伊豆・白浜層群原田層の浮遊性有孔虫について

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伊豆・白浜層群原田層の浮遊性有孔虫について
茨木, 雅子
静岡大学地球科学研究報告. 2, p. 1-7
1976-11-28
http://dx.doi.org/10.14945/00000195
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静岡大学地球科学研究報告 2(1976年11月)1頁∼7頁
伊豆・白浜層群原田層の浮遊性有孔虫
について
茨 木 雅 子*
NotesonPlanktonic Foraminiferafrom theHaradaFormation,
ShirahamaGroup,theSouthernIzuPeninsula
MasakoIBARAKI*
Planktonic foraminifera from the typical outcrop of the Harada Formation,the
Shirahama Group near the Shirahama Shrine on the southern coast of theIzu Pen−
insulaare examined.The studied sectionis assigned to N.19after BLOW(1969),and
correlatable with the upper most part of the Sagara Group or thelowest part of the
Kakegawa
Groupin
the
Kakegawa
district,i.eリthelatest
Yuian
or
the
earliest
To−
tomian.
1.はじめに
伊豆半島南部に広く分布する白浜層群について
一方,白浜神社付近の海岸から西方の下田旧街道
沿いに露出する白色凝灰質含化石層は渡辺・兄上・
鈴木(1952)によって白浜層群原田層と呼ばれたが,
は,田山・新野(1931)が白浜海岸に発達する凝灰
この海岸ではA椚〝SSわpecお乃 オブわ椚gg犯由を含む多
岩,砂質凝灰岩,砂岩からなる地層を白浜層群と呼
くの貝化石が産出している(TsUcHI,1965;IBARAKI
んで以来数多くの研究がなされてきた。しかし,火
山岩類をふくむことや変質作用を受けていることな
andTsUcHI,1972)。ここの浮遊性有孔虫についても
すでに北村・高柳ほか(1%9)の報告があって鮮新
どもあって,その層序は十分明らかになっていると
世初期とされている。筆者はこれまで相良・掛川地
は云えない。例えば,伊豆半島には上砂衰わのCJわ7αを
方の浮遊性有孔虫を調査してきたので,同じ貝化石
産出する地点が9ヶ所ほど知られているが,これら
を産する相良・掛川地方との対比を試みるため原田
の山が血伊東朋を含む層準が揚ヶ島層群に属する
層の浮遊性有孔虫を検討したのでその結果を,述べ
ものか,白浜層群に含められるものかなど異なった
る。
意見があってまだ問題が残っている。
下白岩では多量の声妙励町政朋を産出し,同時
に含まれる浮遊性有孔虫は斉藤(1963),北村・高柳
(1971)によって日本の他の上砂元わのCJわZαの産地の
層準よりはるかに新しい,BLowのZoneN.14(中
期中新世の後期)にあたる層準のものとされている。
本研究を行うにあたり,終始ご指導頂いた本学土
隆一教授に厚く御礼申し上げる。
2.原田層の浮遊性有孔虫群
白浜神社裏の海岸には白浜層群原田層の高さ20
m以上の大きな露頭がある。柱状図に示してあるが,
・静岡大学理学部地球科学教室 Geosci.inst.,Fac.Sci.,ShizuokaUniversity,Shizuoka・
2
下部から含礫粗粒石灰質砂岩2m,この間に中粒石
灰質砂岩0.3mをはさむ,その上に球状群体コケム
シやカキを含む含礫粗粒石灰質砂岩1.6m,コケ
ムシ・貝殻片・サンゴ片を多量に含むクロスラミナ
の発達した粗粒石灰質砂岩3m,中粒石灰質砂岩4
m,細かい石灰質生物遺骸を含む褐色砂岩3.6m,
再びクロスラミナの発達した粗粒石灰質砂岩1.4m
喜⋮三墓室≡
が重なり,この上に含スコリア細粒凝灰角礫岩・シ
ルト質凝灰岩・砂質凝灰岩の不規則な互層が順に
のっている。ここの走向はNlOOEでゆるく西へ傾斜
している。試料は下部にはさまれる中粒石灰質砂
岩(Loc.Ⅰ7601),中部の細かい石灰質生物遺骸を含
む褐色砂岩(Loc.Ⅰ7602)と上部の砂質凝灰岩の3地
点から採取したが,上部はきわめて凝灰質で化石は
検出されなかった。少し離れた海岸の波打際に露出
している岩石中にはAmα88gOpeC e花わねm eがβを
産出するが,その岩石中の浮遊性有孔虫は標本が悪
く同定できなかった。下部の地点Ⅰ7601は,この貝
化石を産出する層準より数m上位になり,中部の地
点はそれよりさらに12m上の層準になる。ここでは
この2点の試料について報告する。
試料の処理については,乾燥試料100gを200
メッシュの筋で水洗し,再び乾燥した後秤量した。
試料は石灰分が多いため,各個体は石灰片が付着し
ているものが多く,種の識別,個体数の算出がむづ
かしかった。しかし,両地点とも浮遊性有孔虫個体
l − ● ●
●‘●
..・■ ●
の含有量は極めて多かったので,表に示した個体数
は4等分法で分割した一部であるが,種の同定に
当っては残りの部分に含まれる良好な個体も検討し
て同定に確実を期した。
含まれていた種と個体数を表1に示す。地点Ⅰ7601
8[∈]
図1. 白浜層群原田層の模式地の柱状図
では18種,地点Ⅰ7602では28種が識別できた。Ⅰ7601
とⅠ7602では含まれる種数も個体数も著しい違いがあ
る。両地点に共通して多産するものは,Gわ∠砲gわ桝よお
qcわ5わ桝〟5,Gわ0rPねJα 研αね の2種で,そのほ
伊豆白浜海岸白浜神社裏の露頭を示す。
か個体数は少ないが Gわみなβわ卯元わざ∂oJ毎Gわー
1.凝灰岩 2.クロスラミナの発達する
ん′川J〟仙りWござrJ/〃廿高、抽/ん・JJわた〃〟♪タイ桝(7/よヾ、Gわー
石灰質砂岩 3.砂岩 4.石灰質中粒砂
あなどわ乃0んおす〟α加わ∂αJ〟SJわわあ犯 も両地点に産し
岩 5.含礫粗粒石灰質砂岩 6.コケム
ている。Ⅰ7601地点だけに普通に見られる種は G由一
シ 7.貝化石 8.球状群体コケムシ
地面如 上明卿ぬ戒繭血れ 5妙脚血娩描ク 由一
あわα乃S(ねんねα乃5,Gわ如和おお血∽ねお加椚ねお,の
3種,Ⅰ7602地点だけに普通に産出するもの
3
Tablel.Planktonic foraminifera from the Harada Formation
Strata
Specific
G G G G G
Sarqpling
point
F.
Z7601ェ7602
anguSdumわiユicata Boll土 一一
つ‘4 5 5
⊥
Gユ0わigerina
name
HARADA
bulloides apertura Cushman
bulloides bulloides d10rbignY
faユcone乃5ヱS Blow
pa∫aヱ〉uユユOideS Blow
G
G
coJ吋ユ0ヱ)atuS(Brady)
CgClostomus(Gaiioway &Wissler)
G
elongatus(d−orbigny)
G
Obliquus extremus B011i &Bermudez
G
すuadriユ0わatusi〝mtuエーusleroy 叫叩一一”
G
すuadヱ・io上〉atuSすuadriユ0わatuS(d−orbigny)
G
すuadriユ0ムatu55aCCuユifbr(Brady)一一一一一
G
すuadrjユ0ヱ〉atus tヱ・iユ0ヱ〉uS(Reuss)=一一一一一
G
ruber(d’orbignY)
4
G
dehiscens dehiscens(Parker &Jones)−
altispira aitispira(Cushman &Jarvis)
Gユ0わoq■uadr na
CraSSafbrmis
crassaformiS(GallowaY &Wissler)
oceanica
Cushman & Bermudez 一一−−−
inflata(d−orbignY)一一一−−−−−−−一一−−−−−−−一一−−−−−
7 5
Blow 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
CraSSaformis
0わesa Bolli
SCituユa scituユa(Brady)
⊥
Subcretacea(Lomnicki)
Cultrata cultrata(dl0rbigny)
G.rG.J mioceJ】ica Palmer 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一
⊥ 5
G.(G.)cultrata menardii(Parker,Jones &Brady ex dTorbignY)
6 7 3 8 3 3 つ‘9 7
acoStenSis
6 6 7 ⊥
3
ノ ノ ノ ノ ノ ノ ノ 、′′
● ● ● ● ● ■
′ t ′ l t ′ l ′ l ′ t ′ l ′ ■ l ′ l
r 爪⊥ γ二r [▲ r ︻r だ
G G G G G G G G
Gユ0わOrotaユia
d■orbigny
8
universa
S
Spaeヱ、Oidjneユユa
4 5
⊥
gユut血ata(Egger)
O
Orbuユina
2
G
Gユ0上〉jgerinita
2 ⊥ 5 ⊥
G
0わユ旬uus oわ点すuuS Bolli
7 5 9 つ ム 6 6 ⊥
0 2 7
3
ュ 3 ⊥
ム0ユユii Blow
4 3 ⊥ 2
⊥
G
Gユ0わjgerか】OideS
G.rG.ノ tumi由 tu血da(Brady)一日…−一一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一一一一
Globigerinella G.siphonifera(dTorbignY)
Pulieniatina
P.primalis
Banner &Blow・−−−−−−−−−−一一−−−−−−−−−−”−−−−一一−一一一− 4 36
Miscellaneous & fragmenta1−−−−−−−−−−−−−−−−一一一一一一一一一−−…−一一一一Mq−−−−−−一一一一一−一一− 94 162
Total number 215* 555**
*Weight of sa叫plelOqgXl/16 **weight of sample10Qgxl/128
は(〟り扉甘J●ノ川Jわ〟/わんJt・=小、′/J〃几(ご/J一幅り●わは/)JJJ/−
(1969)によるZoneN.19まで,Globigerinoidescon−
0滋57 Gわなどγ乃α カco乃g乃尭 Gわあなer玩α如和一
gわ如才〟S の出現はN.18から,勧αβわ諺わ陀仏dd−
加//りJ‘ム・\しわ恒gけわいJrか(日新′仙JへCんノ毎けJ榊ノー
あわce乃SはN.19に出現していること,P〟JJg乃ぬ正犯α
(ノhり仙〃〝J‘∫ハ/什川桁、OJや〟/fJJ(JJ川J川、川J、GJ諭叫抽〟プー
か血相毎の垂直分布はN.17からN.19までとなっ
カ粥α αJ壇か和,Gわ0rPおお dCOS由g乃め Gわわー
ている。これらを合せ考えると上記2地点の時代は
/7け〟/んJ川//川/〝〃汀……/亘α′Jわ由什iJJ−吊りヾ巾/…山前一m
ZoneN.19に当たるとしてよい。また,Pullenidtina
の11種で,以上のように層位はわずか12mの開きし
の殻の巻き方はほとんど右巻きで, Gわあ0和ねJお
かないが,両地点で含まれる浮遊性有孔虫の種類に
古〝椚才(おのそれはすべて左巻きであった。
大きな違いがあることが1つの特徴である。
次に,これを伊豆半島の他の地域と比較してみる。
これらの種にもとづいて地質時代を検討すると,
白浜層群の基底付近の層準と考えられている下白岩
Gわあなぞわ乃αわ〟肋諺が上砂g〟〟和の垂直分布はBLOW
の浮遊性有孔虫は Gわあなβわ乃α 乃¢e犯肋gS,Gわー
4
わなどγ女形0んお55わα乃〝S の共存によってN.14 とされ
ているが原田層はこれよりはるかに新しいことにな
3),相良・掛川地方と比較すると,種の組成,
PαJJe71加わα の殻の巻き方向,などから白浜神社の
る。一方,上申元わのCJ方形α とA研微通毎似通朋 2而”扇一
層準は,相良層群最上部もしくは掛川層群最下部に
g乃由の共存する滑川では,筆者らの研究により,
対比できる。
上申元わqCJg乃α の進化した型が下白岩より多く産出
4),原田層のこの層準に含まれる浮遊性有孔虫に
していることが明らかにされているが,ここの浮遊
性有孔虫は個体表面が溶脱していたり,石灰岩の破
は,Gわ物gわ乃0滋S 属,P〟J血刀あわ乃α属,軸ゐα−
grPd形gJα 属などの熱帯・亜熱帯種が多い。相
片が付着していたりして,なかなか種の識別がむづ
良・掛川地方の同層準のものに比較して P打払
かしいがSp血zgJわ最古乃gJJ押通 属が含まれているの
g乃αわ乃αははるかに多産する。
で原田層より下位の層準と思われる。さらに,滑川
文 献
吋はP〟Jお花あわ乃α 属と思われるものが検出されて
いるので,この層準は下白岩より新しいことになる。
BLOW,W.H.(1969)Late Middle Eocene to Re−
相良・掛川地方に比較してみる と,5錘α■一
Cent Planktonic Foraminiferal Biostratigraphy,
g和寝犯eJα めんねcg乃S が出現していること,
伽C.鬼才加わγ犯α才.Gフ毎月k形か.ル館C叩わSSfJs,1,
PαJgg乃ね虎児α♪わ桝α仏 は右巻きであること,Gわー
199−422.
∂0和才αJ由 細αβ乃5ねは見られない事などから見ると
IBARAKIand TsUcHTR.(1972)Biometry of Nb−
原田層は相良層群の黄上部か,もしくは,掛川層群
hhYVlepidinafromtheSouthernIzuPeninsulaand
の最下部に対比できることになる(TsUcHI and
Some Other LocalitiesinJapan,R申.Fbc.Sci.
IBARAKt1976)。このことは,AmussわPechmiiわmi−
5あた卿ゐαと加才が.7,117−126.
e形壷が原田層から,また相良層群から掛川層群最
下部にかけて産出しているので貝化石による対比と
北村 信・高柳洋書ほか(1969) 伊豆半島の地質
学的諸問題 東北大地古邦報,68,19−31.
北村 信・高柳洋書(1971) 揚ヶ島層群と白浜層
も予盾しない。
以上述べてきたように白浜層群と相良・掛川地方
群≠伊豆半島〟,189−201.
とは,従来よりやや詳しく対比できる見通しが得ら
SAITOT.(1963)MioceneplanktonicForaminifera
れた。また,今のところ,白浜層群は下位より下白
from Honshu,Japan,Sci.R砂.,7bhoku Uhiv.,
岩の層準,滑川の層準,白浜の3層準を含み,全体
ⅠⅠ(Geol.),35(2),123−209.
として相良層群に対比されることが予想されるが,
田山利三郎・新野 弘(1931) 伊豆半島地質概報
本報告も白浜層群のほんの一部に過ぎず,これで白
斉藤報恩会学術研報,13,81−85.
TsUcHI R.(1965)A Note on Mollusca from
浜層群の層位が明らかになったとは言えない。今後,
白浜層群全体の層序学的研究を進める必要がある。
3.まとめ
白浜層群原田層の浮遊性有孔虫を白浜神社裏の露
頭2地点で検討した結果,つぎのことがわかった。
1),2地点の試料には多量の個体を含み,合計31
種識別できた。
2),原田層の白浜神社の層準は浮遊性有孔虫から
みると,BLowのZoneN.19にあたる。
ShirahamaGroopnearMatsuzaki,WestCoastof
theIzuPeninsula,Rep.Fbc.Sci.Shizuoka Lhdv.,
1(1),47−51.
TsUcHIR.andIBARAKIM.(1976)Ⅰ−CPNS Abst−
ract,210−213.
渡辺景隆・兄上敬三・鈴木信(1952) 白浜層群の
堆積状況一下田東方の地質一地質雉,58(678),
93−100.
5
。す借料囁習蝶皆荘寓S密暦繊e輔労資湛皿牡痩溢血個堅
慣繊e習慣壁G匹正蟹鞋陛堪皿 13月d
6
Explanationofplate2
a:Umbilicalview,b:Spiralview,C:Sideview
Fig.1A,b,C,Globigerina bulloidesaperturaCushman(×100)
Loc.Ⅰ7602
Fig.2 a,b,C,Globigerinoides conglobatus(Brady)(×64)
Loc.Ⅰ7602
Fig.3 a,b Sphaeroidinelladehiscensdehisc・ens(Parker&Jones)(×100)Loc・Ⅰ7601
7
Explanationofplate3
a:Umbilicalview,b:Spiralview,C:Sideview
Fig.4 a,b,C Globoquadrina altispira altispira(Cushman&Jarvis)(×100)
Loc.Ⅰ7602
Fig.5 a,b Globorotalia miocenica Palmer(×100)
Loc.Ⅰ7601
Fig.6 a,b,C Pulleniatinaprimalis Banner&Blow(×100)
Loc.Ⅰ7602