学 位 記 番

Akita University
氏
名・(本籍)
い が ら し
五十嵐
げん
厳(神奈川県)
専攻分野の名称
博士(医学)
学 位 記 番 号
医博甲第 852 号
学位授与の日付
平成 26 年 3 月 22 日
学位授与の要件
学位規則第 4 条第 1 項該当
研 究 科 ・ 専 攻
医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名
Remote Ischemic Pre-Conditioning Alleviates Contrast Induced Acute Kidney
Injury in Patients With Moderate Chronic Kidney Disease
(慢性腎臓病患者における遠隔虚血プレコンディショニングは造影剤腎障害の
程度を軽減させる)
論 文 審 査 委 員
(主査) 教授 山 本 文 雄
(副査) 教授 羽 渕 友
則
教授
尾 野
恭 一
Akita University
学 位 論 文 内 容 要 旨
Remote Ischemic Pre-Conditioning Alleviates Contrast-Induced Acute Kidney
Injury in Patients with Moderate Chronic Kidney Disease
(慢性腎臓病患者における遠隔虚血プレコンディショニングは造影剤腎障害の程度を
軽減させる)
五十嵐
研
究
目
厳
的
造影剤による急性腎障害(CI-AKI)は心血管造影に伴う一般的な合併症である。最近の研究で、
遠隔虚血プレコンディショニング(RIPC)は心臓血管手術を受ける患者で腎機能を維持させること
や CI-AKI のリスクが高い患者の腎機能を維持させることが報告されているが、低〜中程度のリ
スクのある患者での RIPC の効果は不明である。
一方で、近年急性腎障害に対する新しいバイオマーカーとして注目されている尿中肝型脂肪酸
結合蛋白(L-FABP)は近位尿細管に特異的に発現し、尿細管虚血などのストレスに応答して尿中に
排出されるとされている。L-FABP の上昇は造影剤投与後 24 時間後にピークを迎えることが報告
されており、L-FABP が造影剤腎症の早期検出に有用であることが示されている。
本研究では、RIPC の CI-AKI 抑制作用について尿中 L-FABP を用いて評価し、その抑制効果
のメカニズムとして RIPC が炎症反応、酸化ストレス、内皮機能障害を抑制することで CI-AKI
が抑制されるという仮説を検討した。
研
究
方
法
中等度の慢性腎臓病(eGFR=30-60 ml/min/1.73 ㎡)で待機的に心血管造影を受ける 60 人の患者
を無作為に RIPC 群(n=30)または対照群(n = 30)に割り当てた。RIPC はマンシェットを使い片側
上腕を 200mmHg で 5 分間駆血し、5 分間開放することを 1 サイクルとして、造影直前に 4 サイ
クル行った。CI-AKI は L-FABP により評価した。L-FABP、クレアチニン、高感度 CRP、
pentraxine-3 (PTX3)、酸化ストレス (derivatives of reactive oxidative metabolites ; D-ROM)
と asymmetrical dimethylarginine (ADMA)等の各種バイオマーカーは、検査前、造影後 24 時
間(L-FABP のみ)、48 時間で測定した。
一次エンドポイントは L-FABP で規定した CI-AKI の発生率とし、L-FABP のカットオフ値は
過去の報告から 17.4µg/gCr とした。造影剤投与前から 17.4µg/gCr を超えている症例は、前値か
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ら 25%の増加したものを CI-AKI と定義した。二次エンドポイントは各種バイオマーカーの変化
で評価した。
研
究
成
績
患者背景に関しては、年齢、性別、BMI、基礎心疾患、血圧、心拍数、造影剤使用量、輸液量、
左室駆出率、内服薬、血清クレアチニン、シスタチン C、ヘモグロビン値に両群間で有意差を認
めなかった。
心血管造影後 24 時間における RIPC 群の尿中 L-FABP 変化率は対照群よりも有意に小さかっ
た(41.3±15.6 対 159±34.1%、p=0.003)。
L-FABP で規定した CI-AKI は対照群で 8 例(26.9%)、
RIPC 群で 2 例(7.7%)発症した。CI-AKI をもたらす要因を分析したところ、血漿 ADMA の変化
率は RIPC 群で有意に大きく(0.26 ± 2.4% vs. −7.33 ± 1.9, p=0.016)、D-ROM の変化率も RIPC
群でより低くなる傾向(15.5 ± 4.8 vs. −0.11 ± 5.4%, p=0.036)を認めた。一方、高感度 CRP、PTX3
の変化率はいずれも両群間に有意差を認めなかった(それぞれ 143 ± 47.5 vs. 104 ± 36.7%, p=0.53、
5.1 ± 6.2 vs. 8.4 ± 6.2%, p=0.71)。
結
論
我々の結果は、RIPC が CI-AKI を減少させることを示唆している。この効果は、酸化ストレス
と ADMA の減少を介している可能性が考えられた。
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