Shiga University Seeds No. 10 2014 –January 【研究テーマ】 ■ ブロンテ □ 日本におけるブロンテ姉妹の受容 ■ 英文学受容 ■ 来日西洋人 □ 日本学者 F.V.ディキンズ研究 ■ ディキンズ 【シーズ詳細】 ■ サトウ 【1】日本におけるブロンテ姉妹の受容 ■ 南方熊楠 本研究の目的は、日本におけるブロンテ受容の歴史をたどることにある。ブロンテ姉妹が日本でどの ように紹介され受容されたかを、明治の紹介の段階から昭和初期に全訳が出版されるまでを、文芸雑 誌、学術雑誌、新聞その他の一次資料を基に跡づけ、最後に翻訳の検証を通して日本におけるブロン テ姉妹の受容の分析を試みた。 明治期については『女学雑誌』におけるブロンテ関連記事を拾い、『ジェイン・エア』が良妻賢母思想を 背景として紹介され、受容されてきたことを跡づけた。次に、水谷不倒による最初の抄訳「理想佳人」を 検証し、不倒訳の換骨奪胎の視点が当時の日本の読者に馴染みのない個人の意識、自我、恋愛に向 けられていたことを明らかにした。大正期については、『英語青年』『英語研究』などの専門誌に掲載され た対訳・註釈を検討した。それらは欧米における主だった批評動向を反映する一方で、日本独自のもの 岩上 はる子 Haruko Iwakami として訓詁学的な研究により、後の翻訳への道筋を開くことになる。なかでも岡田みつによる研究社英 文学叢書の『Jane Eyre』は、初めての女性によるもので、全編にわたっての正確で解釈に踏み込んだ 註釈によって、後の全訳に大きな影響を与えたことを検証した。 教育学部/教授 最後に十一谷義三郎の全訳『ジェイン・エア』を検討した。新感覚派の小説家として知られる十一谷 が、一方で優れた英文学研究者でもあったことを明らかにし、強い自我意識をもつジェインの造形に「孤 【専門分野】 ・イギリス小説 ・ブロンテ受容史 ・F.V.ディキンズ研究 【プロフィール】 ●1980 年 明治学院大学 文学研究科 英文学博士課程 後期単位取得退学 ●修士(英文学) ●1985 年 鳥取大学 教養部(配置換えにより 教育学部、改変により 地域教育科学部) 独」「自我」「生命への礼賛」などの十一谷文学の本質に通底するものがあることを指摘した。受容研究 の一つの方法として翻訳の検証も有効であることが立証された。 【2】日本学者 F.V.ディキンズ研究 幕末維新期に来日した F.V.ディキンズは英国海軍医や弁護士として活動する傍ら、日本文化への造 詣を深め、初の本格的英訳とされる『百人一首』を出版(1866 年)、その後も『竹取物語』『忠臣蔵』『方丈 記』などを英訳し、日本文学の海外への紹介に先駆的な役割を果たした人物である。 本研究の目的は、サトウ、アストン、チェンバレンを代表とする日本研究において見落とされてきたディ キンズを、日本学者として評価し、位置づけることにある。ディキンズが横浜で知遇を得て以来ともに日 本研究に研鑽をつんだ外交官アーネスト・サトウと晩年に交わした 72 通の書簡、ディキンズがイギリス に帰国後にロンドンで出会い、その日本研究において大きな助力を得た南方熊楠に宛てた 51 通の書 簡、さらに、ディキンズがその伝記を執筆した英国駐日公使ハリー・パークス宛ての書簡およびロンド ン・タイムズへの投稿記事の合計 11 通を翻刻し、注釈と翻訳を添えて刊行した。 今後の研究はディキンズの最初の評伝の執筆を目指したものになる。著作集と書簡集が刊行された 【所属学会】 ・Bronte Society(UK) ・日本英文学会 ・日本ブロンテ協会 ・日本英学史学会 現在、次に求められているのはひとりの日本学者の生涯の軌跡を辿ることである。ディキンズがその生 涯を通じていかに日本と関わりあったかを、綿密な資料調査に基づき考察する。その際、日本を西洋に 紹介してくれた「恩人」としての評価ではなく、東洋をあくまで「他者」として眼差した一英国人として捉 え、ありがちな礼賛型の研究とは視点を異にする。ディキンズを研究することはイギリスにおける日本研 究の本質を探ることにもなり、西洋の東洋に対する、サイードのいう「オリエンタリズム」の研究に連なる ものである。 <主要著訳書> ◆エドナ・オブライエン『わが母なるアイルランド』、ありえす書房、1985 年(訳書) ◆クリスティーン・アレグザンダー『シャーロット・ブロンテ初期作品研究』、ありえす書房、1990 年(訳書) ◆『ブロンテ初期作品の世界』、開文社、1998 年(単著) ◆『シャーロット・ブロンテ初期作品集 I』、鷹書房弓プレス、1999 年(監訳) ◆『シャーロット・ブロンテ初期作品集 II』、鷹書房弓プレス、2001 年(監訳) ◆『F.V.ディキンズ書簡英文翻刻・邦訳集』、エディション・シナプス、2011 年(共編著)、日本英学史学会 奨励賞受賞(2012.10) 80
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