革新的膜工学を利用した水ビジネスにおける

世紀は「水の
在最も早急に解決を迫られている環境問題の一つ
す。また近年新たな浄水技術の開発に注目が集め
海水淡水化プラントの建設が加速的に進んでいま
ら れ て い ま す が、 こ れ は 水 道 水 源 の 悪 化 に よ り、
トリハロメタンの生成やカビ臭、クリプトスポリ
水不足を解決する手段としては、膜技術がその
根幹をなすものと言え、膜を用いた水処理は現在
処理は、従来法に比べプロセスを簡素化でき、濁
していることに起因します。膜技術を用いた浄水
ジウム等の病原性原虫類などの様々な問題が発生
多くの関心を集めています。このような水処理膜
度の低減や大腸菌群の除去に優れているため、非
分野では、日本企業の世界シェアが全体で
題は、食糧問題・エ
ています。水不足問
といった予測もされ
が水不足に直面する
世界の人口の2/3
また2025年には
と も 多 く あ り ま す。
再 生 水 処 理 に 大 別 で き ま す。 R O 膜 を 用 い た 海
水・ 廃 水 処 理 お よ び M F / U F / R O 膜 に よ る
ろ過膜)による浄水処理、MF/UF膜による下
水淡水化、MF膜(精密ろ過膜)/UF膜(限外
主な水処理技術は、RO膜(逆浸透膜)による海
高分子膜の分類について、孔径、分離対象物質
および膜の名称を図1に示します。膜法を用いた
達しています。
その生産に取り組んでいます。
「ニューウォーター」と名付けられ、国を挙げて
清 澄 化 し、 飲 料 水 を 得 て い ま す。 こ の 飲 料 水 は
廃水にUF膜処理を行った後に、RO膜を用いて
す。特に水不足が深刻なシンガポールでは、生活
で大規模膜利用排水再利用設備が導入されていま
)を中心に膜法の利用が拡大してお
Bioreactor
り、シンガポール、アメリカ、オーストラリア等
廃 水 処 理 分 野 に お い て も、 M B R(
%にも
ネルギー問題と一体
水 淡 水 化 技 術 に つ い て は、 中 東、 中 国、 ス ペ イ
かなり高く、特に海水の淡水化用膜では
化して解決すべき世
ン、オーストラリアの沿岸部を中心にして大型の
membrane
界的課題であり、現
常 に 有 効 な 水 処 理 法 と 言 え ま す。 さ ら に 下 水・
%と
膜を用いた水処理技術
と言うことができます。
松 山 秀 人
神戸大学大学院工学研究科 先端膜工学センター 教授・センター長 革新的膜工学を利用した
水ビジネスにおけるグリーンイノベーションの創出
水不足問題
現在人口増加や経済発展に伴い、世界的な水不
足 問 題 が 深 刻 化 し て い ま す。 中 近 東 は も と よ り、
アメリカ、中国、オーストラリア等の広範な地域
での水不足(高い水ストレス)が予測されており、
世紀は「石油の時
し、
21
代」であったのに対
20
時代」と言われるこ
60
70
論文
図1 高分子膜の名称と孔径及び分離対象物質
10
▶ 2014年度論文集 テーマ【 マ ッ チ ン グ 】
エネルギープロセスが可能となります。
液: Draw Solution, DS
) を 用 い れ ば、 海 水 側 か
らDS溶液側に自発的な水透過が起こる究極の省
り も 高 い 浸 透 圧 を 有 す る 高 浸 透 圧 溶 液( 駆 動 溶
る 必 要 が あ り ま す。 一 方 F O 膜 法 で は、 海 水 よ
として浸透圧よりも高い圧力を海水側に負荷させ
て現在主流であるRO膜法では、水流束の駆動力
最近、次世代の水処理技術としてFO膜法が注
目されています(図2参照)
。海水淡水化におい
FO膜を用いた水処理
成の両面で産学連携を推進するため、「先端膜工
界とのインターフェースとして先端研究と人材育
日本や海外に向けて発信しています。加えて産業
を行うとともに、最新の学術情報をセンターから
ンターと言えます。革新的な膜工学の教育・研究
的なセンターとしては、日本初および唯一の膜セ
)を2007年に
membrane/center/index.html
設置しました。大学における膜工学に関する本格
我 々 は 神 戸 大 学 工 学 研 究 科 に「 先 端 膜 工 学 セ
ン タ ー」( http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-
神戸大学先端膜工学センター
行することにより、事業運
立てていません。今後種々の戦略オプションを実
国際競争力を有するものの、事業運営では先頭に
ように、日本勢は膜等のキーコンポーネントでは
発を追求する必要があります。またよく言われる
技術をリードするためには、次世代型革新膜の開
追い上げも激しく、引き続き日本が世界の水処理
がら中国、シンガポール、韓国などのアジア勢の
水処理膜分野では、上記のように、現在日本企
業の世界シェアは非常に高い状況です。しかしな
国の膜工学研究が進展することを期待しています。
設が日本における膜工学研究の核となり、益々我が
F O 膜 プ ロ セ ス の 概 略 図 を 図 3 に 示 し ま し た。
学 研 究 推 進 機 構 」( http://www.research.kobe-u.
れいな水のみをDS溶液側に透過させます。その
構は、現在膜メーカー、水環境関連エンジニアリ
)を同年設立し
ac.jp/eng-membrane/index.html
ました。(一般社団法人)先端膜工学研究推進機
ます。
する道筋を築く必要があり
営においても世界をリード
後 D S 溶 液 は 再 生 装 置 を 用 い て、 生 成 水 と 濃 厚
ング会社などが会員企
海 水、 下 廃 水 等 の F S 溶 液( Feed Solution
)を
FO膜を介してDS溶液と接触させ、自発的にき
DS溶液に分けられ、濃厚DS溶液は再利用され
業(
社)として参画
ます。
FO膜法は、現状の水処理プロセスを一変させ
てしまう可能性を秘めています。現在世界各国が
れています。
体、感温性高分子、磁性体微粒子等の提案がなさ
DS物質の開発です。DS物質として水可溶性気
ロ セ ス の 実 現 に 不 可 欠 な も う 一 つ の 開 発 要 素 は、
FO膜法の実現には、FO膜プロセスに特化し
た 高 性 能 の 膜 の 開 発 が 重 要 で す。 ま た F O 膜 プ
ンパス内に「先端膜工
に、現在神戸大学キャ
強力に推進しています。
中核とした産学連携を
先端膜工学センターを
アムとして、神戸大学
膜研究推進コンソーシ
図3 FO膜プロセスの概略図
する我が国最大規模の
しのぎを削ってこの開発に注力しており、このプ
学 研 究 拠 点 施 設 」( 約
この様な活動を背景
ロセスを確立させた国が次世代の水ビジネスを
6000㎡)の建設が
11
リードすることは間違いないと思われます。
進んでいます。この施
図2 RO膜法とFO膜法の比較
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