A-57 平成22年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第67号 敷砂緩衝材を設置した RC 製ロックシェッド模型の重錘落下衝撃実験 Falling-weight impact test for scale model of RC type rock-shed with sand cushion 寒地土木研究所 寒地土木研究所 寒地土木研究所 室蘭工業大学 室蘭工業大学 1.はじめに 我が国の山岳部や海岸線の道路には落石災害を防止 するための落石覆道(以後、ロックシェッド)が数多 く建設されている。これらの設計は、現在のところ許 容応力度法の下に行われている。また、過去の被災事 例の検証や数値解析的検討から、許容応力度法により 設計された同種の構造物では、耐力的に非常に大きな 安全余裕度を有していることが明らかになっている 1)。 近年、様々な構造物の設計法が許容応力度設計法か ら限界状態設計法を経て、性能照査型設計法へ移行し てきていることから、ロックシェッド等の設計におい ても性能照査型の耐衝撃設計法の確立が望まれている。 筆者らは合理的な耐衝撃設計法を確立するための基 礎的な研究として、RC 製ロックシェッドの頂版部に 着目し、RC 梁 2)、RC スラブに関する衝撃実験を実 施してきた。RC 製ロックシェッドの性能照査型耐衝 撃設計法を確立するためには、ロックシェッドに対す る終局までの耐衝撃挙動の把握ならびに実験結果を基 にした数値解析手法の精度向上が必要不可欠である。 そこで、本研究では、実ロックシェッドの 2/5 縮尺 模型試験体を 2 体製作し、1 体は緩衝工の無い状態で、 もう 1 体は敷砂緩衝材を設置した状態で重錘落下衝撃 実験を実施し、終局に至るまでの耐衝撃挙動データを 取得した。今回は緩衝材を設置した実験結果について 報告する。 2.実験概要 2. 1 試験体概要 我が国で建設されている RC 製ロックシェッドは1 ブロックが12 m の構造になっている。本実験では、よ り実物に近いロックシェッド模型(縮尺:2/5)を製作 し、耐衝撃挙動を検証することとした。なお、実際の ロックシェッドには頂版上に敷砂がt = 90 cm、飛散防 止材がt = 20cm 設置されていることから、緩衝工も模 型の縮尺に対応して、厚さをt = 50 cm に設定した。 図-1には、重錘落下衝撃実験に使用したRC 製ロッ クシェッド模型の形状寸法を示している。模型は、外 幅4.4 m、長さ4.8 m、高さ2.8 m の矩形断面であり、内 空断面は幅 3.6 m、高さ2 m で、頂版厚は40cm である。 模型縮尺を考慮し、鉄筋比については実ロックシェッ ドと同程度とすることとした。すなわち、頂版下面お よ び 上 面 の 断 面 方 向 に はD13 を 50 mm 間 隔 (主鉄 ○正 員 山口 正 員 西 正 員 今野 フェロー 岸 正 員 栗橋 図-1 悟 (Satoru Yamaguchi) 弘明 (Hiroaki Nishi) 久志 (Hisashi Konno) 徳光 (Norimitsu Kishi) 祐介 (Yusuke Kurihashi) 試験体の形状寸法 表-1 実験ケース 実験 緩衝 重錘質量 落下高さ 入力エネルギー ケース 材 M (ton) H (m) Ek (kJ) 1.00 100 S-H1.0 S-H5.0 砂 10 S-H10.0 写真-1 5.00 500 10.00 1,000 実験状況 筋比0.75 %)で53 本配置している。底版上面とハンチ 部にD16を配置している以外は、柱部、壁部ともD13を 配置している。 コンクリートのかぶりは、いずれの部材も芯かぶり を 60 mm としている。鉄筋の材質は全て SD345 であ 平成22年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第67号 図-2 重錘衝撃力波形 図―3 変位波形 る。力学的特性は、D13 の降伏強度、引張強度がそ れぞれ 413 MPa、580 MPa であり、D16 の場合は 430 MPa、609MPa である。また、使用したコンクリート の設計基準強度は 24 N/mm2 であり、実験時の圧縮強 度は 29.7N/mm2 であった。 よる内空変位である。これらの各センサーからの出力 波形は、サンプリングタイム0.1 ms でデジタルデータ レコーダにて一括収録を行っている。また、各実験ケ ースの終了後には、試験体のひび割れ状況をスケッチ している。 2. 2 実験方法 表-1には、実験ケースを一覧にして示している。各 実験ケース名は緩衝材の(S:敷砂)、重錘落下重錘落 下高さを示すHとその高さ(m) を付し、それらをハイ フンで結び簡略化して示している。 写真-1には、重錘落下衝撃実験の状況を示している。 実験はトラッククレーンを用いて10,000 kg 重錘を所定 の高さまで吊り上げ、着脱装置を介して落下させるこ とにより実施している。衝撃荷重作用位置は、ロック シェッドの中央部とした。 実験は、1 試験体に対して繰り返し重錘を衝突させ る繰り返し斬増載荷により実施した。重錘は、写真-1 に示すように直径 1.25 m、高さ 95 cm で底部より高さ 30 cm の範囲が半径 1 m の球状となっている。質量は 鋼製円筒内に鋼塊とコンクリートにより調整している。 3.実験結果 2. 3 敷砂緩衝材 本実験で用いた敷砂緩衝材は、表乾密度 2.56 g/cm3 、 吸水率 3.23 %、単位体積重量 14.4 kN/m3 の石狩厚田 産細目砂である。粒度試験結果は、0.6、0.3、0.15 mm のふるい通過率がそれぞれ 98、70、2 %となっている。 砂の締め固めについては、これまでの実験方法と同 様に 25 cm 毎に足踏み式により実施した。なお、実験 は斬増繰り返し載荷を行うことより、実験毎に敷砂緩 衝材を重錘径の倍以上の範囲で取り除き、頂版上面の クラックの有無を確認の後、再整形を行っている。 敷砂緩衝材の湿潤密度および含水比の測定は、実験 ケースS-H 1.0 の実験前に実施した。実験時の湿潤密度 は、14.1 kN/m3、また含水比は、7.33 %であった。 2. 4 計測方法 本実験における測定項目は、1) 重錘の頂部表面に設 置したひずみゲージ式加速度計(容量 100 G、応答周 波数 DC ∼ 2 kHz)による重錘衝撃力、2)非接触型レ ーザ式変位計(容量500mm、応答周波数約 1 kHz)に 3. 1 重錘衝撃力波形 図-2には、重錘が緩衝材に衝突した時間を 0 msと して、重錘衝撃力波形を示している。各重錘衝撃力波 形に関しては、ノイズを含んだ高周波成分が含まれて いるため、波形収録後に 1 ms の矩形移動平均法によ り数値的なフィルター処理を施している。 図より、S-H 5.0 は波動継続時間(以後、継続時間) が t = 60 ms 程度の正弦半波状の第 1 波と継続時間が t = 40 ms 程度の正弦半波状の第 2 波から成る波形性状 を示している。主波動継続時間は125 ms 程度である。 S-H 1.0 の場合には、入力エネルギーが小さいことに より振幅も小さいが、主波動継続時間はS-H 5.0 の場合 と類似している。S-H 10.0 の場合には、継続時間が80 ms 程度の三角形状の 1 波形状となっている。このよ うに 1 波の形状を示すのは、入力エネルギーが大きい ことにより、頂版の載荷点近傍部の損傷が大きいため、 重錘は頂版との相互作用によって生ずるリバウンドに 類似した挙動を示すことなく敷砂中に貫入し、最大衝 撃力に達した後大きくリバウンドして除荷状態に至る ためと推察される。 S-H 1.0~10.0 の波形より、重錘の落下高が小さいほ ど波動継続時間が長いことが分かる。これは、過去の 実験結果 3) と同様な傾向を示している。 3. 2 変位波形 図-3には、頂版下面の重錘落下点における鉛直方向 変位波形を示している。図より、各変位波形は重錘衝 突時点から10 ms 程度経過後に励起していることが分 かる。しかしながら、波形性状は重錘衝撃力波形に類 似している。S-H 5.0 / 10.0の場合には入力エネルギーが 大きいことにより、残留変位が発生している。特にS-H 10.0 の場合には、除荷後減衰自由振動を呈していない ことより、著しく損傷を受けていることが見てとれる。 平成22年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第67号 (a)最大重錘衝撃力 と入力エネルギーの関係 図-4 (b)最大変位 と入力エネルギーの関係 (c)残留変位 と入力エネルギーの関係 入力エネルギーと各種応答値の関係 3. 3 入力エネルギーと各種応答値の関係 図-4には、入力エネルギーと各種応答値の関係を示 している。 (a)図の最大重錘衝撃力図中には、敷砂緩衝工を用 いる場合のHertz の接触理論に基づく振動便覧式 4) に より算出した衝撃力(ラーメの定数:λ = 1,000 kN/m2、 割増係数:α = D / T = 1.58、D:重錘径 125 cm、T:敷 砂厚 50 cm)を示している。ここでの割増係数とは、 緩衝材である敷砂層厚が、落石直径より小さい場合の 落石衝撃力の増幅倍率である。図より、入力エネルギ ーの増加に伴い最大重錘衝撃力も増大していることが 分かる。図より、実験結果の最大重錘衝撃力は、振動 便覧式より得られた重錘衝撃力分布とほぼ同程度の値 を示すことが分かる。 (b)(c)図には、最大変位および残留変位と入力 エネルギーの関係を示している。なお、いずれも載荷 点直下で発生している値である。 (b)図の最大変位に直目すると、入力エネルギーが Ek ≦ 500 kJ とEk > 500kJ では最大変位の増加傾向が 異なっている。 これは後述するひび割れ状況からも分かるように、 S-H10.0場合には終局に近い状況であることによるもの と考えられる。 (c)図の残留変位の分布に着目すると、入力エネル ギーEk = 1,000 kJ の場合には、残留変位が顕在化して いる。一方、Ek = 500 kJ では 2 mm 程度で、損傷が小 さいことが分かる。最大変位と残留変位の分布を比較 すると、入力エネルギーEk = 1,000 kJ の場合における 最大変位に対する残留変位の比は0.75 程度となってい る。また、残留変位の道路軸直角方向内空全幅に対す る割合を見ると1.6 %(= 60 / 3,600)程度であり、これ はこれまでの大型RC梁実験における終局と定義してい る2% 2)の値に近く、終局に近い状態であることが確認 できる。 一方、Ek = 500 kJ の場合における最大変位に対する 残留変位の比は0.2 程度となっている。これは、残留変 位の道路軸直角方向内空全幅に対する割合が、0.05 % (= 2 / 3,600 )程度であることより、ひび割れが発生 しつつもコンクリート片の剥落もなく、損傷も顕在化 せず、供用可能な状態にあることが推察される。 写真-2 S-H5.0 上面状況 写真-3 S-H10.0 上面状況 以上より、敷砂緩衝材を設置した場合のRC製ロック シェッドの中央部載荷時における重錘衝撃力は、落石 径と敷砂厚を考慮(割増係数:α)し、かつラーメの定 数をλ = 1,000 kN/m2 としたHertz の接触理論に基づく 振動便覧式により適切に評価可能であると考えられる。 3. 4 ひび割れ発生状況 図-5には、各実験ケース終了後のひび割れ発生状況 を示している。なお、S-H 1.0 の場合には、ひび割れの 発生は確認できなかった。 図のS-H5.0(黒色)の場合には、重錘の敷砂への貫 入量が 41 cm に達しており、敷砂厚 t = 50cmに対する 貫入の割合は82%と重錘直下の敷砂は過度に締め固め られた状態となっているが、写真―2に示すように頂版 上面においてひび割れは見られない。しかし、残留変 位が 2 mm 程度であるが、頂版下面には載荷点を中心 にRC 版特有の放射状のひび割れや各柱および側壁の 頂部に道路軸直角方向の 2 次元曲げに対応した曲げひ び割れが発生している。また、柱の上部ハンチ付け根 近傍では曲げひび割れが発生している。側壁部に対し ては、上部ハンチの下方に水平方向のひび割れが発生 した。 しかしながら、かぶりコンクリートの剥落も見られ ず、十分供用可能であることが分かる。 S-H10.0(赤色)の場合においては、重錘の敷砂への 貫入量が S-H5.0の実験時と同様の41 cm に達しており、 重錘直下の敷砂は過度に締め固められた状態となって いる。このため、写真-3に示すように頂版の上面には 重錘が直撃した場合と類似の円形状の押し抜きせん断 破壊型のひび割れが発生している。また、頂版下面に は、放射状のひび割れが一層拡大し、かつ一方向曲げ を示す道路軸方向のひび割れや三重円形状のひび割れ 平成22年度 土木学会北海道支部 論文報告集 第67号 図-5 も確認でき、押し抜きせん断破壊の傾向も確認できる。 柱部においても、頂部外側、底部内側に道路軸方向に 沿ったひび割れが発生しており、箱型ラーメン構造に 対応した曲げモーメント分布を形成していることが確 認できる。また、砂止めのパラペット部にも中央部の 柱を中心に上方から下方に進展するひび割れが発生し ており、重錘のリバウンドに伴う構造全体の負の曲げ が作用していることがうかがわれる。大きなかぶりコ ンクリートの剥落は確認できないものの、上述のよう に残留変位が道路軸直角方向スパン長の1.6 % に達し ており、押し抜きせん断破壊の兆候も見られることか ら、終局限界に近い状況であることが示唆される。 以上より、落下高さがH= 5 m で入力エネルギーEk = 500 kJ では、十分供用可能な状態である。しかしなが ら、H = 10m でEk = 1,000 kJ の場合には、損傷がブロ ック全体に広がり、2 方向の曲げひび割れと共に押し 抜きせん断破壊型の円形状のひび割れも顕在し、終局 に近い状態であることが確認された。なお、この場合 の残留変位は道路軸直角方向スパン長の1.6 % 程度と なる。 4.まとめ 本研究より得られた結果を整理すると、以下のよう に示される。 ひび割れ状況 1)敷砂緩衝工を設置したロックシェッドの中央部載荷 時の最大重錘衝撃力は、落石径と敷砂厚を考慮(割 増係数:α)し、かつラーメの定数をλ =1,000 kN/m2 としたHertz の接触理論に基づく振動便覧式により評 価可能である。 2)50 cm 厚の敷砂緩衝工の緩衝効果は、入力エネルギ ーがEk = 500 kJ までは使用限界を十分確保可能であ る。また、Ek = 1,000 kJ の場合には、残留変形が道 路軸直角方向内空幅の1.6 % 程度となり、曲げ破壊 に押し抜きせん断破壊型の終局限界に近い状態とな る。 参考文献 1) 熊谷守晃:ルランベツ覆道における落石災害に関 する報告、第 2 回落石等による衝撃問題に関する シンポジウム講演論文集、pp.286-290、1993.6 2) 岸 徳光、今野久志、三上 浩、岡田慎哉:大型 RC 梁の性能照査型耐衝撃設計法に関する一提案、 構造工学論文集、Vol.54A、pp.1077-1088、2008.3 3) 川瀬良司、岡田慎哉、鈴木健太郎、岸 徳光:敷 砂緩衝工を設置したRC 製アーチ構造の耐衝撃挙 動に関する実規模重錘落下実験,構造工学論文集、 Vol55A、 pp.1313-1325、2009.3 4) 土木学会:土木技術者のための振動便覧、1985
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