再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II ジョルダン分解 Part II このレッスンでは、ジョルダン分解の応用として、行列関数の定義、スペクトル写像定 理、微分方程式解法を扱う。行列関数 f ( A) の定義には、最初の節で定義する M 演算による方 法がわかりやすい。直接代入形→ジョルダン分解代入形である M 演算形→コーシーの積分公式 1 f (λ )(λ I − A) −1 dz の順に一般化していく。ここに、f (λ ) は A のスペクトル(固 ∫ C 2π i 有値全体)を含む、複素領域内でいたるところ微分可能な関数、 C は A のスペクトルを内部に f ( A) = 含むその領域内の閉積分路、を表す。 M 演算形からスペクトル写像定理 「 det( A − λ I ) = (λ1 − λ ) (λn − λ ) なら、 det( f ( A ) − λ I ) = ( f (λ1 ) − λ ) ( f (λn ) − λ ) 」が tA 簡単に出る。最後に、行列関数 e の定係数線形微分方程式解法への応用を示す。複素解析から の必要な知識はその都度のべる。 10.1 M 演算 f (λ ) を微分可能な複素関数とし(今はどんな集合上で微分可能かは問題としない)、 f (λ ) に対応して次の n 次上三角行列を定義する( n = 1, 2, ): ⎡f ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ (n) (n) (1) M ( f (λ )) ≡ M ( f ) ≡ M ( f ) = ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣ 0 f (1) f (2) / 2! f f (1) f (2) / 2! f f ( n −1) /(n − 1)! ⎤ ⎥ f ( n − 2) /(n − 2)!⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ (1) (2) f f / 2! ⎥ ⎥ f f (1) ⎥ f ⎥⎦ ただし、記号 M ( f ) は、 n の値が前後関係から明らかな場合にのみ使う。 M ( f ) の主対角成分 f (λ ) 、その一本上の対角成分はすべて 1 階微分 f (1) (λ ) ≡ f ' (λ ) 、その一本上の対角 (2) 成分はすべて 2 階微分 f (λ ) / 2! 、 ・・・である。演算 f → M ( f ) を仮に M 演算 M operation はすべて と呼んでおく。 例1 f (λ ) = 0 なら、 M ( f ) = M (1) = 0 ⎡1 f (λ ) = 1 なら、 M ( f ) = M (1) = ⎢ ⎢ ⎢⎣0 Copyright 再履修線形代数研究会 0⎤ ⎥ = I (単位行列!) ⎥ 1 ⎥⎦ 1 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 0⎤ ⎡λ 1 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ≡ J ( n ) (λ ) (ジョルダンブロック!)■ f (λ ) = λ なら、 M ( f ) = M (λ ) = ⎢ λ 1⎥ ⎢ ⎥ λ⎦ ⎣0 M 演算の価値は次の算法が成立する点にある: (2) M ( f ± g ) = M ( f ) ± M ( g ) (3) M (cf ) = cM ( f ) ( c は複素定数) (4) M ( fg ) = M ( f )M ( g ) = M ( g )M ( f ) (積の高階微分に関するライプニッツの定理) M ( f −1 ) = M −1 ( f ) ( f ≠ 0 ) −1 −1 (6) M ( f / g ) = M ( f )M ( g ) = M ( g )M ( f ) ( g ≠ 0 ) (5) 証明 (2)(3)は明らか。(4)は積の高階微分に関するライプニッツの定理 n ( fg )( n ) f ( k ) g ( n−k ) −1 =∑ から出る。(5)は I = M (1) = M ( f ⋅ f ) に(4)を適用すればよい。最 n! k = 0 k ! ( n − k )! −1 * −1 * * −1 。■ 後の関係は ( f / g ) = ( f ⋅ g ) = f ( g ) ((4)による) = f ( g ) ((5)による) * * * 例 2 (5)より M (λ ) = M (λ ) が成り立つ。展開すれば −1 −1 ⎡λ 1 ⎢ λ (J ( n ) (λ )) −1 = ⎢ ⎢ ⎢ ⎣0 (∵ (λ ) −1 ( k ) ⎡λ −1 − λ −2 ⎢ −1 λ −1 0⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ =⎢ 1⎥ ⎢ ⎥ ⎢ λ⎦ ⎢ ⎢0 ⎣ / k ! = (−1) k λ −1− k , k = 1, 2, λ −3 (−1) n −1 λ − n ⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ (λ ≠ 0) λ −3 ⎥ ⎥ − λ −2 ⎥ λ −1 ⎥⎦ )■ 例 3 公式(4)より M (a0 λ p + a1λ p −1 + + a p −1λ + a p ) = a0 M (λ ) p + a1M (λ ) p −1 + = a0 J p + a1J p −1 + 例4 M( + a p −1M (λ ) + a p M (1) + a p −1J + a p I ( J ≡ J ( n ) (λ ) →例 1 参照)■ 前例の結果と公式(6)より a0 λ p + a1λ p −1 + + a p −1λ + a p b0 λ + b1λ + bq −1λ + bq q q −1 + = (a0 J p + a1J p −1 + ) (ただし、 b0 λ + b1λ + a p −1J + a p I )(b0 J q + b1J q −1 + Copyright 再履修線形代数研究会 q q −1 + + bq −1λ + bq ≠ 0 ) + bq −1J + bq I ) −1 2 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 = (b0 J q + b1J q −1 + 10.2 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II + bq −1J + bq I ) −1 (a0 J p + a1J p −1 + + a p −1J + a p I ) ■ 多項式 P ( A) いま、 P (λ ) = a0 λ + a1λ p p −1 + + a p −1λ + a p を与えられた多項式とし、 P( A) について 考える。ここに、 A は与えられた n 次行列をあらわし、そのジョルダン分解を A = VJV −1 、ここに ⎡ J ( n1 ) (λ1 ) ⎢ J=⎢ ⎢0 ⎣ ⎤ ⎥ ( n1 ) ⎥ ≡ diag{J (λ1 ), J ( nr ) (λr ) ⎥⎦ 0 , J ( nr ) (λr )} 0⎤ ⎡λk 1 ⎢ ⎥ ⎥ ( n は次数、 k = 1, J ( nk ) (λk ) = ⎢ k ⎢ λk 1 ⎥ ⎢ ⎥ λk ⎦ ⎣0 , r 、前節例 1 で使った記法と同じ) とする。ゆえに、 A の特性多項式は det( A − λ I ) = (λ1 − λ ) n1 (λr − λ ) nr である。 すると次の関係が成り立つ: (1) P( A) = V ⋅ diag{ P(J ( n1 ) (λ1 )), = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( P (λ1 ), ここに、 M (2) ( nk ) , P(J ( nr ) (λr )) } ⋅ V −1 , M ( nr ) ( P(λr )} ⋅ V −1 ( P(λk )) とは M ( nk ) ( P(λ )) に λ = λk を代入した値を意味する。これよりまた det( P( A) − λ I ) = ( P(λ1 ) − λ )n1 ( P (λr ) − λ )nr が従う。すなわち、 P ( A) の固有値は {P (λ1 ), る。原行列の固有値 {λ1 , λ1 ; ; λr , P(λ1 ); ; P(λr ), P(λr )} によって与えられ λr } と対比する立場から、この事実をスペクトル写像 定理 spectral mapping theorem という。 証明 P ( A) = P(VJV −1 ) = VP(J )V −1 (直接計算) = V ⋅ diag{ P(J ( n1 ) (λ1 )), , P(J ( nr ) (λr )) } ⋅ V −1 (直接計算) = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( P(λ1 )), , M ( nr ) ( P(λr ))} ⋅ V −1 (前節例 1 による) Copyright 再履修線形代数研究会 3 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 これで(1)が示された。最後の式内の diag{ } は {P(λ1 ), P(λ1 ); ; P(λr ), P(λr )} を対角 成分としてもつ上三角行列を表す。これより(2)が従う。■ 以上の結果を見ると、(2)式は P ( A) を前節で定義した M 演算によって表現している(この 点が値打ち!)。第 2 に、この式中における P (λ ) の関与は A のスペクトル(=固有値全体)上 における P, P ', P (2) , の値だけである。これは多項式以外の複素関数 f (λ ) に対する f ( A) の 定義に役立つ事実である(後ほど示す) 。 例1 いま、 P (λ ) = λ 2 − 2λ − 1 、与えられた 3 次行列 A のジョルダン分解を ⎡α 1 0 ⎤ A = VJ (α )V = V ⎢⎢ 0 α 1 ⎥⎥ V −1 ⎢⎣ 0 0 α ⎥⎦ −1 (3) とする。 A の特性多項式は det( A − λ I ) = (α − λ )3 によって与えられる。上式(1)により ⎡ P (a ) P '(α ) P ''(α ) / 2 ⎤ P ( A) = VM ( P (α ))V = V ⎢⎢ 0 P (a ) P '(α ) ⎥⎥ V −1 ⎢⎣ 0 P (a ) ⎥⎦ 0 (3) −1 ⎡α 2 − 2α − 1 2α − 2 ⎤ 1 ⎢ ⎥ =V⎢ 0 α 2 − 2α − 1 2α − 2 ⎥ V −1 ⎢ 0 0 α 2 − 2α − 1⎥⎦ ⎣ ゆえに、 P ( A) = A − 2A − I の特性多項式は確かに det( P( A) − λ I ) = (α 2 − 2α − 1 − λ )3 = ( P(α ) − λ )3 によって与えられる。■ 例 2 A, P ( A) は一般に異なるジョルダン標準形をもつ。実際、 2 ⎡0 1 0 ⎤ ⎡0 0 1⎤ ⎢ ⎥ 2 A = ⎢0 0 1 ⎥ なら、A = ⎢⎢ 0 0 0 ⎥⎥ , A 3 = 0 である。A, A 2 , A 3 の一次独立な固有ベクトル ⎢⎣0 0 0 ⎥⎦ ⎢⎣ 0 0 0 ⎥⎦ は、それぞれ、1、2、3 個存在する。ゆえに、レッスン 9 の結果により、ジョルダンブロック の総数は、それぞれ、1、2、3 である。すなわち、 A, A 2 , A3 のジョルダン標準形は、 A 自体、 ⎡0 0 0⎤ ⎢ 0 0 1 ⎥ 、 0 である。■ ⎢ ⎥ ⎢⎣ 0 0 0 ⎥⎦ 10.3 分数関数 P( A)Q −1 ( A ) Copyright 再履修線形代数研究会 4 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 P (λ ) = a0 λ p + a1λ p −1 + レッスン 10 ジョルダン分解 Part II + a p −1λ + a p 、 Q(λ ) = b0 λ q + b1λ q −1 + + bq −1λ + bq を与えら れた多項式、 A を与えられた n 次行列とすれば、 P (λ )Q (λ ) = Q(λ ) P (λ ) が成り立つから、 P ( A)Q( A) = Q( A) P( A) も成り立つ。 Q −1 ( A) が存在すれば、これより Q −1 ( A) P( A) = P( A)Q −1 ( A) も出る。そこで、これを分数関数 R (λ ) ≡ P(λ ) / Q(λ ) 中の“ λ に A を代入したもの”と定義する。すなわち、 −1 −1 (1) R ( A) ≡ Q ( A) P ( A) = P ( A)Q ( A) そして、 A のジョルダン分解を考慮すれば、 Q −1 ( A) が存在する ↔ Q( A) の固有値はすべて非零 ↔ Q(λ1 ), (2) , Q(λr ) ≠ 0 (最後の同値性は前節で得られたスペクトル写像定理による) いいかえれば、 「Q −1 ( A) が存在する」と「 A の固有値はどれも Q(λ ) の零点ではない」は同値 である。 A のジョルダン分解を前節で与えた形とすれば、同様の計算によって次式が従う: R( A) = V ⋅ diag{ R(J ( n1 ) (λ1 )), (1) = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( R(λ1 )), , R(J ( nr ) (λr )) } ⋅ V −1 , M ( nr ) ( R(λr ))} ⋅ V −1 R( A) の特性多項式は det( R( A) − λ I ) = ( R(λ1 ) − λ )n1 (2) によって与えられる。仮定により、 λ1 , ( R (λr ) − λ )nr , λr はどれも R(λ ) の分母を 0 にしない。これは前節 のスペクトル写像定理の拡張を表す。 以上の証明は練習問題とする。 ⎡α 1 0 ⎤ f (λ ) = 1/ λ 、A = VJ (α )V = V ⎢⎢ 0 α 1 ⎥⎥ V −1 とする。10.1 節例 2 を利用すれば、 ⎢⎣ 0 0 α ⎥⎦ (3) 例 −1 ⎡α −1 − α −2 α −3 ⎤ ⎢ ⎥ α −1 − α −2 ⎥ V −1 f ( A) = A −1 = V[M (λ −1 )]λ =α V −1 = V ⎢0 ⎢0 α −1 ⎥⎦ 0 ⎣ det( A −1 − λ I) = (α −1 − λ )3 ■ 10.4 コーシーの積分公式 前 2 節において、 f (λ ) =多項式または分数関数の場合は関係式 Copyright 再履修線形代数研究会 5 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 (1) f ( A) = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f (λ1 )), レッスン 10 ジョルダン分解 Part II , M ( nr ) ( f (λr ))} ⋅ V −1 の成立することが示された。ここに、与えられた n 行列 A のジョルダン分解形を以前の形を引 き継いで(→10.2 節) ⎡ J ( n1 ) (λ1 ) ⎢ −1 (2) A = VJV 、 J = ⎢ ⎢0 ⎣ としている( n1 + ⎤ ⎥ ( n1 ) ⎥ ≡ diag{J (λ1 ), J ( nr ) (λr ) ⎥⎦ 0 , J ( nr ) (λr )} + nr = n )。 f , f (1) , f (2) , の値のみを与えれば確定することが看てとれる。そこで分数関数以外の関数 f (λ ) に対しても、 (1)を f ( A) の定義として採用するのが自然であろう。そして、 f (λ ) の範囲をどこまで広げる 1)式を見ると、右辺は A のジョルダン分解形と A のスペクトル上における かは、むしろ、応用性の問題である。 そこで以下では与えらた A に対して、 (3) f (λ ) = A のスペクトルを含む複素平面上のある領域 G 内の各点で微分可能な関数 のみを考えることにする。解析学の教えるところによれば、(3)型の関数は G 内の至るところで 無限回微分可能である。 (I) 定義 (3)型の関数 f (λ ) に対して f ( A) を(1)により定義する。 ここに「領域」とは「開連結集合」をいう。正確な定義は専門書に譲るが、全平面、実部>0 を満たす複素数の集合、周を含まない円板、三角形、長方形などの内部、はよく出てくる領域 の例である。 例1 分数関数 f (λ ) = P(λ ) / Q(λ ) に対応する領域 G の例: ● x x x x ● ● G(周を含まない) Copyright 再履修線形代数研究会 ● 6 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ここに、●印= A の固有値、x 印=分母 Q(λ ) の零点、を表す。分母 Q(λ ) の零点はすべて G 外 にあるので、f (λ ) は G 内の各点で微分可能である。また、A のスペクトルは G 内にあるため、 Q(λ ) の各零点は A のどの固有値とも重ならない。ゆえに、Q −1 ( A) が存在し、 f ( A) の定義(1) は意味をもつ。 (3)型の関数の重要な例は、10.2 – 3 節で扱った「 λ の多項式」 、 「分母が G 内の各点で 0 と ならないような分数関数」の他、「 G 内の定点を中心とし、 G を収束円の内部に含むような冪 (ベキ)級数」が知られている。冪級数については後ほど詳しくのべる。 (II) スペクトル写像定理 (4) det( A − λ I ) = (λ1 − λ ) 証明 (λn − λ ) なら det( f ( A) − λ I ) = { f (λ1 ) − λ} { f (λn ) − λ} 定義式(1)から明らか。■ (III) (3)型の関数に対して本節の主題である次のコーシーの積分公式 Cauchy’s integral formula が成立する: f ( A) = (5) 1 2π i ∫ C f (λ ) ⋅ (λ I − A) −1 d λ ここに C は A のスペクトルを内部に含む領域 G 内の閉積分路を表す。ここに右辺の積分は成分 ごとの積分、すなわち f ( A) |( p , q ) = 1 2π i ∫ C f (λ ) ⋅ (λ I − A) −1 |( p ,q ) d λ ( p, q = 1, , n) を表す。 証明 (6) まず、複素関数論の最重要公式である、コーシーの積分公式 f (λ ) f (a) = dλ ∫ C 2π i λ − a 1 f および (a) 1 f (λ ) d λ (k = 1, 2, ) = ∫ C k! 2π i (λ − a) k +1 (k ) は既知であるとする。ここに a は C の内部にある任意点を表す。 次に、与えられたジョルダン分解より (λ I − A) −1 = V (λ I − J ) −1 V −1 = Vdiag{(λ I − J ( n1 ) (λ1 )) −1 , (λ I − J ( nr ) (λr )) −1}V −1 これを(5)の右辺に代入すると、積分の線形性により (7) 1 2π i ∫ C f (λ ) ⋅ (λ I − A) −1 d λ =V{ = V ⋅ diag{ 1 2π i ∫ C 1 2π i ∫ C f (λ ) ⋅ (λ I − J ) −1 d λ}V −1 f (λ )(λ I − J ( n1 ) (λ1 )) −1 d λ , , 1 2π i ∫ C f (λ )(λ I − J ( nr ) (λr )) −1 d λ} ⋅ V −1 ここで、10.2 節例 2 を利用すると Copyright 再履修線形代数研究会 7 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II ⎡(λ − λk ) −1 (λ − λk ) −2 (λ − λk ) − nk ⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ (λ I − J ( nk ) (λk )) −1 = ⎢ ⎥ ( k = 1, ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ (λ − λk ) −1 (λ − λk ) −2 ⎥ ⎢ ⎥ (λ − λk ) −1 ⎦⎥ ⎣⎢0 ,r ) が得られる。これを上式に代入すると 1 2π i ∫C cnk −1 ⎤ ⎡ c0 c1 ⎢ ⎥ c0 c1 ⎢ ⎥ ( nk ) −1 ⎢ ⎥ f (λ ) ⋅ (λ I − J (λk )) d λ = ⎢ ⎥ c0 c1 ⎥ ⎢ ⎢0 c0 ⎥⎦ ⎣ ここに、コーシーの積分公式(6)により、 1 c0 = 2π i ∫ cm = 1 C f (λ ) ⋅ (λ − λk ) −1 d λ = f (λk ), 2π i ∫C f ( m ) (λk ) f (λ ) ⋅ (λ − λk ) d λ = (m = 1, 2, ) m! −m ゆえに、一つ前の式の右辺は M 演算で書けて 1 2π i ∫ C f (λ ) ⋅ (λ I − J ( nk ) (λk )) −1 d λ = M ( nk ) ( f (λk )) これを(7)に代入し、 1 2π i ∫ C f ( A) の定義式(1)を参照すれば、 f (λ )(λ I − A) −1 d λ = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f (λ1 )), , M ( nr ) ( f (λr ))} ⋅ V −1 = f ( A) ■ 先へ進む前にこれまでに得られた結果を簡単に復習すると、多項式 f (λ ) = a0 λ p + a1λ p −1 + 第 1 は直接代入形 第 2 は M 演算形 + a p −1λ + a p に対する f ( A) の表現形式には 3 種ある: f ( A) = a0 A p + a1A p −1 + + a p −1A + a p I 、 f ( A) = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f (λ1 )), 第 3 はコーシーの積分公式 f ( A) = 1 2π i ∫ C , M ( nr ) ( f (λr ))} ⋅ V −1 、 f (λ ) ⋅ (λ I − A) −1 d λ 分数関数に対しても同様である。M 演算形はもともと直接代入形にジョルダン分解を代入して Copyright 再履修線形代数研究会 8 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 得られたものであるが、その形から多項式、分数関数以外の関数族、すなわち、特定の領域内 の至るところで微分可能な関数、に対する f ( A) の定義式として採用された。コーシーの積分 公式を定義式として採用すれば、 M 演算形は結果となる。分数関数を含み、一定の領域内で至 るところ微分可能な関数族として、応用上重要な冪級数が知られている。ゆえに、 f (λ ) が冪級 数を表す場合は、 10.5 f ( A) の定義が可能となる。そこで、次節以降は行列冪級数の話をする。 行列冪(ベキ)級数 最初に必要な予備知識をのべる。 (I) 冪級数 power series とは (1) f ( z ) = c0 + c1 z + c2 z 2 + ∞ = ∑ ck z k k =0 型の無限級数、すなわち、部分和 partial sum f l ( z ) = ことをいう。ここに c0 , c1 , l ∑c z k =0 k k , l = 0,1, 2, の(無限)列、の は与えられた複素数、 z は複素変数を表す。そして部分和の列が z = a で収束すれば、極限値を冪級数の z = a における和 sum という。慣例により元の冪級数 自体を和の表現としても使う。すなわち、和を f ( a ) = c0 + c1a + c2 a + 2 ∞ = ∑ ck a k と書く。 k =0 冪級数論は解析学の教科書に詳しい解説がある。 冪級数の際立った特徴は次の(I)(II)である: (a) 収束半径の存在: z < R なら収束し、z > R なら(発散する(=収束しない)ような数 R ≥ 0 が存在し、これを冪級数(1)の収束半径 radius of convergence という。また、 z = R を満たす z 全体を収束円 circle of convergence という。収束半径は R = 1/ lim sup l →∞ l cl によって与えられ ることが知られている(分母 = 0 の場合は R = ∞ 、分母 = ∞ の場合は R = 0 とする )。収束円 上での冪級数の挙動は多様である。 (b) 微分可能性: R > 0 なら、冪級数は収束円の内部(周は除外)で至るところ無限回微分可 能な関数を表し、各階の導関数は項別微分で求めてよく、その収束半径は元の級数と同一であ ∞ = ∑ ck z k の収束半径を R > 0 とすれば、収束円の る。すなわち、 f ( z ) = c0 + c1 z + c2 z + 2 k =0 内部で f (1) ( z ) = ∞ df ( z ) = c1 + 2c2 z + 3c3 z 2 + dz f (2) ( z ) = 2c2 + 6c3 z + 12c4 z 2 + Copyright 再履修線形代数研究会 = ∑ kck z k −1 k =1 ∞ = ∑ k (k − 1)ck z k − 2 k =2 9 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 が成立し、 f (1) ( z ), f (2) ( z ), レッスン 10 ジョルダン分解 Part II もすべて収束半径 R をもつ。 例1 応用上重要な冪級数と収束半径(証明略) 冪級数 収束半径 収束円上の挙動 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ez = 1 + z + z 2 z3 + + 2! 3! sin z = z − z3 z5 + − 3! 5! ∞ cos z = 1 − z2 z4 + − 2! 4! ∞ ∞ 1 = 1 + z + z2 + z3 + 1− z 1 z = 1 なら発散 1+ z + z 2 z3 + + 2 3 1 z = 1 を除き、 z = 1 上で収束 1+ z + z2 z3 + + 22 32 1 z = 1 上の各点で収束 項別微分により d z d d e = e z , sin z = cos z , cos z = − sin z ( z < ∞) dz dz dz ∞ d (1 − z ) −1 = (1 − z ) −2 = 1 + 2 z + 3 z 2 + dz = ∑ kz k −1 ( z < 1) d z 2 z3 (1 + z + + + dz 2 3 ) = 1+ z + z2 + = (1 − z ) −1 ( z < 1) d z2 z3 (1 + z + 2 + 2 + dz 2 3 ) = 1+ z 2 z3 + + 2 3 k =1 ( z < 1) (II) 行列冪級数 行列の(無限)列 {A k } ( A k ∈ C m×n ■ , k = 1, 2, ) が A ∈ Cm×n に収束すると は成分ごとに収束する to convergence componentwise、すなわち、 A k = ⎣⎡ aij( k ) ⎦⎤ → A = ⎣⎡ aij ⎦⎤ (k → ∞) ↔ aij( k ) → aij (k → ∞) (i = 1, , m, j = 1, , n) を意味するものと定義する。これが任意の行列ノルム ⋅ に関する収束 A k − A → 0 と同値で あることはレッスン 14 で証明する。無限級数 c0 I + c1A + c2 A 2 + ∞ = ∑ ck A k とは、スカラー k =0 級数の場合と同じく、部分和の(無限)列を意味するものとし、この列が収束するとき、元の Copyright 再履修線形代数研究会 10 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 冪級数は収束するといい、級数表現自体を和の表現として使う。極限値を和と呼ぶこともスカ ーラー級数の場合と同じである。 例2 0⎤ ⎡λ 1 ⎢ ⎥ (n) k ⎢ ⎥ J → 0 (k → ∞) ↔ λ < 1 ここに、 J = J (λ ) = ⎢ λ 1⎥ ⎢ ⎥ λ⎦ ⎣0 証明 10.1 で学んだ M 演算を使えば ⎡c0( k ) λ k c1( k ) λ k −1 cn( k−1) λ k − n +1 ⎤ ⎢ ⎥ c0( k ) λ k c2( k ) λ k −1 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎥ J k = M k ( λ ) = M (λ k ) = ⎢ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ c0( k ) λ k c2( k ) λ k −1 ⎥ ⎢ ⎢0 c0( k ) λ k ⎥⎦ ⎣ ここに cl( k ) = k! k (k − 1) (k − l + 1) = = O(k l ) (k = 0,1, l !(k − l )! l! ゆえに、 k → ∞ のとき、 , l = 0,1, λ < 1 なら、 cl( k ) → 0 、 λ ≥ 1 なら、 cl( k ) → ∞ 。 , n − 1) ■ (III) 直接代入形の成立 いま、 A を与えられた n 次行列、 f (λ ) = c0 + c1λ + c2 λ 2 + ∞ = ∑ ck λ k を A のスペクトルを収束円の内部に含むような冪級数 k =0 とすれば、 (2) (3) 直接代入形 M 演算形 f ( A) = c0 I + c1A + c2 A 2 + f ( A) = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f (λ1 )), (4) コーシーの積分公式 f ( A) = 1 2π i ∫ C ∞ = ∑ ck A k k =0 , M ( nr ) ( f (λr ))} ⋅ V −1 、 f (λ ) ⋅ (λ I − A) −1 d λ A はすべて同一の行列を表す。ここに A のジョルダン分解は 10.2 節と同一形にとっている: ⎡ J ( n1 ) (λ1 ) ⎢ A = VJV −1 、 J = ⎢ ⎢0 ⎣ ⎤ ⎥ ( n1 ) ⎥ ≡ diag{J (λ1 ), J ( nr ) (λr ) ⎥⎦ Copyright 再履修線形代数研究会 0 , J ( nr ) (λr )} 、 11 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 0⎤ ⎡λk 1 ⎢ ⎥ ⎥ ( n 次行列、 k = 1, J ( nk ) (λk ) = ⎢ k ⎢ λk 1 ⎥ ⎢ ⎥ λk ⎦ ⎣0 証明 (I)(を受け入れれば、 ,r ) f ( A) は前節で示したように、 M 演算形またはコーシーの積分公 式によって定義でき、両者は等しい。ゆえに、(2) = (3)を示せばよい。冪級数の第 k 部分和 k f k (λ ) = ∑ cl λ l ( l = 0,1, )に対しては(2) = (3)が成立しているから l =0 k f k ( A) = ∑ cl A l = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f k (λ1 )), l =0 , M ( nr ) ( f k (λr ))} ⋅ V −1 ここで k → ∞ とすれば、上でのべた冪級数の性質(a)(b)(c)と各 M 演算の形から、右辺は V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f (λ1 )), k ∞ l =0 l =0 , M ( nr ) ( f (λr ))} ⋅ V −1 に収束する。ゆえに、 lim ∑ cl Al = ∑ cl A l = = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f k (λ1 )), k →∞ , M ( nr ) ( f k (λr ))} ⋅ V −1 これは証明すべき式に他ならない。■ tλ は e 型の数である。 z = a + ib ( a, b は実 z (注意)一般に A の固有値は複素数だから、 e 1 , 数)とすれば、 e 例 1 z = ea (cos b + i sin b) である。 行列指数関数 e tA 冪級数 e λ = 1+ λ + λ2 2! + λ3 3! + スカラー定数 t 、任意の複素変数 λ に対して、 f (λ ) ≡ e る。ゆえに、任意の t 、任意の n 次行列 A に対して の収束半径は ∞ であるから、任意の tλ = 1 + tλ + t 2 λ 2 t 3λ 3 + + 2! 3! f ( A ) = e tA = 1 + t A + も収束す t 2 A 2 t 3A3 + + 2! 3! も 収束する。すると、上の一般論から etA = f ( A) = V ⋅ diag{M ( n1 ) ( f (λ1 )), そして、右辺の各対角ブロック M Copyright 再履修線形代数研究会 ( nk ) , M ( nr ) ( f (λr ))} ⋅ V −1 ( f (λk )) は直接計算から次式によって与えられる: 12 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 M ( nk ) ( f (λk )) = etλk ⎡1 ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ 0 ⎣⎢ t レッスン 10 ジョルダン分解 Part II t nk −1 /(nk − 1)!⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ t 2 / 2! ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ 1 t ⎥ 1 ⎦⎥ t 2 / 2! (k = 1, ,r ) 例として、 3 次行列 A のジョルダン分解を ⎡ 2 0 0 ⎤ ⎡0 0 1⎤ ⎡ 2 0 0 ⎤ ⎡0 1 0 ⎤ ⎡ J (1) (2) 0 ⎤ −1 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ −1 A = ⎢0 2 0 ⎥ = ⎢1 0 0 ⎥ ⎢0 2 1 ⎥ ⎢0 0 1⎥ ≡ VJV ≡ V ⎢ ⎥V 0 J (2) (2) ⎦ ⎣ ⎢⎣1 0 2 ⎥⎦ ⎢⎣0 1 0 ⎥⎦ ⎢⎣0 0 2 ⎥⎦ ⎢⎣1 0 0 ⎥⎦ tA とすれば、 e は次式によって与えられる: ⎡e2t [1] 0 ⎤ ⎢ ⎥ −1 etA = V ⎢ V 2 t ⎡1 t ⎤ ⎥ 0 e ⎢0 1⎥ ⎥ ⎢ ⎣ ⎦⎦ ⎣ ⎡1 0 0 ⎤ ⎡ 0 1 0 ⎤ ⎡1 0 0 ⎤ ⎡ 0 0 1⎤ ⎢ ⎥ ⎥ ⎢ ⎥ 2t ⎢ 2t ⎢ = ⎢1 0 0 ⎥ (e ⎢ 0 1 t ⎥ ) ⎢ 0 0 1⎥ = e ⎢0 1 0 ⎥⎥ ⎢⎣t 0 1 ⎥⎦ ⎢⎣ 0 0 1 ⎥⎦ ⎢⎣1 0 0 ⎥⎦ ⎢⎣ 0 1 0 ⎥⎦ 10.6 定係数線形微分方程式への応用 ■ Part I tA 本節では前節例 1 で定義した行列指数関数 e の応用として、定係数線形同次微分方程式 ⎡d ⎤ ⎢ dt y0 (t ) ⎥ ⎡ y0 (t ) ⎤ ⎡ a11 ⎢ ⎥ d ⎢ ⎥=⎢ (1) ⎢ ⎥≡ ⎢ ⎥ ⎢ ⎢d ⎥ dt ⎢ y (t ) ⎥ ⎢ a ⎣ n −1 ⎦ ⎣ n1 ⎢ yn −1 (t ) ⎥ ⎣ dt ⎦ について考える。ここに a11 , a1n ⎤ ⎡ y0 (t ) ⎤ ⎥⎢ ⎥ ⎥⎢ ⎥ ann ⎥⎦ ⎢⎣ yn −1 (t ) ⎥⎦ は既知(複素)定数、y1 (t ), (行列形: dy (t ) = Ay (t ) ) dt は未知関数、t は独立変数を表し、 「行列の微分は成分ごとの微分」と定義する。最初に (2) d tA e = AetA dt を示す。実際、前節例 1 で示したように、任意の t 、任意の A に対して、冪級数展開 Copyright 再履修線形代数研究会 13 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 etA = I + tA + t 2 A 2 3 A3 +t + 2! 3! レッスン 10 ジョルダン分解 Part II が成立する。ゆえに、右辺の各行列成分は t に関して収束半径 ∞ の冪級数を表す。ゆえに、各成分の微分は項別微分に等しく、これは etA の微分は右辺を直接 t で微分してよいことを意味する。ゆえに、 d tA d A 2 3 A3 e = ( I + tA + t 2 +t + dt dt 2! 3! ) = 0 + A + tA 2 + t 2 [ (2)の両辺に右から任意ベクトル c = c1 , A3 + 2! cn ] を乗じると、 T = AetA d tA e c = AetA c となるから、 dt y = e tA c (3) は(1)の解を表すことがわかる。そして、(1)の解はこれ以外にないことは微分方程式論の教える tA ところである。結論として、微分方程式(1)の解法は e の計算に帰すことがわかる。 ⎡1 0 0 ⎤ ⎡2 0 0⎤ dy (t ) ⎥ ⎢ ⎥ tA 2t ⎢ = Ay (t ) の解は 例 1 A = 0 2 0 なら、 e = e 0 1 0 ゆえ(前節例 1) 、 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ dt ⎢⎣t 0 1 ⎥⎦ ⎢⎣1 0 2 ⎥⎦ ⎡ c1 ⎤ ⎡1 0 0 ⎤ ⎥ ⎢ ⎥ 2t ⎢ y = e c = e ⎢ 0 1 0 ⎥ c = e ⎢ c2 ⎥ によって与えられる。ここに、 c1 , c2 , c3 は任意定数を ⎢⎣ c1t + c3 ⎥⎦ ⎢⎣t 0 1 ⎥⎦ tA 2t 表す。微分方程式に代入すれば検算できる。■ 10.7 定係数線形微分方程式への応用 Part II 本節では前節の方法により、定係数常微分方程式 (1) a0 y + a1 y (1) + + an −1 y ( n −1) − y ( n ) = 0 ( y = y (t ), y (1) = が解けることを示す。ここに a0 , (2) f (λ ) = a0 + a1λ + a2 λ 2 + dy (1) (t ) , dt , an −1 は既知(複素)定数を表す。(1)に対応して多項式 + an −1λ n −1 − λ n = −(λ − λ1 ) n1 (λ − λr ) nr を考え、(1)の特性多項式という。ここに右辺の因数分解形における λ1 , 数を表し、 n1 + ) , λr は異なる(複素) + nr = n としている。 前節の方法を適用するため、まず(1)を次のように行列形に書き直す: Copyright 再履修線形代数研究会 14 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡ ⎢ ⎢ ⎢ (3) ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣ 0 0 1 0 0 1 0 0 a0 a1 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II ⎤ ⎡ y ⎤ ⎥⎡ y ⎤ ⎢ (1) ⎥ ⎥ ⎢ y (1) ⎥ ⎥ d ⎢y ⎥ ⎥⎢ ⎥ : Ay = dy ⎥= ⎢ ⎥⎢ dt ⎥ ⎥ dt ⎢ ⎥⎢ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ 0 1 ⎥ ⎢ ( n −1) ⎥ ⎢ y ( n −1) ⎥ ⎥ y ⎦ ⎣ ⎦ an − 2 an −1 ⎥⎦ ⎣ 0 0 0 0 左辺の n × n 行列 A を(1)のコンパニオン行列 companion matrix という。 A の特性多項式 と微分方程式(1)の特性多項式との間には簡単な関係がある: det( A − λ I ) = ( −1) f (λ ) (検 算して下さい)。また、 A の任意の固有値 α に対応する固有ベクトルは、 ( A − α I )x = 0 を解 けば簡単に出るように、 ⎡⎣1, −α , α , −α , 2 3 n +1 T ⎤⎦ のスカラー倍に限られる。ゆえに、各異なる固有 値に対応するジョルダンブロックは 1 個のみ存在する。ゆえに A のジョルダン分解は (4) A = VJV −1 = V ⋅ diag{J ( n1 ) (λ1 ), , J ( nr ) (λr )} ⋅ V −1 すると、前節の結果から(3)の解は (5) y = e tA c ' ⎡1 ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ = V ⋅ diag{etλ1 ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣0 t t 2 / 2! t n1 −1 /(n1 − 1)!⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ t 2 / 2! ⎥, ⎥ ⎥ ⎥ 1 t ⎥ 1 ⎥⎦ }⋅ c よって与えられる。ここに c ' は任意ベクトルを表す(ゆえに c = V −1 c ' も任意)。求める未知関 数 y (t ) は y の第 1 成分であるから (6) y = e1T y = (e1T V ) ⋅ diag{ } ⋅ c ( e1 = [1 0 0 0] ) T ゆえに、特性多項式の各零点、その重複度、 V の第 1 行がわかれば未知関数 y が定まることに なる。さいわい、特性多項式 f (λ ) の零点と重複度がわかれば、 V は陽に記述できる。例によ って示す。 例1 n = 5 とし、次の微分方程式を考える: a0 y + a1 y (1) + a2 y (2) + a3 y (3) + a4 y (4) − y (5) = 0 ( a0 , Copyright 再履修線形代数研究会 , a4 は既知複素定数) 15 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 特性多項式は次式で与えられる: f (λ ) = a0 + a1λ + a2 λ + a3λ + a4 λ − λ 2 3 4 5 微分方程式を行列形で書くと ⎡0 ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢⎣ a0 ⎡y ⎤ 0⎤ ⎡y ⎤ ⎢ ⎥ ⎢ (1) ⎥ (1) 1 0 0 ⎥⎥ ⎢ y ⎥ ⎢y ⎥ dy d 0 1 0 ⎥ ⎢ y (2) ⎥ = ⎢ y (2) ⎥ : Ay = ⎥ dt ⎢ ⎥ dt ⎥⎢ 0 0 1 ⎥ ⎢ y (3) ⎥ ⎢ y (3) ⎥ ⎢ (4) ⎥ a2 a3 a4 ⎥⎦ ⎢ y (4) ⎥ ⎣ ⎦ ⎣y ⎦ 1 0 0 0 0 a1 0 この場合は det( A − λ I ) = f (λ ) である。 ここから先の話は f (λ ) の因数分解形に依存する。 f (λ ) = 0 が 5 重根をもつ場合 (A) f (λ ) = −(λ − α )5 とする。すると、次の 5 式が成立する: 0 = f (α ) / 0! = a0 + a1α + a2α 2 + a3α 3 + a4α 4 − α 5 0 = f (1) (α ) /1! = a1 + a2 2α + a3 3α 2 + a4 4α 3 − 5α 4 0 = f (2) (α ) / 2! = a2 + a3 3α + a4 6α 2 − 10α 3 0 = f (3) (α ) / 3! = a3 + a4 4α − 10α 2 0 = f (4) (α ) / 4! = a4 − 5α これは次の行列形に書ける: AV = VJ : ⎡0 ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢⎣ a0 1 0 0 0 a1 0 1 0 0 a2 0 0 0 ⎤ ⎡1 ⎢ 1 0 0 ⎥⎥ ⎢α 2 1 0 ⎥ ⎢α 2α ⎥⎢ 0 1 ⎥ ⎢α 3 3α 2 a3 a4 ⎥⎦ ⎢⎣α 4 4α 3 0⎤ ⎡ 1 0 ⎥ ⎢ 0 ⎥ ⎢α 1 2 1 0 0 ⎥ = ⎢α 2α ⎥ ⎢ 3α 1 0 ⎥ ⎢α 3 3α 2 ⎥ ⎢ 6α 2 4α 1 ⎦ ⎣α 4 4α 3 0 0 0 ⎤ ⎡α ⎥ 0⎥ ⎢0 ⎢ 1 0 0 ⎥ ⎢0 ⎥⎢ 3α 1 0 ⎥ ⎢ 0 ⎥ 6α 2 4α 1 ⎦ ⎢⎣ 0 0 0 0 0 0 0 1 0 α 1 0 α 0 0 0 0 0 0⎤ 0 0 ⎥⎥ 1 0⎥ ⎥ α 1⎥ 0 α ⎥⎦ これは実際に乗算を実行すれば確認できる。ここに V の各列は各式 0 = f (α ), 0 = f (1) (α ), 0 = f (2) (α ) / 2!, 中における a0 , , a4 の係数を読み取って上から順 に並べたものになっている。また、各行は見かけ上、 (α + 1) , (α + 1)1 , (α + 1) 2 , を展開し左 から降冪順に並べたものになっている。V は可逆行列(∵ det V = 1 )であるから、上式は A の 0 ジョルダン分解形を与えている。 Copyright 再履修線形代数研究会 16 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 以上により、 y は次式によって与えられる: ⎡1 t ⎢ ⎢ 1 y = e1T etα ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣ t 2 / 2! t 3 / 3! tα t t 2 / 2! 1 t 1 tα 2 tα 3 tα t 4 / 4!⎤ ⎥ t 3 / 3! ⎥ t 2 / 2!⎥ c = etα ⎡⎣1, t , t 2 / 2!, t 3 / 3!, t 4 / 4!⎤⎦ c ⎥ t ⎥ ⎥ 1 ⎥ ⎦ 4 tα すなわち、 y (t ) は e , te , t e , t e , t e の任意の一次結合によって与えられる。念のため ( D − α )5 (t k etα ) = 0 (k = 0,1, 2,3, 4) ( D = d / dt )を検算して下さい。 (B) f (λ ) = 0 が単根 5 個をもつ場合 f (λ ) = −(λ − α )(λ − β )(λ − γ )(λ − δ )(λ − ε ) とする。すると次の 5 式が成立する: 0 = f (α ) = a0 + a1α + a2α 2 + a3α 3 + a4α 4 − α 5 0 = f (ε ) = a0 + a1ε + a2ε 2 + a3ε 3 + a4ε 4 − ε 5 行列形に書けば AV = VJ : ⎡0 ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢⎣ a0 1 0 0 0 a1 0 1 0 0 a2 0 0⎤ 0 0 ⎥⎥ 1 0⎥ ⎥ 0 1⎥ a3 a4 ⎥⎦ ⎡1 ⎢ ⎢α ⎢α 2 ⎢ 3 ⎢α ⎢ 4 ⎣α 1 1 ⎤ ⎡1 ⎥ ⎢ β γ δ ε ⎥ ⎢α β 2 γ 2 δ 2 ε 2 ⎥ = ⎢α 2 ⎥ ⎢ β 3 γ 3 δ 3 ε 3 ⎥ ⎢α 3 ⎥ ⎢ β 4 γ 4 δ 4 ε 4 ⎦ ⎣α 4 1 1 1 1 ⎤ ⎡α ⎥ β γ δ ε ⎥ ⎢0 ⎢ β 2 γ 2 δ 2 ε 2 ⎥ ⎢0 ⎥⎢ β 3 γ 3 δ 3 ε 3 ⎥ ⎢0 ⎥ β 4 γ 4 δ 4 ε 4 ⎦ ⎢⎣0 1 1 0 0 0⎤ β 0 0 0 ⎥⎥ 0 γ 0 0⎥ ⎥ 0 0 δ 0⎥ 0 0 0 ε ⎥⎦ 0 α , , ε は相異なる数だから、 V (ヴァンデルモンド行列!)は可逆行列を表し、この式は A のジョルダン分解を与えている。実際、 det V = (α − β )(α − γ )(α − δ )(α − ε )( β − γ )( β − δ )( β − ε )(γ − δ )(γ − ε )(δ − ε ) ≠ 0 解 y は次式によって与えられる: y = [1 1 1 1 1] diag{⎡⎣ etα ⎤⎦ ⎡⎣et β ⎤⎦ ⎡⎣etγ ⎤⎦ ⎡⎣etδ ⎤⎦ ⎡⎣ete ⎤⎦}c = ⎡⎣etα et β etγ etδ ete ⎤⎦ c tα tβ tγ tδ te すなわち、 y は e , e , e , e , e の任意一次結合によって与えられる。 (C) (中間的場合の例) f (λ ) = 0 が異なる 2 重根 2 個と単根をもつ場合 f (λ ) = −(λ − α ) (λ − β ) 2 (λ − γ ) ( α , β , γ は相異なる数)とすれば、次の 5 式が成立する: 2 0 = f (α ) / 0! = a0 + a1α + a2α 2 + a3α 3 + a4α 4 − α 5 0 = f (1) (α ) /1! = a1 + a2 2α + a3 3α 2 + a4 4α 3 − 5α 4 Copyright 再履修線形代数研究会 17 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 0 = f ( β ) / 0! = a0 + a1β + a2 β 2 + a3 β 3 + a4 β 4 − β 5 0 = f (1) ( β ) /1! = a1 + a2 2β + a3 3β 2 + a4 4β 3 − 5β 4 0 = f (γ ) / 0! = a0 + a1γ + a2γ 2 + a3γ 3 + a4γ 4 − γ 5 行列形に書けば AV = VJ : ⎡0 ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢ ⎢0 ⎢⎣ a0 1 0 0 0 a1 0 0⎤ 0 0 ⎥⎥ 1 0⎥ ⎥ 0 1⎥ a3 a4 ⎥⎦ 0 1 0 0 a2 ⎡1 0 ⎢ 1 ⎢α 2 = ⎢α 2α ⎢ 3 ⎢α 3α 2 ⎢ 4 3 ⎣α 4α ⎡1 0 ⎢ 1 ⎢α 2 ⎢α 2α ⎢ 3 ⎢α 3α 2 ⎢ 4 3 ⎣α 4α 1 ⎤ ⎡α ⎥ β γ ⎥ ⎢0 ⎢ β 2 2β γ 2 ⎥ ⎢0 ⎥⎢ β 3 3β 2 γ 3 ⎥ ⎢ 0 ⎥ β 4 4β 3 γ 4 ⎦ ⎢⎣0 1 0 1 1 ⎤ ⎥ β γ ⎥ β 2 2β γ 2 ⎥ ⎥ β 3 3β 2 γ 3 ⎥ ⎥ β 4 4β 3 γ 4 ⎦ 1 0 1 1 0 0 0⎤ α 0 0 0 ⎥⎥ 0 β 1 0⎥ ⎥ 0 0 β 0⎥ 0 0 0 γ ⎥⎦ ここに V は可逆行列を表し、上式は A のジョルダン分解を表すことになる。実際、 det V = (α − β ) 4 (α − γ ) 2 ( β − γ ) 2 ≠ 0 。この関係の導出には、det V = F = F (α , β , γ ) とおき、 V の構成法から ∂F ∂2 F ∂3 F )α = β = ( 2 )α = β = ( 3 )α = β ∂α ∂α ∂α ∂F ∂F = ( )α =γ 、 0 = ( F ) β =γ = ( ) β =γ ∂β ∂α 0 = ( F )α = β = ( 0 = ( F )α =γ が成立することを確かめ、 det V は α , β , γ に関する多項式であることに着目すればよい(詳細 略) 。行列式の微分法についてはレッスン 6、問題 6.12 参照。 以上から、解 y は次式によって与えられる: ⎡1 t ⎤ t β ⎡1 t ⎤ tγ y = [1 0 1 0 1] diag{etα ⎢ ,e ⎢ , e [1]}c = ⎡⎣etα tetα et β tet β etγ ⎤⎦ c ⎥ ⎥ ⎣ 0 1⎦ ⎣0 1⎦ tα tα tβ tβ tγ すなわち、 y は e , te , e , te , e の任意一次結合によって与えられる。■ 以上から得られる一般的結論は次の通りである: 特性多項式の因数分解形(2)が知られれば、(1)の解は次の n 個の解(基本解) etλk , tetλk , , t nk −1etλk (k = 1, Copyright 再履修線形代数研究会 , r) 18 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II の任意一次結合によって与えられる。 この結論は次のようにして検算できる: D ≡ f ( D) y = −( D − λ1 ) n1 と書くと、(1)は ( D − λr ) nr y = 0 と書ける。各基本解を代入すれば、 ( D − λk I ) nk eλk t = 0, が成り立ち、 D − λ1 , d d d d2 2 ,D = ( )= 2, dt dt dt dt , ( D − λk I ) nk t nk −1eλk t = 0 ( k = 1, ,r ) , D − λr は可換であるから(作用させる順序を変えてよいから)、結局基 本解はすべて(1)を満たし、その任意一次結合も(1)を満たす。念のため、簡単な例を追加する: −2 y + 7 y (1) − 9 y (2) + 5 y (3) − y (4) = 0 f (λ ) = −2 + 7λ − 9λ 2 + 5λ 3 − λ 4 = −(λ − 1)3 (λ − 2) t t 2 t 2t ゆえに解 y は次の 4 個の基本解の任意一次結合によって与えられる: e , te , t e , e ■ この節で示した行列法による解法が複雑化したのは、解 y を求める問題を未知ベクトル 例2 T ⎡⎣ y y (1) y ( n −1) ⎤⎦ を求める問題として定式化したからである。 最後にひとこと:このレッスンの華は、「行列関数 f ( A) 」の定義に 3 種あることを示す過 tA 程、その副産物である「スペクトル写像定理」、 「行列指数関数 e 」の定係数微分方程式解法へ の応用である。 腕試し問題 問題 10.1 M 演算(→10.1 節)を利用して次の関係を証明せよ: (1) k k ⎡λ 1 0 ⎤ ⎡λ ⎢0 λ 1 ⎥ = ⎢0 ⎢ ⎥ ⎢ ⎢⎣ 0 0 λ ⎥⎦ ⎢ 0 ⎣ (2) ⎡λ 1 0 ⎤ ⎢0 λ 1 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢⎣ 0 0 λ ⎥⎦ −k k λ k −1 {k (k − 1) / 2}λ k − 2 ⎤ ⎥ λk k λ k −1 ⎥ ( k = 1, 2, ⎥ 0 λk ⎦ ) ⎡ λ − k − k λ − k −1 {k (k + 1) / 2}λ − k − 2 ⎤ ⎢ ⎥ =⎢0 − λ − k −1 λ −k ⎥ ( λ ≠ 0 、 k = 1, 2, ⎢0 ⎥ 0 λ −k ⎣ ⎦ ) A 2 = A を満たす 2 次行列 A をすべて求めよ。 (略解: A の特性方程式を det( A − λ I ) = (λ1 − λ )(λ2 − λ ) とすれば、スペクトル写像定理によ 問題 10.2 り、B ≡ A 2 − A = 0 の特性多項式は det(B − λ I ) = (λ12 − λ1 − λ )(λ2 2 − λ2 − λ ) 。B = 0 だから Copyright 再履修線形代数研究会 19 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II λi 2 − λi = 0 、すなわち λi = 0,1 (i = 1, 2) 。ゆえに、 A のジョルダン分解を A = VJV −1 とすれ ⎡0 0 ⎤ ⎡1 0 ⎤ ⎡1 1 ⎤ ⎡0 1 ⎤ ⎢0 0 ⎥ , (c) ⎢0 0 ⎥ , (d ) ⎢0 1⎥ , (e) ⎢0 0 ⎥ の 5 種 ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ 2 のみである。このうち、最後の二つの場合は A = A が満たされない。最初の三つの場合は ⎡1 0 ⎤ −1 2 A = I, 0, V ⎢ ⎥ V となり A = A は確かに満たされる。この最後の場合は、 0 0 ⎣ ⎦ ⎡a b ⎤ ⎡ d − b⎤ V=⎢ , V −1 = (ad − bc) −1 ⎢ ⎥ ⎥ ( ad − bc = 1) と仮定しても一般性を失わないこと ⎣c d ⎦ ⎣ −c a ⎦ ⎡1 0 ⎤ ⎥ , (b) ⎣0 1⎦ ば、可能な J の形は J = ( a ) ⎢ = (kV )J (kV ) −1 )、結局求める A は次の 5 α ⎤ ⎡0 α ⎤ ⎡α α (1 − α ) / β ⎤ , , ⎥ ( β ≠ 0, α は任意) ■) 0 ⎥⎦ ⎢⎣0 1 ⎥⎦ ⎢⎣ β 1−α ⎦ に注意すると(∵ 任意の定数 k ≠ 0 に対して VJV ⎡1 ⎣0 種となる: A = I, 0, ⎢ 問題 10.3 −1 2 次行列のジョルダン分解 ⎡ − 6 4 ⎤ ⎡ 2 1 ⎤ ⎡ 4 1 ⎤ ⎡ 3 − 1⎤ −1 2 A≡⎢ ⎥ = ⎢5 3⎥ ⎢ 0 4 ⎥ ⎢ −5 2 ⎥ ≡ VJV を利用し、 X = A を解け。 25 14 − ⎣ ⎦ ⎣ ⎦⎣ ⎦⎣ ⎦ ⎡ 2 1/ 4 ⎤ −1 2 (略解: X = VZV とおけば、 Z = J 。これを解けば、 Z = ± ⎢ ⎥ が得られる。ゆ ⎣0 2 ⎦ ⎡ −2 4⎤ ⎡ 2 1 ⎤ ⎡ 2 1/ 4 ⎤ ⎡ 3 − 1⎤ 2 −1 えに X = A の解は X = VZV = ± ⎢ = ± (1/ 4) ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎥ 。■) ⎣5 3⎦ ⎣0 2 ⎦ ⎣ −5 2 ⎦ ⎣ −25 18⎦ 問題 10.4 ⎡2 0 0⎤ A のジョルダン標準形が J = ⎢⎢0 − 1 1 ⎥⎥ であることを知って、 ⎢⎣0 0 − 1 ⎥⎦ h( A) = ( A − I )( A 2 + A + I ) −1 の特性多項式 det{h( A) − λ I} を求めよ。 2 (略解: det( A − λ I ) = (2 − λ )(−1 − λ ) 、 h(λ ) = (λ − 1) /(λ + λ + 1) だから、スペクトル写像 1 2 − λ )(− − λ ) 2 ■) 7 3 問題 10.5 (プロジェクト型問題) この問題では「 A を n 次行列とすれば、 f ( A) はかなら 定理により、 det{h( A ) − λ I} = ( h(2) − λ )( h( −1) − λ ) = ( 2 ず A に関する高々 n − 1 次多項式によって表現できる」を示す。 実際、 A を n 次行列、ジョルダン分解を (1) A = Vdiag{J ( n1 ) (λ1 ), とすれば(→10.2 節)、 (2) , J ( nr ) (λr )}V −1 ≡ VJV −1 ( n1 + + nr = n ) f ( A) は次式によって定義されている(→10.4 節(1)式) f ( A) = V ⋅ diag{M ( n1 ) f (λ1 ), Copyright 再履修線形代数研究会 , M ( nr ) f (λr )} ⋅ V −1 20 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 ⎡f ⎢ ⎢ ⎢ M ( nk ) ( f (λk )) = ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣0 (k = 1, f (1) /1! レッスン 10 ジョルダン分解 Part II f ( nk −1) /(nk − 1)!⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ( f = f (λk ), f (1) = f (1) (λk ), ⎥ (1) f f /1! ⎥⎥ ⎥⎦ f ) ,r ) 以上の式を見ると、 「与えられた二つの関数 f (λ ), g (λ ) に対して f ( A) = g ( A) が成立する ための必要十分条件は M ( nk ) ( f (λk )) = M ( nk ) ( g (λk )), k = 1, (4) ,r すなわち、 f (λk ) = g (λk ), f (1) (λk ) = g (1) (λk ), (5) , f ( nk −1) (λk ) = g ( nk −1) (λk ), k = 1, ,r で与えられる」ことがわかる。 ただ、 λ1 , , λr はすべて相異なるとは限らないから、(5)の条件の一部は重複している可能 性がある。そこで、λ1 , , λr のうち、相異なるものだけを集めて μ1 , , μ s と書き直し、各 μ1 , に対応するジョルダンブロックの最大次数を m1 , , ms と書けば、(5)から重複分を省けば、 f ( μ j ) = g ( μ j ), f (1) ( μ j ) = g (1) ( μ j ), (6) , f ( m j −1) (μ j ) = g ( m j −1) ( μ j ), j = 1, ,s となる。 例えば、 f (λ ) = ( μ1 − λ ) 算により 、 f ( μ j ) = f てに (1) m1 (μ j ) = ( μ s − λ ) ms (すなわち、 A の最小多項式)をとれば、直接計 = f ( m j −1) ( μ j ) = 0, j = 1, , s 。ゆえ(6)を満たす g (λ ) とし g (λ ) ≡ 0 が 取 れ る 。 ゆ え に 、 f ( A ) = g ( A ) = 0 。 ま た 、 f (λ ) と し て 特 性 多 項 式 f (λ ) = det( A − λ I ) をとれば、やはり、 f ( μ j ) = f (1) ( μ j ) = = f ( m j −1) ( μ j ) = 0, j = 1, ,s f ( A) = 0 。これはケイリー・ハミルトンの定理に他ならない。 以 下 に お い て 「 与 え ら れ た 関 数 f (λ ) に 対 し て f ( A ) = g ( A ) を 満 た す 高 々 ( m1 + + ms − 1 ) ( ≤ n − 1 )次多項式 g (λ ) が唯一つ存在する」を示す。このような g (λ ) は A のスペクトル上における、f (λ ) のエルミート補間多項式 Hermite interpolation polynomial と呼ばれている。このような g (λ ) は f (λ ) のみならず、 A にも依存することは明らかである。 が満たされる。ゆえに、 例によって証明法を示し、一般化は練習問題とする。 そこで、例として f ( x) を与えられた関数、a, b, c を異なる 3 点とし、次の 7 個の補間条件 Copyright 再履修線形代数研究会 21 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II を満たす 6 次エルミート補間多項式 g ( x) を求める問題を考える: (7) (8) f (a) = g (a ), f (1) (a ) = g (1) (a ), f (2) (a) = g (2) (a), f (3) (a) = g (3) (a), f (b) = g (b), f (1) (b) = g (1) (b), f (c ) = g ( c ) まず、 g ( x) は次の形で求まることを示す(一意性の証明は後ほど) : g ( x) = ( x − b) 2 ( x − c){α 0 + α1 1! + ( x − a ) 4 ( x − c){β 0 + ここに α 0 , α1 , ( x − a) + β1 1! α2 2! ( x − a)2 + α3 3! ( x − a )3 } ( x − b)} + ( x − a) 4 ( x − b) 2 γ 0 , γ 0 は補間条件から決定すべき未定係数を表す。 「 f ( a ) = g ( a ), f (1) (a) = g (1) (a), f (2) (a) = g (2) (a ), f (3) (a ) = g (3) (a ) 」 ( x = a における補間 条件)を行列形に書くと、 ⎡ f (a) ⎤ ⎡δ 0 0 0 ⎤ ⎡α 0 ⎤ ⎢ (1) ⎥ f (a) ⎥ ⎢* δ 0 0 ⎥ ⎢⎢α1 ⎥⎥ ⎢ ⎥ (9) =⎢ (δ ≡ (a − b) 2 (a − c)) ⎢ f (2) (a) ⎥ ⎢* * δ 0 ⎥ ⎢α 2 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥⎢ ⎥ ⎢⎣ f (3) (a) ⎥⎦ ⎣* * * δ ⎦ ⎣α 3 ⎦ となることを示せ。ここに「 * 」印は既知成分を表す。右辺の 4 x 4(下三角)行列は δ ≠ 0 ゆ , f (3) (a) の値に対して(11)式を満 え、可逆行列を表す。ゆえに、全く任意に与えられた f ( a ), たす α 0 , , α 3 が一意的に定まる。 同様の手続きによりに、全く任意に与えられた f (b), f (1) (b), f (c) の値に対して β 0 , β1 , γ 0 が一意的に定まることを示せ。 次に一意性の証明のために高々6 次多項式 g ( x ) = g1 ( x ), g 2 ( x) がともに(7)を満たせば、 h( x) ≡ g1 ( x) − g 2 ( x) ≡ 0 であることを次の手順によって示せ。まず、 h( x) は次の補間条件を 満たすことを示せ: (10) h(a ) = h (1) (a) = h (2) (a) = h (3) (a ) = 0, h(b) = h (1) (b) = 0, h(c ) = 0 微積分学におけるテイラーの定理により最初の条件より h( x) = ( x − a ) p ( x ) と書けるこ 4 とを示せ。 (ここに p( x) は高々3 次多項式を表す)。 a ≠ b ゆえ、続く 2 条件より p(b) = p (1) (b) = 0 を出し、 p( x) = ( x − b) 2 q ( x)( q( x) は高々1 次)であることを示せ。a, b, c は相異なる数だから、(10)式最後の条件より q (c) = 0 、すなわち、 q ( x) = d ⋅ ( x − c) ( d は定 数)が出る。以上を総合すると、 h( x) = d ⋅ ( x − a ) (x − b) ( x − c ) となり、 h( x) は高々6 次だ 4 2 から d = 0 でなければならない。すなわち、 h( x) ≡ 0 でなければならない。■ Copyright 再履修線形代数研究会 22 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II ⎡ 0 1⎤ ⎡1 2 ⎤ ⎡ 2 1⎤ ⎡ 5 − 2 ⎤ =⎢ ≡ VJV −1 とする。 ⎥ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎣ −4 4 ⎦ ⎣ 2 5 ⎦ ⎣0 2 ⎦ ⎣ −2 1 ⎦ 問題 10.6(前問の応用問題) A = ⎢ (1) (2 A + I )( A − A + I ) 2 −1 = α 0 I + α1 ( A − 2I ) を満たす α 0 , α1 を求めよ。 (2) e = β 0 I + β1 ( A − 2I ) を満たす定数 β 0 , β1 を求めよ。 A (解 A のジョルダン標準形は単一ブロックから構成され、異なる固有値は λ1 = 2 のみである。 (1) f (λ ) = (2λ + 1) /(λ − λ + 1) 、 g (λ ) = α 0 + α1 (λ − 2) とおけば、補間条件は 2 f (2) = g (2) : 2 ⋅ 2 +1 5 = = α0 22 + 2 + 1 7 f (1) (2) = g (1) (2) : −2λ 2 − 2λ + 1 11 = α1 | =− 2 2 λ =2 (λ + λ + 1) 49 これより g (λ ) = α 0 + α1 (λ − 2) = 5 11 5 11 − (λ − 2) 、 g ( A) = I − ( A − 2I ) 得られる。 7 47 7 49 検算: f ( A) = (2A + I )( A 2 + A + I ) −1 −1 ⎡ 1 2⎤ ⎡ − 3 5 ⎤ ⎡ 1 2 ⎤ 1 ⎡17 − 5 ⎤ 1 ⎡57 − 11 ⎤ =⎢ = ⎥⎢ ⎥ ⎢ −8 9 ⎥ ⋅ 49 ⎢ 20 − 3⎥ = 49 ⎢ 44 13⎥ ⎣ −8 9 ⎦ ⎣ −20 17 ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ 5 11 1 ⎡57 − 11⎤ = f ( A) g ( A) = I − ( A − 2I ) = 7 49 49 ⎢⎣ 44 13 ⎥⎦ (2) f (λ ) = e , g (λ ) = β 0 + β1 (λ − 2) とおけば、補間条件は f (λ1 ) = g (λ1 ) および λ f (1) (λ1 ) = g (1) (λ1 ) によって与えられる。これを解けば、 e 2 = β 0 = β1 が得られる。ゆえに、 ⎡ −1 1⎤ e A = e 2 I + e 2 ( A − 2I ) = e 2 ( A − I ) = e 2 ⎢ ⎥ ⎣ −4 3 ⎦ ⎡ e 2 e 2 ⎤ −1 ⎡1 2 ⎤ ⎡ e 2 e 2 ⎤ ⎡ 5 − 2 ⎤ 2 ⎡ −1 検算: e = V ⎢ V =⎢ ⎥⎢ ⎥ = e ⎢ −4 2⎥ 2⎥⎢ ⎣ 2 5 ⎦ ⎣ 0 e ⎦ ⎣ −2 1 ⎦ ⎣ ⎣0 e ⎦ A 1⎤ ■) 3⎥⎦ 問題 10.7 ジョルダン分解 Copyright 再履修線形代数研究会 23 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II ⎡ −14 2 3 ⎤ ⎡ 2 1 0 ⎤ ⎡1 0 0 ⎤ ⎡ 6 − 1 − 1 ⎤ A = ⎢⎢ −26 5 5⎥⎥ = ⎢⎢3 2 − 1 ⎥⎥ ⎢⎢ 0 2 1 ⎥⎥ ⎢⎢ −11 2 2 ⎥⎥ = VJV −1 を 知 っ て 微 分 方 程 式 ⎢⎣ −64 8 14 ⎥⎦ ⎢⎣8 4 1⎥⎦ ⎢⎣ 0 0 2 ⎥⎦ ⎢⎣ − 4 0 1 ⎥⎦ ⎡ y1 ⎤ ⎡ y1 ⎤ d ⎢ ⎥ y2 = A ⎢⎢ y2 ⎥⎥ を解け。 dt ⎢ ⎥ ⎢⎣ y3 ⎥⎦ ⎢⎣ y3 ⎥⎦ t ⎡ et ⎤ ⎡ y1 ⎤ ⎡ 2 1 0⎤ ⎡e ⎤ ⎢ 2t ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ 2t ⎥ (略解:ジョルダン標準形 J の形から一般解は y2 = V ⎢ e ⎥ c = 3 2 − 1 ⎢ e ⎥ c によって ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢te 2t ⎥ ⎢⎣ y3 ⎥⎦ ⎢⎣8 4 1⎥⎦ ⎢te 2t ⎥ ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ 与えられる。ここに c は 3 × 1 任意行列を表す。■) 問題 10.8 (スペクトル写像定理の応用) 与えられた 3 次行列 A の特性多項式が det( A − λ I ) = (1 − λ )(2 − λ ) であることを知って、 2 次の行列の特性多項式を求めよ。 p( A) = A 2 − I −1 (b) q ( A ) = ( A − I )( A + I ) cA (c) r ( A ) = (I − A)e 1 (d) f ( A ) = f (λ )(λ I − A) −1 d λ ∫ C 2π i (a) ただし f (λ ) は点 1, 2 を含む複素領域内で至ると ころ微分可能とし、閉積分路 C はこの領域内にあって点 1, 2 を内部に含むものとする。 (略解:スペクトル写像定理を使う。 (a) det( p( A) − λ I ) = ( p (1) − λ )( p(2) − λ ) 2 = (−λ )(3 − λ ) 2 ( p (λ ) = λ − 1 ) (b) 1 det(q ( A) − λ I ) = (q (1) − λ )(q (2) − λ ) 2 = (−λ )( − λ ) 2 ( q (λ ) = (λ − 1) /(λ + 1) ) 3 2 det(r ( A) − λ I ) = (r (1) − λ )(r (2) − λ ) 2 = (−λ )(−e 2 c − λ ) 2 ( r (λ ) = (1 − λ )ecλ ) (d) det( f ( A) − λ I ) = ( f (1) − λ )( f (2) − λ ) 2 ■) (2) (2) 問題 10.9 (a) y − y = 0 を解け。(b) − y − y = 0 を解け。 2 (略解:(a) 特性多項式は f (λ ) = 1 − λ = (1 − λ )(1 + λ ) で与えられる。ゆえに、一般解は (c) y = c1et + c2 e − t (b) 一般解は y = c1e + c2 e ti 特性多項式は f (λ ) = −1 − λ = (i − λ )(i + λ ) で与えられる。ゆえに、 2 − ti = (c1 + c2 ) cos t + i (c1 − c2 ) sin t = c1' cos t + c2 ' sin t ■) 問題 10.10 次の各場合に対して微分方程式 f ( D) y = a0 y + a1 y (1) + a2 y (2) − y (3) = 0 ( D = d / dt 、 a0 , a1 , a2 は与えられた定数、 Copyright 再履修線形代数研究会 24 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 y = y (t ), y (1) = dy / dt , レッスン 10 ジョルダン分解 Part II )のコンパニオン行列のジョルダン分解と微分方程式の解を求めよ。 (a) f (λ ) = a0 + a1λ + a2 λ − λ = (1 − λ ) の場合 2 (b) (c) 3 3 f (λ ) = (1 − λ )(2 − λ ) 2 の場合、 f (λ ) = (1 − λ )(2 − λ )(−1 − λ ) の場合 −1 (略解:10.7 節の結果を利用する。コンパニオン行列のジョルダン分解を A = VJV と書く。 ⎡0 1 0 ⎤ ⎡0 1 0 ⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ (a) A = 0 0 1 = 0 0 1 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢⎣ a0 a1 a2 ⎥⎦ ⎢⎣1 − 3 3 ⎥⎦ ⎡ 1 0 0 ⎤ ⎡1 0 0 ⎤ ⎢ ⎥ V = ⎢α 1 0 ⎥ = ⎢⎢1 1 0 ⎥⎥ ⎢⎣α 2 2α 1⎥⎦ ⎢⎣1 2 1 ⎥⎦ ⎡α 1 0 ⎤ ⎡1 1 0 ⎤ J = ⎢⎢0 α 1 ⎥⎥ = ⎢⎢ 0 1 1 ⎥⎥ ⎢⎣0 0 α ⎥⎦ ⎢⎣ 0 0 1⎥⎦ t t 2 t 一般解 y (t ) は e , te , t e の任意の一次結合で与えられる。 ⎡0 1 0 ⎤ ⎡0 1 0 ⎤ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ (b) A = 0 0 1 = 0 0 1 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢⎣ a0 a1 a2 ⎥⎦ ⎢⎣ 4 − 8 5 ⎥⎦ ⎡ 1 1 0 ⎤ ⎡1 1 0 ⎤ ⎢ ⎥ V = ⎢α β 1 ⎥ = ⎢⎢1 2 1 ⎥⎥ ⎢⎣α 2 β 2 2 β ⎥⎦ ⎢⎣1 4 4 ⎥⎦ ⎡α 0 0 ⎤ ⎡1 0 0 ⎤ J = ⎢⎢0 β 1 ⎥⎥ = ⎢⎢0 2 1⎥⎥ ⎢⎣0 0 β ⎥⎦ ⎢⎣0 0 2 ⎥⎦ t 2t 2t 一般解 y (t ) は e , e , te の任意の一次結合で与えられる。 (c) ⎡0 1 0 ⎤ ⎡ 0 1 0⎤ A = ⎢⎢ 0 0 1 ⎥⎥ = ⎢⎢ 0 0 1⎥⎥ ⎢⎣ a0 a1 a2 ⎥⎦ ⎢⎣ −2 1 2 ⎥⎦ ⎡ 1 1 1 ⎤ ⎡1 1 1⎤ ⎢ ⎥ V = ⎢α β γ ⎥ = ⎢⎢1 2 − 1⎥⎥ ⎢⎣α 2 β 2 γ 2 ⎥⎦ ⎢⎣1 4 1⎥⎦ ⎡α 0 0 ⎤ ⎡1 0 0 ⎤ J = ⎢⎢0 β 0 ⎥⎥ = ⎢⎢ 0 2 0 ⎥⎥ ⎢⎣0 0 γ ⎥⎦ ⎢⎣ 0 0 − 1⎥⎦ t 2t −t 一般解 y (t ) は e , e , e の任意の一次結合で与えられる。■) 問題 10.11 次の行列のジョルダン分解を求めよ: Copyright 再履修線形代数研究会 25 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II ⎡ 0 1 0 0⎤ ⎢ 0 0 1 0⎥ ⎥ (a) A = ⎢ ⎢ 0 0 0 1⎥ ⎢ ⎥ ⎣ −1 − 4 − 6 − 4 ⎦ ⎡ 0 1 0 0⎤ ⎢ 0 0 1 0⎥ ⎥ (b) A = ⎢ ⎢ 0 0 0 1⎥ ⎢ ⎥ ⎣ −4 − 4 3 2 ⎦ −1 (略解: 10.7 節の方法に従う。ジョルダン分解を A = VJV と書くと: 2 3 4 4 (a) det( A − λ I ) = 1 + 4λ + 6λ + 4λ + λ = (1 + λ ) ⎡ 1 0 0 0 ⎤ ⎡ 1 0 0 0⎤ ⎡α ⎢α 1 0 0 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ = ⎢ −1 1 0 0 ⎥ J = ⎢0 V=⎢ 2 ⎢α 2α 1 0 ⎥ ⎢ 1 − 2 1 0 ⎥ ⎢0 ⎢ 3 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ 2 ⎣0 ⎣⎢α 3α 3α 1⎥⎦ ⎣ −1 3 − 3 1⎦ (b) 1 0 0 ⎤ ⎡ −1 1 0 0 ⎤ α 1 0 ⎥⎥ ⎢⎢ 0 − 1 1 0 ⎥⎥ = 0 α 1 ⎥ ⎢ 0 0 −1 1 ⎥ ⎥ ⎥ ⎢ 0 0 α ⎦ ⎣ 0 0 0 − 1⎦ det( A − λ I ) = 4 + 4λ − 3λ 2 − 2λ 3 + λ 4 = (1 + λ )2 (2 − λ ) 2 ⎡1 0 1 0 ⎤ ⎡ 1 0 ⎢α 1 β 1 ⎥ ⎢ ⎥ = ⎢ −1 1 V=⎢ 2 2 ⎢α 2α β 2β ⎥ ⎢ 1 − 2 ⎢ 3 ⎥ ⎢ 2 3 2 ⎣⎢α 3α β 3β ⎦⎥ ⎣ −1 3 1 0⎤ ⎡α ⎥ ⎢0 2 1⎥ J=⎢ ⎢0 4 4⎥ ⎥ ⎢ 8 12 ⎦ ⎣0 1 0 0 ⎤ ⎡ −1 1 α 0 0 ⎥⎥ ⎢⎢ 0 − 1 = 0 β 1⎥ ⎢ 0 0 ⎥ ⎢ 0 0 β⎦ ⎣ 0 0 0 0⎤ 0 0 ⎥⎥ ■) 2 1⎥ ⎥ 0 2⎦ 問題 10.12(プロジェクト型問題)差分商と差分商行列 いま、 n (≥ 2) を与えられた自然数、 z1 , z2 , くとも {z1 , (1) を複素平面上の異なる点、 w = f ( z ) を少な , zn } 上で定義された複素関数とするとき、 f ( zi , z j ) = f ( zi ) − f ( z j ) zi − z j (i ≠ j ) 型の数を(1 階)差分商 divided difference という。高階差分商は再帰的に次式によって定義さ れる: (2) n − 1 階差分商( n ≥ 2) : f ( z1 , z2 , そして関数値自体 f ( z1 ), , zn ) = f ( z1 , , zn −1 ) − f ( z2 , z1 − zn , zn ) は 0 階差分商と見なす。差分商は数値計算上の重要ツールとして古 くからよく知られている。 例1 2 階差分商の例 f ( z1 , z2 , z3 ) = f ( z1 , z2 ) − f ( z2 , z3 ) f ( z2 , z3 ) − f ( z3 , z1 ) , f ( z2 , z3 , z1 ) = , z1 − z3 z2 − z1 展開すればわかるようにこの両者は相等しい。 (A) (3) f ( z1 , , zn ) の値は z1 , f ( z1 , , zn ) = 1 , zn の配列順序に無関係である。実際、 f (λ ) d λ ≡ g ( z1 , C (λ − z ) (λ − z n ) 1 2π i ∫ Copyright 再履修線形代数研究会 , zn ) 26 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 が成り立つことを次の手順に従って示せ。ここに、 ところ微分可能な複素関数、 C は z1 , まず、(3)の右辺を g ( z1 , 1 (λ − z1 ) (λ − z n ) f (λ ) は z1 , , zn を含むある領域内で至る , zn をその内部に含む、その領域内の閉積分路を表す。 , zn ) と呼び、部分分数展開 = 1 1 1 − { } z1 − zn (λ − z1 ) (λ − zn −1 ) (λ − z2 ) (λ − zn ) を代入すると g ( z1 , , zn ) = {g ( z1 , コーシーの積分公式 , zn −1 ) − g ( z2 , f ( zk ) = f ( zk ) = g ( zk ), k = 1, 1 2π i ∫ C , zn )}/( z1 − zn ) がでる。また f (λ ) d λ (k = 1, λ − zk , n) により、 , n が成り立つ。以上と差分商の定義から f ( z1 , , zn ) = g ( z1 , , zn ) が従う。 (B) 差分商行列(ここから行列の話になる) 10.1-2 節で学んだ行列関数の M 演算の算法によく似た事実が差分商に対しても成立する ことを示す。差分商は次の表形式で提示されることが多い: f ( z1 ) f ( z1 , z2 ) f ( z2 ) f ( z1 , z2 , z3 ) f ( z2 , z3 ) f ( z3 ) f ( z 2 , z3 , z 4 ) 上の表をいくらか形を変えて次の行列形に書く: D( f ) ≡ D( f ( z1 , ⎡ f1 ⎢ ⎢ ⎢ , zn )) = ⎢ ⎢ ⎢ ⎢ ⎢⎣0 f12 f123 f2 f 23 f 234 f n −1 f12 n ⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ( f1 ≡ f ( z1 ), f12 ≡ f ( z1 , z2 ), ⎥ f ( n −1) n ⎥ ⎥ f n ⎥⎦ ) D( f ) を D 演算 D operation と仮に呼び、この右辺を差分商行列と呼ぶことにする。これは 10.1 節で定義した M ( f ) と深い関係がある。すなわち、「 z = a が考えている領域内に点なら、 z1 , , zn → a のとき、 f (1) (a ) f ( n −1) (a ) 、すなわち、 , , f ( z1 , , zn ) → 1! (n − 1)! , zn )) → M ( f (a)) )」が成り立つことが知られている。実際、(3)とコーシーの積分 f ( z1 ) → f (a ), f ( z1 , z2 ) → D( f ( z1 , 公式 f (a) 1 f (λ ) = d λ (k = 0,1, 2, ) ∫ C k! 2π i (λ − a) k +1 (k ) Copyright 再履修線形代数研究会 27 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II から出るのだが詳細は略する。 例 0⎤ ⎡ z1 1 ⎢ z 1 ⎥ 2 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ D(0) = 0, D(1) = I, D( z ) = ⎢ ⎥ zn −1 1 ⎥ ⎢ ⎢0 zn ⎥⎦ ⎣ ( D( z ) とは f ( z ) = z のときの D( f ) の意味) (C) 積の高階差分商に関するライプニッツの法則 f , g を z1 , ( fg )12 ( (略証 n , zn 上で定義された関数とすれば次式が成立することを示せ: = f1 g12 n + f12 g 23 f1 = f ( z1 ), f12 = f ( z1 , z2 ), n + + f12 n −1 g ( n −1) n + f12 n g n ) 厳密には数学的帰納法によるが、まずは n = 2,3 の場合についてやっておく。記号使い の簡略化のため、以下では "1 − 2" 等とは " z1 − z2 " 等を意味するものとする(混乱は起らない!) n = 2 の場合: (1 − 2)( fg )12 = ( fg )1 − ( fg ) 2 = f1 g1 − f 2 g 2 = f1 g1 + (− f1 g 2 + f1 g 2 ) − f 2 g 2 = f1 ( g1 − g 2 ) + ( f1 − f 2 ) g 2 = (1 − 2) f1 g12 + (1 − 2) f12 g 2 ゆえに ( fg )12 = f1 g12 + f12 g 2 n = 3 の場合: (1 − 3)( fg )123 = ( fg )12 − ( fg ) 23 = f1 g12 + f12 g 2 − ( f 2 g 23 + f 23 g3 )( n = 2 の場合の結果を利用) = f1 g12 + (− f1 g 23 + f1 g 23 ) + f12 g 2 − f 2 g 23 + (− f12 g3 + f12 g3 ) − f 23 g3 ) = f1 ( g12 − g 23 ) + ( f1 − f 2 ) g 23 + f12 ( g 2 − g3 ) + ( f12 − f 23 ) g3 = (1 − 3) f1 g123 + (1 − 2) f12 g 23 + (2 − 3) f12 g 23 + (1 − 3) f123 g3 = (1 − 3)( f1 g123 + f12 g 23 + f123 g3 ) ゆえに ( fg )123 = f1 g123 + f12 g 23 + f123 g3 一般化は練習問題とする。■) f + の算法に関して次式が成立することを示せ: (a) D( f ± g ) = D( f ) ± D( g ) (b) D(cf ) = cD( f ) ( c は定数) (c) D( fg ) = D( f ) D( g ) = D( g ) D( f ) (積の高階差分商に関するライプニッツの法則) (D) 差分商行列 (d) D( f −1 ) = D−1 ( f ) ( f1 = f ( z1 ) ≠ 0, (e) D( f / g ) = D( f )D−1 ( g ) = D−1 ( g )D( f ) ( g1 = g ( z1 ) ≠ 0, Copyright 再履修線形代数研究会 , f n = f ( zn ) ≠ 0 ) , g n = g ( zn ) ≠ 0 ) 28 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 (略証: 例 (d)を レッスン 10 ジョルダン分解 Part II (a)(b)は簡単。(c)はライプニッツの法則から出る。それ以外は(c)から出る。■) f ( z ) = z に適用すると(ただし z1 , ⎡ z1 1 ⎢ z2 1 ⎢ ⎢ ⎢ zn −1 ⎢ ⎢0 ⎣ ⎡ y1 − y1 y2 y1 y2 y3 0 ⎤ ⎢ y2 − y2 y3 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ =⎢ ⎥ ⎢ 1⎥ ⎢ ⎢ zn ⎥⎦ ⎢⎣ 0 −1 ここに、右辺の ( p, q ) 成分は ( −1) (E) 直前の式において zk = − xk p+q y p y p +1 (≠ 0, k = 1, , zn ≠ 0 )、 yn ⎤ ⎥ ⎥ ⎥ ⎥ ( yk = zk −1 , k = 1, ⎥ − yn −1 yn ⎥ ⎥ yn ⎥⎦ (−1) n +1 y1 yn −1 , n) yq に等しい( p ≤ q )。検算して下さい。 , n) と書き変え、次式を導出せよ(後ほど必要と なる): w1 wn ⎤ ⎡ w1 w1w2 w1w2 w3 −1 0⎤ ⎡ x1 − 1 ⎢ ⎥ w2 w2 w3 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ x2 − 1 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ =⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ xn −1 − 1⎥ ⎢ ⎢ wn −1 wn −1wn ⎥ ⎢0 ⎢ ⎥ xn ⎥⎦ ⎣ wn ⎥⎦ ⎢⎣ 0 ( wk = xk −1 , k = 1, (F) , n) 。ここに、右辺の ( p, q ) 成分は wp wp +1 wq に等しい( p ≤ q )。 (E)の結果を利用して次式を導け: −1 0 ⎤ ⎡λ − z1 − 1 p1n ⎤ ⎡ p11 p12 ⎢ ⎥ − − z λ 1 ⎢ ⎥ 2 ⎢ ⎥ p22 p23 ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ −1 ⎢ ⎥ (λ I − D( z )) = ⎢ ⎥ ≡ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ λ − zn −1 − 1 ⎥ ⎢ ⎢ ⎥ pnn ⎥⎦ ⎣0 λ − zn ⎥⎦ ⎢⎣0 ここに、 pij = 1 (λ − zi )(λ − zi +1 ) (λ − z j ) (i ≤ j ) (G) 差分商行列に対するコーシー積分公式 D( f )( z1 , , zn ) = 1 2π i ∫ C f (λ )(λ I − D( z )) −1 d λ = f (D( z )) Copyright 再履修線形代数研究会 29 再履修線形代数―分解定理を主軸に整理整頓 を導け。ここに、 f (D( z )) は 10.4 節で定義した行列関数の意味である。 左辺の ( p, q ) 成分 ( p ≤ q ) は (略証 レッスン 10 ジョルダン分解 Part II f ( z p , z p +1 , , zq ) に等しい。また中央の積分の ( p, q) 成 分は、(F)の結果を代入すれば 1 f (λ ) C (λ − z )(λ − z p p +1 ) 2π i ∫ f ( z p , z p +1 , (λ − z q ) d λ に等しい。しかし、この積分値は(A)により , zq ) に等しい。最後の行列 f (D( z )) は 10.4 節により中央のコーシー積分に等し い。■) Copyright 再履修線形代数研究会 30
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