多核金属錯体担持電極触媒に - 北海道大学 触媒化学研究センター

採択番号 12B1002
多核金属錯体担持電極触媒における酸素還元反応に関する研究
Investigation of oxygen reduction reaction
at multi-metal complex catalysts
君島堅一 a,柴田真里 a, 荻野和也 a, 野津英男 a, 猪熊喜芳 a, 太田鳴海 a
上原広充 b, 上村洋平 b, 高草木達 b, 朝倉清高 b, 八木一三 ab
Ken’ichi Kimijimaa, Mari Shibataa, Kazuya Oginoa, Hideo Notsua
Kiyoshi Inokumaa, Narumi Ohtaa, Hiromitsu Ueharab, Yohei Uemurab
Satoru Takakusagib, Kiyotaka Asakurab, Ichizo Yagia,b
a
技術研究組合 FC-Cubic, b 北海道大学触媒化学研究センター
a
FC-Cubic-TRA, bCatalysis Research Center, Hokkaido University
1.緒言 遅い多電子多プロトン移動反応であ
る酸素還元反応(ORR)の触媒としては、主に
Pt 系貴金属が用いられている。近年、金属酵
素(多核銅酵素)を電極表面に固定すると、理論
値に近い約 1.2 V (vs. RHE)で ORR を実現でき
ることが示唆されたが、酵素では、出力密度
を大きくすることが困難であるために、電極
材料として合成された銅錯体模倣系に関する
研究が行われている。最近、カーボン担体の
表面に複核銅錯体を固定するだけで比較的高
い ORR 活性を示すことが報告された。[1] 本
共同研究課題では、より高活性な多核銅錯体
触媒の実現を目指して、複核銅錯体の構造と
ORR 活性との相関を明らかにしようとして
いる。研究は、(i) 同じ系統の錯体の構造を僅
かに変化させた触媒の構造と ORR 活性との
関係の検討、(ii) ORR が進行している状態で
の、錯体分子の構造や電子状態の直接観察の
2 つの点から進めた。本報告では、(ii)につい
て in situ XANES の結果について報告する。
ORR が進行する状態で測定を行なうために、
in situ 電気化学 XAFS セルを新たに開発して、
電極上の銅錯体の XAFS 測定を行ない、電気
化学反応中の複核銅錯体の構造・電子状態変
化を直接観察することに成功した。
2.実験 カーボン担持 Cu 錯体(Cu/C)触媒は、
文 献 [1] の 方 法 を 参 考 に し て 、 Cu(II)/
3,5-diamino-1,2,4-triazole (Hdatrz) 複核 Cu 錯
体触媒を合成した。In situ XAFS は、カプトン
膜上に形成した Au sputter 膜に Cu/C 触媒をキ
ャストしたものを作用極に用いて測定した。
この、カプトン電極を X 線窓にして、電解液
と反対方向から X 線を入射・蛍光を測定する
ことで、電解液による散乱の影響が小さい条
件で測定が可能になった。電気化学 XAFS 測
定は、雰囲気を制御した電解液を循環させて、
電位規制した状態で行なった。 XAFS は、
KEK-PF において、SSD を用いた蛍光法で測
定した。
3.結果と考察 Figure 1 に、pH = 7、N2 飽和
雰囲気で測定した Cu/C 触媒の in situ XANES
スペクトルを示す。XAFS 測定時の保持電位
は、ORR が進行しない電位から、拡散律速で
進行する電位まで段階的に変化させた。拡散
律速な電位である 0.104 V では、8980 eV 付近
に Cu(I)の 1s - 4p 遷移に対応している[2]と考
えられるピークが観測され、この電位では、
錯体は Cu(I)の状態で存在していることが示
唆された。電位を変化させて測定した一連の
XANES スペクトルには、等吸収点(9010 eV)
がみられることから、Cu 錯体は、電位がネガ
ティブになるのにともない、Cu(II)から、Cu(I)
と(II)の混合状態を経由し、Cu(I)へ連続的に変
化していると考えられる。この結果、ORR は
Cu 錯体中の Cu がある程度 Cu(I)の状態になっ
たときに進行することが明らかになった。今
後の課題として、ORR 進行時の活性中心(Cu)
周囲の反応種の配位状態を明らかにすること
が求められ、現在 in situ EXAFS 測定を計画し
ている。
Figure 1. in-situ XANES spectra of Cu/C electrode in
N2-saturated solution (pH = 7).
参考文献
[1] M. Thorum et al, Angew. Chemie Int. Ed., 48 (2009) 165.
[2] K. Lung-Shan et al, J. Am. Chem. Soc. 109 (1987) 6433.
論文発表状況
[1] 君島堅一, 朝倉清高, 八木一三 他,第 15 回 XAFS 討
論会
[2] 君島堅一, 朝倉清高, 八木一三 他,第 5 回新電極触媒
シンポジウム
[3] I. Yagi, K. Kimijima, K. Asakura et al, 223rd ECS Meeting
(Toronto, Canada) 2013 年 5 月 (予定)
[4] I. Yagi, K. Kimijima, K. Asakura et al, ISHHC-16
(Sapporo, Japan), 2013 年 8 月(予定)