ITU-T FG-M2M会合報告

グローバルスタンダード最前線
ITU-T FG-M2M会合報告
いしぐれ
や す お
石榑 康雄
NTTセキュアプラットフォーム研究所
ITU-T(International Telecommu-
for NCDsを2012年10月に設立し,国
ポートを作成すること.初期検討
nication Union-Telecommunication
際的な連携と実証に向けた動きを活発
サービスとしてe-healthに特化す
Standardization Sector)FG-M2M
化 し て い ま す. ま た,ITU-Tで は
ること.
(Focus Group on Machine-to-
2012年11月に開催されたITU-T総会
・個
別市場ステークホルダからの参
Machine Service Layer)は,M2M技
WTSA-12において,決議78「e-health
加者と貢献を期待する活動を実
術のe-health領域への適用を検討す
サービスへのアクセス向上のための活
施し,
活動の重複を避けるために,
るFocus Groupとして,2012年 1 月
動促進」が合意され,医療分野の優先
他標準化団体とリエゾンを結ぶ
の電気通信標準化アドバイザリーグ
順位を高く設定し,WHOをはじめ関
こと.
ループ(TSAG: Telecommunication
連標準化団体との連携を加速するこ
Standardization Advisory Group)
ととしています.
・ e-healthに つ い て のITU/WHO
ワークショップへの対応として,
会合で設立が合意され,2013年12月
ITU-T FG-M2M(Focus Group on
医療セクタに対してのM2Mアプ
までに計12回の会合が開催されまし
Machine-to-Machine Service Layer)
リケーション,およびサービスと
た.ここでは,FG-M2M会合の議論
は,e-health領 域 へ フ ォ ー カ ス し た
いう観点から準備,および対応を
結果について報告します.
M2M技術を検討する場として設立さ
アシストすること.
e-healthへの期待
近年,高齢化の進展に伴う医療費の
増加や医師をはじめとした医療提供
れ,2012年 4 月 か ら2013年12月 ま で
FG-M2Mでは,後述する計 5 件の
に計12回の会合が開催されました.次
成果文書(Deliverables)を作成する
にFG-M2Mの目的や会合の状況,WG
ことが合意され,検討結果を各成果文
(Working Group)構成と成果文書の
書に反映することが主な業務となりま
概要について報告します.
した.
体制の不足など,医療分野における社
会課題への対応がますます重要と
会合概要と目的
会合状況
なっています.これは高齢化先進国で
ある日本だけでなく,途上国を含む諸
FG-M2Mの目的として,他標準化
2013年12月の最終会合まで計12回
外国においても重要となっており,そ
団 体 と の 重 複 作 業 の 回 避, お よ び
の会合が開催されており,うち 3 回は
の方策の 1 つとして医療分野にICTを
e-health分野への貢献などを明確にす
遠隔による電子会議にて実施されまし
活用するe-healthへの期待が高まって
るため,ToR(Terms of Reference)
た.会合はマネジメント担当になった
います.
には以下のように記載されています.
企業がホストになって実施され,第12
ITU-T(International Telecommu-
・グ
ローバルM2Mコミュニティや
回の最終会合は日本企業であるNEC
nication Union-Telecommunication
現在活動している市場情報,およ
ヨーロッパ社のホストにて開催されま
Standardization Sector) で はWHO
び要求条件,ユースケース,サー
した.参加人数および寄書提出数は各
(World Health Organization)と合同
ビス&ビジネスモデル等を記載
会ばらつきがあるものの,おおむね 8
で,がんや糖尿病などの非感染症疾患
している技術仕様の情報を収集
カ国ほどから約25名程度(日本から
し,文書化すること.
6 名程度)の参加があり,寄書数は約
(NCDs: Non-Communicable Diseases)
を対象として,主に途上国で携帯端末
・ M2Mサービスとアプリケーショ
20件程度(日本からは 5 件程度)と
を積極的に活用することを主眼とした
ンを有効にするAPIとプロトコル
なっています.参加者はアジア勢が比
Joint ITU and WHO mHealth initiative
の開発をサポートする技術レ
較的多いものの,欧米,中東,アフリ
NTT技術ジャーナル 2014.5
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グローバルスタンダード最前線
カと国際色豊かな会合となっており,
■e-health領域におけるM2M標準化
■e-health領域におけるM2Mエコシ
活動およびギャップ分析(D0.1)
M2Mおよびe-healthに関心のある国が
多いと考えられます.
ステム(D0.2)
本成果文書は大きく 2 部構成と
本成果文書は,e-healthに関連する
なっています.前半部では,既存の
用語定義,概念およびM2M技術によ
e-health系標準化団体活動を調査し,
るe-healthエコシステム概念モデルな
これらの団体が発行している技術仕様
どを記載することで,ハイレベルな要
本会合は 3 つのWG体制にて議論さ
やレポートをリスト化することで
求条件を記載しています(図 1 )
.医
れており,WG1はe-healthユースケー
e-health標準化動向を記載していま
療分野においては遠隔医療を表す用語
ス と サ ー ビ ス モ デ ル,WG2はM2M
す.後半部では,FG-M2Mにて作成
サービスレイヤにおける要求条件と
した成果文書に記載されている技術内
アーキテクチャ,WG3はAPIとプロ
容 と, 前 半 部 に て リ ス ト 化 し た
トコルという構成になっています.各
e-health系標準化団体発行文書との関
WGでは担当テーマに従った成果文書
連性,および差分を分析した結果を記
の作成を担当することになります
載しています.本文書に記載された分
が,基本は参加者全員が全WGに参
析結果は,将来成果文書を仕様化する
加して議論できるように議事を進め
際に,ほかの標準化仕様との重複や差
GSMA
ており,主な提案者は各WGリーダ,
分を明確にする際に有益であり,また
HL7
および成果文書エディタとなってい
ほかのe-health系標準化団体では標準
IHE
ます.以下に各成果文書の概要を紹
化されていない技術領域の認識にも活
介します.
用されることが期待されます.
WG構成と成果文書
調査対象は,表 1 に示す原則文書を
公開している団体としています.
表 1 調査対象団体
CEN TC251
Continua Health Alliance
DICOM
epSOS
ETSI(M2M for use cases)
ISO/IEC TC215
ITU-T(Q2/13 and Q28/16)
M-Health Alliance
WHO
公衆衛生
匿名パーソナルヘルスデータ
e-healthシステムの例
パーソナルヘルス
健康モニタリング
システム
健康モニタリング
システム
自立支援システム
患者臨床管理
システム
動作モニタリング
システム
慢性疾患管理
システム
意思決定支援
システム
コミュニティ
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固定・移動環境
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自宅
地域の
医療施設
O2
図 1 e-healthシステム概念図
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NTT技術ジャーナル 2014.5
O2
として「Telehealth」
「Telemedicine」
「Remote patient monitoring」などの
類似用語は国や地域の専門家間におい
る内容の基本概念となるため,重要な
ためにセンサ端末とサーバシステムを
文書といえます.
用いたM2M技術ユースケースと,セ
■e-health領域におけるM2Mユース
ンサ端末以外のデバイスとサーバシス
ても認識に差異があり,統一見解を見
ケース(D1.1)
テムを用いたユースケースの大きく
出すまでに多くの時間を必要としまし
本成果文書では,e-health領域にお
2 つに分類されており,計10項目に
た.e-health概要,およびエコシステ
いてM2M技術が活用される典型的な
ついて記載しています(表 2 )
.
ムから導き出されるハイレベル要求条
ユースケースを記載しています.本文
■M2Mサービスレイヤにおける要求
件は,ほかのFG-M2M文書が記載す
書は,バイタル情報のモニタリングの
条件とアーキテクチャ概要(D2.1)
本成果文書では,M2Mサービスレ
イヤの共通要求条件,およびe-health
表 2 ユースケース一覧
No.
システム適応時の要求条件の概要を記
ユースケースタイトル
載しています.M2Mサービスレイヤ
1
マス型メディカル検診
2
BAN(ボディエリアネットワーク)によるマス型メディカル検診
3
遠隔患者モニタリング
Overview of Internet of thingsにおけ
4
遠隔健康相談システム
るIoT(Internet of Things) 参 照 モ
5
NFC健康機器とスマートフォンを用いた遠隔健康管理システム
デル図をベースに,M2Mサービスレ
6
在宅医療支援のための遠隔健康システム
7
生活環境支援システム(AAL)
イヤをマッピングし,既存勧告との関
8
イージークリニック
9
パーソナル健康データ管理
10
医療情報 ・ アプリケーション共有システム
管理機能
の定義については,ITU-T勧告Y.2060
連性を示しています
(図 2 )
.M2Mサー
ビ ス レ イ ヤ に お け る 要 求 条 件 は,
M2Mエコシステム文書(D0.2)に記
載されているハイレベル要求条件を起
アプリケーション
IoT
DA
レイヤ
アプリケーション
D-SL
ITU-T M2M サービスレイヤ
GA
NA
G-SL
A-SL
セキュリティ機能
サービス・アプリケーションサポートレイヤ
SL-SL
e-health
サポート
Telematics
サポート
…
ネットワーキング機能
ネットワーク
レイヤ
デバイスレイヤ
一般セキュリティ機能
特定サポート機能
特定セキュリティ機能
一 般 管 理 機 能
特 定 管 理 機 能
一般
サポート
機能
トランスポート機能
デバイス機能
ゲートウェイ機能
図 2 IoT参照モデル(ITU-T Y.2060)におけるFG-M2Mサービスレイヤ
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グローバルスタンダード最前線
アプリケーション
アプリケーション アプリケーション
アプリケーション アプリケーション
アプリケーション
IEEE
IEEE
HL7v2
HL7v2
HL7v3
HL7v3
/SOAP
IEEE
IEEE
HTTP
HTTP
HTTP
HTTP
TCP
TCP
TCP
TCP
IPv4
IPv4
IPv4
Bluetooth
Bluetooth
USB
USB
Zigbee
Zigbee
デバイス
IPv4
IPv4
L2
L2
L2
802.3x
802.3x
802.3x
L1
L1
L1
802.3x
802.3x
802.3x
ゲートウェイ
ネットワーク
(fixed/mobile)
M2M プラットフォーム
アプリケーション
サーバ
図 3 e-healthシステムにおけるM2M関連プロトコル構成例
点として,ユースケース文書(D1.1)
とで,将来のAPIとプロトコル仕様の
るStudy Group(SG)11(Protocols
内容からの抽出,および他関連団体文
検討のベースとなる情報を記載してい
and test specifications), お よ び
書に定義されている内容などを参照し
ます.
分 野 横 断 の 議 論 を 行 うTSAG
て,共通要求条件としてまとめていま
す.また,アーキテクチャおよび参照
(Telecommunication Standardization
今後の展望
点の基本概念について記載しており,
詳細検討は実施できていないものの,
Advisory Group)会合にて方針が議
論され,その後関連するSGにて勧告
約 2 年前のFG-M2M発足以降,M2M
化に向けた作業が進められる予定
将来の詳細検討のベースとして活用さ
に関する技術メンバとe-healthの専門
れることが期待されます.
家の間には,M2Mやe-healthの認識に
e-healthに対する市場からの期待は
■M2MサービスレイヤにおけるAPI
です.
ギャップがありましたが,会合を重ね
高く,今後も標準化活動と普及活動が
とプロトコル概要(D3.1)
るにつれて相互理解が深まり,最終的
必要です.e-healthに関連する技術領
本成果文書では,アーキテクチャ文
に成果文書を協力して完成させること
域は広いため,勧告化作業ではITU-T
書(D2.1)にて示された参照点にお
ができました.特に日本からの参加者
内のSGとの連携に加え,WHOや医療
い て 期 待 さ れ るAPI(Application
は各会合前に,国内審議の場として一
系標準化団体との連携も実施すること
Programming Interface)やプロトコ
般社団法人情報通信技術委員会
(TTC:
で,必要とされる標準を作成すること
ル 概 要 に つ い て 記 載 し て い ま す.
The Telecommunication Technology
が重要です.
M2Mサービスレイヤに適応すること
Committee)のe-Health WP(Working
が期待できる既存APIとプロトコル情
Party) に て 議 論 し, 積 極 的 にFG-
報を収集し,各プロトコルの特徴の分
M2Mへの寄書提出を行いました.結
析,およびプロトコル構成例(図 3 )
果,寄書件数はトップとなり,延べ 4
などを記載しています.また,各参照
名がエディタを務め,会合全体の議論
点における要求条件を定義する際に活
を主導することができました.
用されるべき分析ツールを提示するこ
48
NTT技術ジャーナル 2014.5
今後は,FG-M2Mの上部組織であ