日税研メールマガジン vol.96 (平成 27 年 3 月 16 日発行) 公益財団法人日本税務研究センター ■Article■……………………………………………………………………………………… 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 の 主 要 課 題 を 見 る ( 2 ) 拓殖大学准教授 稲葉知恵子 ……………………………………………………………………………………………… 平 成 27 年 10 月 に 予 定 さ れ て い た 消 費 税 率 10% へ の 引 上 げ 時 期 が 平 成 29 年 4 月 へ と 変 更 さ れ た 。平 成 29 年 4 月 の 消 費 税 率 引 上 げ に つ い て は 、社 会 保 障 制 度 を 維持する目的および財政健全化を着実に進める目的から「景気判断条項」を付さ ずに確実に実施する。そのため、デフレ脱却・経済再生の実 現が必須である。税 制面においては、企業収益の拡大から賃金上昇や雇用拡大を引き起こし、消費の 拡大や投資の増加を通じてさらなる企業収益を生み出すための改正がなされてい る。 本 稿 で は 、 前 号 ( vol.95) に 引 き 続 き 、「 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 」 の 主 要 課 題について概観する。本稿では、資産課税、消費課税等を扱う。 【資産課税】 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 で は 、高 齢 者 層 か ら 若 年 者 層 へ の 資 産 の 早 期 移 転 を 通 じて、すそ野が広く経済波及効果が大きい住宅市場の活性化を図る。住宅取得等 資金の贈与税の非課税措置を拡充等する他、少子高齢化の進展・人口減少への対 応 を す る た め 結 婚・子 育 て 資 金 の 一 括 贈 与 に 係 る 贈 与 税 の 非 課 税 措 置 を 創 設 し た 。 資 産 課 税 の 改 正 に つ い て 、 具 体 的 に は 以 下 の 項 目 を 掲 げ て い る 1。 ○ 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の延長・拡充 ・ 適 用 期 限 を 延 長 し た 上 で 拡 充 ( 非 課 税 枠 : 1,000 万 円 ⇒ 最 大 3,000 万 円 )。 ○ 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設 ・子や孫の結婚・出産・育児に要する資金の一括贈与に係る非課税措置を創 設 ( 非 課 税 枠 : 1,000 万 円 )。 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置について、その 適 用 期 限 を 平 成 31 年 6 月 30 日 ま で 延 長 す る 。 非 課 税 限 度 額 は 次 の 図 表 1 の と お りである。 1 財 務 省 「 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 の 概 要 」 http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2015/27taikou_gaiyou.p df 1 ※掲載記事の無断転用、転載はお断りいたします。 日税研メールマガジン vol.96 (平成 27 年 3 月 16 日発行) 公益財団法人日本税務研究センター ( 図 表 1) 住 宅 取 得 等 資 金 の 贈 与 税 に 関 す る 非 課 税 限 度 額 < 住 宅 用 家 屋 の 取 得 等 に 係 る 消 費 税 等 の 税 率 が 10% で あ る 場 合 > 住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間 良質な住宅用家屋 左記以外の住宅用家屋 平 成 28 年 10 月 ~ 平 成 29 年 9 月 3,000 万 円 2,500 万 円 平 成 29 年 10 月 ~ 平 成 30 年 9 月 1,500 万 円 1,000 万 円 平 成 30 年 10 月 ~ 平 成 31 年 6 月 1,200 万 円 700 万 円 住宅用家屋の取得等に係る契約の締結期間 良質な住宅用家屋 左記以外の住宅用家屋 ~ 平 成 27 年 12 月 1,500 万 円 1,000 万 円 平 成 28 年 1 月 ~ 平 成 29 年 9 月 1,200 万 円 700 万 円 平 成 29 年 10 月 ~ 平 成 30 年 9 月 1,000 万 円 500 万 円 平 成 30 年 10 月 ~ 平 成 31 年 6 月 800 万 円 300 万 円 2 <上記以外の場合 > ( 出 所 ) 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 、 29-30 ペ ー ジ 。 図 表 1 に お け る 「 良 質 な 住 宅 用 家 屋 」 と は 、 省 エ ネ ル ギ ー 対 策 等 級 4( 平 成 27 年 4 月 以 降 は 断 熱 等 性 能 等 級 4) 又 は 耐 震 等 級 2 以 上 若 し く は 免 震 建 築 物 に 該 当 する住宅用家屋をいう。 結 婚 ・ 子 育 て 資 金 の 一 括 贈 与 に 係 る 贈 与 税 の 非 課 税 措 置 は 、 20 歳 以 上 50 歳 未 満の受贈者の結婚・子育て資金の支払に充てるために、その直系尊属が金銭等を 拠出し、金融機関に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金 銭 等 の 額 の う ち 受 贈 者 1 人 に つ き 1,000 万 円 3 ま で の 金 額 に 相 当 す る 部 分 の 価 額 に つ い て は 、平 成 27 年 4 月 1 日 か ら 平 成 31 年 3 月 31 日 ま で の 間 に 拠 出 さ れ る も の に限り、贈与税を課さないこととするものである。 【消費課税】 消費税率引上げ時期の変更に伴う対応として、住宅取得等に係る措置と車体課 税の見直しを挙げている。地方法人課税の偏在是正や消費税軽減税率制度につい ては消費税率引上げ時に実行できるよう議論が継続されることとなった。消費課 税 の 改 正 に つ い て 、 具 体 的 に は 以 下 の 項 目 を 掲 げ て い る 4。 ○ 消 費 税 率 ( 国 ・ 地 方 ) 10% へ の 引 上 げ 時 期 の 変 更 等 ・ 平 成 27 年 10 月 1 日 か ら 平 成 29 年 4 月 1 日 へ と 変 更 。 ・景 気 判 断 条 項( 国 税 に 係 る 税 制 抜 本 改 革 法 附 則 18 条 3 項 及 び 地 方 税 に 係 る 2 消 費 税 率 8% で 住 宅 購 入 を 契 約 し た 者 、 個 人 間 に よ る 売 買 で 中 古 住 宅 購 入 を 契 約した者。 3 結 婚 に 際 し て 支 出 す る 費 用 に つ い て は 300 万 円 を 限 度 と す る 。 4 財 務 省 「 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 の 概 要 」 http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2015/27taikou_gaiyou.p df 2 ※掲載記事の無断転用、転載はお断りいたします。 日税研メールマガジン vol.96 (平成 27 年 3 月 16 日発行) 公益財団法人日本税務研究センター 税 制 抜 本 改 革 法 附 則 19 条 3 項 ) を 削 除 。 ○ 国境を越えた役務の提供に対 する消費税課税の見直し ・国外事業者が国境を越えて行う電子書籍・音楽・広告の配信等の電子商取 引を消費税の課税対象とする。 ○ たばこ税(旧 3 級品)の見直し ・旧 3 級品の紙巻たばこに係る特例税率を段階的に縮減・廃止。 ○ 車体課税の見直し ・エコカー減税(自動車重量税・自動車取得税)について、減免税車の対象 範囲を見直した上で、適用期限を 2 年延長。 ・軽 自 動 車 税 に つ い て 、平 成 27 年 度 に 新 規 取 得 し た 一 定 の 環 境 性 能 を 有 す る 軽 四 輪 等 に つ い て 、そ の 燃 費 性 能 に 応 じ た グ リ ー ン 化 特 例( 軽 課 )を 導 入 。 二 輪 車 に 係 る 税 率 の 引 上 げ 時 期 を 平 成 27 年 4 月 1 日 か ら 平 成 28 年 4 月 1 日に 1 年延長。 ○ 狩猟税の見直し ・ 対 象 鳥 獣 捕 獲 員 に 係 る 狩 猟 者 登 録 を 非 課 税 ( 現 行 : 1/2) と す る 措 置 等 を 、 平 成 30 年 度 ( 平 成 31 年 3 月 31 日 ) ま で 実 施 。 国 境 を 越 え た 役 務 の 提 供 に 対 す る 消 費 税 の 課 税 に つ い て は 、(1)内 外 判 定 基 準 の 見 直 し と (2)課 税 方 式 の 見 直 し( 事 業 者 向 け 電 気 通 信 役 務 の 提 供 に 対 す る リ バ ー ス チャージ方式の導入)が行われる。 (1)内 外 判 定 基 準 の 見 直 し に お い て は 、電 気 通 信 回 線 を 介 し て 行 わ れ る 役 務 の 提 供 に つ い て 、内 外 判 定 基 準 を「 役 務 の 提 供 に 係 る 事 務 所 等 の 所 在 地 」か ら「 役 務の提供を受ける者の住所地等」に見直す。そのため、事務所等の所在地が 国外でも消費地は国内のため国内取引となり、国外事業者が国境を越えて行 う電子書籍・音楽・広告の配信等の電子商取引を消費税の課税対象となる。 (2)課 税 方 式 の 見 直 し に よ っ て 導 入 さ れ る リ バ ー ス チ ャ ー ジ 方 式 と は 、事 業 者 向 け電気通信役務の提供取引に係る消費税の納税義務を役務の提供者から役務 の提供を受ける者に転換する方式である。広告配信等事業者向けであること が明らかな取引について、国内事業者が受けた役務提供については国内事業 者が納税義務を負う。 車体課税の見直しについては、自動車取得税および自動車重量税のエコカ ー減税について要件を厳しくし、対象車を減らしたり減税幅を小さくしたり す る 。軽 自 動 車 税 に つ い て は 平 成 27 年 度 に 新 規 取 得 し た 軽 自 動 車 の エ コ カ ー に つ い て 、翌 年 度( 平 成 28 年 度 )だ け 軽 自 動 車 税 の 税 率 を 軽 減 す る「 軽 自 動 車 税 の グ リ ー ン 化 特 例 ( 軽 課 )」 を 導 入 す る 。 財務省 「 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 」 3 ※掲載記事の無断転用、転載はお断りいたします。 日税研メールマガジン vol.96 (平成 27 年 3 月 16 日発行) 公益財団法人日本税務研究センター http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2015/20150114taikou .pdf 財務省 「 平 成 27 年 度 税 制 改 正 大 綱 の 概 要 」 http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2015/27taikou_gaiyo u.pdf 以上 4 ※掲載記事の無断転用、転載はお断りいたします。
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