特集 戦略的国際展開と国際貢献の強化 横浜市の公民連携による 国際技術協力(Y-PORT事業)について なか むら 中 村 やす あき 恭 揚* 横浜市は、 「横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業) 」を進めている。 本年6月に閣議決定された「国際展開戦略」にも通じると考える、地方自治体ならではの企業と連携した 国際協力事業の形成にむけた取組みを紹介する。 1.はじめに Y-PORT事業は、横浜の国際的な地位の向上と 本年6月、政府は日本経済の再生に向けた3本目 市内経済の活性化等を目指すもので、「①都市づく の矢である「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」 りアドバイザリー」、「②市内企業などの海外展開支 を閣議決定し、この中で、拡大する国際市場の獲得 援」、「③横浜のシティプロモーション」の3つの取 に官民一体で戦略的に取り組むとする「国際展開戦 組みで構成される事業である。 略」をアクションプランのひとつに掲げた。 Y-PORT事業は、さまざまなセクターを対象と 拡大する国際市場のひとつに、著しい経済成長を した技術協力に対応できるように、国際技術協力課 続けているアジアを中心とした新興国が注目されて が庁内のハブ機能を担う。また、市内を中心とした いる。新興国都市では経済成長の一方で、急激な人 企業、国や国際関係の機関や大学等との連携を推進 口増加に伴う交通渋滞や廃棄物や汚水による環境悪 するため、国際技術協力課は、海外への進出意欲の 化、災害対策などのさまざまな都市課題を抱えてい 高い企業等からの相談や提案を一元的に受け付ける る。これに対して、横浜市は、これまでの都市開発 窓口の機能も担っている。横浜市がホームページに の過程で培ってきた経験と企業の先進技術を活用し 設けた専門窓口「Y-PORTフロント」への企業等 た国際技術協力に取り組んでいる。本事業は、企業 からの相談・提案を起点として、公民の対話を重ね の技術を最大限に活用することで地元への還流を目 て事業形成に取り組んでいる。 指した公民連携事業であり、政府の戦略と軌を一に する地方自治体ならではの国際展開戦略である。 アジア・アフリカ諸都市 国 技術協力 外務省、経産省、 国交省、環境省等 2.横浜市におけるY-PORT事業の位置づけ と実施体制 横浜市は、平成23年1月に策定した「横浜市中期 世界銀行、 アジア開発銀行等 浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術 JICA, JBIC, JETRO等 Resources and Technologies) 」を進めている。 *横浜市 政策局 共創推進室 国際技術協力課 045-671-4393 26 月刊建設13−11 国際政策室(政策局) 際 経済局 技 環境創造局 資源循環局 術 大学・NPO 企業 企業 (大企業) (中小企業) 関係専門機関 協力(Y-PORT事業:Yokohama Partnership of 国 連携 政府関係機関 4か年計画」の横浜版成長戦略に、「海外ビジネス 展開戦略」を位置付けた。その柱の事業として「横 温暖化対策統括本部 国際機関 (外郭団体など) 建築局 協 都市整備局 力 道路局 連携 課 港湾局 水道局 図−1 Y−PORT事業の実施体制 3.取組み①「都市づくりアドバイザリー」 中小企業との連携促進に努めている。 ⑴ 横浜市に求められている技術協力とは ⑶ 都市間協力と公民連携事業の形成 横浜市には、みなとみらい21地区や港北ニュータ 平成24年3月、横浜市はフィリピン共和国セブ市 ウンに代表される環境に配慮した街づくりや、市内 と「持続可能な都市の発展に向けた技術協力に関す 河川や海に至る健在な水環境の整備、 「G30」や「3 る覚書」を交わした。セブ市では、廃棄物処理、排 R夢(スリム) 」に代表される市民協働によるごみ 水処理、渋滞対策などが喫緊の課題となっている。 の 減 量 化、 横 浜 ス マ ー ト シ テ ィ プ ロ ジ ェ ク ト 同年7月に企業20社との合同調査を実施し、セブ市 ※ (YSCP) によるエネルギーマネジメントなど、持 行政機関や現地企業・経済団体との交流を行った。 続可能な都市づくりを実践してきた。このような横 これらの活動によって市内企業と現地関係者との 浜市の経験に新興国都市から高い関心が寄せられて ネットワークが築かれ、平成24年12月には外務省に いる。また、Y-PORT事業では、国際技術協力に よる「ODAを活用した中小企業等の海外展開支援 おいても国内の都市づくりと同様に、セクターにと に係る委託事業(案件化調査、途上国政府への普及 らわれずさまざまな分野を対象とした「包括的な都 事業)」に、市内中小企業の3社の調査・事業提案 市づくり」の支援を目指しており、この点は横浜市 が採択されるなど、中小企業の海外展開がスタート の国際技術協力の強みと捉えている。 している。 ⑵ さまざまな機関との連携体制の構築 ⑷ 新興国都市の上位計画の策定支援 Y-PORT事業では、新興国への技術協力を進め 都市インフラの整備は長期にわたる事業推進が求 るにあたり、海外事業の実績が豊富な企業、政府関 められる。しかし、フィリピン国においては自治体 係機関との連携体制を構築してきた。平成22年10月 トップの交代による政策変更等が影響して長期的な には、国際協力銀行(JBIC)と「環境・都市インフ 都市開発計画が定着していない場合がある。そこで、 ラに関する業務協力協定」を締結し、技術・ノウハウ・ JICAは横浜市と連携して、セブ市を含むセブ都市 人材等、国際貢献に向けた情報交換を進めている。 圏を対象とした都市開発にかかる長期ビジョンの策 また、平成23年10月には、国際協力機構(JICA) 定支援を行った。この結果、セブ市をはじめとする と地方自治体で初となる包括的な連携協定を締結し、 13の自治体、州政府、政府関係機関及び民間団体か これまで両者で取り組んできた海外研修生の受入や らなるメトロセブ開発調整委員会によって、平成25 専門家の派遣などの国際協力のさらなる推進に加え 年3月に都市開発ビジョン「MEGA CEBU VISION て、新たに公民連携による国際技術協力を進めてい 2050」が策定された。この長期ビジョンの策定過程 る。さらに、横浜に本社や拠点を置く大手企業との において、横浜市は高度成長期の長期構想や戦略的 国際技術協力に関する包括連携協定を締結し、企業 な都市インフラ整備計画などの経験を現地関係者と の海外事業の実績・展開力と横浜市の都市づくりに 共有するなど、自治体ならではの協力を行った。セ 関する経験を融合して事業形成に取り組むとともに、 ブ都市圏への技術協力を行っている副次的効果とし て、横浜市が同地で広く認知されるとともに、横浜 新興国等での持続可能な都市づくり支援と市内企業のビジネス展開支援 横浜市のノウハウ・ 技術ネットワーク さまざまな都市課題を乗り越えて きた経験に基づくノウハウ 管理・運営を含めた包括的都市整 備、インフラ提供 企業との連携・市民力の活用 海外からの高い評価 海外都市との強いネットワーク 国・政府関係機関 の支援 Y-PORT事業 (公民連携のハブ機能) 連携協定締結 国際協力銀行(JBIC) 国際協力機構(JICA) 企業の海外展開力・ 環技術力 大手企業との包括連携協定 市内中小企業 日揮株式会社 ÿ JFEエンジニアリング株式会社 ÿ 千代田化工建設株式会社 日立製作所株式会社 市は同地の開発ニーズをより的確に把握できるよう になった。このような環境整備は、今後、横浜市と 企業が連携して同地で展開するにあたり、大きな効 果をもたらすものである。さらに、Y-PORT事業では、 セブ市に続いて、平成25年4月にベトナム国ダナン 海外展開に対する高い意欲 都市環境改善に資するユニー クな技術 ※汚泥処理、ソーラー発 市とも覚書を交わし、企業22社との合同調査を実施 電、廃棄物処理・リサイクル、EV技 術など様々な都市インフラや環境に 関する技術 した。両国政府・国際機関とも連携し、ダナン市へ 図−2 Y−PORT事業の推進イメージ の技術協力を進めている。また、低炭素都市化を目 月刊建設13−11 27 指すタイ国バンコク都では、JICAによる気候変動マ 参入の可能性が広がった、という民間企業単独で行 スタープランにかかる技術協力プロジェクトに協力 う現地調査と比べた際のメリットが挙げられている。 している。この技術協力プロジェクトは、a.持続 可能な交通システム、b.省エネルギー、代替エネ 5.取組み③横浜のシティプロモーション ルギー、c. 効率的な廃棄物処理、下水処理、d. 都 都市づくりアドバイザリーや企業の海外展開支援 市緑化、e.分野横断的な適応策といった幅広い分 を効果的に行うには、新興国都市から「横浜には都 野を対象にしており、包括的な都市づくりを対象に 市づくりのベストプラクティスが多数ある」ことを 技術協力を進めている横浜市の長所を生かせる取組 認 知 し て も ら う こ と が 重 要 で あ る。 そ こ で、 みである。 Y-PORT事業では、国際会議等での広報や海外か らのインフラ視察を積極的に受け入れている。さら に、2011年から持続可能な都市づくりに関する国際 会議・展示会「Smart city week」(主催:日経BP、 特別協力:横浜市)をパシフィコ横浜で開催してい る。本年も10月21日から25日までの期間で開催した。 この中で、横浜市はアジアの市長による国際会議「ア ジア・スマートシティ会議」を開催し、持続可能な 都市づくりに関する先見的なビジョンや経験等の共 有を目指している。今後は、横浜市と企業による連 図−3 都市間協力からの公民連携事業の形成イメージ 携事業の成果を同会議で共有することで、横浜から 広く世界に情報発信する場としていきたい。 4.取組み②企業の海外展開支援 Y-PORT事業では、市内企業・大学・NPOなど 6.おわりに の海外展開を進めるため、積極的な情報交換や意見 横浜市の高度成長期に培った都市づくりの実践ノ 交換を行っている。 まず、 海外展開に関する課題テー ウハウと先端技術を有する企業が連携することは、 マを絞って企業との意見交換を行う場として「共創 横浜市ひいては日本の経済活性化に貢献できる可能 Y-PORTワーキング」を定期開催しているほか、 性が高く、我が国の国際展開戦略に通じる取組みと 毎 秋 パ シ フ ィ コ 横 浜 で 開 催 す る「Smart City 考える。本稿では、横浜市が進める公民連携による Week」において自治体セミナー「横浜デイ」を開 国際技術協力における「地方自治体ならではのアプ 催し、横浜市の公民連携事業に関する情報提供のほ ローチ」として前述3つの取組みを紹介した。 か、企業や公的団体からの技術展示ブースを設け企 JICAとの連携により横浜市が新興国都市の上流 業技術の広報やネットワーク形成の支援を行ってい 計画への参画している状況を生かして、多くの企業 る(平成24年度は総勢約500名が横浜デイに参加)。 の事業参画に繋げていくことが当面の取組課題と認 先に紹介したセブ市やダナン市への公民による合 識している。なお、Y-PORT事業ではこのような課 同調査では、中小企業から、海外都市の政策決定者 題に対しても、企業等との対話から突破口を生み出 や幅広い分野の現地企業との面識形成ができたこと していくプロセスを重視しており、今後もY-PORT や従来の民民間の事業に加えて海外の公共事業への フロントへの多くの提案や参加をお待ちしている。 【用語解説】 横浜スマートシティプロジェクト(YSCP) ……日本型スマートグリッドの構築や海外展開を実現するための取組みとして、経済産業省の「次世代エネルギー・社会システ ム実証地域」に選定されたプロジェクトで、横浜市と民間企業で協働し、再生可能エネルギーの導入、家庭・ビル・地域で のエネルギーマネジメント、次世代交通システム等の各プロジェクトに取り組んでいる。 28 月刊建設13−11
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