不確実下での排反的投資案の比較(再掲) 経 済 性 分 析 ある企業の生産技術部門では、ある製品の製造方法の代替案として、 自動化レベルの低い案A と自動化レベルの高い案B を開発できる見込 セッション12 みである。この製品の販売市場における情報と,2つの案の製造コスト の情報が次表のように予測されている。但し,これらの情報はいずれも -安全性分析に関する補足(F-v図の活用)- 不確実である。年当たりの利率は, i=8%とする。 製品の情報 慶應義塾大学院経営管理研究科 2014/05/26 製造コストの情報 販売価格(P) 100万円/個 案 初期投資額 販売量(S) 1,000個/年 A 8億(CA) 50万円/個(vA) 3年 B 14億(CB) 20万円/個(vB) 市場寿命(n) 変動費単価 河野宏和,稲田周平 2 設備案A,Bの基本経済指標の計算結果 案A 案B 初期投資額 (億円) 8 14 報収 (億円/年) 5 8 案A 案B 正味現価 (億円) 4.89 6.62 正味年価 (億円/年) 1.90 2.57 案A 案B 投資利益率(%) 39.5% 32.7% 回収期間(年) 1.8 2.0 初期投資額 (億円) 6 報収 (億円/年) 3 感度分析の結果 資本の利率 計算期間 8% 3年 許容投資額 (億円) 12.89 20.62 必要回収額 (億円) 3.10 5.43 感度係数の計算式 案A 案B P S 5.26 3.89 P v S 2.63 3.11 v S 2.63 0.77 F S S 1.63 2.11 市場寿命n ― 1.62 2.09 資本の利率 i ― 0.24 0.31 販売単価P 販売量S 差の案 B-A 正味終価 (億円) 6.15 8.34 追加投資利益率 (%) 23.4% 変動費単価v 固定費F 追加回収期間 (年) 2.27 3 安全性分析の結果 4 損益分岐線と優劣分岐線 FA vA S F 案Bの損益分岐線:P B vB S F FA 案A, Bの優劣分岐線:S= B v A vB 案Aの損益分岐線:P 1,400,000 販売単価P 販売量S 安全率の計算式 案A 案B S P 1,300,000 19% 26% 1,200,000 S P v 38% 32% S v S F S 38% 130% 61% 47% 市場寿命n ― 41% 35% 資本の利率 ― 393% 308% 変動費単価v 固定費F 1,100,000 1,000,000 900,000 800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 0 5 2014, Inada Laboratory, Keio University 500 1000 1500 2000 6 1 案の正味利益と安全性の可視化(グラフ化) 1,400,000 1,300,000 ・分析の状況: 1,200,000 • ある1つの製品の製造方策として,複数の代替案が存在する。 販売価格(円/個) 1,100,000 • 製品の販売単価および販売量,さらに,各製造方策での変動費 単価および期間内固定費の値が不確実である。 1,000,000 900,000 • このような不確実な状況下で,方策の優位性(利益の大小,安全 性の大小)を検討する。 800,000 700,000 ・製品について ・製造方策について 600,000 販売単価(円/個) 500,000 400,000 販売量(円/期) 0 500 1000 1500 vB 期間固定費(円/期) FA FB 8 F-v図における案の正味利益 利益・安全性分析図表(F-v図) 案Aの利益: P A P S v A S FA S 案Aの利益: P vA 案Bの利益: B P S vB S FB vA vB 案B vA ※PとSは共通であることに注意して下さい。 7 P S 2000 案A 変動費単価(円/個) P vA A P S v A S FA S A FA P vA S FA FB FA PS PS 9 確認:設備案A, Bの利益構造と利益 製品の情報 演習1:F-v図の作成と活用 製造コストの情報 販売価格(P) 100万円/個 案 固定費(F) 変動費単価(v) 販売量(S) 1,000個/年 A 3.10億円 50万円/個 B 5.43億円 20万円/個 課題1:F-v図の作成 以下の操作を行って,設備案Aと設備案BのF-v図を作成しなさい。 1)XY平面上に,Y切片をP,X切片をP×Sとする直線を引きなさい。 2)XY平面上に,X座標をFA,Y座標をvAとする点をプロットし,案Aとし なさい。同様に案Bをプロットしなさい。 A 100万円/ 個50万円/ 個 1000個8億円 P M3 8% 1.90億 課題2:F-v図の活用 次の操作を行って,該当する案に×印を次ページの表中に記しなさい。 ①両案を比較して,利益の小さい案 ここで, FA 8億円 P M 3 3.10億円 8% ②Y切片をP,X切片をP×Sとする直線を下方向に平行移動して,先に ぶつかる案 pB =(100万円/ 個-20万円/ 個)´1000個-14億円´[ P M]3 8% = 2.57億 10 ③ Y切片をP,X切片をP×Sとする直線をY切片Pを中心に時計回りに 回転して,先にぶつかる案 ここで, FB 14億円 P M 3 5.43億円 8% 11 2014, Inada Laboratory, Keio University 12 2 演習1の設備案A,Bに関するF-v図 ④Y切片をP,X切片をP×Sとする直線をX切片P×Sを中心に時計回りに回転 して,先にぶつかる案 ⑤ Y切片をP,X切片をP×Sとする直線をY切片Pを中心に時計回りに回転し て,先にぶつかる案(先の③と同じ操作) 案A 案A 100 80 案B 単価軸(万円) ①:利益 ②:販売単価 ①:利益 × ②:販売単価 × ③:販売量 60 案B × 案A ④:変動費単価 × 40 ⑤:固定費 ③:販売量 20 × 案B ④:変動費単価 0 ⑤:固定費 0 2億 4億 6億 8億 10億 総額軸(億円) 13 14 おさらい:設備案A, BのF-v図による分析 数値計算の結果との比較 案A F-v図からの結果 案A 案B × ①:利益 × ③:販売量 × ④:変動費単価 × ⑤:固定費 × 案A 案B 1.90億円 2.57億円 19.0% 25.7% 38.0% 32.1% 38.0% 128.5% 61.3% 47.3% 販売単価P 販売量S ○ ○ 変動費単価v 固定費F 15 案B ○ 利益π 単価軸(万円) ②:販売単価 数値計算からの結果 ○ ○ 16 F-v図上での利益の大きさの比較 F-v図上での安全性比較(その1) ◆販売価格Pの下落に対して 点A(案A)を通って,右上の青の実斜線と 平行な点斜線を引く。 P S S 販売価格Pが下落すると,右斜め上の 実線(青線)が傾きSを保ったまま,下 方向に移動する。 P シェード部分にプロットされる案の利益は, 案Aの利益よりも大きいことが分かる。 S P 図上のΔP(=P-P’)が,販売価格の変 動に対する案Aの安全性(余裕)を表し ている。 P A S 例えば, A B B PS P S 17 2014, Inada Laboratory, Keio University PS 18 3 F-v図上での安全性評価(その2) 点A(案A)を通って,右上の実斜線と平行 な点斜線を引く。 P S ◆販売量Sの下落に対して 販売価格に関して,シェード部分にプロッ トされる案の安全性は,案Aの安全性より も高いことが分かる。 S 販売量Sが下落すると,右斜め上の実 線(青線)がY切片Pを中心に時計まわ りに回転する。 P S PS S S 図上のΔS(=S-S’)が,販売量の変動 に対する案Aの安全性(余裕)を表し ている。 上図の案A,Bに関しては, 販売価格に関して,案Bは案Aよりも安全性が高い。 (販売価格が下落しても利益を割り込み難い) PS P S (補足)案の利益が高い程,価格に関する安全性は高い。 19 20 F-v図上での安全性評価(その3) Y切片Pと点A(案A)を結ぶ点斜線を引く。 P ◆固定費Fの増大に関して 販売量に関して,シェード部分にプロット される案の安全性は,案Aの安全性より も高いことが分かる。 固定費Fが増大すると,点A(案A)が水平 右方向に移動する。 P S 図上の FA FA FA が,固定費の変動 に対する案Aの安全性(余裕)を表している。 P S 上図の案A,Bに関しては, vA 販売量に関して,案Bは案Aよりも安全性が高い。 (固定費が増大しても利益を割り込み難い) FA FA FA PS 21 22 この時,次の性質が成り立つ。 Y切片Pと点A(案A)を結ぶ点斜線を引く。 P 点A(案A)とY切片Pを結ぶ直線上にのる 点B(案B)を考える。 P 固定費に関して,シェード部分にプロットさ れる案の安全性は,案Aの安全性よりも高 いことが分かる。 S vA vB 案A, Bの固定費の増大に関する余裕率 は,次式の通り等しくなる(証明略)。 a2 a1 b1 FA FB P S a2 b2 a1 b1 b2 上図の案A,Bに関しては, P S 固定費に関して,案Bは案Aよりも安全性が高い。 (固定費が増大しても利益を割り込み難い) 点A(案A)とY切片Pを結ぶ直線上にある点(案)の 固定費に関する安全性は等しい。 (補足)販売量に関して安全性の高い案は,固定費に関しても安全性が高い。 23 2014, Inada Laboratory, Keio University 24 4 F-v図上での安全性評価(その4) この時,次の性質が成り立つ。 点A(案A)とX切片PSを結ぶ直線上にのる 点B(案B)を考える。 ◆変動費単価vの増大に対して P 変動費Fが増大すると,点A(案A)が垂直 上方向に移動する。 P S 案A,Bの変動費の増大に関する余裕率は, 次式の通り等しくなる(証明略)。 a2 vA S v A 図上の v A vA v A が,変動費の変動に 対する案Aの安全性(余裕)を表している。 vA b2 vB a1 vA PS FB FA FA a2 b2 a1 b1 b1 点A(案A)とX切片PSを結ぶ直線上にある点(案)の 変動費に関する安全性は等しい。 PS 25 26 これまでの結果をまとめると P X切片PSと点A(案A)を結ぶ点斜線を引く。 案0を基準にして, 領域① 販売価格,販売量,固定費の変動 に対して安全 P ① 変動費に関して,シェード部分にプロットさ れる案の安全性は,案Aの安全性よりも 高いことが言える。 案0 v0 PS 領域② 販売価格,変動費単価の変動に対 して安全 ② ③ 上図の案A,Bに関しては, F0 P S 領域③ すべての要因(販売価格,販売量, 固定費,変動費単価)の変動に対し て安全 注)①,②,③の領域の案は,いずれも案0よりも利益が高い 変動費に関して,案Bは案Aよりも安全性が高い。 (変動費が増大しても利益を割り込み難い) 案をひとつに絞り込む前に,もっと良い案(領域③に入る案)を 模索する態度が大切。案を比較するだけでは,不十分。 27 設備案A, B(演習1)に適用してみると 28 不確実下での分析のまとめ ◆不確実な状況で,経済性の分析や意思決定を行うための考え方 ハッチングの領域内に納まる案 (初期投資額と変動費単価からなる 生産設備)が考えられないだろうか? 単価軸(万円) 案A 案B 採算検討図 分岐線(点)分析 〔損益分岐線(点),優劣分岐線(点)〕 感度分析,安全性分析,利益・安全性図表(F-v図) 不確実な状況への対応 利益π ○ ・不確実な値でもよいから利益を計算してみる。 販売単価P ○ ・要因の値を動かしてみて,利益への影響を調べてみる。 販売量S 変動費単価v 固定費F ・分岐点を計算したり,分岐線を描いてみる。 ○ ○ ○ ・真に注目すべき要因がどれなのかを見極める。 ・要因の変化に対して,安全性の高い案を見極める。 ・より不確実性に対して強い案が検討できないかを考えてみる。 29 2014, Inada Laboratory, Keio University 30 5 演習1:人件費の上昇が見込まれる問題(その1) 問題 甲社の営業部門では,物流倉庫の自動化によって,3人の作業員 の削減を図ることを計画している。この物流倉庫の初期投資額は5,000 万円である。投資の計画期間は7年,資本の利率は10%とする。ここで, 作業員の人件費は,現在の給与ベースでは1人当たり300万円/年だが, 年々7%の割合で上昇していくことが予想されている。経済的にみて,こ の物流倉庫の導入はペイするだろうか。 経 済 性 分 析 セッション13 -物価上昇が見込まれる中での経済性分析- <人件費の上昇を考えない場合> P 5000万円 900万円 M P 7 10% 慶應義塾大学院経営管理研究科 618万円 2014/05/26 物流倉庫の導入はペイしない。 河野宏和,稲田周平 32 900 1 0.07 答えを出す為の2つの考え方 t 1)名目法による分析 キャッシュ・フローを名目価値(各時点での実際の収入額,支出額) で捉える。 5,000 資本の利率は,名目利率i(物価変動を考慮していない金利)を使う。 900 1 0.07 P t i 10% 人件費の上昇(年7%)が見込まれる時には, 物流倉庫の導入はペイする。 5,000 33 900 1 0.07 34 2)実質法による分析 t 900 この部分を,1つの利率(実質利率k) として見る取り扱い方 5,000 5,000 P 5000万円 P 5000万円 2 7 1 0.07 1 0.07 1 0.07 900万円 2 7 1 0.1 1 0.1 1 0.1 7 1 0.07 1 0.07 2 1 0.07 900万円 2 7 1 0.1 1 0.1 1 0.1 650万円 650万円 人件費の上昇(年7%)が見込まれる時には, 物流倉庫の導入はペイする。 35 2014, Inada Laboratory, Keio University 1 1 k 1 h 1 1 i 1 k より, k 1 i 1 1 h 36 6 演習2:人件費の上昇が見込まれる問題(その2) キャッシュ・フローを実質価値(現時点でのお金の価値にデフレート した金額)で捉える。 資本の利率は,実質利率k(物価変動を考慮した金利)を使う。 甲社の営業部門では,物流倉庫の自動化によって,3人の作業員の削 減を図ることを計画している。この物流倉庫の初期投資額は5,000万 900 円である。投資の計画期間は7年,資本の利率は10%とする。ここで, 作業員の人件費は,現在の給与ベースでは1人当たり300万円/年だが, 1 i 1 1 h 1 0.1 1 2.8% 1 0.07 k 5,000 年々7%の割合で上昇していくことが予想されている。 経済的にみて,この物流倉庫の導入はペイするだろうか。 i:資本の利率 (名目利子率) k:実質利率 問1 この投資案の投資利益率(利回り)を計算しなさい。 h:物価上昇率 問2 この投資案はペイすると考えてよいだろうか。問1で計算した投資 利益率の値を利用して,結論を導き出しなさい。 37 38 演習3:異なる物価上昇率を持った要素が含まれる場合 投資利益率法の取り扱い ◆実質法による投資利益率法の取り扱い 丙工場では,現在,生産工程の自動化に取り組んでいる。この自動化 案の実質的な投資利益率と実質利率kとの比較の中で,これまでと 同じように案の採否判定を行うことができる。 案では,2,000万円の設備投資をすると,人件費を,現在の給与水準で 毎年600万円ほど節減することができる。人件費は年々12%ずつ上昇 することが予想されている。 5000万円 900万円 M P 7 0 r 一方で,設備投資を行うと,年々の維持・修理費が,現在の物価水準で 毎年100万円ほど,自動化の実施前に比べて増加する。この維持・修理 ※この値は,実質価値であることに注意 費は,修理部品等の物価上昇に伴って,年々3.7%ずつ上昇することが 予想されている。 r 6.1% 実質利率2.8% 資本の名目利率は12%とする。この生産工程の自動化は経済的にみ てペイするだろうか。 (補)名目上の投資利益率(=13.5%)と名目利率i(=10%)とを比 較する方法もあるが,ここでは省略。 39 ◆実質法を利用して 40 ◆実質法を利用して 600 100 600 100 5,000 k1 k2 5,000 P k1 1 0.12 1 0% 1 0.12 k2 1 0.12 1 8% 1 0.037 P 2000万円+600 M P 6 -100 M P 6 0% 8% 1,138万円 よって,工程の自動化は経済的にペイすると考えてよい。 よって,工程の自動化は経済的にペイすると考えてよい。 41 2014, Inada Laboratory, Keio University 42 7
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