概要:本研究は、貴金属フリーの排気ガス浄化触媒ナノポーラス金属の創出と透過型 電子顕微鏡による局所構造解明をテーマとしています。従来の触媒調製法と異なり、 「金 属間化合物」を触媒の前駆体とすることで、後期 3d 遷移金属(Fe,Ni,Cu)ナノポーラ スを新規に創出することに成功し、排気ガス浄化反応に高活性であることを見出しまし た。この成果により、貴金属フリーの排ガス触媒開発へ大きく前進するだけでなく、金 属ナノポーラスネットワークによる高活性触媒の創出という新たな触媒設計指針を確 立するに至りました。 背景:自動車などの排気ガス浄化反応用の触媒には白金族元素が多量に使用されてい る。しかしながら、近年の不安定供給や価格上昇のため白金族フリーの排ガス浄化触媒 開発が急務となっている。そのなか、後期 3d 遷移金属 TM(=Fe,Ni,Co,Cu)は白金族に 次いで排気ガス浄化反応に高活性であり、さらに安価で多量に使用することができるた め、TM を多量に含む触媒は白金族を代替する排ガス用触媒として開発が望まれている。 しかしながら従来の TM 触媒は、熱に対して脆弱であり、粒子の凝集や表面の不活性化 などの問題により、白金族触媒を超える触媒活性を得ることは困難とされてきた。 その中で、本研究は TM を多量に含む金属間化合物を前駆体として用いることで白金 族触媒に匹敵する高活性 TM 触媒を創出できることを見出してきた。従来型の TM 触 媒は、TM ナノ粒子(50nm 以下)が触媒活物質として利用されているが、金属間化 合物を前駆体とした触媒には、共通してナノポーラス TM が自己組織化形成し、触媒 活性点となっていることを突き止めた。透過型電子顕微鏡を用いた詳細な組織観察によ り、ナノポーラス TM 表面には、 触媒不活性な表面酸化膜やファセット構造が存在せず、 粉末冶金法などで作製した従来のポーラス金属と表面構造が大きく異なっていること が明らかになった。これらの成果により、従来型のナノ粒子触媒を超える新たな触媒設 計手法として、金属間化合物を前駆体にしたナノポーラス TM の創出という新たな指針 を確立するに至った。以上の背景となったこれまでの主な成果を個別に以下に示す。 ●Ni3Nb 金属間化合物を前駆体とするナノポーラス Ni 触媒 自動車排気ガス中に含ま れる有毒ガスの一酸化窒素 (NO)と一酸化炭素(CO)の 100 無 毒 化 反 応 (NO+CO → 80 価な Rh が用いられている が、代替となる活性金属は 見つかっていない。この反 応において Ni3Nb 金属間 NO purification (%) 1/2N2+CO2)には非常に高 o 325 C Nb Ti Ni3Nb Ni3Ti Pt Ni 60 40 20 0 0 5 10 15 20 25 Duration (min) 30 35 図 1:NO/CO 反応活性(左)とナノポーラス Ni コンポジット(右) 化合物が顕著に高い触媒活性を示すことを見出した。透過型電子顕微鏡による解析によ り、Ni3Nb の(010)面上に金属 Ni のナノポーラスネットワークと NbOx が共存するナ ノコンポジット相が形成していることを突き止め(図1) 、ナノポーラスと NbOx 界面 が触媒活性点であることを明らかにした。従来型の Ni ナノ粒子触媒ではこの反応に有 意な触媒活性を示さないことから、ナノポーラス化したことによって発現される金属 Ni の特異な触媒特性であることを示す成果となった。現在この成果については論文投 稿準備中である。 ●Cu3Au 金属間化合物を前駆体とするナノポーラス Au-Cu 合金 Cu3Au 金属間化合物を硝酸で脱合金化処理することで、ナ ノポーラス Au-Cu 合金を創出することに成功した(図 2)。 CO の低温酸化反応(CO+1/2O2→CO2)には 5nm 以下の Au ナノ粒子触媒が高活性とされるが、ナノポーラス Au-Cu 合 金は 50nm 以上の結晶子径サイズを有し、さらに酸化物担体 が存在しないにも関わらず Au ナノ粒子触媒に匹敵する活性 を示すことを見出した。この成果は Au 触媒にはナノ粒子化 や酸化物との接合界面が必要とされている現在の定説を覆 す結果あり、Au 触媒の真の活性サイトを解明する重要な触 図 2 ナノポーラス Au-Cu 合金 SEM 像とスライス断面 TEM 像 媒として位置づけられる[1]。 ●Al-Cu-Fe 準結晶合金及び CuFe スピネルを前駆体とする Cu/ナノポーラス Fe3O4 触媒 Al-Cu-Fe 準結晶合金及び CuFe2O4 スピネルを脱合金化 法や低温水素還元などで処理することで Cu ナノ粒子/ナ ノポーラス Fe3O4 コンポジット相の創出に成功した(図 3) 。これらの触媒はメタノールからの水素製造反応に高 い触媒活性を示すことを見出し、またこのコンポジット 相が触媒活性劣化した後に、再酸化することで完全に触 媒活性が復元されることを明らかにした[2-4]。 図3 Cu ナノ粒子/ナノポーラ ス Fe3O4 コンポジット(SEM 像) [1] T. Tanabe, J. Electron Microsc., 60, pp35-37, (2011). [2] T. Tanabe, et al., Appl. Cat. A: General., 384, pp241-251, (2010). [3] T. Tanabe, et al., J. Mater. Sci., 46, pp2242-2250, (2011). [4] S. Kameoka, T. Tanabe, et al., Appl. Cat. A: General., 375, 163-171, (2010).
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