沖縄トラフ掘削コア試料の岩相・構成鉱物及び全岩化学組成 ○野崎達生 ・高谷雄太郎(海洋研究開発機構),山崎徹 (産業技術総合研究所),戸塚修平・堤彩紀 ・ 石橋純一郎(九州大学),高井研・熊谷英憲・川口慎介・宮崎淳一・正木裕香・久保雄介・鈴木勝彦 (海洋研究開発機構),CK14-04 航海乗船者一同 2014 年 7 月 9~26 日の 18 日間,戦略的イノベーション創造プログラム (SIP) の課題「次世代海洋 資源調査技術」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」の一環として,沖縄トラフ伊平屋北 海丘における科学掘削調査 (CK14-04 航海 Exp. 907) が実施された.本調査航海では,IODP Exp. 331 によって提唱された海底下熱水溜まりモデルを元に,主に掘削同時検層 (LWD) を用いて海底下におけ る熱水通路の解明に主眼が置かれた (高井ほか,2015;斎藤ほか,2015).掘削同時検層は伊平屋北オ リジナルサイトの周囲 5 か所 (C9011~C9015) およびアキサイト 1 か所 (C9016) の計 6 か所において, 全長 1,351 m の掘削が行われた.また,LWD により得られた物理データと掘削コアの岩相対比を目的 として,Hole C9015B,C9015C および C9016B において掘削コア試料の採取が行われた.掘削長はそれ ぞれ,31 m,40 m,150 m であり,合計で 221 m であった.最も長くコアリングされた Hole C9016B を中心に,その岩相・構成鉱物および全岩化学組成を報告する.構成鉱物は粉末 X 線回折装置 (XRD), 全岩化学組成は誘導結合プラズマ質量分析装置 (ICP-MS) を用いて決定した. Hole C9016B は,伊平屋北アキサイトの熱水活動中心部からおよそ 150 m 北に位置する.掘削コアは, 上位から下位にかけて未変質パミス (~3 mbsf),未変質半遠洋性堆積物 (~6 mbsf),しばしば緑色 を呈する弱熱水変質堆積物 (~9 mbsf),白色を呈し主にカオリナイトからなる酸性変質粘土 (~11 mbsf),暗灰色を呈し主にイライト,緑泥石,硬石膏からなる中性変質粘土へと漸移する.中性変質粘 土層では,下位に向かうほどイライトに対する緑泥石の割合が増加する.また,中性変質粘土層の下 部ではしばしば火成岩組織が残存しているが,著しく粘土化しているかあるいは硬石膏に置換されて おり,XRD 解析において石英の顕著なピークは認められない.酸性変質粘土~火成岩組織の残っていな い中性変質粘土層 (~40 mbsf) においては,細粒の黄鉄鉱が XRD および肉眼観察によって認められる. また,中性変質粘土層の火成岩組織が残存している最上位部分において (約 41 mbsf),閃亜鉛鉱,方 鉛鉱,黄銅鉱,黄鉄鉱が肉眼で観察される.黒鉱鉱石に濃集する Cu,Pb,Zn などの重金属元素濃度は, カオリナイトを主体とする酸性変質粘土層と中性変質粘土層の火成岩組織が残存している最上位部の 2 か所において,明瞭なピークが認められる (Fig. 1).酸性変質粘土層では,Zn と Pb の濃集に加え て,As,Mo,Ag などの低温の熱水活動で晶出しやすい鉱物に含まれる元素が濃集している.一方,中 性変質粘土層の火成岩組織が残存している最上位部においては,Cu,Pb,Zn の濃集が顕著であり (Fig. 1),高温の熱水活動で晶出する黄銅鉱の晶出が認められる.他の大きな特徴として,酸性変質粘土の 直下 (~12 mbsf) において U の著しい濃集が認められ,その濃度は 1,000 ppm を超える (Fig. 1). このような U の濃集は,32 mbsf 付近にも認められる.U は酸化・還元環境の変化に応じて溶解度が大 きく変わる Redox sensitive element であるが,U の濃集部と他の Redox sensitive element の濃度ピ ークは必ずしも一致していない. Hole C9016B において観察されるこれらの岩相・構成鉱物・全岩化学組成の特徴は,陸上の Au 鉱床 や地熱帯の地質構造に良く類似している.すなわち,熱水活動の中心部から H2S を含む酸性ガスが上昇 するため,地表面近くにおいて強酸性変質帯が形成されるが,地下水の供給によって下部では中性変 質帯が形成される.したがって,Hole C9016B の主にカオリナイトから構成される酸性変質粘土は,熱 水活動 (沸騰現象と脱ガス?) によって形成された酸性帯であり,その下位では海水が常に Recharge されるために,硬石膏を含む中性変質帯が形成すると考えると一連の層序が調和的に説明される.Hole C9016B から得られた掘削コアは,酸性変質帯によって溶脱する,すなわち Discharge zone に沿って“出 る”元素と,Recharge zone に沿って“入る”元素の両方の動きが観察可能な貴重な掘削コアであると 考えられる. Hole 9015B は,伊平屋北オリジナルサイト北西部に位置する放射線強度が比較的高い熱水マウンド (HRV) の南東側ふもとの掘削孔である. 掘削コアの上位から下位にかけて,変質パミス,マウンド崩 落物 (火成岩の岩片,硫化物鉱石の小片,シリカに富む岩片などの混在物),石英と黄銅鉱で構成され る鉱石に漸移する.石英と黄銅鉱に富む部分の下部 (~23.5 mbsf) では,Cu 1.4 wt%,Pb 7.3 wt%, Zn 6.5 wt%にそれぞれ達する鉱石試料が採取されている.XRD 解析からは,黄銅鉱とともに斑銅鉱のピ ークが認められる.まだ十分な分析作業が行われていない Hole C9015C の掘削コア試料と合わせて, 今後さらなる追加分析を行う予定である.さらに,掘削コア試料のバルク XRD 解析および ICP-MS 分析 だけでなく,多くの研究機関との共同研究によって,各種粘土鉱物および硫化鉱物の詳細な記載,流 体包有物の均質化温度や塩濃度の測定,シリカ鉱物や ZnS 鉱物の結晶学的研究,Pb,S などの様々な同 位体分析を鋭意進行中である. Fig. 1 Hole C9016B 掘削コア試料の化学組成 Depth profile の一部
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