黄色ブドウ球菌腸管毒素の二元的機能に関する研究 弘前大学大学院医学研究科感染生体防御学講座 教授 中根明夫 【目的】ブドウ球菌エンテロトキシン A(SEA)は黄色ブドウ球菌が産生する菌体外タン パク毒素である。SEA はスーパー抗原活性を示す一方、嘔吐誘導活性をもち、食中毒を引 き起こす。すなわち同一分子が嘔吐誘導活性とスーパー抗原活性という全く異なる二元的 な機能を有する。しかし、SEA による嘔吐誘導活性の機序はまだ明らかにされていない。 本研究では、SEA の嘔吐誘導活性に関する機序の解析を行った。 【材料と方法】嘔吐誘導活 性はスンクスに SEA を腹腔内投与し、嘔吐開始時間と嘔吐回数により評価した。セロトニ ン(5-HT)レセプター・アンタゴニスト、5-HT 合成阻害剤、周囲迷走神経阻害剤(5,7-DHT) 及び神経切断による SEA の嘔吐誘導活性に対する影響を調べた。腸管部位における SEA 刺激による 5-HT の産生は HPLC により測定した。また、カンナビノイド(CB)レセプタ ーの SEA による嘔吐への関与を検討した。さらに、5-HT の産生と CB1 レセプターの発現 について免疫組織染色により調べた。【結果と考察】スンクスは SEA に対し濃度依存的に 嘔吐反応を示した。5-HT3 レセプター・アンタゴニストや 5-HT 合成阻害剤の前投与は SEA によるスンクスの嘔吐を抑制した。SEA 投与による腸管、脳、脳幹の神経伝達物質の変化 を HPLC により測定した結果、SEA 刺激により小腸の 5-HT の産生または放出を促進した。 5,7-DHT 投与と迷走神経切断も SEA による嘔吐を抑制した。また、CB レセプター・アゴ ニストは SEA による嘔吐を抑制し、この抑制効果は CB1 レセプター・アンタゴニストに より解除された。免疫組織染色により、小腸粘膜と腸筋層間神経叢における 5-HT 産生と CB1 レセプター発現を確認した。さらに、CB アゴニストは SEA による小腸の 5-HT の産 生を抑制した。以上の結果から、SEA は腸管で神経細胞からの 5-HT 分泌を促し、迷走神 経を介して嘔吐を惹起することが示唆された。さらに、鎮痛作用を示す CB は 5-HT の産生 と放出を抑制することにより、SEA を介した嘔吐反応を制御することが示唆された。
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