日心第70回大会(2006) ユニバーサルデザイン用ツールとしての 低視力シミュレータの試作 −フィルタ距離と視力低下の関係− ○ 中野 泰志 新井 哲也 布川 清彦 永井 伸幸(非会員) (慶應大学経済学部) (慶應大学社会学研究科) (東京国際大学人間社会学部) (筑波技術大学保健科学部) key words:ユニバーサルデザイン、シミュレーション、低視力 1.目的 (2)実験参加者:実験参加者は視力(矯正含む)が 1.0 以 高齢者や障害者の利用も考慮したユニバーサルな製品デザ 上の成人晴眼者 12 名で、男性8人、女性4人であった。 インを行う際、プロトタイプが完成してからユーザによる評 (3)手続き:実験参加者の正面 90cm の距離に、ランドルト 価を行うのではなく、デザインの過程で、適宜、必要な評価 環視力検査票(単独視標)を提示し、フィルタの位置を を実施したいというニーズがある。一方、高齢者や障害者等、 変化させ、視標が視認できる認知閾を測定した。提示し 実際のユーザによる評価は重要であるが、途中段階で、毎回、 たランドルト環視力検査票は、90cm の観察距離用に作成 ユーザ評価を実施することは、時間的にもコスト的にも課題 した単独視標(1200dpi の解像度で印画紙出力)で、視 が多い。そのため、デザインの絞り込みを行う段階で、簡便 力は 0.04、0.06、0.1、0.16、0.25、0.4、実験参加者の で迅速に実行でき、なおかつ、精度の高いシミュレータが必 視力に相当する視標(1.2/1.5/2.0)の7種類であった。 要とされている。本研究の目的は、そうした要件を満した、 フィルタの距離を変化させることで、ぼやけを連続的に ぼやけによる低視力をシミュレートできるシステムを試作す 変化させ、各ランドルト環視標が視認できるフィルタ距 ることである。 離の閾値を求めた。閾値の測定には、心理物理学的測定 法の上下法を用いた。 2.方法 ぼやけをシミュレートする方法として、Legge(1985)と 3.結果・考察 同様に、ground glass フィルタを用いた。この方法であれば、 12 名の実験参加者のデータを用いて作成した「視力(分 視対象とフィルタの距離で、ぼやけの程度を系統的にコント 解能) 」と「対象からフィルタまでの距離(フィルタ距離) 」 ロールすることが可能である。そこで、本研究では、視対象 との関係を最小二乗法により求めた結果、 「視力= 1.8033 × とフィルタ間の距離と視力の関係に関する心理物理実験を実 フィルタ距離^ -0.9038」(R=0.967)という関係にあること 施した。 がわかった。 (1)装置:実験に用いたフィルタ(すりガラス)には、ラ ぼやけのシミュレーションを行う場合、特定の視力になる イオン製無反射ガラスを用いた。フィルタは専用のフォ ようにフィルタの距離をセットする必要がある。そこで、得 ルダに固定し、ステッピングモーター(オリエンタルモー られたデータより、視力からフィルタ距離を求める関係式 ター株式会社製ステッピングモーター・スライダー EZ を求めた結果、 「フィルタ距離= 1.9807 ×視力^ -1.0884」 limo)、ステッピングモーター制御装置(オリエンタルモー (R=0.993)という関係にあることがわかった(図2)。 ター株式会社製 EZ limo コントローラ)、高速モーターコ これらの関係式を利用すれば、フィルタ距離を動かしなが ントロールボード(株式会社コンテック製 SMC-2P) 、制 らぼやけ方を変化させた際の視力を推定することができる。 御用パーソナルコンピュータ(eMachines 製 J3024)で、 また、特定の視力をシミュレートするためには、フィルタを 距離を 0.01mm 単位で変化させることができるようにし どの距離に設置すればよいかを推定することが可能である。 た。観察距離を一定に保つために、実験参加者の顔面を <参考文献> 固定するための顔面固定器とチンレストを用いた。図1 ・Legge,G.E., Pelli,D.G., Rubin,G.S., Schleske,M. に試作機の概要を示した。 M. (1985). Psychophysics of reading - I. Normal Vision, Vision Research, 25(2), 239-252. (cm) 100.0 フィルタ 対 象 か ら フ ィ ル タ ま で の 距 離 提示台 照 明 照 明 顔面固定器 チンレスト 10.0 1.0 ステッピング モーター 0.01 0.1 1.0 2.0 視力 制御用 PC 図1 装置の外観 -1.0884 距離 = 1.9807×視力 R = 0.993 図2 視力とフィルタ距離の関係 (NAKANO Yasushi, ARAI Tetsuya, NUNOKAWA Kiyohiko, NAGAI Nobuyuki)
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