders 型 CS 分解 直交行列を 4 分割し、すべてのブロックを個別に特異値分解すれば、8 個の直交行列を必 要とする。 これを 4 個のみの直交行列を用いて、 同時に特異値分解できる、 というのが Paige and Saunders 型 CS 分解の主張である。これを可能にするのは、むろん、親行列の直交性である。 P-S 型 CS 分解は薄型 CS 分解( Golub & Van Loan[1], p.77)、Stewart 型 CS 分解 ( Stewart[3], TheoremA.1, [4], Theorem 4.38, p.75)の一般化に相当する。この節では P-S 型 CS 分解形の説明のみを行い、証明は次節で行う。 ⎡m × k ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎢ 与えられた直交行列 Q を Q = ⎢ ⎥=⎢ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎢ p × k ⎣ Copyright 再履修線形代数研究会 m × q⎤ ⎥ と分割するものとする。ここ ⎥ p × q ⎥⎦ 1 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 に、 k , m, p, q の大小関係についての制約はまったくない。 ⎡x x x ⎢ 分割例: Q = ⎢ ⎢x x x ⎢ ⎣x x x x⎤ ⎥ ⎡1× 3 1× 1 ⎤ ⎥ = ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎥=⎢ ⎥ ⎢Q Q ⎥ x⎥ ⎢ ⎣ 21 22 ⎦ ⎥ ⎢ 2 × 3 2 × 1 ⎦⎥ x⎦ ⎣ すると、適当な直交行列 U1 ( m 次)、 U 2 ( p 次)、 V1 ( k 次)、 V2 ( q 次)をとれば、 次の P-S 型 CS 分解が成立する(記号使いは[2]より踏襲): ⎡ U1T 0 ⎤ ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎡ V1 0 ⎤ ⎡ U1T Q11V1 U1T Q12 V2 ⎤ ⎛ m ⎞ ⎥ ⎜ ⎟ ⎢ ⎥⎢ ⎥⎢ ⎥=⎢ T (1) U QV ≡ ⎢⎣ 0 U 2T ⎥⎦ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎣ 0 V2 ⎦ ⎣⎢ U 2T Q 21V1 U 2T Q 22 V2 ⎦⎥ ⎝ p ⎠ q ) ( m p) ( k q) ( k ⎡I ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ =⎢ ⎢0 ⎢ S ⎢ ⎢ ⎣ (r ⎤ ⎥ C S ⎥ 0C I ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ I ⎥ −C S ⎥ ⎥ I 0 CT ⎦ s k − r − s p − k + r s m − r − s) 0S T ⎛r ⎜ ⎜s ⎜m−r − s ⎜ ⎜ ⎜ p−k +r ⎜ ⎜s ⎜k −r − s ⎝ ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎡ Σ11 Σ12 ⎤ ⎟ ≡ ⎢Σ Σ ⎥ ≡ Σ ⎟ ⎣ 21 22 ⎦ ⎟ ⎟ ⎠ この最終形 Σ を便宜上(Paige & Saunders 型 CS 分解の)標準形と呼ぶことにする。 説明を追加する: Σ 自体も直交行列を表す(∵ U, V, Q は直交行列) (b) 空欄部のブロックはすべて 0 ブロックを表す。 0C , 0S もゼロブロックを表す。 (c) 行列の傍に記した式は対応する行列の列数または行数を表す。例:U1 : m × m 、V2 : q × q 、 C : s × s 、 0C : ( m − r − s ) × ( k − r − s ) 。 (d) I, C, 0C , の中には空ブロックのものもあり得る。 (e) Q11 , , Q 22 の特異値は標準形内の対応するブロック Σ11 , , Σ 22 から直接読み取れる。 Q11 の特異値:これらは、後述するように、0 と 1 の間にあるので、これらを 1, ,1 ( r 個)、 (1 >) cr +1 ≥ ≥ cr + s (> 0) ( s 個)、 0, , 0 ( min{m, k} − r − s 個)に分類する。 r = 0 また は s = 0 の場合もあり得る。そして、 diag{cr +1 , , cr + s } ≡ C 、 diag{sr +1 , , sr + s } ≡ S と定義 (a) する。ここに、 si = 1 − ci , i = r + 1, 2 , r + s 。ゆえに、 0 < sr +1 ≤ ≤ sr + s < 1 である。 ci = cos θi (0 < θi < π / 2) と書けば、 si = sin θi となる。CS 分解の名はここから来ている。 C−1 , S −1 の存在性と C2 + S 2 = I に注意のこと。 Q 21 の特異値: I k − r − s , S の対角成分および min{ p, k} − k + r 個の 0 Copyright 再履修線形代数研究会 2 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 Q12 の特異値: I m − r − s , S の対角成分および min{m, q} − m + r 個の 0 Q 22 の特異値: I p − k + r , C の対角成分および min{m, k} − r − s 個の 0 ここに、 m + p = k + q に注意。 (f) Σ11 , , Σ 22 のどれか一つが定まれば、r , s の値が定まり、従って標準形 Σ の形も確定する。 結局、Q11 , , Q 22 の特異値は、そのどれか一つの特異値がわかれば、一意的に定まってしまう。 ⎡1 0 0 0 0 ⎤ ⎢0 0 0 0 1 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ Q Q 0 1 0 0 0 ⎡ 11 12 ⎤ 例1 Q=⎢ =⎢ ⎥ ( m = k = 3, p = q = 2 ) Q は確かに直交行列を ⎥ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎢ ⎥ ⎢0 0 1 0 0 ⎥ ⎢ ⎥ ⎣0 0 0 1 0 ⎦ ⎡0 0 ⎤ ⎡1 0 ⎤ T 表す。 Q 22 = ⎢ に着目すると、 Q 22 Q 22 = ⎢ ⎥ だから、その特異値は {1, 0} によって与 ⎥ ⎣0 0 ⎦ ⎣1 0 ⎦ えられる。これを一般形に照らせば、 p − k + r = 1, s = 0 。これより、 r = 2 が得られ、標準形 ⎡I 2 ⎢ ⎢0 Σ=⎢ ⎢ は ⎢ 0S ⎢0 ⎣ (2 例2 I1 0S T 0 ⎤ ⎛ 2 ⎞ ⎥ 0 I1 ⎥ ⎜⎜ 1 ⎟⎟ ⎥ ⎜ ⎟ ⎥ ⎜ ⎟ によって与えられる。■ I1 0 ⎥ ⎜ 1 ⎟ 0 0C ⎥⎦ ⎜⎝ 1 ⎟⎠ 1 1 0 0C 0 1 ) ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎥ のように分割したところ(ここに Q 21 : 5 × 1 )、 ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ある 8 次直交行列 Q を Q = ⎢ Q 21 の特異値は α ( 0 < α < 1 )であったという。 Σ を求めよ。まず、一般形(1)に照らせば、 ⎡0 ⎤ T m = 3, p = 5, k = 1, q = 7 、 Σ 21 = ⎢ ⎥ = [ 0 0 0 0 α ] ( S = [α ] :1× 1 )、 r = 0, s = 1 のはず ⎣S ⎦ ⎡C ⎢0 ⎢ ⎢ である。ゆえに、 Σ = ⎢ ⎢0 ⎢⎣S (1 0 0 S 0 I4 0 0 −C 4 Copyright 再履修線形代数研究会 1 0 ⎤ ⎛1 I 2 ⎥⎥ ⎜⎜ 2 ⎥⎜ ⎥⎜ 0 ⎥ ⎜4 0 ⎥⎦ ⎜⎝1 2 ) ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ( C = ⎡ 1 − α 2 ⎤ )。■ ⎣ ⎦ ⎟ ⎟ ⎠ 3 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 [ ] 例 3 ある 6 次直交行列の標準形 Σ の Σ 21 ブロックが 0 ( 1× 1 )であるという。標準形は ⎡ I1 ⎢0 ⎢ Σ= ⎢ ⎢ ⎣0 (1 0 ⎤⎛ 1 I 4 ⎥⎥ ⎜⎜ 4 ⎥⎜ ⎥⎜ 0 ⎦⎝ 1 4) 0 0 I1 1 ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ によって与えられる。■ ⎟ ⎠ 例 4 一般形(1)の特別の場合として、直交行列を上下または左右に 2 分割した場合を考える。 ⎡Q11 ⎤ ⎢ ⎥ 直交行列 Q = ⎢ ⎥ ⎢⎣Q 21 ⎥⎦ ⎡I m ⎛m ⎞ ⎢ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟( m + p = n )の P-G 分解標準形は Σ = ⎢ ⎜p⎟ ⎢0 ⎝ ⎠ ⎣ る(∵ Q11Q11 = I m 、 Q 21Q 21 = I p )。また、 T T ⎡I k ⎣0 標準形は Σ = ⎢ Q = [Q11 Q12 ] (k q) 0⎤ ⎥ ⎥ によって与えられ I p ⎥⎦ ( k + q = n )と分割すれば、 0 ⎤ T T となる(∵ Q11 Q11 = I k , Q12 Q12 = I q )。■ ⎥ Iq ⎦ 例5 最後の例として、標準形 Σ を区分けの形状に無関係に与えることはできないことを示す。 ⎡0 ⎢0 Σ=⎢ ⎢ ⎢ ⎣x x⎤ x ⎥⎥ 型の標準形はあり得ない。仮に可能だとすれば、 Σ 自体も直交行列を表すは ⎥ ⎥ x⎦ 0 0 x ずから、最初の 2 列は正規直交系をなすべきであるが、これは不可能である。ゆえに、標準形 [] ⎡I 0 ⎤ ⎡C 0 ⎤ 型、 [C] 型、または ⎢ ⎥ 型の ⎥ ⎣0 C⎦ ⎣0 0 ⎦ の(1,1)ブロックはゼロブロックではあり得ず、 I 型、 ⎢ いずれかでなければならない。■ 12.2 Paige-Saunders 型 CS 分解の証明 この節における記号の意味は 12.1 節から引き継ぐものとする。証明のポイントは直交性の 繰り返し利用である。 (I) Q 第 1 列の特異値分解 (ブロックとしての)第 1 列 QT Q = I n (n ≡ m + p = k + q) より、 に関して、 Q11 Q11 + Q 21 Q 21 T T = I k (∵ Q11 : m × k , Q 21 : p × k ) が成立する。ここに、左辺の各 Copyright 再履修線形代数研究会 4 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 項は実対称行列を表す。第 1 項をシュール分解すれば、その固有値はすべて正または 0 でなけ T T ればならないからこれを、 V1 Q11 Q11V1 T T ると、 V1 Q 21 Q 21V1 , ck 2 } ( c1 ≥ = diag{c12 , = I − V1T Q11T Q11V1 = diag{1 − c12 , Q 21T Q 21 の固有値は 1 − c12 , ≥ ck ≥ 0 )とする。す ,1 − ck 2 } となる。ゆえに ,1 − ck 2 によって与えられる。 Q 21T Q 21 の形からこれらもすべて 正または 0 でなければならないから、 1 ≥ c1 ≥ ≥ ck ≥ 0 および 0 ≤ s1 ≡ 1 − c12 ≤ ≤ sk ≡ 1 − ck 2 ≤ 1 が真でなければならない。 ここで、 c1 , の値を 1 のもの、1 と 0 の中間にあるもの、および0に分類し、1 のものの 個数を r 、中間にあるものの個数を s とすれば、 c1 = s1 = = cr = 1 > cr +1 ≥ = sr = 0 < sr +1 ≤ ≥ cr + s > 0 = cr + s +1 = ≤ sr + s < 1 = sr + s +1 = = ck = sk となる。これ以降 C ≡ diag{cr +1 , , cr + s }, S ≡ diag{sr +1 , , sr + s } と書くことにする(対角成分 ci , si はすべて 0 < ci , si < 1 を満たすことに注意)。これまでの結果 をまとめると (2) V1T Q11T Q11V1 = diag{c12 , , ck 2 } = diag{I r , C2 , 0k − r − s } ( 1 ≥ c1 ≥ ≥ ck ≥ 0 ) (3) V1T Q 21T Q 21V1 = diag{s12 , , sk 2 } = diag{0r , S 2 , I k − r − s } ( 0 ≤ s1 ≤ ≤ sk ≤ 1 ) この 2 式から (4) min{m, k} ≥ rank (Q11 ) = rank (Q11V1 ) = rank (V1T Q11T Q11V1 ) = r + s (5) min{ p, k} ≥ rank (Q 21 ) = rank (Q 21V1 ) = rank (V1T Q 21T Q 21V1 ) = s + (k − r − s ) = k − r (∵ 一般に rank ( A A ) = rank ( AA ) = rank ( A ) ) T T [ つぎに、 U1 , U 2 を構築する。 Q11V1 ≡ X ≡ x1 x k ] : m × k と書けば、(2)は XT X = diag{I r , C2 , 0k − r − s }: k × k 、を意味し、これは X の列は互いに直交し、かつ x1T x1 = x r T x r = 1, x r +1T x r +1 = cr +12 , Copyright 再履修線形代数研究会 , x r + sT x r + s = cr + s 2 , x r + s +1 = xk = 0 5 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 が成り立っていることを意味する。これより、 {x1 , , xr , CS 分解 x r +1 , cr +1 , xr +s } は正規直交系を表す。 cr + s ~ ここで(5)式 min{m, k} ≥ r + s を考慮すると、m − r − s (≥ 0) 本のベクトル x r + s +1 , ~ , x m を適当 に選択すれば、 ⎡ U1 ≡ ⎢ x1 ⎣ (6) ~ ⎤ xm ⎥ : m × m ⎦ xr +s ~ x r + s +1 cr + s x r +1 cr +1 xr が直交行列を表すようできる。 すると ⎡ (7) U Q11V1 = U X = ⎢ x1 ⎣ T 1 T 1 ⎡I = ⎢⎢0 ⎢⎣0 (r x x r r +1 cr +1 xr +s ~ x r + s +1 cr + s T ⎤ x m ⎥ [ x1 ⎦ ~ x r x r +1 xr +s 0 0] 0⎤ ⎛r ⎞ ⎜ ⎟ ⎥ C 0⎥ ⎜ s ⎟ 0 0 ⎥⎦ ⎜⎝ m − r − s ⎟⎠ s k − r − s) 0 [ つぎに、 Q 21V1 ≡ Z ≡ z1 z k ] : p × k と書けば、(3)は ZT Z = diag{0r , S 2 , I k − r − s }: k × k となる。これは Z の列は直交し、かつ z1 = z r = 0, z r +1T z r +1 = sr +12 , , z r + sT z r + s = sr + s 2 , z r + s +1T z r + s +1 = を示している。ここで、(5)より min{ p, k} ≥ k − r だから、 ~ zkT zk = 1 p − k + r (≥ 0) 本のベクトル ~ z1 , , z p − k + r を適当に選択すれば、 (8) ⎡~ U 2 ≡ ⎢ z1 ⎣ ~ z p −k + r z r +1 sr +1 z r +s z r + s +1 sr + s ⎤ zk ⎥ : p × p ⎦ が直交行列を表すようにできる。 すると (9) ⎡~ U 2 Q 21V1 = U 2 Z = ⎢ z1 ⎣ T T ~ z p −k + r Copyright 再履修線形代数研究会 z r +1 sr +1 zr+s z r + s +1 sr + s T ⎤ z k ⎥ [0 ⎦ 0 z r +1 z r + s z r + s +1 zk ] 6 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡ 0S = ⎢⎢0 ⎢⎣0 (r 0 S 0 s レッスン 12 CS 分解 0 ⎤ ⎛ p−k +r⎞ ⎜ ⎟ 0 ⎥⎥ ⎜ s ⎟ I ⎥⎦ ⎜⎝ k − r − s ⎟⎠ k − r − s) 以上をまとめると、 ⎡I ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎡ U1T 0 ⎤ ⎡Q11 ⎤ ⎢ ⎢ ⎥⎢ ⎥ V1 = ⎢ (10) ⎢⎣ 0 U 2T ⎦⎥ ⎣Q 21 ⎦ ⎢ 0S ⎢ ⎢0 ⎢0 ⎣ ( r 0 C 0 0 S 0 0 ⎤⎛r ⎞ ⎜ ⎟ ⎥ 0 ⎥⎜s ⎟ 0C ⎥ ⎜ m − r − s ⎟ ⎟ ⎥⎜ ⎟ ⎥⎜ 0 ⎥⎜ p − k + r⎟ ⎟ ⎥⎜ 0 ⎥⎜s ⎟ ⎜ ⎥ I ⎦ ⎝ k − r − s ⎟⎠ s k − r − s) ⎡Q11 ⎤ T T の列が正規直交系をなす、すなわち、 Q11 Q11 + Q 21 Q 21 = I k 、だけを使 ⎥ ⎣Q 21 ⎦ この式は ⎢ って導いた関係である。(10)式は Golub & Van Loan[1], p. 77 の薄型 CS 分解 thin version CS decomposition に相当する。 (II) Q 第 1 行の特異値分解 ⎡Q11T Q 21T ⎤ も直交行列だから、その第 1 列に(I)の結果を適用すれば、 QT = ⎢ T T⎥ ⎢⎣Q12 Q 22 ⎥⎦ ⎡I ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎡ V1T 0 ⎤ ⎡Q11T ⎤ ⎢ U1 = ⎢ ⎢ T⎥⎢ T⎥ ⎢⎣ 0 V2 ⎦⎥ ⎣⎢Q12 ⎦⎥ ⎢0 ⎢ S ⎢0 ⎢0 ⎣ (r 0 C 0 0 S 0 0 ⎤⎛r ⎞ ⎟ 0 ⎥⎥ ⎜ s ⎜ ⎟ 0 CT ⎥ ⎜ k − r − s ⎟ ⎥⎜ ⎟ ⎥⎜ ⎟ 0 ⎥⎜q − m+ r⎟ ⎥⎜ ⎟ 0 ⎥⎜s ⎟ ⎥ ⎜ I ⎦ ⎝ m − r − s ⎟⎠ s m − r − s) を満たす直交行列 V2 : q × q がとれる。ここに 0 S Copyright 再履修線形代数研究会 : (q − m + r ) × r である。転置をとれば 7 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡I V 0 ⎡ ⎤ ⎢ 1 T (11) U1 [Q11 Q12 ] ⎢ =⎢ C ⎥ ⎣0 V2 ⎦ ⎢0 ⎣ レッスン 12 0 CS 分解 0⎤⎛r ⎞ ⎥⎜ ⎟ ⎥⎜s ⎟ ⎜ ⎥ I ⎦ ⎝ m − r − s ⎟⎠ 0S T S 0C 0 (r s k − r − s q − m + r s m − r − s) 以上(10)(11)を使うと ⎡ U1T 0 ⎤ ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎡ V1 0 ⎤ ⎡ U1T Q11V1 U1T Q12 V2 ⎤ ⎛ m ⎞ ⎥ ⎜ ⎟ ⎢ ⎥⎢ ⎥=⎢ ⎥⎢ (12) ⎣⎢ 0 U 2T ⎦⎥ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎣ 0 V2 ⎦ ⎢⎣ U 2T Q 21V1 U 2T Q 22 V2 ⎥⎦ ⎝ p ⎠ q ) ( m p) (k q) ( k q) ( k ⎡I ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ =⎢ ⎢0 ⎢ S ⎢ ⎢ ⎣ (r ⎤ ⎥ C S ⎥ 0C I ⎥ ⎥ ⎥ X11 X12 X13 ⎥ ⎥ S X 21 X 22 X 23 ⎥ ⎥ I X31 X32 X33 ⎦ s k − r − s p − k + r s m − r − s) 0S T ⎛r ⎜ ⎜s ⎜m−r − s ⎜ ⎜ ⎜ p−k +r ⎜ ⎜s ⎜k −r − s ⎝ ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ となる( m + p = k + q ゆえ、 p − k + r = q − m + r に注意)。 ここに X11 , , X33 は、未知行列であるが、以下で示すように、直交性を利用すれば定まる。 T 実際、(12)の左辺は直交行列を表すから、最終辺も直交行列を表す。C = C 、ST = S 、CS = SC 、 C−1 , S −1 の存在性、を使うと、次の関係が出る: 2 列 ⊥ 4 列: S X 21 = 0 → X 21 = 0 T 2 列 ⊥ 5 列: C S + S X 22 = 0 → X 22 = −C T T 2 列 ⊥ 6 列: S X 23 = 0 → X 23 = 0 T 3 列 ⊥ 4 列: IX31 = 0 → X31 = 0 3 列 ⊥ 5 列: IX32 = 0 → X32 = 0 3 列 ⊥ 6 列: IX33 = 0 → X33 = 0 = 0C T 3 行 ⊥ 4 行: IX13 = 0 → X13 = 0 (4 列) (4 列) = I : X11 X11 = I T T ( X11 : ( p − k + r ) × ( p − k + r )) → X11 は p − k + r 次直交行列 Copyright 再履修線形代数研究会 8 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 (5 列) (5 列) = I : S + X12 X12 + C = I → X12 = 0 (∵ C T 2 T 2 CS 分解 2 + S2 = I ) まとめると ⎡ X11 X12 X13 ⎤ ⎡ X11 0 ⎢ X X X ⎥ = ⎢0 − C (13) ⎢ 21 22 23 ⎥ ⎢ ⎢⎣ X31 X32 X33 ⎥⎦ ⎢⎣0 0 0 ⎤ ⎥ 0 ⎥ ( X11 は p − k + r (= q − m + r ) 次直交行列) 0CT ⎥⎦ 仕上げは X11 部が I p − k + r になるように U 2 または V2 の定義を変更すればよい。すなわち、 ⎡ X11 I U 2 を U 2 ⎢⎢ ⎢⎣ ⎡ X11T ⎤ ⎥ ≡ U ' または V を V ⎢ I 2 2 ⎢ 2 ⎥ ⎢ I ⎥⎦ ⎣ ⎤ ⎥ ' ' ⎥ ≡ V2 ' に変更すれば、U 2 , V2 も直交行 I ⎥⎦ 列を表し、最終的に ⎡ U1T 0 ⎤ ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎡ V1 0 ⎤ ⎡ U1T 0 ⎤ ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎡ V1 0 ⎤ ⎢ ⎥⎢ ⎥⎢ ⎥ ⎥⎢ ⎥=⎢ ⎥⎢ (14) ⎣⎢ 0 U 2 'T ⎦⎥ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎣ 0 V2 ⎦ ⎣⎢ 0 U 2T ⎦⎥ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎣ 0 V2 '⎦ ( m p) ( k q) ⎡I ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ =⎢ ⎢0 ⎢ S ⎢ ⎢ ⎣ (r ⎤ ⎥ C S ⎥ 0C I ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ I ⎥ −C S ⎥ T⎥ I 0C ⎦ s k − r − s p − k + r s m − r − s) 0S T ⎛r ⎜ ⎜s ⎜m−r − s ⎜ ⎜ ⎜ p−k +r ⎜ ⎜s ⎜k −r − s ⎝ ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ 証明は以上で完了した。ただし、 Q11 の特異値分解以降は Q 21 , に QR 分解を施すという 別法もあるので、これは腕試し問題とする(問題 12.8)。■ p ≥ m ≥ k の場合 p ≥ m ≥ k の場合に特化した Paige-Saunders 型 CS 分解について考える。このときは当然 q = m + p − k ≥ k となる。とくに、 p ≥ m = k の場合は、後述する「Stewart 型 CS 分解」 12.3 (Stewart [4, Theorem A.1]に還元することを示そう。 さて、 p ≥ m ≥ k 場合、P-S 型 CS 分解における Q11 、 Q 21 の特異値は、それぞれ Copyright 再履修線形代数研究会 9 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 CS 分解 ⎞ ⎡I 0 0 ⎤ ⎛ r ⎡0 0 0 ⎤ ⎛ r ⎞ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ C ' ≡ ⎢0 C 0 ⎥ ⎜ s ⎟ 、 S ' ≡ ⎢0 S 0 ⎥ ⎜ s ⎟ 、( C '2 + S '2 = I ) (1) ⎜ ⎢⎣0 0 0 ⎥⎦ ⎝ k − r − s ⎟⎠ ⎢⎣0 0 I ⎥⎦ ⎜⎝ k − r − s ⎟⎠ ( r s k − r − s) ( r s k − r − s) の特異値( C , S は k × k 行列ゆえそれぞれの対角成分 k 個)によって与えられる。ゆえに、P-S ' ' 型 CS 分解の標準形 Σ は次のようになる: ⎡I r ⎢ ⎢0 ⎢0 ⎢ ⎢0 Σ=⎢ ⎢ ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢0 ⎢ ⎢⎣ 0 (r ⎡ ⎢ ⎢ =⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ ( 0 0 0 0 0 C 0 0 0 S 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 I p−k 0 0 0 0 0 Ir 0 S 0 0 0 −C 0 I k −r −s 0 0 0 p−k r s s k −r−s C' 0 0 0 0 I p−k 0 S' 0 k S' 0 −C' p−k k ⎤ ⎥ 0 0 ⎥ I k −r −s 0 ⎥ ⎥ 0 I m−k ⎥ ⎥ ⎥ 0 0 ⎥ ⎥ 0 0 ⎥ 0 0 ⎥ ⎥ 0 0 ⎥⎦ k −r −s m−k 0 0 ⎛r ⎞ ⎜ ⎟ ⎜s ⎟ ⎜k −r − s ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ m − k (≥ 0) ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ p − k (≥ 0) ⎟ ⎜r ⎟ ⎜ ⎟ ⎜s ⎟ ⎜k −r − s ⎟ ⎝ ⎠ ) 0 ⎤⎛k ⎞ ⎥⎜ I m − k ⎥ ⎜ m − k ⎟⎟ ⎥⎜ ⎟ ⎥⎜ ⎟ 0 ⎥⎜ p − k ⎟ ⎜ ⎟ 0 ⎦⎥ ⎝ k ⎠ m−k) ここで、この行列の上下の各ブロック内での行交換または非零スカラー倍、左右の各ブロ ック内での列交換または非零スカラー倍は、すべて原分解形中の直交行列 U1 , , V2 の定義を適 当に修正することにより実現できることに着目し、次の演算を行う: ⎡ ⎢ ⎢ Σ=⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ ( C' 0 0 0 S' 0 0 I p −k 0 S' 0 k p−k k − C' 0 ⎤⎛k ⎞ ⎥⎜ I m − k ⎥ ⎜ m − k ⎟⎟ ⎥⎜ ⎟ ⎥⎜ ⎟ 0 ⎥⎜ p − k ⎟ ⎜ ⎟ 0 ⎥⎦ ⎝ k ⎠ → 最後の 2 行を交換 m−k) Copyright 再履修線形代数研究会 10 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡ ⎢ ⎢ → ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ C' 0 S' 0 0 0 −C' S' 0 0 I p−k 0 ⎡ ⎢ ⎢ → ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ C' 0 0 I m−k 0 ⎡ ⎢ ⎢ → ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ S' S' 0 −C' 0 0 0 C' 0 −S' 0 I m−k 0 S' 0 C' 0 0 0 ゆえに、適当な直交行列 U1 ', ⎤ ⎥ I m−k ⎥ ⎥ ⎥ 0 ⎥ 0 ⎥⎦ p) 0 ⎤ ⎥ 0 ⎥ ⎥ ⎥ 0 ⎥ I p − k ⎥⎦ →2 列と 4 列を交換 →3 列に −1 を乗じる ⎤ ⎥ 0 ⎥ ⎥ ⎥ 0 ⎥ I p − k ⎥⎦ 0 , V2 ' をとれば ( k q) ⎡ ⎢ ⎢ =⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ ( ⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ S' 0 C' 0 ⎥ 0 0 0 I p − k ⎦⎥ k m−k k p−k ) C' 0 0 −S' I m−k 0 これは Paige & Saunders[2] (4.10)式である。とくに ⎡ U1 ' 0 ⎤ ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎡ V1 ' 0 ⎤ ⎢ ⎥⎢ ⎥ ⎥⎢ (3) ⎣⎢ 0 U 2 'T ⎦⎥ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎣ 0 V2 '⎦ T (m p) CS 分解 0 ⎡ U1 'T 0 ⎤ ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎡ V1 ' 0 ⎤ ⎢ ⎥⎢ ⎥ ⎥⎢ (2) ⎣⎢ 0 U 2 'T ⎦⎥ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎣ 0 V2 '⎦ (m レッスン 12 ( k q) ⎡ C' − S ' ⎢ =⎢ ⎢ S' C' ⎢ 0 ⎣⎢ 0 ( k k 0 0 ⎛k ⎞ ⎜ ⎟ ⎜m−k ⎟ ⎜ ⎟ ⎜ ⎟ ⎜k ⎟ ⎜ p−k ⎟ ⎝ ⎠ p ≥ m = k の場合、(2)式は ⎤⎛k ⎞ ⎥⎜ ⎟ ⎥⎜ ⎟ ⎟ 0 ⎥⎜k ⎥⎜ ⎟ I p − k ⎦⎥ ⎝ p − k ⎠ 0 p −k) となる。これが Stewart 型 CS 分解(Stewart [4], pp. 657-659, Theorem A.1)である。 以上を振り返ると、薄型 CS 分解(前節(10)式)の上に Stewart 型分解(3)式があり、その 上に P-S 型 CS 分解の特別の場合(2)が位置し、その上に最も一般的な P-S 型 CS 分解 12.1 節(1) Copyright 再履修線形代数研究会 11 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 CS 分解 式が位置していることがわかる(12.1 節当初でもこのことに言及している) 。 さて、直交行列をブロックに区分けし、個々のブロックの特異値を考える必要性はどんな 場合に起るのか?これ以降は CS 分解の応用を考えることにする。 12.4 正射影 本節の主題「正射影」はこれ以降の話しへの予備知識として必要である。正射影とは、簡 単にいえば、 「任意点から与えられた部分空間へ垂線を下す演算」と考えてよい。この演算は前 レッスンにおいて、最小自乗法に関連して出てきている(レッスン 11、11.8 節) 。 以下において正射影の基礎知識をまとめてのべる。まずは定義から: P = P P を満たす n T 次行列 P を正射影 orthogonal projection という。与えられた部分空間を R ( P ) としてもつよう 正射影をその部分空間上への正射影ともいう。ここに R ( )は の値域を表す。とくに、 P = 0, I は、それぞれ、 {0}, R n×1 上への正射影を表す。 P を正射影とすれば、以下(a)-(e)が成り立つ(証明は後述): (a) I − P も正射影を表す。また、 P = P (対称性) 、 P = P (ベキ等性 idempotency)、 2 T R (I − P) = R(P) ⊥ (すなわち、 I − P は R(P) の直交補空間 R (P ) ⊥ 上への正射影)、 R(I − P) ⊥ = R(P) (すなわち、 P は R(I − P) の直交補空間 R (I − P) ⊥ 上への正射影)。 , w k } を R(P) の任意基底、 W1 ≡ [ w1 (b) 0 < k ≡ dim R ( P ) ≤ n とし、 {w1 , −1 w k ] とすれば ( R (P ) = R ( W1 ) に注意)、 P = W1 ( W1 W1 ) W1 と書ける。これは、与えられた部分空間上 T T への正射影は一つしかないこと、すなわち、正射影 P1 , P2 に対して、P1 = P2 ↔ R ( P1 ) = R ( P2 ) が成り立つことを示す。 (c) (b)において {w1 , , w k } を正規直交系にとり、これを R n×1 の正規直交基底に拡張したもの を {w1 , , w n } とし、 W = [ w1 , w k , w k +1 , w n ] ∈ R n×n ( WT W = I n )とおけば、 P は ⎡I 0 ⎤ P = W1W1T = W ⎢ k ⎥ WT と書ける。これは P の特異値分解を表す(シュール分解でもある)。 ⎣0 0 ⎦ (d) P ≠ 0 なら P =1 (e) 任意の x, y ∈ R n×1 に対して x − Px ≤ x − Py が成り立つ。すなわち、 Px は x から最短距 離にある R ( P ) 上の点を表し、 x − Px ⊥ R(P) も成り立つ。この意味において、 Px は x から R(P) 上に下した垂線の足を表す。(実はこの逆も真である:問題 12.9 参照。) 証明 (a) まず、P は正射影 → P = P P → P = P → P = P (∴ P は R (P) 上での恒等変換)。 Copyright 再履修線形代数研究会 T T 2 12 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 CS 分解 これを使うと、I − P = (I − P ) (I − P ) が出るから、I − P も正射影を表す。R (I − P ) = R ( P ) T を示そう: b ∈ R (I − P) ↔ (*) ⊥ b = (I − P)x と書ける ↔ Pb = 0 (∵ → :(*)の左から P を乗 じる、 ← : b = (I − P)b ) ↔ すべての y ∈ R n×1 に対して 0 = y Pb = y P b = ( Py ) b ↔ T T T T b ⊥ RB b ⊥ R(P) ↔ b ∈ R(P) ⊥ 。 ⊥ (b) R (I − P ) = R ( P ) ((a)で証明済み)より、任意の x ∈ R n×1 に対して、 x − Px ⊥ R(P) 、 すなわち、 (†) W1 ( x − Px) = 0 が成り立つ。また一般に、 y ⊥ R ( P ) ↔ W1 y = 0 ゆえ、 T T y T W1 = 0 → yT Px = 0 が成り立つ。これは方程式 (††) W1z = Px が z に関して可解であるこ とを示す。これを (†) に代入すれば W1 ( x − W1z ) = 0 となるから、これを z について解けば、 T z = ( W1T W1 ) −1 W1T x が出る。ここに k × k 行列 W1T W1 は確かに可逆行列を表す(実際、 rank ( W1T W1 ) = rank ( W1 ) = k )。この z を (††) に代入すれば Px = W1 ( W1T W1 ) −1 W1T x −1 が出る。 x は任意であったから、これは P = W1 ( W1 W1 ) W1 を示す。 T T (c) (b)より従う。 (d) (c)で得られた特異値分解から従う。 (別証) x = 1 を満たす任意の x ∈ R n×1 に対して x = Px + (I − P ) x ≡ y + z と分解すれば y T z = (Px)T (I − Px) = xT PT (I − P)x = xT ⋅ 0 ⋅ x = 0 (∵PT = P, P 2 = P) ゆえ、 1 = x = y + z 。ゆえに、 y 2 2 2 2 = Px = 1 − z ≤ 1 。これより P ≤ 1 。他方、 2 2 P = P ⋅ P ≤ P 。 P ≠ 0 ゆえ P > 0 。ゆえに 1 ≤ P 。) 2 (e) x − Py = x − Px + Px − Py = x − Px + Px − Py ≥ x − Px 2 2 2 2 2 (∵ x − Px ⊥ Px − Py ∵ (I − P)T P = 0) これより、Px ≠ Py なら x − Py > x − Px となる。ゆえに Px は R(P) 内のベクトルのうち、 2 2 x から最短距離にある唯一つのベクトルを表す。■ 12.5 部分空間間の距離 この節では CS 分解に応用事例として、部分空間間の距離の評価について考える。 まず、 S1 , S2 を R n×1 の部分空間、 P1 , P2 を、それぞれ、 S1 , S2 上への正射影とすれば、 Copyright 再履修線形代数研究会 13 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 dist ( S1 , S 2 ) ≡ P1 − P2 (1) を S1 , S 2 間の距離 distance という。前節で示したように、与えられた部分空間とその上への正 射影は 1 対 1 に対応するから、この定義に曖昧性はない。とくに dist ( S1 , S1⊥ ) = 1 (∵ 左辺= P1 − (I − P1 ) =1、前節(a)参照)。 (2) また、 dist ( ⋅ , ⋅) は明らかに距離の公理を満たす: S1 , S 2 , S3 を R n×1 内の部分空間とすれば、 dist ( S1 , S2 ) ≥ 0; dist ( S1 , S2 ) = 0 ↔ S1 = S2 (4) dist ( S1 , S 2 ) = dist ( S 2 , S1 ) (5) dist ( S1 , S 2 ) + dist ( S 2 , S3 ) ≥ dist ( S1 , S3 ) (3 角不等式) (3) 以下、 dist ( S1 , S 2 ) を評価する作業に入るが、 S1 , S 2 の一方が {0} または R n×1 の場合は簡単 である(前節(a)、(d)参照) : (5) dist ( S1 ,{0}) = P1 − 0 = 1 ( S1 ≠ {0} )、 dist ( S1 , R n×1 ) = P1 − I = 1 ( S1 ≠ R n×1 ) ゆえに、0 < dim S1 ≡ m < n, 0 < dim S 2 ≡ k < n の場合のみについて考えれば十分である。 そこで、 {w1 , , w m } を S1 の正規直交基底、これを全空間の正規直交基底に拡張したものを {w1 , , w m , , w n } 、 {z1 , , z k } を S2 の正規直交基底、これを全空間の正規直交基底に拡張 したものを {z1 , , z k , , z n } とし、 W1 = [ w1 , Z1 = [ z1 , , w m ] , W2 = [ w m +1 , , z k ] , Z 2 = [ z k +1 , , w n ] , W = [ w1 , , z n ] , Z = [ z1 , , w n ] = [ W1 W2 ] , z n ] = [ Z1 Z 2 ] とすれば、 P1 , P2 は前節(c)により (6) P1 = W1W1T 、 P2 = Z1Z1T によって与えられる。すると、 dist ( S1 , S 2 ) について以下の評価が成り立つ(証明は後述) : (7) dist ( S1 , S 2 ) = W1W1T − Z1Z1T = max{ W1T Z 2 , Z1T W2 } (8) dist ( S1 , S 2 ⊥ ) = W1W1T − Z 2 Z 2T = max{ W1T Z1 , W2T Z 2 } (9) dim S1 = dim S 2 なら、 dist ( S1 , S 2 ) = W1T Z 2 = Z1T W2 = 1 − σ min 2 ( W1T Z1 ) ≤ 1 dim S1 ≠ dim S 2 なら、 dist ( S1 , S 2 ) = 1 (11) 0 ≤ dist ( S1 , S 2 ) ≤ 1 (10) Copyright 再履修線形代数研究会 14 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 証明 T まず、 W1 レッスン 12 W1 = I m , W1T W2 = 0, W2T W2 = I n− k , CS 分解 ゆえ、 ⎡ W1T ⎤ ⎡ 0 W1T Z 2 ⎤ T T W ( W1W − Z1Z )Z = ⎢ T ⎥ ( W1W1 − Z1Z1 ) [ Z1 Z 2 ] = ⎢ ⎥ T ⎣⎢ W2 ⎦⎥ ⎣⎢ − W2 Z1 0 ⎥⎦ T T 1 T 1 ⎡W T ⎤ ⎡W T Z ⎤ 0 WT ( W1W1T − Z 2 Z 2T )Z = ⎢ 1 T ⎥ ( W1W1T − Z 2 Z 2T ) [ Z1 Z 2 ] = ⎢ 1 1 ⎥ − W2T Z 2 ⎥⎦ ⎢⎣ W2 ⎥⎦ ⎢⎣ 0 WT W = ZT Z = I n に注意してノルムをとれば、前レッスン 11.6 節(X)(XI)により(7)(8)が出る。 (9)(10)の証明には W T Z (これも直交行列)を計算し、P-S 型 CS 分解を使う!実際、 ⎡ W1T ⎤ ⎡ W1T Z1 W1T Z 2 ⎤ W Z = ⎢ T ⎥ [ Z1 Z 2 ] = ⎢ T ⎥ T ⎣⎢ W2 ⎦⎥ ⎣⎢ W2 Z1 W2 Z 2 ⎦⎥ T ( k ⎛m ⎞ ⎜ ⎟ ⎝ n − m ≡ p > 0⎠ n−k ≡ q >0 ) に P-S 型 CS 分解を適用すると (†) ⎡ U1T 0 ⎤ ⎡ W1T Z1 W1T Z 2 ⎤ ⎡ V1 0 ⎤ ⎛ m ⎞ ⎢ ⎥⎢ ⎥ ⎜ ⎟ T⎥⎢ T T ⎢⎣0 U 2 ⎥⎦ ⎢⎣ W2 Z1 W2 Z 2 ⎥⎦ ⎣ 0 V2 ⎦ ⎝ p ⎠ ( m p) ( k q) ⎡I ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ =⎢ ⎢0 ⎢ S ⎢ ⎢ ⎣ (r ⎤ ⎛r ⎥ ⎜ C S ⎥ ⎜s 0C I ⎥ ⎜m−r − s ⎥ ⎜ ⎥ ⎜ ⎥ ⎜ p−k +r I ⎥ ⎜ −C S ⎥ ⎜s T⎥ ⎜ − − I 0C ⎦ ⎝ k r s s k − r − s p − k + r s m − r − s) 0S T T が得られる(記号については 12.1 節参照) 。ここに、 W1 ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎡ Σ11 Σ12 ⎤ ⎟ ≡ ⎢Σ Σ ⎥ ⎟ ⎣ 21 22 ⎦ ⎟ ⎟ ⎠ Z1 、 W2T Z1 、 W1T Z 2 、 W2T Z 2 の 特異値は、それぞれ、 Σ11 、 Σ 21 、 Σ12 、 Σ 22 の特異値と一致する まず、 m = dim S1 = dim S 2 = k なら( t ≡ m − r − s = k − r − s )、 Copyright 再履修線形代数研究会 15 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡I ⎤ ⎢ ⎥ C Σ11 = ⎢ ⎥ ⎢⎣ 0C ⎥⎦ (r s t) レッスン 12 ⎡ 0S Σ 21 = ⎢⎢ S ⎢⎣ (r s ⎛r⎞ ⎜ ⎟ ⎜s⎟ ⎜t ⎟ ⎝ ⎠ CS 分解 ⎤ ⎛ p−k +r⎞ ⎟ ⎥ ⎜s ⎟ ⎥⎜ ⎟ I ⎥⎦ ⎜⎝ t ⎠ t) ⎡ 0S T ⎢ S Σ12 = ⎢ ⎢ ⎣ (r s ⎤ ⎛r⎞ ⎥⎜ ⎟ ⎥ ⎜s⎟ I ⎥⎦ ⎜⎝ t ⎟⎠ t) となる。視察により W2T Z1 = σ max (Σ 21 ) = σ max (Σ12 ) = W1T Z 2 = 1 − σ min 2 ( W1T Z1 ) (∵ C2 + S 2 = I ) が得られる。 m = dim S1 ≠ dim S 2 = k なら、分解形 (†) における Σ 21 、 Σ12 の少なくとも一方 の右下隅に必ず“ 1 ”が存在する( I k − r − s 、 I m − r − s の一方は空ブロックではない) 。ゆえに 1 = max{ W2T Z1 , W1T Z 2 } = dist ( S1 , S2 ) 。■ w1 = z 1 = 1, w1T z1 = cos θ ≥ 0 ( 0 ≤ θ ≤ π / 2 、 w1 , z1 ∈ R 3×1 )とし、 例1 S1 = span{w1}, S2 = span{z1} とすれば dist ( S1 , S2 ) = 1 − σ min 2 (w1T z1 ) = 1 − cos 2 θ = sin θ ゆえに、 S1 , S 2 間の距離とは、それぞれの表す直線のなす角を θ とすれば、 sin θ に等しい。■ 12.6 AB −1 型行列の特異値分解 −1 この節では、CS 分解の巧妙な応用例として、 AB 型行列の特異値分解を考える。ここに A : m × n, B : n × n とし、 B −1 の存在を仮定する。 B −1 の計算を避けつつ行う点がポイントであ る 。 こ れ は 一 般 化 特 異 値 分 解 generalized singular value decomposition, GSVD (Paige-Saunders[2]) 、または商特異値分解 quotient singular value decomposition , QSVD (Paige and Wei [3])の特別の場合を表す。このような分解は最小自乗問題 「 f ( x) = Ax − b 2 + λ 2 Bx − d =最小」の最適解が λ の変化にどう反応するか、の解析に 2 必要となることが報告されているが、ここでは立ち入らない。 ⎡A⎤ ⎥ を特異値分解し(これが工夫の第一)、それを ⎣B ⎦ ⎡R ⎤ T ⎡A⎤ (1) P ⎢ ⎥ Q = ⎢ ⎥ ⎣B ⎦ ⎣ 0⎦ とする。ここに、P : m + n 次直交行列、Q : n 次直交行列、R :n 次可逆対角行列(対角成分 > 0 ) まず、 C ≡ ⎢ ⎡A⎤ ⎥ ) = rank (R ) )。 ⎣B ⎦ である(∵ n = rank (B) = rank ( ⎢ Copyright 再履修線形代数研究会 16 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 ⎡ P11 P12 ⎤ ⎛ m ⎞ P=⎢ ⎥⎜ ⎟ つぎに、(1)中の P を ⎣ P21 P22 ⎦ ⎝ n ⎠ と区分けし、第 1 列に P- S 型 CS 分解を施すと (n m) (これが工夫の第二) 、 ⎡I ⎢ ⎢ ⎢ ⎡ UT P11W ⎤ ⎢ ⎡ UT 0 ⎤ ⎡ P11 ⎤ ⎥=⎢ ⎢ ⎥⎢ ⎥W = ⎢ T (2) ⎣ 0 V T ⎦ ⎣ P21 ⎦ ⎢⎣ U P21W ⎥⎦ ⎢ 0 ⎢ ⎢ ⎢ ⎣ ( n) (m n) (n) (n) (r ⎤ ⎛r ⎥ ⎜s C ⎥ ⎜ 0 ⎥ ⎜m−r − s ⎥ ⎜ ⎥ ⎜ ⎥ ⎜r ⎥ ⎜ S ⎥ ⎜s I ⎥⎦ ⎝⎜ n − r − s s n − r − s) ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎡Σ A ⎤ ⎛ m ⎞ ⎟ ⎢ ⎥⎜ ⎟ ⎟ ≡ ⎢ ⎥⎜ ⎟ ⎟ ⎢Σ ⎥ ⎜ n ⎟ ⎟ ⎣ B ⎦⎝ ⎠ ⎟ ⎟ ⎠ (n) が得られる(記号については 12.1 節参照) 。ここに、 Σ A , Σ B は( A, B ではなく) P11 , P21 の特 異値分解標準形を表していることに注意。 ⎡A⎤ ⎡R ⎤ Q = P ⎢ ⎥ と書き直し、これと(2)から P11 , P21 を消去すると、次式が得られる: ⎥ ⎣B ⎦ ⎣0 ⎦ (1)を ⎢ (3) UT AX = Σ A ( m ) V T BX = Σ B ( n ) (m n n) ( n ) ( n n n) ( n ) −1 ( X = QR W ) 後者の左辺は可逆行列を表すから、 Σ B も可逆行列を表す。結局この 2 式より X も消去できて (4) UT ( AB −1 )V = Σ A Σ B −1 −1 が得られる。これは AB の特異値分解に他ならない!さらに、 Σ B が可逆行列であることを考 慮すれば、(2)は実際には ⎡C ⎤ ⎛s ⎞ ⎜ ⎟ Σ ⎢ ⎥ 0 ⎥ ⎜m− s⎟ ⎡ A⎤⎛m ⎞ ⎡ UT P11W ⎤ ⎢ ⎡ UT 0 ⎤ ⎡ P11 ⎤ ⎟ = ⎢ ⎥⎜ ⎟ ⎥ ⎜ W=⎢ T ⎥=⎢ ⎢ ⎥ T⎥⎢ (5) ⎣ 0 V ⎦ ⎣ P21 ⎦ ⎟ ⎢ ⎥ ⎜⎜ ⎟⎟ ⎥ ⎜ ⎣⎢ U P21W ⎦⎥ ⎢S s ⎟ ⎢⎣Σ B ⎥⎦ ⎝ n ⎠ ⎢ ⎥ ⎜ ⎢⎣ I ⎥⎦ ⎜⎝ n − s ⎟⎠ ( n) (m n) (n) (n) ( s n − s) ( n) の形をとることがわかる。これより、 Copyright 再履修線形代数研究会 17 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 (6) CS 分解 ⎡CS −1 ⎤ ⎛ s ⎞ UT ( AB −1 )V = Σ A Σ B −1 = ⎢ ⎥ ⎜ ⎟ 0⎦ ⎝ n − s ⎠ ⎣ ( s n − s) ここで(5)(6)を見ると、 U, V はそれぞれ P11 , P21 の特異値分解に必要な直交行列であるが、 これが AB −1 の特異値分解に役立っている!これは一見不思議だが、(2)式から出る関係 AQR −1 = P11 、BQR −1 = P21 を見ると、P11 , P21 は共通の座標変換によって「化けた A, B の姿」 −1 と見なせる。同様に(3)式 U AX = Σ A 、 V BX = Σ B ( X = QR W )を見ると、これは特異 T T 値分解ではないが、 Σ A , Σ B もそれぞれ「 A, B の化けた姿」と見なせる。この間の事情を Paige and Saunders[2]は“We can ascribe n singular value pairs (α i , β i ), i = 1, , n to A and B ,…“ といっている(「 Σ A , Σ B の対角成分の対 α i , βi は A, B に帰することができる、・・」 ⎡1 ⎡A⎤ ⎢ 例 1 ⎢ ⎥= ⎢ ⎣B ⎦ ⎢ ⎣1 ⎤ ⎥ の特異値分解: PT ⎥ ⎥⎦ ⎡A⎤ ⎢B ⎥ Q ≡ ⎣ ⎦ ⎡ 2 ⎤ ⎡R ⎤ ⎡ a a ⎤ ⎡1⎤ ⎢ −a a ⎥ ⎢1⎥ [1] = ⎢ ⎥ ≡ ⎢ 0 ⎥ ( a = 1/ 2 ) ⎣ ⎦⎣ ⎦ ⎣ 0⎦ ⎣ ⎦ ⎡ a a ⎤ ⎡ P11 P12 ⎤ −1 だから、 Σ A = Σ B = [ a ]:1× 1 、 Σ A Σ B = [1] となる。これは ≡⎢ ⎥ ⎥ ⎣ − a a ⎦ ⎣ P21 P22 ⎦ より、 P = ⎢ 確かに AB −1 = [1] の特異値分解標準形である。■ 最後にひとこと:Paige-Saunders 型 CS 分解最大の特徴は、全く任意の区分けを許してい る点と特異値を 0、1、その他、に陽に区別している点である。このため、特定ブロックの標準 形がわかれば、他ブロックの標準形も簡単に構築できるし、応用上も使いやすい。部分空間間 −1 −1 の距離の評価、 B を計算することなく AB 型行列の特異値分解を実現する算法、への P-S 型 CS 分解の応用は意外性があっておもしろい。 腕試し問題 問題 12.1(Paige-Saunders 型 CS 分解) (1) ある 9 次直交行列 Q を Copyright 再履修線形代数研究会 18 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡m × k ⎡Q11 Q12 ⎤ ⎢ Q=⎢ ⎥=⎢ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎢ p × k ⎣ m × q ⎤ ⎡3 × 4 ⎥ ⎢ ⎥=⎢ p × q ⎥⎦ ⎢⎣6 × 4 CS 分解 3× 5 ⎤ ⎥ (m+ p = k +q = 9) ⎥ 6 × 5 ⎥⎦ に 分 割 し た と こ ろ 、 Q11 の 特 異 値 は {1, c2 , 0}(0 < c2 < 1) に よ っ て 与 え ら れ る と い う 。 Paige-Saunders 型 CS 分解の標準形 Σ を求めよ。 ⎡1 0 0 ⎤ ⎥( 0 < c2 < 1 )によって与え ⎣0 c2 0 ⎦ (2) ある 5 次直交行列の P-G 標準形左上ブロックは Σ11 = ⎢ られるという。標準形 Σ を求めよ。 (3) [ ] ある 3 次直交行列の P-G 標準形右上ブロックは Σ12 = 0 :1× 1 であるという。Σ を求めよ。 [ ] [ ] (略解:(1) r = s = 1, C = c2 、 S = s2 ( s2 = 1 − c2 ) だから、標準形は ⎡I ⎢ ⎢0 ⎢0 ⎢ ⎢ ⎢0 ⎢ S ⎢0 ⎢ ⎣0 (1 0 0S T 0 C 0 0 −S 0 0C 0 0 0 0 I 0 S 0 0 C 0 I 0 0 0 ⎤ ⎛1 ⎥ 0 ⎥ ⎜⎜ 1 I ⎥ ⎜1 ⎥⎜ ⎥⎜ 0 ⎥⎜3 ⎥⎜ 0 ⎥ ⎜1 ⎥⎜ 0C T ⎦ ⎝ 2 1 2 3 1 1 0 ) ⎞ ⎡ I1 ⎟ ⎢0 ⎟ ⎢ ⎟ ⎢ ⎟ ⎢ ⎟ (2) ⎢ 0 ⎟ ⎢0 ⎟ ⎢ ⎟ ⎢⎣ 0 ⎟ ⎠ (1 2 0 0 0 C 0 0 0 0 I1 S 0 0 I1 0 0 1 1 1 0 ⎤ ⎛1 S ⎥⎥ ⎜⎜1 ⎥⎜ ⎥⎜ 0 ⎥ ⎜1 − C⎥ ⎜1 ⎥⎜ 0 ⎥⎦ ⎜⎝1 1) ⎞ ⎟ ⎡1 0 ⎟ ⎢ ⎟ ⎢ ⎟ ⎢0 0 (3) ⎟ ⎢ ⎟ ⎣0 1 ⎟⎟ (1 1 ⎠ 0 ⎤ ⎛1 ⎥⎜ ⎥⎜ 1 ⎥ ⎜1 ⎥⎜ 0 ⎦ ⎝1 1) ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ■) ⎟ ⎠ ⎡ x x x⎤ ⎡ 4 0 0⎤ ⎢ x x x⎥ T ⎥ に対して Y Y = ⎢ 0 0 0 ⎥ が 問題 12.2 与えられた 4 x 3 実行列 Y = [ y1 y 2 y 3 ] = ⎢ ⎢ ⎥ ⎢ x x x⎥ ⎢ ⎥⎦ 0 0 9 ⎢ ⎥ ⎣ ⎣ x x x⎦ ⎡ −2 0 0 ⎤ ⎢ 0 0 0⎥ T ⎢ ⎥ となるような 4 次直交行列 U を構築せよ。 成り立つという。 U Y = ⎢ 0 0 3⎥ ⎢ ⎥ ⎣ 0 0 0⎦ y3 ⎡ y ⎤ (答: U = ⎢ − 1 u 2 u 4 ⎥ 、ここに u 2 , u 4 は U の列が正規直交系をなすように選ぶ。■) 3 ⎣ 2 ⎦ Copyright 再履修線形代数研究会 19 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 [ 問題 12.3 与えられた 3 × 4 実行列 Y = y1 レッスン 12 CS 分解 ⎡ x x x x⎤ y 4 ] = ⎢⎢ x x x x ⎥⎥ に対して ⎢⎣ x x x x ⎥⎦ 0⎤ ⎡0 ⎡0 0 0 0 ⎤ ⎢ 4 ⎥ ⎢ ⎥ T T ⎢ ⎥ という。 U Y = 0 2 0 0 を満たす 3 次直交行列 U を構築せよ。 Y Y= ⎢ ⎥ ⎢ 0 ⎥ ⎢⎣ 0 0 0 − 3⎥⎦ ⎢ ⎥ 9⎦ ⎣0 y2 y ⎤ ⎡ T T (答: Y の形は Y = [ 0 y 2 0 y 4 ] 、 y 2 y 2 = 4, y 4 y 4 = 9 ゆえ、 U = ⎢u1 − 4⎥と 2 3⎦ ⎣ すればよい。ここに、 u1 は {u1 , y2 y , − 4 } が正規直交系をなすように選ぶ。■) 2 3 ⎡ x1 ⎤ ⎡ x x x x ⎤ ⎡ 4 0 0⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ T 問題 12.4 与えられた 3 x 4 実行列 X = x 2 = x x x x に対して XX = 0 0 0 が成立 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢⎣ x3 ⎥⎦ ⎢⎣ x x x x ⎥⎦ ⎢⎣ 0 0 9 ⎥⎦ ⎡ −2 0 0 0 0 ⎤ ⎢ ⎥ するという。 XV = 0 0 0 0 0 となるような 4 次直交行列 V を構築せよ。 ⎢ ⎥ ⎢⎣ 0 0 3 0 0 ⎥⎦ (答: V = ⎡⎣ −x1T / 2 v 2 x3T / 3 v 4 ⎤⎦ 、ここに v 2 , v 4 は VVT = I となるように選ぶ。■) ⎡3 × 2 ⎤ ⎡Q1 ⎤ ⎢ ⎥ の列は正規直交系をなし、適当な 2 次 問題 12.6 与えられた 7 x 2 実行列 Q = ⎢ ⎥=⎢ ⎥ Q ⎣ 2 ⎦ ⎢4 × 2⎥ ⎣ ⎦ T 直交行列 V1 に対してシュール分解 V1 (1) ⎡3 / 4 0 ⎤ Q1T Q1V1 = ⎢ ⎥ が成立するという。 ⎣ 0 1 / 4⎦ V1T Q 2T Q 2 V1 を計算せよ。 ⎡ 3/2 0 ⎤ ⎢ ⎥ ⎡C ⎤ T 1/ 2 ⎥ ≡ ⎢ ⎥ となるような 3 次直交行列 U1 を構築せよ。 (2) U1 Q1V1 = = ⎢ 0 ⎢ 0 ⎥ ⎣0 ⎦ 0 ⎣ ⎦ Copyright 再履修線形代数研究会 20 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 12 CS 分解 0 ⎤ ⎡ −1/ 2 ⎢ ⎥ 0 − 3 / 2 ⎥ ⎡S ⎤ T ⎢ ≡ ⎢ ⎥ となるような 4 次直交行列 U 2 を構築せよ。 (3) U 2 Q 2 V1 = ⎢ 0 0 ⎥ ⎣0 ⎦ ⎢ ⎥ 0 ⎦⎥ ⎣⎢ 0 (4) ⎡U ⎢ ⎢⎣ 0 T 1 ⎡C ⎤ ⎢0 ⎥ 0 ⎤ ⎡Q1 ⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ V1 = ⎥ を検算せよ。 ⎢S ⎥ U 2T ⎥⎦ ⎣Q 2 ⎦ ⎢ ⎥ ⎣0 ⎦ T (略解:(1) 列の正規直交性 Q1 Q1 + Q 2T Q 2 = I と V1 の直交性より ⎡3 / 4 0 ⎤ ⎡1/ 4 0 ⎤ V1T Q 2T Q 2 V1 = I − V1T Q1T Q1V1 = I − ⎢ ⎥=⎢ ⎥ ⎣ 0 1/ 4 ⎦ ⎣ 0 3 / 4 ⎦ (2) ⎡3 / 4 0 ⎤ Q1V1 ≡ Y ≡ [ y1 y 2 ] とおけば、 YT Y = ⎢ ⎥ だから、 ⎣ 0 1/ 4 ⎦ U1 = ⎣⎡ y1 /( 3 / 2) y 2 /(1/ 2) u3 ⎤⎦ をとれば( u3 は U1 の列が正規直交系をなすように選ぶ)、 ⎡ 3/4 0 ⎤ ⎢ ⎥ 1/ 2 ⎥ となる。 U1T Q1V1 = U1T Y = ⎢ 0 ⎢ 0 0 ⎥⎦ ⎣ (3) ⎡1/ 4 0 ⎤ Q 2 V1 ≡ Y ≡ [ y1 y 2 ] とし、(2)と同様の手続きを踏めば、 YT Y = ⎢ ⎥ 。ゆえに、 ⎣ 0 3 / 4⎦ U 2 = ⎡⎣ −y1 /(1/ 2) − y 2 /( 3 / 2) u3 ' u 4 '⎤⎦ をとれば( u3 ', u 4 ' は U 2 の列が正規直交系をな ⎡ −1/ 2 ⎢ 0 T すように選ぶ)、 U 2Q 2 V1 = U 2 Y = ⎢ ⎢ 0 ⎢ ⎣⎢ 0 Copyright 再履修線形代数研究会 ⎤ ⎥ − 3 / 2⎥ (4) 略 ■) 0 ⎥ ⎥ 0 ⎥⎦ 0 21 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡1 ⎢0 ⎢ ⎢ Q Q ⎡ 11 12 ⎤ 問題 12.7 Q ≡ ⎢ ⎥≡⎢ ⎣Q 21 Q 22 ⎦ ⎢0 ⎢0 ⎢ ⎣0 レッスン 12 CS 分解 0 0 0⎤ 0 − 1 0 ⎥⎥ ⎡C ' − S ' ⎥ ⎢ ⎥ ≡ S' C 0 1 0 0⎥ ⎢ ⎢0 0 1 0 0 0⎥ ⎣ ⎥ 0 0 0 1⎦ ⎡1 はすでに Stewart 型 CS 分解の標準形をなす。ここに、C ' = ⎢ ⎣0 0 0 0⎤ 0 ⎥⎥ I1 ⎥⎦ 0⎤ ⎡0 0 ⎤ , S' = ⎢ ⎥ ⎥ としている。 0⎦ ⎣0 1 ⎦ この行列の Paige-Saunders 型標準形を求めよ。 Q11 の特異値は {1, 0} であるから r = 1, s = 0 となる。ゆえに、 C は空ブロックを表 (略解: す。これにより Paige-Saunders 型標準形は次のように確定する: ⎡1 ⎢0 ⎢ ⎢ ⎢ ⎢0 ⎢0 ⎢ ⎣0 0 0 0 0 1 0 0 0⎤ ⎡ I1 0 0 1⎥⎥ ⎢ 0 ⎥ ⎢ ⎥=⎢ 1 0 0⎥ ⎢ ⎢ 0S 0 1 0⎥ ⎢ ⎥ 0 0 0 0⎦ ⎣ (1 I1 0S T 0 ⎤ ⎛ 1 ⎥ 0 I1 ⎥ ⎜⎜ 1 ⎥⎜ ⎥⎜ I2 0 ⎥ ⎜ 2 ⎥⎜ 0 0 CT ⎦ ⎝ 1 1 2 0 0C 0 1 ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ■) ⎟ ⎟ ⎠ ) 問題 12.8(P-G型 CS 分解証明への補足) 次の n 次実行列( n = m + p = k + q )は直交行列 を表すという: ⎡I ⎢ C ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢W ⎢ 11 ⎢ W21 W22 ⎢W W 32 ⎣ 31 ( r Y11 Y12 Y22 0C W33 X11 X12 X 21 X 22 X31 X32 Y13 ⎤ Y23 ⎥⎥ Y33 ⎥ ⎥ ⎥ X13 ⎥ ⎥ X 23 ⎥ X33 ⎥⎦ ⎛r ⎜ ⎜s ⎜m−r − s ⎜ ⎜ ⎜ p−k +r ⎜ ⎜s ⎜k −r − s ⎝ ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟(空欄は 0 ブロックを表す)こ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ s k − r − s p − k + r s m − r − s) ここに W22 , W33 は対角成分が負でないような下三角行列、 Y22 , Y33 は対角成分が負でない上三 ⎡cr +1 ⎢ 角行列、 C は C = ⎢ ⎢⎣0 0 ⎤ ⎥ (1 > c ≥ r +1 ⎥ cr + s ⎥⎦ ≥ cr + s > 0) 型の行列、 0C は 0 行列を表す。 すると、上の行列は実は次の形でなければならないことを示せ: Copyright 再履修線形代数研究会 22 レッスン 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡I ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢0 ⎢ S ⎢ ⎢ ⎣ (r ⎤ ⎥ C S ⎥ 0C I⎥ ⎥ ⎥ ⎥ X11 ⎥ −C S ⎥ T⎥ I 0C ⎦ s k − r − s p − k + r s m − r − s) 0S T ⎡ sr +1 ⎢ ただし、 S = ⎢ ⎢⎣0 0 ⎤ ⎥ (0 < s ≤ r +1 ⎥ sr + s ⎥⎦ CS 分解 ⎛r ⎜ ⎜s ⎜m−r − s ⎜ ⎜ ⎜ p−k +r ⎜ ⎜s ⎜k −r − s ⎝ ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ ≤ sr + s < 1, si = 1 − ci 2 ) 、 X11 は p − k + r 次直交行 列を表す。 (略解: 与えられた行列の直交性と W22 , W33 , Y22 , Y33 の形に関する仮定から出る。与えられ た行列は標準形の一歩手前の形を表す。 X11 は直交行列ゆえ、これを左または右へ括り出せば 標準形が得られることは 12.2 節の証明で示した。この問題は左上ブロックに特異値分解 ⎡I 0 0 ⎤ U Q11V1 = ⎢⎢0 C 0 ⎥⎥ を施し、Q 21V1( V1 は今や既知!)に QR 分解を施して U 2T (Q 21V1 ) = ⎢⎣0 0 0 ⎥⎦ T 1 下三角行列とし、 U1 Q12 ( U1 も今や既知!)に QR 分解を施して ( U1 Q 21 )V2 = 上三角行列 T T T とすれば、これらは実は特異値分解を表すのみならず、 U 2 Q 22 V2 も特異値分解直前の形をし ていることを示す。QR 分解はシュール分解に関するレッスンの中で説明した。■) 問題 12,9 (正射影)12.4 節(e)の逆:与えられた n × n 行列 P 、任意の x, y ∈ R n×1 に対して x − Px ≤ x − Py が成り立つという。 PT (I − P) = 0 を示せ。すなわち、 P は正射影を表す。 (略証 PT (I − P) ≠ 0 と仮定すれば矛盾が起ることを示せばよい。実際、 0 ≠ PT (I − P)x 0 ≡ u 0 ( x 0 ∈ R n×1 )とすれば、若干の計算後 x0 − P(x0 + ε u 0 ) = x0 − Px 0 − ε (2 u 0 − ε Pu 0 ) が得られる。 u 0 > 0 だから、十分 2 2 小さい ε > 0 に対して、右辺 < x 0 − Px 0 Copyright 再履修線形代数研究会 2 2 2 となる。これは与えられた条件に矛盾する。■) 23
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