Kobe University Repository : Kernel

 Kobe
University Repository : Kernel
Title
発生中のニワトリの中腎における酵素分布の変化
Author(s)
竹畠, 信子 / 苅田, 淳
Citation
神戸大学農学部研究報告, 14(1): 205-210
Issue date
1980
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81006452
Create Date: 2015-01-31
神大農研報 (
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4
:205-210,1
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8
0
発生中のニワトリの中腎における酵素分布の変化
竹畠信子・苅田
淳*
(昭和 5
4
年 8月1
0日受理)
LOCALIZATIONANDCONTENTOFSOMEENZYMESYSTEMS
INTHEMESONEPHROSOFTHEDEVELOPINGCHICK
NobukoTAKEHATAandJunKANDA
Abstract
H
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.
発生中のニワトリ腔における中腎の発達と退行につい
た。中腎の検索のためには, これらの種卵を常法で耳障卵
て.その機能的消長を組織化学的に把握する試みは早く
しながら,騨卵開始後 3日 (
7
2時間), 6,
日 1
3日
, 1
8
から行われている 1-3)。しかしそれらの研究は,大部分
日の各庄子及び賂卵化後 3日の雛から材料をとったが,
が中腎に分布するホスファターゼの位置と増減を追求し
各時期でそれぞれ正常に発達しているとみられる中腎の
たもので,その他の酵素と中腎機能との関係については
みを観察の対称としすべて i
ns
i
t
u の状態で切片とし
あまり究明されていない。
た
。
この研究では,ユワトリの中腎機能と脱水素酵素との
関係を明らかにするため、発生の進行とともに発達・退
行する中腎組織について,グルコースー 6-燐酸脱水素
酵素 (G6P-DH)及びコハク酸脱水素酵素 (SDH)
中腎の組織検査のために行った手法は次の通りであ
る
。
1)組織形態の観察
採取した組織は REGAUD液で4
8
時間固定したのち 3
の変化を組織化学的に検索したが,併せて,中腎の組織
%重クロム酸カリ溶液で 5日間酸化し, 6
μ のパラフィ
形態の変化とともにアルカリ性ホスファターゼ (ALp)
u
c
h
s
i
n と1ig
h
tgreenで染色
ン切片として ponceau f
や酸性ホスファターゼ (ACP) の変化についても再検
した。
討し,各酵素の意義や酵素相互の関連などを明確にせん
とした。
2)酵素の組織化学的検索
採取した組織は直ちに液化炭酸ガスで凍結させたの
実験材料及び方法
1
C個を用い
実験材料として,白色レグホン種の種卵 1
*家畜繁殖学研究室
ら 一2
0
'
Cのクリオスタット内で 1
2
μ の新鮮凍結切片と
なし,各酵素の基質液に浸潰した。
まず,脱水素酵素の検出にあたっては,すべての切片
をあらかじめー 2
0
・
Cのアセトン液に 3
0分間浸潰して脱脂
竹畠{言子・苅田
2
0
6
肪した。 G 6P
-DHの検出のためには RUDOLPH.KLE・
IN4)の基質液を用い,
3
7・
Cで60分間浸潰した。また,
DHの検出のためには,
s
淳
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n に染まり,
な頼粒が充満して p
核は大
型円形で細胞の基底部寄りに位置していた。この区域の
NACHLAS ら5
)の基質液を用
管腔は直径1O ~15μ 程度で,腔内には内容物が存在し
い
, 3
7
"
Cで3
0
分間浸潰した。これらの酵素の組織切片に
た。それに続く移行部 (
t
r
a
n
t
i
t
i
o
nsegment) では, 上
おける陽性部位は, 強活性の場合 diformazan の青紫
皮細胞は高さ 8,
1
f 幅4
μ 程度で幾分小型となり, 刺子
色,弱活性では, formazan の赤紫色を呈した。次にホ
縁を欠くとともにその遊離縁は管腔に向って個々に突出
スファターゼの検出にあたっては,凍結切片をあらかじ
する傾向を示した。また,その細胞形質はやや明調で,
0分間固定した。アル
め冷ホルモール・カノレ・ンウム液で 1
核は惰円形をなして細胞内の基底部寄りから中央部の問
(ALP)の検出のためには GO.
MORI6)の方法を用い, i
志賀液には 3
7・
Cで 60分間浸潰し
容物はほとんどみられなかった。次に続く遠位部 (
d
i
s
.
た。その陽性部位は硫化コパノレトの沈澱として黒褐色を
μ,幅 5
μ 程度の
t
a
lsegment) では,上皮細胞は高さ 5
カリ性ホスファターゼ
に位置していた。管腔の直径は 3~10μ で一定せず,内
(ACP)の検出のた
立方状で,細胞形質は陪調,核は円形で細胞の中央に位
めには GOMORI7)の方法を用 L、,基質液には 3
7・
Cで60分
置していた。管腔に向う上皮表面は平坦で,管腔の直径
間浸潰した。その陽性部位は硫化鉛の沈澱として茶褐色
は 5~15μ 程度となった。さらに続く集合管では,上皮
を呈した。
細胞は高さ 1
0
μ 程度の柱状で細胞質は暗調,核は基底部
呈した。また酸性ホスフ
y ターゼ
寄りであった。その管股は終末で急に拡大し,中腎管に
観察結果
連絡した。
組織形態の観察
3)癖卵 1
3日の中腎:左右の中腎は極度に発達拡大し
中腎の外形との関連を考慮しながら, p
o
n
c
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g
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tgreen染色標本によって観察したが,
.
1醐,幡
てそれぞれ直方体に近い楕同体を示し,長さ 7
中腎細
2
.
5
m
m
程度となった。その組織構造は,基本的に瞬卵 6
管における区分及びその名称は ROMANOFF8)の記載に
日の場合に類似していたが,中腎小体は充実拡大して直
従った。
径 2
0
0
μ に達するものもあった。また中腎細管は,著し
1)熔卵 3自の中腎:肉眼的な中腎の確認は困難であ
く発達するとともに複雑に屈曲し,各区域の特徴はさら
ったが,組織学的には,左右の中腎管に接して上皮細胞
に明確に区別された。なお,近位部の延長した末端は上
の集団が認められ,初期の中腎組織として増殖しながら
皮細胞が次第に小型となり,刷子縁も低くなった。各区
体践に向って幾分せり出していた。中腎小体や細管の分
域の管腔の大きさは近位部で 5~15μ,
化はなく,中腎管は厚さ 1
0
μ 程度の単層上皮からなり,
μ,遠位部で 12~20μ 程度となりいずれも拡大していた。
管腔は直径 3~5μ を示した。
2)癖卵 6日の中腎:外見では,左右の中腎は体腔の
背壁に接して正中線の両側で縦長の円柱状を塁し,長さ
7mm
程度,横径 2皿程度であった。なお組織標本の横断
面によれば,その左右径が背腹径よりも幾分まさってい
た。この時期の中腎の組織構造をみると,中腎小体及び
細管がよく分化し,細管における形態的な区分も認めら
れた。すなわち,中腎小体はほぼ球形で,大型のものは
2
μ に達したが,一般に結合組織成分が少なく,血
直径 1
移行部で 5-12
4)解卵 1
8日の中腎:この時期の中腎は,照卵 1
3日の
.
7
n
n
n,掘で
ものにくらべて切らかに小型となり,長さ 6
1
.5
m
m程度となった。とくに外形では,頭尾両端が萎縮
するため紡錘形に近い形となった。その組織構造では,
細管遠位部の萎縮退行が著しく,細管部分の減少と結合
組織の増加が認められた。近位部でも,管腔が縮小して
直径 2~3μ となり,なかには閉鎖する部分もみられた
が,上皮細胞の変化は不明瞭であった。
管分布が著切で、あった。なお, これらの小体は中腎内の
5) Y
際化後 3日の中腎:中腎はさらに小型となり,外
頭側部で正中寄りに集められる傾向があり,孤立した小
形的には尾側部が狭められてそのまま中腎管に続き, と
体はまれであった。中腎細管は複雑に屈曲し,その管E
き
くに雄では精巣の背側に接して精巣上体様の配置となっ
は単層上皮からなっていたが,上皮の形態が部分的に異
た。なお雌でも,
中腎の外形は雄の場合と差がなかっ
なるため次のような細管の区域が分別された。まず,小
た。それらの組織構造では,全般的な細管の減少,血管
p
r
o
x
i
m
a
lsegment)
体の糸球体包から続く細管近位部 (
の萎縮,結合組織の増大などが認められ,さらに残存す
では, 管Eまの上皮が高さ 15~17μ,幅 2;""7μ 程度の立
る細管では管腔が著しく狭められていた。なお残存する
方または柱状細胞からなり,細胞の遊離縁には厚さ 2
μ
細管は主として中腎の中央部に位置し,上皮細胞は高さ
程度の刷子縁がみられた。さらにそれらの細胞では微細
1l ~12μ 程度で席 1] 子縁を有し,細胞内には ponceau f
u
c
h
.
2
0
7
ニワトリの中腎の酵素分布
s
i
n に染まる大型額粒を含み,本来の近位部にあたるも
よって細管も萎縮減少し,酵素活性は残存する細管上皮
のと思われた。なお移行部以下の区域はほとんど管構造
の遊離縁で狭い範聞にみられるのみとなった (
F
i
g
.
9
)。
を失って結合組織に変り,中腎小体も線維塊に移行する
4) ACPの変化:騨卵 3日の場合,酵素活性は初期
状態がみられた。
の中腎組織で一様に強い活性を示した。帰卵 6日の中腎
酵素分布の検索
1) G6P-DHの変化:勝卵 3日の伍体では,
で、は,酵素活性は中腎細管の細胞形質にのみ検出され,
中腎
とくに近位部の上皮で著しく高く,それに続く細管部で
形成組織において特有の酵素活性が認められ,中腎管も
F
i
g
.
1
0
)。勝卵 1
3日では,近位
は幾分低く認められた (
~~い活性を示した。鮮卵 6 日の中腎では,分化した中腎
部の活性は一段と高まってみられたが,その他の区域
細管の細胞形質で明瞭な酵素活性が認められ, とくに近
では活性が低く,遠位部や中腎小体は無活性であった
位部の上皮で強活性となった。なお小体では,酵素活性
F
i
g
.l1)。勝卵 1
8日では,近位部でも高活性を示す区
く
はみられなかった (
F
i
g
.
1)。勝卵 1
3日の中腎では,細
域が減少し,活性低下の傾向がうかがわれた。勝化後 3
管各部の発達とともにその酵素活性も全般的に高まり,
日の場合では,残存する一部の細管で弱い活性がみられ
細管近位部では著しく高い活性を示す細胞もみられた。
るに過ぎなかった (
F
i
g
.
1
2
)。
なお,移行部の活性は中等度,遠位部以下は弱活性とな
考 察
F
i
g
.
2)。解
り,小体はほとんど活性を示さなかった (
卵1
8日の中腎では,近位部の細管で一部に強活性を示す
この研究で観察したニワトリの中腎の組織発生の経過
ものもみられたが,大部分の細管は一様に弱い活性とな
はすでに報告されている ROMANOFF8)の記載にほぼ一
り,全般的な活性低下がうかがわれた。癖化後 3日の中
致する。そしてこのことは,筆者らが検索した中腎組織
管に弱い活性を認めるのみと
野では,残存する一部の紹l
が正常に発生したことを示している。なおこの研究にお
なり,他の区域では微弱な活性をみるのみであった (
F
i
g
.
ける酵素分布の検索では, G6P-DH. SDH. AL
3) 。
p,ACPのいずれの酵素も,勝卵 3日における初期の
2) SDHの変化:勝卵 3日の場合,中腎の初期組織
中腎組織から検出されるようになり, m
降卵 6日では分化
で一様に弱い活性がみられた。熔卵 6日の中腎では,中
した中腎細管にのみ活性を示すようになった。さらに,
腎小体を除く細管部の全域において,管壁上皮の細胞形
細管におけるそれらの酵素分布は必ずしも一様でなく,
質に明瞭な酵素活性が検出された。なお,上皮における
酵素活性の強さは細管の区域で異なり,遠位部で最も強
G6P-DH及び ACPは主として近位部上皮の細胞形
質に, ALPは同じ近位部上皮の刷子縁に,また SDH
F
i
g
.
4
)。
く,移行部から近位部の順に弱活性となった (
は主として遠位部の細胞形質に検出された。中腎組織に
師
事
卵1
3日の中腎では,酵素活性の全般的な高まりが認め
おけるこのような酵素分布の遠いは,それらの酵素が互
られたが,区域による強弱の差はなかった (
F
i
g
.
5)。勝卵
に異なった意義を有することを示すものと思われるが,
1
8日では,遠位部の酵素活性が幾分低下して近位部のそ
細管におけるそれらの意義が明確に説明されたことはな
れに近づく傾向がみられた。熔化後 3日では,残存する
い
。 WILMER9lは早くから,
一部の細管で中等度の活性が維持されていたが,
細管におけるホスフ
その
7
機能的な成体の腎臓では尿
ターゼの活性が高まるが,機能が
他の区域では極めて弱い活性がみられるのみとなった
阻害されればその活性が低下することを指摘していた。
(
F
i
g
.
6)
。
3) ALPの変化:瞬卵 3日の場合,中腎の初期組織
椎動物で,尿細管近位部には必ずホスファターゼが存在
で一様に弱い酵素活性が検出された。勝卵 6日の中腎で
すると述べ,その腎機能との関連を示唆している。ニワ
は,近位部にあたる細管の上皮において,その席J
I
子縁に
トリについても, MOOGll や JUNQUEIRA2)は中腎に含
沿う区域で強い活性が観察されたが,細胞の他の部分に
有されたホスファターゼの分布位置や活性の変化を追求
,
また LONGLEY と FISHERIO)は
いろいろな種類の脊
は活性はみられず,末尾の細管や中腎小体も全く活性を
し,その結果から中腎機能の発達と退行の経過を究明せ
示さなかった (
F
i
g
.7)。賂卵 1
3日では, 細管近位部の
んとした。さらに MITRAl1)は,ニワトリの中腎におけ
増大とともにその刷子縁における昨索活性も増加した
るALPの分布域を詳細に観察し,その活性は細管近{立
が
, 活性の分布域はとくに変らなかった (
F
i
g
.
8)。賂
部の刷子縁に局在すると報告しているが, この観察は筆
8日の場合,近位部の刷子縁では高い酵素活性が認め
卵1
者らの場合とよく一致する。硝乳類の場合でも, VETT-
られたが,全般的には分布域が少なし近位部の減少が
ER と GIBLEy12)はマウスで, LEESON と BAXTER13)
うかがわれた。解化後 3日で、は,中腎の全般的な退行に
はウサギで,いずれも ALPは中腎の細管近位部で刷子
淳
2
0
8
竹 島 信 子・苅田
i
縁に高活性となることを認めている。また WACHSTEIN
腎機能と関係することはほぼ確実と考えられるが,それ
1
4
)は
,
を確かめるためにはさらに詳細な研究が必要である。
ヒトを含む各種の日甫乳類の腎臓で,
A L Pは必
ず細管の近位部に存在することを報告している。すなわ
要 約
ちA L Pは,脊椎動物を通じて中腎・後腎を間わず,必
ず細管近位部に分布するもので, このことからも, A L
発生中のニワトリの中腎における酵素分布の変化を明
Pが腎機能に直接関連する意義を有することがうかがわ
らかにするため,白色レグホン種のニワトリ伍を用い,
れる。 A L Pが膜の能動輸送に関係する酵素で,上皮細
癖卵 3日
, 6日
, 1
3日
, 1
8日及び帰化後 3日の中腎組織
グルコースー 6-燐酸脱水素酵素 (G6P-
胞の分必や吸収に関与することはよく知られるところで
について,
ある。腎臓における A C Pの分布については明確な報告
D H)
, コハク酸脱水素酵素 (SDH) ,アルカリ性ホ
がない。 GIBLEyI5)は,ニワトリの中腎における A C P
スファターゼ (ALp) ,及び酸性ホスファターゼ (A
について,その活性は中腎機能の高まる勝卵 8日から出
Cp) の分布を検索した。
現すると述べているが,筆者らの観察では形成初期の中
腎組織から強活性がみられた。ヒトの腎臓の場合, WA'
, A C Pの活性はへンレのループ以下の
CHSTEINI4)は
6
)は尿細
細管にみられると報告したが, PAKDAMAN ら1
管全体でその活性をみとめている。なおラットの腎臓で
は
, JACOBSEN ら17)によって, A C Pは近位部の細管
にのみ検出できるといわれている。すなわち,腎におけ
るA C P分布に関する報告は一様でないが,
この事実
は,腎臓における A C Pの意義が多様であることを示す
ものと思われる。 MAUSBACHI8)はラットの尿細管近位
各酵素は勝卵 3日における中腎形成組織でも検出さ
れ,分化した中腎組織では細管部にのみ活性を示した。
G 6P-DH は細管の近位部で強活性となるほか,そ
の他の細管部でも弱活性を示した。
S D Hは細管の近位部で弱活性,遠位部で強活性とな
った。
A L Pは近位部上皮の刷子縁においてのみ強活性を示
した。
A C Pは主として近位部上皮の細胞形質で強活性とな
ったが,細管の他の部位に弱活性を示すこともあった。
部にみられる A C Pについて,その活性は上皮細胞のリ
これらの酵素活性は,中腎の発達とともにいずれも増
ソソームに在ることを認め,吸収物質の分解に関与する
3日頃で最も顕著となったが,その後は中腎
大し,癖卵 1
と考えている。なお, A C Pは細胞分裂や細胞の分化,
の退行とともに減少した。
さらに分泌機能にも関係することが知られているが,
文 献
GIBLEYと CHANGI9)はニワトリの中腎を電顕的に観察
し,細管近位部の上皮細胞に分泌・吸収を示す微細構造
1)乱100G,F
.
:B
i
ol
.B
u
l
l
.,86,5ト 8
0,1
9
4
4
.
があることを報告している。
.C
.U
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Q
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.J
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.8
c
i
.,9
3,
2)}uNQUEIRA,L
G 6P-DH や S D Hの酵素分布が中腎において検索
された報告はない。成体の腎臓の場合
GOUDER と
NADCARNI20) は各種の~虫類の尿細管に G 6P-DHが
高活性になると報告し, W ACHSTEINI4)や PAKDEMAN
ら1
5
)はヒトの尿細管について, G6P-DHは近位部で
強活性となるほかへンレのループにも存在すること、 S
D Hは細管の全域でみられるほか遠位部で強活性となる
ことなどを記載している。そして,両酵素のそのような
分布様式は,筆者らがニワトリの中腎について観察した
同じ酵素の分布に一致しそれら酵素の腎臓における一
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般的配置を示すものと思われる。この場合にみられる G
7)GOMORI,G
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.
6P-DH の意義について, WACHSTEINI4)は
,
8) ROMANOFF,A
.L
.:TheAvianEmbryo,792-806,
細管に
おける慌の再吸収とその分解に関係すると考えている。
S D Hと腎臓との関係についてはまだほとんど知られて
いない。しかし筆者らの観察によれば, S D Hは機能的
な中腎では細管遠位部にきわめて高い活性を示し,機能
の低下とともに酵素活性も退行した。従って, S D Hが
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NewYork,
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9)WILMER,H. A.:A
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J
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.andE.R.FISHER:Anat.R
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