疾病予防プログラム ウェルネスセンターでは、疾病予防プログラムが行 われていました。行っているサービスは、運動量(歩 数を測定)、記憶力、鬱状態、人生満足度、血圧、バ ランスと筋力、骨密度、体組成の測定とそれに対す る処方です。また、介護者のストレスの測定と対応も なされています。そして、ウエルネスセンターは、孤 立や鬱を避けるための教育機関との位置付けもあり ます。 フィットネスセンターがコミュニテイにあり、担当のト レーナーが具体的な運動プログラムを作ります。資 格をもったトレーナーチームが、目的を明確にし、変 化の経過を追い、いかなる質問にも答えます。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 CCRCでの医療環境 CCRCでは、医療ケアが常勤医師、専門セラピ スト、専門看護師、精神ケアセラピスト(mental health providers)が連携して提供されています。 これらの専門家集団は、高齢者ケアに専念してき ており、公的医療制度(メディケア)から支払いを 受けています。入居者は居住空間で、プライバ シーが尊重され、迅速にケアをうけられます。アク セスの問題がなく、急病になってもスタッフが支援 するために、早期発見、早期治療につながってお り、入院期間も短くてすんでいます。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 CCRCでの医療方針 外来医療、リハビリのための短期入院、ナー シングケア、ホームケア、ホスピスケアを行っ ており、コミュニテイ内で十分なケアができてい ます。このコミュニテイ内では経管栄養はしな いようにしています。脳卒中後の患者は、時間 さえかければ、食べさせることが可能です。高 齢者は多くの病気をもっているが、コミュニテイ では医療アプローチではなくライフアプローチ であるために、検査や薬は最低限にする方針 です。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 CCRCでの医療の特徴 CCRCでの医療の特徴は、医療保健の専門 スタッフによるチーム医療である。チームは、 居住者に専任する常駐の医師、看護師、PT、 OT、ST、MSW、社会福祉士、高齢者医療に経 験豊富なスタッフ、ケアプラン作成者からなる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 24時間体制の医療・看護・介護サービス 24時間コールセンターの設置 訪問介護サービス 訪問看護サービス 地域の急性期病院との密な連携 医師との密接な連携によるサービス 電子カルテシステムの採用 ホスピスケアサービス 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 クリニックが併設 コミュニテイには6人の医師がいます。約2,000人 の住民のうち80~90%がコミュニテイ内の医療セン ターにかかっていますが、他の住民は以前からの 「かかりつけ医」に行っています。1日の予約診察人 数は15人ほどであるが、2、3人の急患もあります。 急患は風邪の季節に多いとのことでした。一人の患 者は平均して、5、6の疾患を持っています。来診の 予約は、普通は3ヶ月おきであるが、不安定な場合 は、毎週来てもらっています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 電子カルテ 電子カルテはGEのCentricityを使っており、診察 を効率よくすることができます。テンプレートが強 力であり、入力は選択することで行っており、タイ プしなければならない入力はほとんどありません。 医療スタッフはいつでもアクセスすることができま す。患者と家族は、診断名、問題リスト、検査結果、 服用薬をみることができます。住民が他の医療機 関を受診した時は、そこの担当医師が情報にアク セスできます。保険会社の監査にも非常に有効に 機能しているとの説明を受けました。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 ケアセンター 脳卒中、心筋梗塞、骨折で外部の入院した患者 は、2、3日後には、コミュニテイのケアセンターに 戻され、理学療法、作業療法、言語療法を毎日3 時間行います。80%の患者は、自立型住まいに戻 ることができます。支援型すまい、介護型すまいも 併設されており、20%の患者はここに移ることに なります。支援型すまい、介護型すまいは個室で あり、自分の部屋の前には、自分の好きな調度品 を飾り、部屋のなかも何を置くかは自由です。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 ケアセンターでの食事 食事では、2種類のメイン料理を提供されます。新 鮮な野菜を使用し、その日に作った新鮮な料理が、 提供されます。 料理の風味をいっそう引き立て、おいしく作るため に、塩や砂糖、脂肪を加えることなく、ストック(ブイヨ ン)、ハーブ、調味料が使用されています。 胃に負担のあるクリームの使用をせず、ソースに は低脂肪乳やスキムミルクが使用されています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 入浴への配慮 ケアセンターでは、脱衣に十分な広いスパルーム があり、暖かく、柔らかな和やかな雰囲気が保たれ ています。また、居住者の方が簡単に移動できる特 別なバスタブを使用しています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 ペットの利用 ぺットは血圧を下げる、雰囲気を和ませる、言 語コミュニケーションの刺激、集中力や社交性、 気持ちの落ち込みを減少させるなど、人々の健 康に利益を与えることが研究で明らかになって います。 ペット訪問プログラムによって、すべての居住 者は、喜び、穏やかになることが観察されてい ます。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 ソーシャル・ワーカーの仕事 ソーシャル・ワーカーの仕事は、医療、福祉、生 活で住民に必要が生じた時の他の施設、スタッフ、 家族との連携や世話を行うといった傘の役割です。 入院のお世話、退院の受け入れの準備に多くの 時間が使われています。スタッフは10人で、自立 型の住まいに1人ずつ、ケアセンターに1人います。 認知症の教育も年間40時間行っています。講義 は2種類あり、ひとつは認知症の概念、発症、予 防です。もうひとつは、認知症になった時の対応 についてです。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 リハビリテーションの内容 理学療法、作業療法、言語療法を1時間ずつ受け ます。リハビリを受けられる期間は保険の関係で6 週間が期限であるが、場合によっては100日、200 日に延ばされることもあります。ケアセンターの入所 者の85%はアルツハイマーを合併しています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 嚥下障害のケア トレーニングは数週間から2ヶ月ですが、その結果、 経管栄養になることを防いでいます。ただし、アルツ ハイマーの患者は、トレーニングの意味を理解でき ないために時間が長くかかります。脳卒中のリハビ リは誤嚥を防ぐことが目的であり、筋力のトレーニン グと誤嚥を防ぐ技術を習得する以下のトレーニング からなります。 筋力のトレーニングとしては、飲み込む努力をする、 電気刺激で筋肉を鍛えるなどの方法を用いていま す。誤嚥を防ぐためには、あごをひいて気道を塞ぐ、 首を回してあごをひいて気道を塞ぐ 舌をつきだして 気道を塞ぐ、飲んで咳をして誤嚥を防ぐ、叫ぶなど の方法を教えています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 嚥下の確認 また、ビデオやレントゲンを使って、飲み込みの 状態を確認しています。嚥下ができるかの確認は、 Italian ice( 氷に味をつけたもの)を飲ませて、誤 嚥しないかどうかを確認するそうです。飲めるかど うかの確認は、蜂蜜を水で溶かしたものを飲ませ て、誤嚥しないかどうかを確認しています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 アルツハイマー アルツハイマーは以下のような項目でチェックし、対 応しています。 ○薬を飲むことを忘れる。 ○食事を摂ることを忘れたり、体重が著しく減少する。 ○入浴、髪の毛の手入れ、衣服の着脱に世話が必要で ある。 ○物忘れがひどい。 ○失禁がある。 ○徘徊する傾向があり、道に迷う。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 パーソナルポートレイト 認知症に関しては毎日デイケアを行っており、楽し んでもらっています。居室の壁には大きなカレンダー が張ってあり、行事が示されています。部屋の前には 本人の好きな置き物や写真などが置いてあり、パーソ ナルポートレイトが掲げられています。パーソナル ポートレイトは、その人の写真が貼ってあり、生い立ち、 若い時の活躍の内容、家族、趣味、好きな食べ物、好 きな動物などが書かれています。スタッフ、来訪者、 他の入居者を元気づけるような情報がすぐに得られ るようになっています。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 CCRCの経済的なメリット CCRCの経済的なメリットは、コスト優位を実現してい くために規模の経済性、範囲の経済性、習熟効果を高 めることができることである。まず、支援する高齢者を増 やすことで規模の経済性が高まり、固定費を分散させる ことができる。範囲の経済性とは、経営資源を共有して 多様な事業を行うことによって経営効果を高めることを 意味する。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 126 3タイプの集合住宅 3タイプの集合住宅を作り、生活支援サービス、医療 サービス、介護サービスを提供を行えば、3タイプの集 合住宅で夜勤機能、給食機能、事務機能、訪問診療、 訪問看護、居宅介護サービスなど共有できるもので、経 済効率が改善する。習熟効果とは、従業員がサービス 業務の中で、学習を積み、業務プロセス遂行タイムを短 縮化したりし、業務プロセスを効率化していくことである が、CCRC全体で従業員を多く雇用することができれば 、従業員の研修の質や効率を高めることも可能となり、 サービス業務の習熟化を高めることができる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 127 生活のレベルによって住まいを替えていく 高齢者に対し、「可能な限り自立を支援」するために、 自立して生活できる段階から支援や介護が必要な段階 まで「生活のレベルによって住まいを替えていく」システ ムによって、生涯、同じコミュニティ内で生活できるという アイデアは普遍性のあるものであると考えられる。一方 、日本の介護施設の問題点のひとつは、様々な生活レ ベルの高齢者に対して同様のサービスを提供している ことである。このためサービスのヴァリエーションに乏し く、「自由や選択が尊重される」というよりも、「収容して 管理される」といったイメージが強い。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 128 医療との連携 日本の介護施設は医療との連携を欠くことが多く、脳 卒中や急性心筋梗塞などになると介護施設に戻ってく ることができなくなりケアの連続性が絶たれてしまうこと である。高齢者にできるだけ自立した環境を提供するた めには、生活習慣の改善の支援、早期発見早期診断を 目的とした健康診断、慢性疾患の管理、リハビリテーシ ョン、急性期病院との連携が必要であり、このような医 療ニーズに対応するために、医療機関がかかわってい くことの意義は大きい。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 129 わが国で行えるCCRC わが国でも、都市の近郊でCCRCの機能を ひとつのキャンパスで提供していくことは可能で ある。しかしながら、どこの地域でもCCRCを機 能させる方法としては、高齢者住宅を中心とし て生活支援、医療、介護サービスを提供する複 合施設を核として、複数の高齢者住宅をネット ワークで支援を行う日本型CCRCが現実的な 選択肢となると考える。また、日本型CCRCで は地域包括ケアシステムの機能も果たす必要 がある。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 130 日本型CCRC 日本型CCRCとは、「高齢者が年を経るごとに変わって いくニーズに応じて、継続して同じ場所で自分の意思が尊 重された生活ができるように、介護の機能をもつ高齢者住 宅、リハビリ施設、介護事業所、地域交流センター、在宅 療養支援診療所、訪問看護ステーションなどを備えた複合 施設を核として、他の自立型、支援型、介護型の高齢者住 宅及び高齢者の自宅とネットワークを結び、地域包括ケア の機能も果たす一連のシステムである」と定義する。日本 型CCRCでは、自立型の高齢者住宅をインディペンデント ・リビング、支援型の高齢者住宅をアシステッド・リビング、 介護型の高齢者住宅をナーシングホームと位置づける。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 131 日本型CCRC 急性期医療機関 複合拠点 支援型 高齢者住宅 介護型高 齢者住宅 地域交流 センター 有料老人 ホーム 小規模 多機能 在宅療養 訪問看護ス 支援診療所 テーション 自立型 高齢者住宅 地域住民 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 生活支援サービス 日本型CCRCでは、生活支援サービス、健康支援サービ ス、医療サービス、介護サービスが行われる。生活支援サ ービスは、ケア・チームによる全体サービスの計画、見守 り・安否確認サービス、生活相談サービス、権利譲渡の手 続きの支援、住居の掃除、メインテナンス、リネンサービス 、洗濯サービス、失禁用品のサービス、24時間非常応答 サービス、移送サービス、食事サービス、娯楽文化の行事 、理美容サービス、ゲストの宿泊サービス、風呂・着替え・ 食事等の呼びかけサービス、買い物等の支援、行事参加 への手助け、風呂・着替え・身支度の介助、食事の介助、 歩行の介助、排泄、入浴の介助、移動の介助、部屋での 食事サービスからなる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 133 健康支援サービス、医療サービス、介護サービス 健康支援サービスは、看護師による健康相談サービス、 24時間の非常時応答サービス、健康診断、健康食品サー ビス、生活習慣病の予防、認知障害の予防からなる。医療 サービスは、診療の予約、医薬品管理サービス、外来診 療、入院医療との連携、救急医療の対応、救急時の他機 関への看護師同行、他医療機関の定期受診の看護師同 行、訪問看護、在宅医療、24時間対応の訪問看護・在宅 医療、事前指示書作成の支援からなる。介護サービスは、 ケア・プランの支援、通所介護、訪問介護、24時間対応の 訪問介護の支援からなる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 134 成年後見制度 高齢者になれば、認知症が発症してくること は珍しくはない。そのような事態に備えて、成年 後見制度を利用することで「権利譲渡の手続き 」ができる。成年後見制度には、軽度の精神上 の障害がある方にも対応した「法定後見制度」 と、自己決定と本人の保護を重視した「任意後 見制度」がある。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 135 法定後見制度 「法定後見制度」では、本人の判断能力に応じて後見・ 保佐・補助に分けられる。家庭裁判所が事柄に応じて保護 者(成年後見人・保佐人・補助人)を選び、本人の権利を保 護するものである。複数の保護者を選ぶことや法人を保護 者として選ぶ事もでき、保護者に関する事務が適正に行わ れているかの監督を行う成年後見監督人が選ばれること もある。そして、身寄りのない方の保護を図るために、市町 村長に法定後見などの開始の審判の申立権が与えられて いる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 136 任意後見制度 一方、「任意後見制度」は本人が前もって自分の意思 で代理人(任意後見人)となるべき人を選んで、自分の判 断能力が不十分になった場合の財産管理や介護、医療の 手続きなどについての代理権を与える契約を結んでおくこ とである。この契約(任意後見契約)は公証人の作成する 公正証書にしておく必要がある。任意後見人の事務は、家 庭裁判所が選任する任意後見監督人によって監督され、 任意後見人の事務の遂行状況は、定期的に任意後見監 督人から家庭裁判所に報告されることになる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 137 事前指示書 「事前指示書」は、本人の精神が健全な状態にある時 に、本人の家族、医療に関係者に終末期のケアの意思表 示をするものである。本人が延命措置を望んでいない場 合に事前指示書が存在すれば、病気が不治であり回復不 可能となった場合は、延命処置を中止し、苦痛緩和の医療 と介護で自然な看取りをすることが可能となる。社団法人 全日本病院協会が2011年3月に発表した「胃瘻造設高齢 者の実態把握及び介護施設・住宅における管理等のあり 方の調査研究」によれば、入院患者における胃瘻造設者 の割合は、急性期病院が7%、慢性期病院が30%、ケアミ ックス病院が21%である。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 138 本人の意思を反映していない胃瘻造設 入所者における胃瘻造設者の割合は、介護老人福祉施 設が9%、介護老人保健施設が7%、介護療養型老人保健 施設が28%、訪問看護ステーションの利用者における胃 瘻造設者の割合は10%であったということである。全国の 胃瘻造設者数は約26 万人と推計されている。そして、本 人が胃瘻を造設することを決定したケースは極めて少なく 、胃瘻造設者の9割は寝たきりであるという。そうであれば 、胃瘻の造設は本人の意思を反映していない可能性が高 いということである。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 139 QOLの尊重とは 「食事や水分を口から十分摂取できなくなった時は、口か ら食べることを大切にした自然な経過での看取りをしてくだ さい」といった記載があれば、経管栄養や中心静脈栄養な どの実施を行う必要もなくなる。 Quality of LifeのLifeは、「命」、「生活」、「人生」という意 味がある。「人生」とは、「誕生」から「死」までの期間である 。Quality of Lifeは、本人が決めるものであって他人が決 めるものではない。だからこそ、自分の終末期のケアのあ り方を自分で決めることが大切なのである。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 140 日本型CCRCの機能 日本型CCRCは、地域包括ケアシステムの要件である、 ①医療との連携強化、②介護サービスの充実強化、③予 防の推進、④見守り、配食、買い物など、多様な生活支援 サービスの確保や権利擁護、⑤高齢期になっても住み続 けられる高齢者住宅の整備を満たすことができる。日本型 CCRCでは高齢者に新しい安心・安全なライフスタイル(生 活様式)や予防サービスを提供でき、生活の質を向上させ ることができる。また、高齢者が、脳梗塞、心筋梗塞等が 発症し、急性期病院に入院した場合でも、CCRCで受け入 れがスムーズに行えるために、医療資源の効率的な利用 につなげることができる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 141 日本型CCRCを機能させるために ところで、日本型CCRCを機能させるためには必要不可 欠な要件がある。まず、高齢者一人ひとりに責任をとる主 介護者の存在である。その主介護者が高齢者の情報を管 理し、定期的にコミュニケーションをとっておくことが必要で ある。次に重要なことは、その情報をCCRCのスタッフがア クセスできることが必要である。このシステムがあって初め て、本人の意向にそった継続したケアができる。そして、最 後に緊急時の機能するシステムである。発熱、胸痛、意識 障害といった症状、脳卒中、心筋梗塞といった疾病に対応 するためのマニュアルとそれに対応できる態勢を作ってお く必要がある。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 142 街ごとCCRCにすることも可能 CCRCとは高齢者の意思を尊重して、変化していくニー ズに対応して、同じ場所で継続的にケアを行っていくシス テムである。街に複合施設が複数でき、その近くに自立型 、支援型、介護型の高齢者住宅及びネットワークを作る。 そして、自宅でケアが可能な高齢者には、複合施設から往 診、訪問看護、訪問介護を提供する。このシステムが街の すべての高齢者に機能すれば、街ごとCCRCにすること が可能となる。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 143 日本型CCRCの可能性 医療・介護・生活支援サービスの機能をもつ複合施設と 自立型、支援型、介護型高齢者住宅を整備し、地域包括 ケアシステムの機能を満たしていくことを目的とした日本型 CCRCのアイデアは、高齢者ケアのための効果的、効率 的なシステムとなる可能性がある。そして、高齢者やスタッ フにホームベース型支援を行うことはCCRCの成功に大き く貢献すると思われる。 将来は、日本のどこでも高齢者の意思を尊重して、変化 していくニーズに対応して、同じ場所で継続的にケアを行 っていくことができるようになることを期待したい。 九州大学大学院 医学研究院 医療経営・管理學講座 馬場園明 144
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