慢性進行性疾患における主観的QOL評価とThen Testの重要性

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
6 月 1 日(日)10 : 25∼11 : 15 ポスター会場
(展示ホール A・B)【ポスター 神経!その他 4】
1470
慢性進行性疾患における主観的 QOL 評価と Then Test の重要性
渡邊
1)
宏樹1),隆島
湘南藤沢徳洲会病院
研吾2)
リハビリテーション室,2)神奈川県立保健福祉大学
key words SEIQoL−DW・Then test・レスポンスシフト
【はじめに,目的】末期癌患者やいわゆる難病などの慢性進行性疾患において理学療法の究極的な目的は「如何に QOL を高めら
れるか」である。これらの疾患における QOL 評価として主観的 QOL 評価法である SEIQoL!
DW が注目されている。これはそ
の時々の患者の状況に合わせ,患者自身が生活の中で大切にしている事柄(以下,Cue)を 5 つ導きだし,それぞれの満足度を
VAS で,重みを専用のディスクで測定し掛け合わせ,最終的には 5 つの数値を加え点数化(以下,SEIQoL index)するという
手法である。SEIQoL index は操作主義的な数値として他者との比較や,本人における経時的変化を比較することができる。ま
た,5 つ Cue を導き出した理由(以下,コメント)を記録するのも SEIQoL!
DW の特徴の一つであり,QOL 変化を質的に検討
する際に有用である。近年 SEIQoL!
DW を使用した QOL 調査報告が散見され始めているが,単に経時変化を追うだけのものが
ほとんどであり,レスポンスシフトついて触れられた調査は少ない。中島は,過去(Pre test)と現在(Post test)の QOL をそ
れぞれの時点で点数化し経時評価するだけではなく,様々な要素の影響を受け変化した現在の価値観で過去を再評価(以下,
Then test)
したときの Pre test と Then test の差をレスポンスシフトとし,実際の介入効果は Post test と Then test の差で評価
されるべき,としている。今回我々は ALS 患者に対し定期の QOL 評価に加え Then test を行い,レスポンスシフトの実際の様
子と Then test,Post test の差から得られる真の主観的 QOL 変化について調査し若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は下肢型 ALS 患者 59 歳男性,運動機能は Pre test 時は両 SHB と両 T 字杖使用し 2m の自力歩行がなんとか可能な
レベル,Post test 時は車椅子への移乗にも介助が必要なレベルであった。症例は定年目前でもあり就労継続が大きな課題であっ
たが,理学療法は歩行や移乗能力維持,下肢装具や車椅子の調整を主目的とした週 2 回実施し,巧緻性が落ち始めた上肢の機能
訓練目的に週 1∼2 回の作業療法を行った。QOL 評価は 2010 年 12 月に Pre test,2011 年 7 月に Post test を実施し,合わせて今
回は Post test 実施時に,約 7 ヶ月前を思い出してもらい,Pre test のデータを見せずに再度 SEIQoL!
DW を実施しこれを Then
test とした。
【倫理的配慮,説明と同意】調査対象者に対して調査の背景,目的,方法,調査内容,調査内容の使用許諾,調査にあたっての
危険性や不利益,調査結果の使われ方,プライバシーの保護,調査協力に同意しない事による不利益,について説明を行い同意
を得た。
【結果】
SEIQoL index は Pre test89.27 点,Post test79.65 点,Then test67.57 点であった。5 つの Cue は Post,Then test ともに
同一であり
「家族:Post45 点,Then46.4 点」
「親:Post14.58 点,Then6.86 点」
「仕事:Post7.67 点,Then9.12 点」
「環境:Post3.44
点,Then4.8 点」
「趣味:Post8.96 点,Then0.39 点」であった。
【考察】今回の結果では Pre test と Post test の差 9.62 点と一見 QOL が下がったように見えるが,Then test67.57 点と Post test
79.65 点から見ると 12.08 点高く,むしろ QOL は高いと言える。この Pre test と Then test の差 21.7 点がレスポンスシフトと言
える。Cue では then test で Post test に比べ「親」
「趣味」の項目の得点が特に低く「親への病状報告不足で心配をかけていた」
「仕事偏重の生活であり趣味活動へ気を回す余裕が無かった」などのコメントが得られており減点に働いた可能性が高い。一方
で,「家族」
「仕事」
「環境」
の項目では大きな点数の増減は無く,「リハビリにより身体機能と就労の維持がかなっている」
「職場,
家庭,病院の環境の調和に満足している」などのコメントが得点の維持に働いた可能性が高い。現在の QOL 評価では,このレ
スポンスシフトが考慮されておらず,経時的変化だけではどうしても低下していると判断され評価を誤る可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】理学療法の究極的な目的は患者の QOL を高めることにある。従って,正確に QOL を評価でき
なければ理学療法介入の効果は判定できない。SEIQoL!
DW は評価項目を患者自身が決められる主観的 QOL 評価法であり有用
である。また,QOL 評価の際には,誰にでも起こっている内的判断基準の変化を常に念頭に置かねばならない。Then test によ
るレスポンスシフトや真の QOL 変化の評価が重要である。