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キラルα-ニトリルカルバニオンからN-シリルケテンイミンの
軸性キラリティへの不斉転写の試み
広島大院医歯薬保
○安藤
雅史,佐々木
道子,武田
敬
われわれは最近,非常にラセミ化しやすいキラルα-ニトリルカルバニオンを発生させ,求電子剤で捕捉す
ることに成功した.すなわちα位にウレイド基を有するニトリル誘導体 (S)-1 を塩化ベンゾイル存在下 LDA
で処理すると,ベンゾイル化体 (R)-2 がエナンチオマー比 (er) 96:4 で得られ,塩基として NaHMDS のような
ヘキサメチルジシラジド塩基を用いると(S)-2 が er 97:3 で得られるというものである (Scheme 1).1
Scheme 1
O
O
O
MeN
NMe 2
COPh
R * CN
(S)–2
95%, er = 97:3
PhC(O)Cl
NaHMDS
MeN
NMe 2
H
R
CN
(S)–1
THF
–100 ˚C
10 min
PhC(O)Cl
LDA
THF
–100 ˚C
10 min
R = CH2Ph
Me 2N
MeN
NMe 2
COPh
R * CN
(R)–2
81%, er = 96:4
O
M
MeN
CN
R
3
一方,ニトリル化合物のα位を塩基によって脱プロトン化した後シリルクロライドのような求電子剤を加
えると,炭素原子上ではなく窒素原子上で反応することが知られている.このようにして得られる N-シリル
ケテンイミン 4 は最近,穏和な条件下求電子剤と反応可能なα-ニトリルカルバニオン等価体として注目を集
めており,Fu および Denmark らが,N-シリルケテンイミンに対し不斉触媒の存在下,アシル化剤もしくはア
ルデヒドを反応させることで,光学活性なα置換ニトリル誘導体 5 が生成することを報告している (Scheme
2).2 ここでわれわれは,N-シリルケテンイミン自体が 4’に示すように軸不斉を持ち得ることに着目し,光学
活性な N-シリルケテンイミンの発生と求電子剤などによる捕捉が可能かどうかに興味を持った.これまでに
N-シリルケテンイミンの軸不斉を不斉源として利用する反応の報告例はない.
Scheme 2
X
R
H
CN
X
base
R
X
M
CN
R
C
N
M
El
chiral cat.
X
R' 3SiCl
R
C
SiR' 3
N
4
X
X
R
El
R * CN
5
C
N
SiR' 3
4'
N-アルキル(アリール)置換誘導体のラセミ化の障壁は 7~15 kcal/mol 程度という報告3からも,光学活性な
N-シリルケテンイミンを単離することは不可能であるため,–80 °C 以下の低温条件で発生させると同時に系
内で捕捉する必要がある.これまでに報告されている N-シリルケテンイミンの発生法は,α-ニトリルカルバ
ニオンをシリルクロライドと反応させた後に室温まで昇温し濃縮,蒸留を行うというものなので,まず低温
において N-シリルケテンイミンを発生させることが可能かどうかを検討することにした.入手容易なシアノ
ヒドリン誘導体 6 を–80 °C において TIPSCl 存在下 NaHMDS で 10 分間処理した後に水による後処理を行った
ところ,N-シリルケテンイミンが酸化されたケトアミド 8 が生成することが明らかになった (Scheme 3).8
は不安定であるためトリフルオロ酢酸で処理することで片方のシリル基を除去し 9a, b として単離した.この
結果から,N-シリルケテンイミンが –80 °C 以下においても生成している可能性が高いことが明らかになった.
Scheme 3
R3
R1
OTBS NaHMDS
TIPSCl
CN
THF
–80 °C
R2
10 min
6
R3
OTBS
R1
•
R2
7
N
TIPS
air
H 2O
Et 2O
R3
O
TBS
N
TIPS
R1
R2
O
8
R3
CF 3COOH
THF
–20 °C
10 min
R1
O
H
N
SiR 3
R2 O
9a (SiR 3 = TIPS)
9b (SiR 3 = TBS)
次に,N-シリルケテンイミンを発生させるための基質としてエポキシシラン 10 に着目した.10 をシリル
クロライド存在下塩基で処理すると,シリケート中間体 11 から協奏的に,すなわちキラルカルバニオンを経
由することなくシリルクロライドとの反応が進行し光学活性体 12 が得られるのではないかと考えた.
Scheme 4
O
X
R 3Si
base
R' 3SiCl
H
CN
X
O
*
R 3Si
10
C
N
X
Cl
SiR' 3
•
R 3SiO
*
N
SiR' 3
12
11
実際,10a を–80 °C において TIPSCl 存在下,NaHMDS で処理した後に,ベンズアルデヒド,BF3·Et2O を加
えて5分間反応させたところ,13a が 39%得られた (Table 1, entry 1).TIPSCl 非存在下ではアルデヒドとの反
応が進行しないことから N-シリルケテンイミン 12a を経由して反応が進行していることが示唆される (entry
3).しかし反応時間を 40 分に延長した場合,収率が 60%に向上したこと (entry 2) からも分かるように,Nシリルケテンイミンとアルデヒドとの反応はある程度の時間を有するため不斉反応に展開するには反応性が
不十分であり,実際に成績体のエナンチオマー比は 50:50 であった.
Table 1
OTBS NaHMDS
TIPSCl
H
TBSO
THF
CN
–80
°C
10a
10 min
OTBS
O
TBS
•
N
TIPS
OTBS
CN
Ph
PhCHO/CH 2Cl2
BF 3·Et 2O
12a
TBSO
–80 °C
x min
13a
OH
entry TIPSCl x (min) yield (%)
1
5
39
1.2 equiv
2
60
1.2 equiv 40
3
0
0 equiv 40
ここで 10a から生成する N-シリルケテンイミンはエノールシリルエーテルを有するため,反応性の高い
Diels-Alder 反応の基質となり得ると考えた.そこで 10a から発生させた N-シリルケテンイミン 12a に対し反
応性の高いジエノフィルとして知られている 4-phenyl-1,2,4-triazoline-3,5-dione(PTAD)を加えたところ,反応
は瞬時に進行したが,環化成績体ではなくシアノ基のα位およびγ位に付加が起こった 14, 15 が生成した
(Scheme 5).
Scheme 5
N
TBS
OTBS NaHMDS
TIPSCl
O
H
THF
CN
–80 °C
10a
10 min
OTBS
•
TBSO
N
O
OTBS
TBSO CN TIPS
TIPS TBSO
N
N
N
CN
TBSO
N
+
O O
N
N
O
O
Ph
Ph
15 (12%)
14 (41%)
NPh
N
TIPS
O
12a
そこでより Diels-Alder 反応の反応性を向上させるため,N-シリルケテンイミンのコンフォメーションを
s-cis 配置に固定した基質 16 を合成して反応を行ったが,得られたのは付加体 19 のみであった (Scheme 6).
しかしシアノ基のγ位で PTAD が反応した成績体のみが得られたことから,Diels-Alder 反応成績体 18 が開環
した可能性もある.現在光学活性な基質を用いた反応を検討中である.
Scheme 6
tBu
tBu
tBu
O
tBu
Si
tBu
NaHMDS
TIPSCl
O
CN
Me
16
THF
–80 °C
10 min
O
O
tBu
Si
O
Me
17
N
TIPS
THF
–80 °C
5 min
tBu
O
O
tBu
Si
O
TIPS
N
CN
PTAD
•
Si
Me
TIPS
N N
O
N
O
Ph
19 (59%)
R
N
N
O
NPh
O
18
1) Sasaki, M.; Takegawa, T.; Sakamoto, K.; Kotomori, Y.; Otani, Y.; Ohwada, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52,
12956-12960.
2) a) Denmark, S.; Wilson, T. W.; Burk, M. T.; Heemstra, J. R. Jr. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 14864–14865. b)
Mermerian, A. H.; Fu, G. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 949–952.
3) Ping Lu, P.; Wang, Y. Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 5687–5705.