2015-01-18 05:48:27 Title Studies on toxic benthic

>> 愛媛大学 - Ehime University
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
Studies on toxic benthic dinoflagellates from Thailand( 審査結
果の要旨 )
TAWONG, Wittaya
. vol., no., p.-
2014-09-22
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/4368
Rights
Note
受理:2014-07-16,審査終了:2014-09-05
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IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/
(第5号様式)
学位論文審査の結果の要旨
氏
名
Wittaya Tawong
主査 足立 真佐雄
副査 山口 晴生
審
査
委
員
副査 多田 邦尚
副査 一見 和彦
副査 鈴木 聡
名
Studies on toxic benthic dinoflagellates from Thailand
(タイ産の底生性有毒渦鞭毛藻に関する研究)
審査結果の要旨
底生性渦鞭毛藻類の Ostreopsis 属、Gambierdiscus 属ならびに Coolia 属は、シガテラをは
じめとするヒトへの健康障害をもたらす有毒成分の生産者として知られており、世界各地よ
りこれらの発生に関する報告が相次いでいる。しかしこれまでに、タイにおけるこれらの藻
類に関する分布状況やそれらの毒性、さらにはそれらの増殖特性の詳細については殆ど明ら
かにされていない。そこで本研究は、タイにおけるこれらの底生性渦鞭毛藻類の種組成やそ
れらの分布状況、それらの毒性、さらにはそれらの増殖に与える水温ならびに塩分の影響を
明らかにしようとした。本研究により得られた主たる結果は、以下のように要約される。
1.タイ産底生性渦鞭毛藻類の種組成とそれらの分布
タイの沿岸海域より、Ostreopsis 属、Gambierdiscus 属ならびに Coolia 属細胞を光学顕微鏡
観察の下で 1 細胞ずつ単離することにより、これらの培養株を確立した。このうち、
Ostreopsis 細胞は、本属藻に典型的に見られる外殻鎧板の配列パターンである Po, 3′, 7″, 5″′,
2″″, 1p を示した。しかし、本属各種の同定の基準となる細胞の大きさやその幅は、種間で重な
りが見られるなどその形態分類は混乱しており、また本属藻は培養条件下においてその形態がし
ばしば変形することから、形態学的特徴にのみ基づいて、本属藻類の同定を行うことは困難であ
る。そこで本研究では、これらのリボソーム RNA 遺伝子(rDNA)の各領域の塩基配列に基づき、
分子系統解析を実施した。その結果、タイ沿岸域より単離した Ostreopsis 株は、O. cf. ovata、
Ostreopsis sp. 6 および Ostreopsis sp. 7 の 3 種のクレードに分けることが可能であり、後者のクレ
ードはこれまでに報告が無い新規クレードを形成することが明らかとなった。また前者のクレー
ドは、2 種のサブクレード、すなわち O. cf. ovata Thailand subclade と同 South China Sea (SCS)
subclade に 分 け る こ と が で き 、 前 者 は 新 規 サ ブ ク レ ー ド で あ る こ と が 判 明 し た 。 ま た 、
Gambierdiscus 細胞は、本属藻に典型的に見られる Po, 4′, 0a, 6″, 6c, ?s, 5′′′, 0p, 2′′′′の鎧板配列パタ
ーンを示し、電子顕微鏡観察による形態学的特徴に基づき、Gambierdiscus caribaeus と同定した。
本結果は、本株の rDNA 配列に基づく分子系統解析により得られた結果により支持された。また、
Coolia 細胞は、本属藻に典型的に見られる Po, 4′, 0a, 6″, ?c, ?s, 5′′′, 0p, 2′′′′の鎧板配列パターンを示
し、その形態学的特徴に基づき、Coolia malayensis と同定した。本結果は、本株の rDNA 配列に
基づく分子系統解析により得られた結果により支持された。同時に、タイ産 Coolia 株のなかに
は、前述した種に加えて、Coolia cf. tropicalis も見出された。これらの分布について検討したと
ころ、O. cf. ovata, Ostreopsis sp. 6 ならびに C. cf. tropicalis はタイ湾沿岸域に分布する一方、
Ostreopsis sp. 7 はアンダマン海沿岸域に分布することが明らかとなった。また、Gambierdiscus
caribaeus と Coolia malayensis は、両海域のいずれにも分布することも判明した。
2.タイ産底生性渦鞭毛藻類の毒性
マウスバイオアッセイにより、Ostreopsis sp. 6, Ostreopsis sp. 7 ならびに G. caribaeus は毒性を
示した。O. cf. ovata Thailand subclade, 同 South China Sea subclade ならびに Coolia malayensis は、
毒性が極めて弱いか、あるいは無毒であることが示唆された。
3.タイ産底生性渦鞭毛藻類の増殖に及ぼす水温・塩分の影響
O. cf. ovata Thailand subclade, 同 SCS subclade ならびに Ostreopsis sp. 6 株は、水温 20~32.5 ℃
と塩分 20~40 の条件下で、Ostreopsis sp. 7 は水温 20~30 ℃と塩分 20~40 の条件下でそれぞれ
増殖が可能であった。Ostreopsis sp. 6 および Ostreopsis sp. 7 の最大増殖速度を与える増殖至適水
温・塩分は、いずれも水温 25 ℃と塩分 35 であった。その一方、O. cf. ovata Thailand subclade な
らびに同 SCS subclade の増殖至適水温・塩分は、それぞれ水温 25 ℃と塩分 30 と水温 30 ℃と塩
分 25 であった。また、Gambierdiscus caribaeus は水温 20~35 ℃と塩分 20~40 の条件下で増殖
可能であった。G. caribaeus の最大増殖速度を与える増殖至適水温・塩分は、水温 25 ℃と塩分
30 であった。以上の結果を、既に報告されている日本産株のそれらと比較したところ、日本産
株の増殖可能水温の上限が 30 ℃であるのに対し、殆どのタイ産株のそれは 32.5~35 ℃と高く、
この特性がこれらの株の熱帯海域における分布を可能にしている可能性が考えられた。
まとめ
以上のように本研究は、タイ沿岸域における、人の健康障害を引き起こす可能性を有する
様々な底生性渦鞭毛藻の種組成やそれぞれの分布を明らかにし、さらにそれらの一部が有毒
であることを明らかにした。さらに、これらの有毒渦鞭毛藻がどの様な水温ならびに塩分条
件下にて、良好に増殖するのかについて解明した。今後は、これらの有毒藻が栄養塩をはじ
めとする他の環境条件に対しどの様の増殖応答を示すのか解析することが望まれると同時に、
タイ沿岸域における有毒藻の発生状況やそれぞれの有毒藻の動態の解明が期待される。本研
究により得られた一連の成果は、タイ沿岸域のおけるシガテラをはじめとする健康障害の発
生予測、さらにはその対策への礎を築くものと考えられ、極めて高く評価できる。
学位論文公開審査会は平成26年8月2日、香川大学農学部において開催され、論文発表
と質疑応答が行われた。引き続いて学位論文審査会を開いて審査した結果、本論文が博士
(農学)の学位を授与するに値するものと審査委員全員一致で判定した。